オリジナルです。
「...え?」
動揺のあまり声が出ない、というのはこの事だろう。
男はピクリとも動かず、本当に寝ているようだった。ライダースーツのような服装で、装飾が派手で目立つ。寝息に合わせて揺れる常磐色の髪は少し長く、角度によって紫に光った。
一方で白兎は奏のベッドで寝転び、嬉々としている。白兎はこいつを知っているから驚いてないのだろうか。なら白兎にこいつは誰だと聞くのが一番てっとり早いだろうと、寝転ぶ男に注意しながら尋ねる。
「あ、は、白兎?」
名前を呼ぶと、白兎がはすぐに振り向き、じ、とこちらを見てくる。実際には無いがウサギの耳がピンと立ったように見えた。
「何か用ですか?」
何処か嬉しそうな顔につられそうになりながら男のことを尋ねた。
「あの、この人...」
誰だ、と聞こうと思ったが、青禄のことが思い浮かぶ。また下手な物言いをしたら何か仕掛けてくるのではと緊張と不安が滲み出てくる。
言い淀んだ奏を不思議に思い、首を傾ける。しかしすぐに理解したように、ああ、と声を上げた。
「大丈夫ですよ。主には手を出せません。例え手出ししようとも私が止めます。主は私が守ります!」
きりっとして白兎は何処から出したかあの時の鎌を取り出す。それをしまうように慌てていうと、怒られたと思ったのか少女はしゅんとしてしまった。それに気づいた奏が頭を撫でるとまた元気になったが。
「ところで、こいつは誰?白兎の仲間?」
少女の言い方からすると仲間のように聞こえたが、そうでなければ逆に怖い。その不安を汲み取ったのか、少女はベッドから降り、男の側に歩み寄りながら話し始めた。
「こいつは竜の氏(たつのし)です。神に仕える支の中では一番温厚なので安心してください」
そう言って少女は、男の頭を蹴った。
「!?」
「起きてー」
起きて、などそんな軽い話ではない。男の頭をけった瞬間に聞こえた、バゴ、という音は、確実に折れた音だろう。奏は心の中で、おやすみなさいと唱えるように言った。
「あれ、起きない...」
「白兎、そのやり方だと起きるどころかむしろ永眠...」
止めようと奏が話しかけると、首が折れてそうな男がのそりと起き上がった。ポリポリと頭を掻きながら首をゴキンと音を立てて動かした。どうやら関節が外れただけで折れてはなかったようだ。奏は胸をなでおろした。
「起きた起きた。たっちゃん、新しい主だ。字は自分で名乗るべきだろう。早く言え」
白兎の言葉に従う様に、男は座り直し、叩頭した。
「主にお会いでき大変嬉しく、名誉な限りでございます」
その声は地を這うように低く、温厚というよりはぶっきらぼうにも聞こえた。その行為を前に呆気に取られる奏を少女が諭した。
「...主、仕えの支は主からの言葉がないと頭を上げることができません」
「あ、顔、上げて」
たじたじの言い方に奏が一人心苦しく思っていると、男が顔を上げる。
「...お言葉有難く存じます」
男の顔が見えた。やはり青禄や白兎と同じく端整な顔立ちをしており、薄い眉と髪色と同じように常磐で動くたびに紫に見える瞳が印象的だ。薄めの唇と左の鼻翼にシルバーのピアスがしてある。
やはり温厚とは真逆の印象を覚える。そんなことを考えていると、男と目が合った。
「え」
男が驚いたような顔をしたと思ったら、白兎の方を振り向き、呆れたような怒ったような顔をしていた。しかし少女は動じず、ただ静かに目線を返した。
「...卯の子、お前一体...」
「ど、どうしたの」
男は奏を見るや否や舌打ちをして、キョロキョロと辺りを見回した。そして、ドアを見つけ開けると、まるで家を知っているかのようにドタドタと階段を降りていった。
部屋に残った二人の間に沈黙が下りる。
「...な、なんなのあいつ。白兎、やっぱり蹴ったのは...」
奏が困ったように尋ねると、白兎は困ったように笑った。
「...大丈夫ですよ主。あいつちょっと疲れてるんです」
本当だろうかと、一抹の不安を書き消したのは、いつの間にか部屋に戻ってきていた男の声だった。
「...卯の子、母親どこいった?」
「え?」
横の白兎を見ると、俯くように、拳を握りしめていた。
「...白兎?」
閲覧いただきありがとうございます。
予告通り次話も投稿しました(でも投稿しようとするの忘れてて1時間ぐらい経ってたとか言えない...)。やっと新キャラだと思ったら名前も言わずハガ〇ンのようなセリフを言うって、はっきり言ってやばいやつだな。書いた本人でさえそう思ってしまうよ...ごめん。
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