オリジナルです。
随分と時間が経ちましたが、今日から書きだめていた分を投稿していきます。
「ガっ!?」
まさにその瞬間だった。視界がホワイトアウトし、チカチカと火花がちる。目の焦点が合わない。
青禄の斑の手が奏の首を絞める。急激に閉まる気道に、咳の混ざった短い呼吸が這い出でる。状況の理解できない脳は混乱し、その正体を押し退けようとするが、うんともしない。
「...くっ、あ、はっ...」
言葉を発せようにも息が足らずに、形にならず無残に散ってしまう。
「...化け物と」
声のする方に焦点を合わせると、明らかに醜く歪んだ青禄の顔が奏を睨みつけていた。その眼光には憎しみが込められているようだ。
「私を、化け物と、呼ぶな...!!」
彼の瞳から血涙が流れ出す。同時に喉に赤黒い爪が食い込み朱の玉をつくる。
「っ!?」
「...主の慈悲で生かしておこうと思っていましたが、やはり、殺しましょう」
「...かっ...」
━━殺す!?━━
自分から血の気が引くのが分かった。奏は手を振り払おうと、爪を立て、青禄の肩を押すが、またしてもびくりともしない。
次第に浅くなっていく呼吸と比例するように思考も鈍くなっていく。
「......く、あっ...」
それでも尚もがく様子に青禄は、顔を笑顔に歪ませる。
「苦しいですか?ですが、私はそれ以上の生き地獄を味わってきたんです。何世紀も、何世代にも...」
どさり、と奏の体が崩れ落ちた。
「...っ!」
欠乏していた酸素が、急に供給され咳き込む。ヒューヒューと喉が鳴る。眼の前が赤く点滅していた。
「...な、んで...」
「...さあ、なんででしょう」
青禄は先程まで手にしていた臙脂の本を再び持ち上げる。
「例えば、貴方に幾らも恨めしい相手がいるとします。そしてある日、その方を殺すことの出来る好機が回ってきました」
青禄は臙脂の本を読んでいく。しかし、舌先からは言葉を零していった。
「そんなとき、貴方ならどうなさいますか?」
「ど、どうっ...て...?」
息継ぎの落ち着いてきた体をゆっくりと起こす。
「...私なら、そうですね」
振り向いた青禄の顔面には、満面の、それこそ輝くという形容詞の似合う笑みが貼り付けられていた。
「思いっきり、苦しんで死んでもらいたいですね」
手中の本が青い炎に包まれた。
「は」
最初、燃えているのは本だけだった。燃える本。なぜ本を燃やすのかが理解しようのない現象だったが、時間が経つにつれ段々と意味が分かってくる。
本からカーペットへ、カーペットから本棚へ━
━青禄はここを燃やすつもりなのだ!
「消せ!」
「...今更」
はっ、と青禄から視線を移すと、炎は既に奏の先まで迫っていた。
ぱちぱちと燃える紅が足元まで火の粉を運んでくる。熱い、しかし、冷や汗だろうものが頬を撫でた。
逃げ道はもはや後ろでのドアのみ。そのドアすら閉じられ今や万事休す。八方塞がりの中、自然と目の前の彼に意識が移る。
「...」
「そのような目で見ないでください。私だって望んでこのようなやり方をしている訳ではありません。貴方が私を怒らせるのがいけないのですよ」
青禄の瞳が奏を捉える。その眼孔に吸い込まれるように、見開かれた目を彼女は凝視してしまう。
「...一応言っておくわ。ここが火事になれば火災警報器が鳴ってすぐに人が来る。そうすれば貴方も私も何も出来ない。そして貴方は私を殺すことも出来ない。残念だったわね」
青禄は、きょとん、と首を傾けた。
「カサイケイホウキというのは、これですか?」
す、と青禄は右手を差し出した。
「え」
どこからでてきたのかその手の上には、普通天井に付いているはずのあの白い機械、その火災警報器が乗っていた。
青禄は相変わらずクスクスと笑う。
「これ、煙を感知して警報音を鳴らすのでしょう?おかしいとは思わなかったのですか?こんなにこの部屋は、煙で満たされているのに」
そういえばそうだ。
奏の周りを囲むほどの炎。煙は天井についている。しかし、天井には白いあの機械はなく、代わりにむしり取られた跡が残っているだけだ。
「...」
「馬鹿ですねぇ、思ったよりも」
青禄の血涙はいつの間にか止まり、代わりに奏の呼吸が浅くなっていた。部屋の酸素が薄くなっているのだろう。しかし、青禄は何の変化もなかった。
本当にどこがサクサク投稿だよヴァカって思ってるかも知れませんが、私もそう思ってるので勘弁してください。
がんばって続き書きます!