オリジナル作品です。
宮殿の門にたどり着くと、そこにいたのは白兎だけだった。その白兎も白い布を頭に巻き、髪や顔を隠しているようだった。
「白兎…だよね?」
声に明るい笑顔で振り返ったのは正真正銘、その少女だった。
「その恰好、どうしたの?」
奏の問いにきょとんとした表情をした白兎は、「ああ」と声を漏らすと、頭の布を取り去った。布の下からは、いつもの白髪が見える。
「私たちの毛並みは普通の人間とは大きく異なるのです。ですから、こうして髪を隠し、支であるということが分からないようにしているんですよ」
「ふぅん…」
白兎が布を巻いていると竜の氏が門へやってきた。
「お待たせして申し訳ありません」
「遅いぞ」
叱咤を食らう竜の氏の恰好は、頭に布を巻いていない。
「竜の氏は一緒に行かないの?」
それどころか、奏や白兎のように質素で、動きやすい服でもない。先ほどと同じ、あでやかな衣装を身に纏っている。
「私は宮内の執務と防衛を。一緒に行くことができないことは残念ですが、これも立派な、臣下としての務めなので」
「そっか…」
「留守は任せたぞ」
「…気を付けて行ってらっしゃいませ」
竜の氏は門が完全に閉まるまで、奏たちを見送っていた。
門を出てからは、長い階段が続いた。左右は木が生い茂っていて、風が吹き抜けるたびに、カラカラと木の葉の音がする。
「主、街に着いたらアシを買いましょう」
「アシ?」
階段の行きつく先には二人の門卒が槍を構えて立っている。下りてきた奏たちを敬礼とともに送り出してくれた。白兎はにこりと笑い、頷いた。
「はい。馬、または市に売り出された獣など。主は、どちらがよろしいですか?」
「うーん…」
アシ、イコール、馬。ということは、移動手段の「足」のことだろうか。
「…どっちでもいいけど、できれば、懐いてくれるのがいいかな」
奏の言葉になるほど、と呟くと、銭入れを確認し始める。
「我々の財産から考えると、闇市で獣を競り落とすのは不可能ですね」
「闇市?」
驚く奏にし、と人差し指を口に当てる。
「あまり良い話ではないので。闇市は第二支国では一応禁止されているんです」
「…い、一応って」
「それで家族を養うものや、己を生かすものもいます。なので、こちら側としては目を瞑っているんです」
なるほど、と奏が頷く。
「まあ、あまり派手に動くようなら何の躊躇なく潰しますけどね」
にこりと笑った白兎の目は、笑っていなかった。
街は活気あふれる声が響き、にぎわっている。大通りを挟み、赤を基調とした建物がならんでいる。中華風の通りは、日本の小さな中華街とは違う、本物の、電飾など一つもない歴史のなかのそれそのものだ。
飲食店、宿、宝玉、民家。現実味のない街を、奏はきょろきょろとあたりを見回しながら歩いた。
「…白兎、ここが街、なの?」
白兎がくすりと笑う。
「そんなによそ見をしていては、転んでしまいますよ」
まさにフラグ。
白兎の言葉を待っていたかのように馬車が後ろから迫っていたのだ。
「主!」
白兎の手が奏の手を引き、幸い怪我はなかったものの、白兎の白い髪が曝け出てしまった。
「!」
馬車からの風で飛んでいってしまったその布は、大通りに音もなく落ちた。
「…あ」
「白兎、髪が…」
奏と白兎を残して静まり返る周囲。馬車が喧騒を攫っていったかのようだ。そして白兎に集まる視線。
明らかに異常な場に飛び込んできたのは、馬車の扉を乱暴に開ける音。
「…っめえ、どこ見て歩いてんだ!!」
当たり屋のお手本のような男は、がたいもよい、強面の屈強そうな若者だったが、白兎を見るなり表情をかえ、強面はどこにいったのか、眉を下げ、その場にひれ伏した。
「と、とんだご無礼を!!お許しください、卯の子様!!」
その情けない声を合図に、周囲にいた全員の老若男女が膝をつき、頭を地面につける。馬車が通った後で砂埃がたつ中、せき込むものも必死でそれをこらえた。白兎は苦虫を噛み潰したような顔で、ひたすら馬車の男を見ていた。
「…表を上げろ」
白兎の小さな声には誰も反応を示さない。いや、示せないのだ。
お忍びで街に来ていた上様の邪魔をしてしまった罪は、重い。
「…お前」
白兎の低い声にびくりと肩を震わせたのはその場の全員。特に、馬車の男だった。
「表を、上げろ」
恐る恐る白兎を覗き見るその顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。奏も目を逸らし、哀れむほどだ。
「…も、もうしわけありま…」
「まだ何も言っていない」
「す、すませ…」
がたがたと震える男の服は、背中と脇が汗染みを大きく作っていた。
「…はぁ」
白兎の溜息に、男の短い悲鳴が漏れる。
「…ここが、御前のすぐ下にある街だとわかっているのか?」
「は、はい…」
男の震えが大きくなる。
「では、ここで馬車を使ってはならぬことも知っているだろう?」
「あ、す、すいませ…」
「すいませんではない。…ここで馬車を使わぬ理由は、知っておるのか?」
「こ、国主様の、とと、通り道だから…」
「だから?」
「だから…そ、その…こ、国主様に、お、お、お命の危険がおよ、及ばぬように…」
「…正解半分、といったところだろうな」
短く息を吐くと、男の短い悲鳴がまた聞こえた。
白兎が振り向き、じっとこっちを見てきた。こっちに来てほしいと言う事なのだろうか。奏が踏み出そうとした瞬間に、その体は倒れた。
「!?」
「あんた、早く伏せな!」
奏の頭を押さえたのは、中年の女性で、白兎の視線が奏を見ているのが気になったのだろう。奏の態度のせいだと勘違いしてしまい、お節介にまかせて奏の体を引き、頭を地面にこすり付ける。
「い、いた…」
「何してるんだい!」
「…主」
奏の上の手を見た白兎の血流は急激に逆流した。
「このっ…無礼者があっ!!」
「…?」
頭の上の重みが無くなった奏が見上げると、額に血管を浮かせた白兎が、息を荒げて立っていた。その視線の先には、先ほどまで隣にいたはずの中年女性が、投げ飛ばされていた。その先の人々も巻沿いを食らっている。
「白兎!…っ!?」
気づけば、白兎のみでなく、奏自身も同じような畏怖の視線を向けられている。
このままではまずい。奏は、完全にトんでいる白兎の目の前で、ぱん、と拍を打った。
「っ!」
「白兎、やめなさい!」
驚いた顔はすぐ青くなり、自分が投げ飛ばした女を見て、あ、と呟いた。
「主、私は…」
「大丈夫、落ち着いて。とりあえずここから離れよう、ね?」
こくんと動いた首は、小さい子供の動きのそれだ。
見た目はこんなにも細く、小さいのに。奏は後頭部を掻いた。
「えっと、あの、すいません」
奏が話しかけた男は、まだがくがくと震えている。そんな姿に少し申し訳なくなってしまう。
「あなたの馬車の馬を、いただけませんか?」
「え?」
以外、とでも言いたげな表情は、自分が罰せられるとでも思っていたからだろう。
「だから、馬が欲しいんです。一頭」
「一頭」
ぽかんとしている男はオウム返しをして、間を置いて立ち上がった。
「す、すぐに!」
「ありがとうございます」
男が砂埃を立てながら馬車に走り寄っていく。その後を奏がついて行こうとして、ふと振り返ると白兎の姿がない。
「…あれ?」
あたりを見回すと、白兎はあの中年女性の怪我を直していた。患部に重なる白兎の手から、白い光が見える。
光が消えると、白兎は立ちあがった。患部には傷一つ残っていない。
「…よし、もう痛みはないだろう」
「あ、ありがとうございます」
白兎の脱力した笑顔は、申し訳なさからだろう。
「お嬢さん!」
馬車の男の声にはっとなり、奏はつま先の向きを変えた。
「こいつでよろしいでしょうか」
手綱の先の馬は、大きく、手入れされたきれいな毛並みの黒馬だ。主人に構ってもらえるのが嬉しいのか、尻尾を振っている。
「それが一番いい馬なのか?」
いつの間にか話に入ってきた白兎に声をかけられ、男はまたびくりと震えた。
「は、はい!一番足も速く穏やかなやつでして、人間が大好きで。俺にすごく懐いてるんです。だからきっと…」
「そうか」
馬を撫でながら目を瞑る。
「…きっと、いい乗り物になりますよ」
男が悲しそうに笑った。ゆっくりと目を開いた白兎が、馬に話しかけた。
「…よい主人を持ったな」
男が、顔を上げる。今にも泣きそうな顔をして、手綱を強く握りしめた。その手も開き、白兎に手綱が渡される。
「…すまない」
少し寂しい笑顔に、男の涙があふれる。
「…ありがとうございます」
男の首が垂れた。
「行きましょう、主」
「…うん」
奏を馬に乗せ、自分も馬に乗る。手綱を掴み、白兎はまだ平伏す人々に大きな声を注いだ。
「騒がせてすまなかった。怪我をさせた者も、本当に申し訳ない」
それと、と白兎が男を振り返る。
「馬を預けてくれて感謝する。今日は罪を問わない、早く帰れ」
「お、お心に感謝いたします…!」
「それから…次に会った時には、こいつは返そう。約束する」
白兎が馬を撫でる。男は何とも言えない表情で、その場に平伏した。
「…では主、行きましょう。私に掴まっていてくださいね」
「こ、こう?」
奏の腕が腰にまわされたのを見て、白兎が頷く。
「では、参りましょうか」
皆さんこんばんは、今宵もパリピなアオコです。
鼻水と目のかゆみが止まらないのでマッマに相談したら、花粉症だと言われたので目薬かったけど、その目薬を学校に置いてきたZE☆
今日、学校から帰った後に目がかゆいと訴えたら眼球を取り出せと言われた。そうか、そのてがあったか、と思ったので今度やってみます^^
あ、本編について全然語ってないや。
というわけで、今回も閲覧ありがとうございました。
次回、もう一人の支、現る。オラわくわくすっぞぉ。
次回も見てくれよな!!((次回は日曜日投稿予定です
誤字脱字の報告はご遠慮なく!!