オリジナルです
階段を登りきり自室に入ると、白兎と男が正座していた。
「ん?」
幻覚か、と思いそのまま後ずさり、部屋に入り直す。自室に入ると、白兎と男が正座していた。
いや幻覚ではないと、二人の前に同じく正座をする。その横に心臓を置き、無言の間が流る。
「...」
「...卯の子」
「白兎?」
男の真っ直ぐな表情とは違い、白兎は困ったような悲しそうな顔をしていた。その原因は恐らくと、奏は母親の心臓にちらりと視線を移す。
「...」
このままでは白兎はだんまりを続けるだろうと思い、奏は単刀直入に切り出した。
「白兎、これ」
奏は少女に心臓を差し出し、口調強く言葉を続ける。
「あなたがやったの?言っておくけど、あれは私の母親だったの」
少女はただ頷き、小さな声で答える。
「知ってました...」
ました、ということはやはり白兎が殺したのだろうか。奏がどう切り出せばいいのか悩んでいると、男がいきなり頭をさげた。
「申し訳ありません!」
土下座の格好になった男を奏と白兎は驚き見つめ、訳の分からない空気が流れる。白兎に助けをアイコンタクトで求めるが、白兎も動揺して、正座のまま二人の間で目線がいったりきたりしている。
「...私たちが、手を掛けたも同然です」
「...え?」
男の低く凛とした声が、あっさりと告白をした。
「て、手を掛けたも、同然って...じゃあ、やってはいないってことで...」
更にわからない。起きて間もない脳をフル回転させ奏は考える。奏が無言でいることを気にしたのか、白兎が話しかけたそうにソワソワとする。それに気づいた男が白兎に耳打ちをし、そうかとおもうと、白兎は姿勢を正しキリッとする。
「主!」
「んえ?」
いきなり呼ばれ間抜けな声を出したのも気にせず、少女は変わらない口調で続ける。
「主の母上を弑したのは白兎でも、たっちゃ...竜の氏でもありません。ただ...えっと...」
「?...ただ?」
急に口を噤んだ白兎を疑問に思いつつ、言葉の先が気になり期待の眼差しで見てしまう。そうした後でそれが言い出しにくいものだったのでは、と気づき、はっと口を押さえた。
「ごめんなさい!言い難いなら言わなくてもいいから」
口を噤み目を逸らしていた少女は、それでも向き合い、口を開いた。
「いえ、大丈夫です。...口にするのも嫌なくらいですが...」
ならば言わなければいいのにと奏は思ったが、せっかく白兎が話してくれるのだからと、白兎につられ姿勢を正す。
「...母上を弑したのは、私たちと同じ、支です。神に仕える支の一人だと、はっきりと言えます」
「...支?」
「はい」
ということは、青禄だろうか。事実 、支と名乗るものは残虐極まりないあの青年と、前の二人以外思いつかない。それとも他にいるのだろうか、彼等のように綺麗な顔の『神に仕える支』とやらが。
奏がまた思考の波に流され考え込んでいると、白兎が手を握ってきた。
「ん?」
奏はそれに笑いかけたつもりだが、白兎は怯えたようにびくりと肩を浮かせ、今にも泣き出しそうな声で話しかけてきた。
「あ、あるじぃ...」
「え、え!?」
奏は驚いて男を見たが、男も同じような表情をしていたため更に驚き何も出来ない。すると白兎が飛びついてきた。
「やはり、やはりお嫌いになられましたか...?」
「え、き、きらい?なんで!?」
「だって、主の母上は私たちの同族が殺してしまったんですよ?怖いとか、やっぱり残虐な奴らとか、思っていらっしゃってっ...」
ついにぐずぐずと泣き始めた白兎を訳もわからないまま撫でる。
「あの、白兎、落ち着いて...」
「落ち着いてるんですけど、主に嫌われると思ったら、悲じぐでっ、なみだ、どまんなっ...」
「あー...」
泣くのはいいが、流石に血塗れのパジャマに倒れこまれては白兎が汚れてしまう。奏は白兎を座らせ、ティッシュを引っ張り出し顔を拭く。しかし、拭いても拭いても涙は止まらず、白兎も鼻をすするばかりだ。仕方なくティッシュを置き、代わりに少女の両手を強く握った。
「...主?」
「白兎、よく聞きなさい。私は白兎のことも、もちろん竜の氏のことも嫌いにはならない。いい?」
「...」
「...」
奏の視線を受け二人はただ黙る。
「第一ね、二人がやって無いことにそんなに反省しなくていいの。私そんな理不尽なことで怒らないし」
白兎と男は俯きしゅんとする。奏は今すぐ抱きしめたい衝動を抑え話し始める。
「それにね、私、こうして二人が正直に話してくれたり反応してくれたりするのが嬉しいのよ。だから...白兎。もう嘘はついちゃ駄目。いい?」
「...主」
「...」
二人の間に割って入るように奏が白兎と男に包容する。それに応えて二人の手が、遠慮がちだが、それでもしっかりと背中に腕を回していた。
「大丈夫よ。何も不安に思わないで」
奏が背中を二回叩き離れる。が、白兎はそれに引っ付くように、また赤黒いパジャマに顔を埋めて泣いていた。
「...白兎の泣き虫」
「ごめっ、なさ...」
謝りながらも泣き続ける白兎の頭をゆっくりと撫でた。
穏やかな沈黙が降りていた。それを砕いたのは、ピンポーンという、明るいチャイムの音だった。
閲覧ありがとうございます!
毎度毎度話の進みがおっそいですね。自分でも思います。
本文中に竜の氏が耳打ちしたのは「正直に話した方がいいのでは」という、まあ別に他愛もないことです。ただなぜ彼はそう思ったのでしょうね。謎ですね。
色々あってかなり間が空いてしまいましたが、埋め合わせはきちんとしようと思います。まあ私も学生なので勉強などもあるのですが、その所はしっかりしようと思っております。
誤字脱字報告ありがとうございます!他にも見つけた場合はご遠慮無く!
━追記━
本当に申し訳ないのですが、サブタイを三節にしていまして、正しくは四節です!
本当にどうしたの私...すいませんでした!以後気をつけます!!