オリジナルです。
「誰か来たのかな」
そこで、時計を探していたことを思い出した。デジャブな気はするが、白兎を起こし、また涙をティッシュで拭きながらカバンのことを言う。
「白兎、私のカバン知らない?図書室に置いてあったで...あ」
もしかしたら燃えてしまったという事もある。それなら白兎が持って帰ってこなかったことに納得がいく。
「...か、ばん?」
泣いた後すぐで嗚咽が止まらない白兎の頭を軽く叩き、パソコンの電源を入れ、時間を確認する。
起動を待っている間に、ふと先程のチャイムを思い出し、取り敢えず先に来客者を確認しようと立ち上がる。
「...白兎、竜の氏。私ちょっと玄関見てくるから待ってて」
白兎はこくりと素直に頷いた。奏はその姿につられ笑顔になった。
「すぐ戻るから」
ドアを出ようとすると、足の裾が掴まれつんのめりそうになった。その奏の服を掴んだのは白兎の手ではなく、男の、竜の氏の手だった。
「どうしたの?」
「だ、駄目です」
見るからに鬼気迫るような顔をして、奏を見ている。
「...?」
「行ってはなりません!主、出来ればここにいてください...」
その様子をおかしいと思ったのは奏だけでなく、白兎はすぐ立ち上がり、窓を開けたと思ったら、そのまま外へ飛び出していった。
「白兎!?」
声をかけたが既に遅く、白兎の綺麗な白髪の毛先がちらりと見えただけだ。
「主、断じて声を出してはいけません」
「は?何言ってんの?」
すると、またチャイムが聞こえる。
そういえば、パソコンを立ち上げておいたはずだ。奏はディスプレイを覗き込んだ。
「...え」
ディスプレイの時計なら、壊れることはまず無いだろう。だから誤った時刻を表示することは、設定などを弄らない限りない。そうならばこれは正しい時間だ。
2時9分。
そう表示された画面に驚きを隠せないまま、しかし竜の氏がなぜあのようなことを言ったのか察した。
「...わかった。ここにいる」
その答えにほっとしたのか、竜の氏は手を離した。
「取り敢えず主は大きな物音を立ててはいけません。せめて、卯の子が戻ってくるまでそうしてください。お願い申し上げます」
またも叩頭する竜の氏を奏は歯痒く思う。
「ねぇ」
「はい」
「...」
竜の氏は叩頭したまま返事をし、いつまでも何も言わない奏を不思議に思ったのか、やっと顔を上げた。
「主?」
「あのね、それ、止めて」
「それ?」
竜の氏は自分の周辺をキョロキョロと見回し始めた。
「それ、とは?...なにかご不快な点があるのでしたら今すぐに改善致しますので、どうぞ遠慮なさらずに叱咤を...」
「それ」
「は」
竜の氏は、文字通り目を丸くして奏を見た。奏はその阿呆面に吹き出しそうになるのを堪えて、言葉を切り出した。
「その、やたらめったらに丁寧な口調。なんかそういうの慣れてないっていうか、ちょっと照れ臭いっていうか、喉の奥がムズムズするのよ」
その発言に竜の氏は怒られていると思ったのか、また叩頭する。それに奏は溜息をついた。
「...それも。私はどっかの石油王じゃないのよ」
「...」
奏の溜息に合わせて竜の氏の顔が上がる。その表面には、畏怖とも困惑とも取れない表情があった。
「私はあなた達に頭を下げられるようなことをしていないし...それに、今日...もう昨日なのね。会って1日しか経っていないのに、そんな態度をとられたら、なんていうか...気持ち悪いっていうか...」
竜の氏は依然として表情を崩さない。しかし、それも白兎が戻ってくるまでだが。
「主」
「白兎!どこに...」
ピンポーンと、またしてもチャイムが鳴る。奏の言葉を遮るだけでなく、今度は何度も何度もなり続けた。
「...なんなの...」
「...来たのか?」
「恐らく」
暫く黙り込む二人の間に、アイコンタクトがあった。同時に頷くと、二人の支は緊張で火照る頬のまま奏を振り返った。
「...主、少しお時間を頂いても宜しいですか?」
「いいけど...」
白兎の珍しく真面目な顔に気圧されながら奏は言葉を返した。
「私たちは、主の世界とは正反対にある第二支国という場所からやって来ました。今訪ねてきている者は恐らく他の支国から来たものです。主の絶命を望む者達です。なのでここから一刻も早く、逃げなければなりません」
シコク。またわからない単語が出てきたと、奏は軽く頭を痛めながら頷く。
「...つまり、ここからでないと危ないのね」
「左様でございます。ですが、この場所から日本のどこかへ逃げても結界がない限り、奴らは追ってくるでしょう。ですので、私たちの国へ帰りましょう。さすれば主の御身も危険ではございません」
「...わかった」
奏は生真面目に返事をした。正直なところ、この言葉は嘘になるが。
白兎の言葉の半分は理解出来なかった。しかし、白兎がこんな表情をして、しかも尋常じゃない冷や汗を見れば、只事ではないことがひと目でわかる。実際に奏自身の手も得体の知れない恐怖に震えていた。未だチャイムは鳴り止まない。
奏の返事を聞くや否や、白兎と竜の氏が立ち上がった。
「御理解頂きありがとうございます、さっそく帰りましょう。竜の氏」
「は」
竜の氏は顔を下げるだけの会釈をし、ライダースーツの中から硯のような、金箔で文字の飾られた四面体の塊を取り出した。
奏が呆然と立っていると、チャイムの音が鳴り止み、久しぶりの静寂が訪れる。
「...いなく、なった」
奏がほ、と息をついて白兎に笑いかけたが、白兎は窓の外を見つめ、1人、眉間に皺を寄せた。
「...いえ、まだです」
その白髪が風のない部屋で揺れた。鈍い金属音がなり、奏のあの鎌が出てくる。
「...え?」
鎌から反射した月明かりが部屋を明るく照らした。
お久しぶりです。アオコです。
実は今、第三幕を執筆中なのですが、すんごく面白くないんですよねw
いや、笑い事じゃないんですけどね。まじで。
なので、第二幕終了後、全く面白くない第三幕が始まるんで期待しててください。
ご閲覧ありがとうございました!!
誤字脱字のご報告ありがとうございます。これからも遠慮なく報せてもらえるとありがたいです。ではでは!!