戦闘支   作:アオコ

18 / 23
―月光を返す鱗に、長い髭と立派な二本角、絹のような鬣がちらちらと輝いて見えた―

オリジナルです。


<第二幕> 八節

 月光を背に立つ少女は、白兎。それ以外の何者でもなかった。

「…白兎…なのよね?」

 少女は愛おしく笑う。

「私は、私です」

「…だよね。…っ!?」

 また、頭痛の波がやってくる。頭に鈍く連なる波。思わず膝を折る。

「主っ!?」

「どうされました!?」

 白兎の心配した声に竜の氏も振り返る。

 二人の声が遠くなり、そして、ひとつのビジョンが頭の中を占めた。

―輝く満月に、その光に負けじと燃え続ける星々。自身の立っている周りには、山中を思わせる木々と、古い建物が一つ。月光だけが照らす、ひっそりとした、薄暗い場所。

そして、笑って空を見上げる自分と、二つの影――白兎と竜の氏…―――

 呼吸が一瞬止まる。頭痛が収まり、視界がクリアに感じた。同時に、二人の支の心配そうな顔が目にとまる。

「…主?」

「…」

 いつのまに座り込んでいたのか、白兎の手を借りてふらりと立ち上がる。冷えた頬に脂汗が伝った。

「いかがなされました、顔色が悪くていらっしゃる」

 竜の氏の声が飛んでくるも、奏は反応ができなかった。

「…」

 ひたすら思うことは、ひとつ――さっきのことを、あの光景を、話すべきだろうか。

「…いや、大丈夫。少し頭痛がしただけだから」

頭を振り、考えたことを振り払う。きっと言わなくても、ただの幻覚のようなものだ。少し気持ちが高揚していたから、変なものが浮かんでしまっただけだ。

「…問題ないよ」

 言い聞かせるように口を動かす。しかし、二人の不安そうな表情は変わらなかった。

「本当ですか?お辛くありませんか?」

 奏の手を白兎が強く握った。奏はその上にもう片方の手を乗せ、そして笑ってみせる。

「…大丈夫、だから、手を離して。ね?」

 優しい口調に、しぶしぶと手を離していく。手の温度が急激に下がった気がした。

「…白兎」

「はい」

 白兎の心配そうだった顔が、返事とともに真剣な顔つきになる。

「竜の氏」

「…はい」

 一方で竜の氏はまだ不安げな表情を崩さない。

 奏は、拳を握り、その手を開き、息を大きくはいた。まだ胸に残る、一抹の不安を吐き出すかのように、ゆっくりと。そして、夜の山の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで、笑った。

「…行こう、第二支国へ。私たちの居場所に、帰ろう」

 その言葉を合図に、二人の顔に光が射したように見えた。

 次に来たのは、倒れてしまうほどの強い衝撃。

「うわっ!は、白兎!」

「…帰りましょう、帰りましょう、主!」

「…うん」

 奏の胸に顔をうずめる白兎の頭を優しくなでる。正直、腹部が痛み、どいて欲しかったが、このくらいは我慢できた。

 そして、その白兎を持ち上げたのは、竜の氏の腕だった。

「は、放せたっちゃん!」

「…卯の子、そろそろどくんだ。主が困っていられる」

 竜の氏は白兎を子供を扱うかのように、軽々と持ち上げおろしてやると、奏に手を差し伸べた。

「申し訳ありません。主、立てますか?」

「ありがとう」

 竜の氏の手を借りて立ち上がり、砂や葉っぱを払い落す。

「…では早速ですが、ここを発ちましょう」

 白兎の言葉に頷くと、竜の氏があの硯のようなものを取り出した。

「…主、少し下がっていてください」

「え?うん…」

 竜の氏は二人が離れたことを確認すると、大きく息を吸い込み、呪文のようなものを唱え始めた。

「我は神に仕える者、字は無。今、真の姿をここに宿したまえ。我が名を、竜の氏…輪廻」

 すると、竜の氏が持っていた硯が鈍く光りはじめた。その光もだんだんと強くなりはじめ、そして光は竜の氏を覆っていく。

 光は大きくゆがみ、変形してゆく。次第に大きくなり、そして光は消えた。

 そこにいたのは、大人三人分もあるだろう、大きな白竜だった。

「…竜の氏…なの?」

 竜は常盤色の瞳を細め、答える。

「はい。これが本当の姿でございます」

 月光を返す鱗に、長い髭と立派な二本角、絹のような鬣がちらちらと輝いて見えた。六本の鉤爪をもつ美しい竜は、よく見れば中に浮いている。

「…恐ろしい、でしょうか」

 何も言わない奏に、不安を感じたのだろう。竜の瞼がゆっくりと閉じた。

「…いいえ、とっても…」

 言葉が途切れる。

 とても綺麗。綺麗すぎて、怖いのだ。

「…さわってもいい?」

「どうぞ、お好きになさってください」

 竜の足が地に着いた。奏が触りやすいようにするためだろう。奏の青白く、細い指が竜の氏の上にそっとおかれた。

 額から鬣をなぞるように手を滑らせていく。薄く竜の瞳と同じ色をした鬣は、予想より遙に柔らかく、鱗も同様で、一枚一枚が陶器のようなさわり心地がした。竜は、心地よさ気に目を細める。

「…案外、柔らかいね。鱗とか、もっとガラスみたいに堅いかと思った」

「硝子…ですか?」

「主、竜の鱗は全て皮膚と同じですよ。ですが、歳を重ねれば固くなっていくと聞きます。竜の氏はまだ若人ですから、このように柔く、鎧の役割はないですが」

「そうなんだ…」

 白兎の明るい表情が崩れたのは、その束の間だった。視線の先には、さっきまで上を飛んできたネオン街。

「…白兎?」

 遅れて竜の氏も同じ方向を向く。

「…奴らです」

 竜の氏の緊張が伝わる低い声が耳を霞めた。

――奴ら?

 その瞬間、ぐらりと地面が揺れた。そして、けたたましい号砲のような声が響く。

「!?」

 思わずその場にしゃがみ込む奏を、影が覆った。

 顔を上げると、そこには巨大な、化け物がいた。

「…みぃつけたぁ」

 化け物の口の端から涎がしたたり落ちた。

 




こんばんは、アオコです。
私自身は竜になれる人間といったらジ〇リでしか見たことないのですが、実際にいたら楽しそうですよね。
最近は寒くて体調を壊しがちですが、暖かくしておけばなんとかなるや!!こんな感じでほぼ毎日パソコンかちゃかちゃしてたらタイピングがはやくなりました。やったぜ!この調子で暗記能力も上がれば受験に受かるかな?こんなこと考えてる時点でアウトですね。
今日はあげれたらもう一本いきます。

誤字脱字はご遠慮なく!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。