戦闘支   作:アオコ

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━━通学路は数の住宅街を抜け、木々の葉で影る細い下り坂へと続く━━

オリジナル作品です

*前回でも載せましたが、最初に一節を載せています。深い意味は無いです。ただ文字数が足らなかっただけです。すいません。


<第一幕>*一節 二節

<第一幕>

 

━1━

 

布団をはね飛ばし、どことも言えない空間を凝視した。大量の寝汗がそれを物語るように、何か良くない夢を見た気分だった。目に入りそうになった汗を拭うと、べったりとそれがまとわりつく。

朝日が机の上のパソコンのディスプレイに反射してチラチラと視線を泳がせる。目覚まし時計の針は、まだ六時半を指していた。

「...最悪」

早すぎる時間に起きたこと、寝起きが悪いこと、汗で気持ち悪いことは、全てその一言で解決する。

「...」

部屋を見渡すと、部屋の隅に追いやられた教科書で張り詰めたリュックが見つめ返す。

「...がっこう、行かなきゃ」

のそのそとベッドから這い出しフローリングに足をつくと、ひんやりとした、無機物独特の感触が伝わってくる。再びベッドに倒れ込みそうになる体を、前に進んで諌める。

パジャマを、文字通り脱ぎ捨て紺を基調とした堅いブレザーに着替える。姿鏡の前に映る自身を見て、肩幅の合わないブレザーにため息をつく。白い靴下に、紺の上下、スカートと校章のついたブレザー。紺の襟口から若葉色のネクタイが覗く。高い位置のポニーテールと、その顔には不安そうな、不満そうな、無愛想な、透き通る乳白色の表情が浮かんでいる。

「シケた面」

姿鏡にプリーツスカートを翻し、寂しげなリュックを掴み取る。

ドアを開け放した途端に聞こえてくるテレビのニュースの音が、母親が起きていることを知らせる。朝ごはんの臭いに釣られるかのように階段を駆け下りた。

カーテンが揺れ、朝日が部屋を踊る。微睡んだ朝の部屋に、細く白い足がパジャマを蹴った。

数秒後に、バタン、と玄関のドアが閉まる音がした。母子は言葉も交わさなかった。

 

 

 

━2━

 

通学路は数の住宅街を抜け、木々の葉で影る細い下り坂へと続く。細道を抜けると川を向こうに渡す小さな橋があり、開けた十字路のアスファルト舗装が街へと誘う。

既に近代化の進んだ都市には人が溢れ、朝の七時前だというのに沢山の雑音で溢れていた。

車のガスの排気音、鳴り響く靴底、電気ケーブルの唸る機械音、生物の鳴き声や話し声。人々の作り出す決して規則的でない騒音が、一つの音楽となって耳にまとわりつく。

普段と変わらない街道を、表情を変えず通りすぎる。彼女もまた、音楽団の一員となって靴を踏み鳴らしていく。

街道を行き、しばらくすると遊歩道に出る。途端に広がる静けさがザワつく都会人の胸中を穏やかにさせる。しかし、彼女に至っては違った。彼女にとってこの静けさは、深淵の入口とも言えるのだ。

街道の道なりを、枷を引きずる思いで進む。自動車の作る風が右手をすり抜ける。光を透かして照葉樹の葉が透硝子のようだ。視界に映るそれは揺らめくたびに、風鈴を連想させる。ただ夏と違うのは日差しがこんなにも穏やかなことだ。

もうすぐで学校に着く。そんな思いからか、口の端から溜息を零す。同時に自身のスニーカーに目がつき、桃色の紙片が足下を埋めていることにも気がついた。思わず顔を上げると、まだ幹の細い桜を両側に控えた厳格な門が、彼女を迎え入れようと大口を開いていた。そして、桃色の紙片が紙でないことを嫌でも理解させられる。

またこの季節がやってきた。足を前に出すたびに吐き気がする。

高校生活二度目の春。彼女をからかうように桜吹雪が毛先を掴み、靡かせる。

何度目かの溜息と同時に、イヤホンで縛られたスマートフォンを取り出す。イヤホンで栓をして、自分の殻に閉じこもるように目を閉じる。

再び目を開けても景色は変わっていない。しかし、あの静けさがポップな音楽になった。それだけでも、充分だ。

二メートルもない鈍色の門を抜け、薄汚れた、廃墟のような校舎へと足早に向かう。いつもの場所へ、お気に入りの場所へ、何か怪物を恐れるように。そうしないと学校から逃げ出してしまいそうだった。逃げても、居場所はどこにもないと言うのに。

十分早く学校に着いただけというのに、校舎にはまるで人気が感じられなかった。

 




わざわざ二話目まで読んで頂きありがとうございます。まだまだ未熟で読みにくいかと思いますが、自分の中では精一杯なので、至らないところが有っても目を瞑ってください(笑)
サクサク更新できるよう精進します...

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