戦闘支   作:アオコ

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━━もう、術がない━━

オリジナルです。少しグロテスクな表現があります。


<第一幕> 第八節

「...」

━━もう、術がない。

曇ってくる思考に辛うじて浮かんだのは、死を意味する言葉だった。

熱くなる部屋に焦げ臭い空気が充満し、肺を焦がしていく。目眩がするくらいの酸欠に、頭が混乱して諾弱する。その中で青禄だけは、はっきりと輪郭を持ち、愉快だとでも言いたそうにしている。

「...どうして、こんなことをするの」

喉が風音を出し、呼吸することすら危うい。そんな状態の奏に青禄は膝をついた。

「どうして、ですか?それは、貴方様が一番よく分かっているはずですよ」

穏やかな笑顔に怒りさえ感じてきたのだろうか、奏は眉を寄せて不機嫌になる。

「わかるわけ、ないでしょう。あなたの、思考回路なんて...理解したくもない」

青禄の表情が引きつっていくのが分かった。

「...まったく、これだから...」

「は...?」

ブツブツと呟き、溜息を零したと思った、その後。

「━━いっ?!」

腹部に強い衝撃が走った。何事かと、焦点が合うのを待つと、明らかにおかしい状況が浮き彫りになる。いや、おかしくはないのだ。ただ、普通の日常にはありえないだけだ。

「...なにが」

 

腹に、何が、刺さっているんだ?

 

奥に業火が見える瞳が目の前に合った。そしてそこからは、血が流れ出している。血涙だ。

こいつはなぜ泣いているのだろうと片隅に靄が生まれては、私は何をしているのだろうという別の靄が覆い尽くす。しかしそれ以前に、腹部から見えるコレがなにか、それが脳の半分近く占めていた。

「お前...」

口の端からたらりと、唾液の混ざった赤い液体が顎へ伝う。

これは、青禄の、あの鉤爪の様な指が刺さっているんだ。

「...ぅ、ぇあ、い、があああああっ!?」

意識が覚醒した途端に激しい熱と、痛みが精神を支配する。生理的な涙が流れ出し、瞳孔が開く。同時に吐き気が襲ってくる。

「...綺麗な赤色ですね。この奥はどうなっているんでしょうか」

「はっ、やめ...」

青禄の手がゆっくりと下に降りていく。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!?!!」

ぶちぶちと音を立てて切れていく肉の繊維から血が飛び散る。

「あははっ、面白いくらい切れますね」

青禄の顔面に血が斑をつくる。

大量の出血で、カーペットが赤く染められていく。へその下辺りまで達すると、青禄の指がずるりと引き抜かれ、そこからありえない量の血が飛び出す。鈍器で殴られるような痛みの頭痛が強くなる。

「ぅあ"、じ、ぬ"...」

急いで穴を塞ぐように手で抑え込むと、生暖かい血がぬるぬるとしていることがわかる。そして血海の中から内蔵のようなものが出ているのが見える。

「いっ...ひぃっ、はあ、うう"...」

必死でそれを押し戻そうとすると、裂かれる痛みほどではないが、やはり感覚が無くなるほどの痛みが四肢を襲う。

「え、いけませんよ」

赤く照り返す手首を掴んだのは、血が少し乾き血塊がついた毛皮に覆われた、青禄の手だった。

「せっかく綺麗でしたのに、私が手伝いますよ」

「い、いぁだぁっ...!」

青禄の鉤爪が、奏の細長い臓器を丁寧に掴み、引っ張り出す。慟哭のような叫びが響く。鬱陶しい水音と、ぷつりぷつりと細い血管がちぎれる音と一緒に、赤黒い小腸が顔を出す。鉄の匂いと、獣のような異臭で、奏は抑えきれず、胃液を吐瀉した。

「...ああ、ひどい格好ですね。もう少し言葉を選んでいれば楽に逝かせてあげましたのに」

青禄の手から、臓器が落ちた。べしゃりと落ちた先には、ほとんど息をしていない奏の姿があった。目線は青禄を見ているものの、焦点は合っているかわからない。

「せめて、私も神に仕える支ですから、極楽へいけるよう願ってあげましょう」

青禄がにこりと笑う。しかし、奏の視覚では、黒い斑点が鼓動に合わせて増えていくばかりだ。

「さあ、心置き無く、死んでください」

青禄の手が奏の心臓目掛けて空間を割いた。奏もそれに合わせて目を閉じる。後悔が、安心感が、とろりと溢れてくる。

━━もう、死ねるのか。

青禄の爪が、奏の胸を貫く。

 




予告通り、次話を投稿しました。私えらい。
続きはまた明日。
バッドエンド?それは明日にならなきゃわかんないよね。

がんばって続き書く!!

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