オリジナルです。少しグロテスクな表現があります。
「...」
━━もう、術がない。
曇ってくる思考に辛うじて浮かんだのは、死を意味する言葉だった。
熱くなる部屋に焦げ臭い空気が充満し、肺を焦がしていく。目眩がするくらいの酸欠に、頭が混乱して諾弱する。その中で青禄だけは、はっきりと輪郭を持ち、愉快だとでも言いたそうにしている。
「...どうして、こんなことをするの」
喉が風音を出し、呼吸することすら危うい。そんな状態の奏に青禄は膝をついた。
「どうして、ですか?それは、貴方様が一番よく分かっているはずですよ」
穏やかな笑顔に怒りさえ感じてきたのだろうか、奏は眉を寄せて不機嫌になる。
「わかるわけ、ないでしょう。あなたの、思考回路なんて...理解したくもない」
青禄の表情が引きつっていくのが分かった。
「...まったく、これだから...」
「は...?」
ブツブツと呟き、溜息を零したと思った、その後。
「━━いっ?!」
腹部に強い衝撃が走った。何事かと、焦点が合うのを待つと、明らかにおかしい状況が浮き彫りになる。いや、おかしくはないのだ。ただ、普通の日常にはありえないだけだ。
「...なにが」
腹に、何が、刺さっているんだ?
奥に業火が見える瞳が目の前に合った。そしてそこからは、血が流れ出している。血涙だ。
こいつはなぜ泣いているのだろうと片隅に靄が生まれては、私は何をしているのだろうという別の靄が覆い尽くす。しかしそれ以前に、腹部から見えるコレがなにか、それが脳の半分近く占めていた。
「お前...」
口の端からたらりと、唾液の混ざった赤い液体が顎へ伝う。
これは、青禄の、あの鉤爪の様な指が刺さっているんだ。
「...ぅ、ぇあ、い、があああああっ!?」
意識が覚醒した途端に激しい熱と、痛みが精神を支配する。生理的な涙が流れ出し、瞳孔が開く。同時に吐き気が襲ってくる。
「...綺麗な赤色ですね。この奥はどうなっているんでしょうか」
「はっ、やめ...」
青禄の手がゆっくりと下に降りていく。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!?!!」
ぶちぶちと音を立てて切れていく肉の繊維から血が飛び散る。
「あははっ、面白いくらい切れますね」
青禄の顔面に血が斑をつくる。
大量の出血で、カーペットが赤く染められていく。へその下辺りまで達すると、青禄の指がずるりと引き抜かれ、そこからありえない量の血が飛び出す。鈍器で殴られるような痛みの頭痛が強くなる。
「ぅあ"、じ、ぬ"...」
急いで穴を塞ぐように手で抑え込むと、生暖かい血がぬるぬるとしていることがわかる。そして血海の中から内蔵のようなものが出ているのが見える。
「いっ...ひぃっ、はあ、うう"...」
必死でそれを押し戻そうとすると、裂かれる痛みほどではないが、やはり感覚が無くなるほどの痛みが四肢を襲う。
「え、いけませんよ」
赤く照り返す手首を掴んだのは、血が少し乾き血塊がついた毛皮に覆われた、青禄の手だった。
「せっかく綺麗でしたのに、私が手伝いますよ」
「い、いぁだぁっ...!」
青禄の鉤爪が、奏の細長い臓器を丁寧に掴み、引っ張り出す。慟哭のような叫びが響く。鬱陶しい水音と、ぷつりぷつりと細い血管がちぎれる音と一緒に、赤黒い小腸が顔を出す。鉄の匂いと、獣のような異臭で、奏は抑えきれず、胃液を吐瀉した。
「...ああ、ひどい格好ですね。もう少し言葉を選んでいれば楽に逝かせてあげましたのに」
青禄の手から、臓器が落ちた。べしゃりと落ちた先には、ほとんど息をしていない奏の姿があった。目線は青禄を見ているものの、焦点は合っているかわからない。
「せめて、私も神に仕える支ですから、極楽へいけるよう願ってあげましょう」
青禄がにこりと笑う。しかし、奏の視覚では、黒い斑点が鼓動に合わせて増えていくばかりだ。
「さあ、心置き無く、死んでください」
青禄の手が奏の心臓目掛けて空間を割いた。奏もそれに合わせて目を閉じる。後悔が、安心感が、とろりと溢れてくる。
━━もう、死ねるのか。
青禄の爪が、奏の胸を貫く。
予告通り、次話を投稿しました。私えらい。
続きはまた明日。
バッドエンド?それは明日にならなきゃわかんないよね。
がんばって続き書く!!
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