「ねぇ…どうして…あなたは…私を助けてくれるの?」
つれないこというなよお前と俺の仲じゃないか
「知らな…私は…あなたを知らない」
君は知らなくても俺は知っている。
君が優しくて世間知らずでハーフエルフなことも全部知ってる。
「…何をいってるの?私はあなたとはじめてあったは…はず」
「リア!今すぐそいつから離れて!」
パックか…相変わらず猫のままなんだな
「黙れ…!この魔女教徒が。けがわらしいその姿で僕のリアに近づくな!」
はぁ、まったくお前はいつまでたってもリアリアリアとそろそろ娘離れしたらどうだ?
「いい加減口を閉じなよ。じゃないと苦しみながら死ぬことになるよ」
そうかまだ俺を殺さないか。
殺せる時に殺さないとは…後で嘆くなよ、喚き散らすなよ、全てはお前がまねいたことだ。
まったくお前は怠惰だなぁ
「くる!リア逃げて!」
俺から伸びる無数の影の手がパックとエミリアを包み込もうとする。
「パック!嫌だよ、私も戦う」
「ダメだ!君がいたら僕は…ッゴフ!」
「パック!」
本当に怠惰だなお前は、そんなんだから俺に体を貫かれるんだよ。
「そんな…パック…?」
お前にその姿になられると迷惑だ。
悪いけどオドは壊させてもらった。これでお前は周りからマナを吸い取れない。
「嫌だよ…パック。私…」
「エミリア!」
おお、どうやら君の騎士様の登場だ。
サテラからの寵愛を失った彼にできることは何か怠惰な俺に教えて欲しいなぁ。
「エミリア!大丈夫か?すぐに逃げるぞ!あっちに行けばベアトリスやガーフィールもいる。ここは…エミリア?」
ちょっとずつエミリアに変化が現れている。見た目にはなんとも変化などは見られない。しかし彼女の纏っている空気がマナがどんどん瘴気に侵されていくのが目に見えてわかる。
「エミリア!しっかりしろ!お前…エミリアになにをした!」
そんなこと、見て分からないかな?今彼女は己が器に相応しい事を身を以て証明している最中じゃないか。
ああ、すごい。さすが試練を突破しただけある。この純粋でドス黒い瘴気、随分とこの器と相性が良いらしい。
「…ふふ。カイトあなたにやっと会えた」
「はぁ本当だよ。お前に会うためにどれぐらい苦労したと思ってるんだ」
本当に苦労した。こいつに会うためにライを使ってレムとクルシュをレグルスを使ってホーシン協会をカペラを使いルグニカを業火に包ませたのも本当に苦労した。こう考えると本当は俺って勤勉じゃないかと考えると時もある。
「どうしたのカイト?私と会えた事が…不満?」
「まさか全然そんなことないよ。俺もちょっとびっくりしちゃって。だってもう…殺しちゃったんでしょ?」
「うん、だって私たちの再開をじゃまするんだもん。それはいけないこと、カイトの視線は心は求むべき相手は全部私じゃないといけないから、カイトの視線を奪うあいつは殺さないといけない」
「そうかよ、俺は幸せものだな」
俺の後ろに転がる先ほどまでスバルであったもの。もはやそれには原型のかけらもない。四肢はバラバラ内臓も飛び出し誰が見ても死んでいると答えるほどの醜い損傷だ。
「それじゃあいくかって言いたいことところだけどまだする事があるんだわ」
「なに?まだ私からあなたを奪うやつがいるの?教えてカイト、私がそいつを殺してあげる、ううんもう全部殺しちゃおうそしたら私とあなただけの世界をつくろう。そうしたら絶対に幸せになれるよね、じゃあまずはそこの『剣聖』を殺しちゃおっか」
突然嵐が止み俺とサテラには似合わない太陽が雲の隙間から光をのぞかせる。きっと彼が望んだろう。
サテラの大胆な告白の最中に現れたそいつは決して楽な表情などしていなかった。鋭い眼光に手に握られている龍剣レイドも熱を帯びているのが目に見えてわかる。
彼を包み込もうとする瘴気が全て無に還る。
それもまた彼が望んたことなのだろう。
「どうして邪魔するの?私とカイトはただ愛しあってるだけ、それをどうしてあなたみたいなレイドの栄光にすがっている奴らに邪魔されなくちゃいけないの?」
「それが真っ当な愛で誰も傷つけないというのならば僕も陰ながら応援ししましょう。しかしあなた達は多くの人たちを傷つけすぎた。クルシュ様もユリウスもエミリア様もそして…スバルさえも」
「だってさサテラ、なんか覚えある?ちなみに俺はないぞ」
「私もないよ、きっと死んだ人たちは一生じゃ背負いきれない罪を背負ったんだと思う。例えば…私の彼と目があったとか」
サテラが人を殺す基準は全てそこにある。誰にも理解されぬ嫉妬。サテラにとって俺こそが全てでありその他などは有象無象に過ぎないのだ。
「もうあなた達とは話す気も失せました。僕の全てを持ってあなた達を殺します」
そのままのしのしとゆっくり近づいてくる。その一歩にはどれほどの怒りが込められいるのか、そんな事を考える余裕が今の俺にはある。なぜなら、
「はぁー。今回もダメか」
もう今回の周回は諦めているからこの先のことなどどうでもいい
俺の首が飛びサテラが嫉妬と怒りと悲しみに支配されるのにそう時間はかからなかった。
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それは突然やってきた。
目まぐるしく動く時の中で彼はうんざりしていたのだ。
きっかけは誰にもである小さな願望。
救いの神を求めただけ
たまたまだったのだ。神の気まぐれか前世の行いが悪かったのか彼はその時代から弾き出された。
そう、しかたなかったのだ。手を差し伸べてくれた少女が自分の好みのどストライクでしかも性格も器量も良かったのだ、ただ彼女が世界から良しとされていない魔女だからといって誰が気にするか。
日はまだ登っていない。うるさくなく害虫もいなければ部屋から出て来いなんていうやつもいない。
聞こえるのは透き通るようなら声でただ自分の事を呼ぶ少女。
「カイト、大丈夫?」
「ああ大丈夫だよ」
君のその声を聞くだけで何度でも頑張れる。今度こそうまくやる。だから今だけは泣くのを許してくれないかな
「カイト、どうしたのいきなり涙なんか流して。嫌な事でもあった?もしかしてまたエキドナにいじめられたの?それともダフネに食べられたの?よし!わかった。私がみんなを叱ってくる」
「違うんだサテラ、これはエキドナにいじめられたとかそんなんじゃなくて、ただ君の顔を見たら急に出てきただけ」
「つまりいじめてたのは私?」
「そうじゃない!そうじゃない!つまりは、えーと、ほら改めてかわいいなと思っただけ」
咄嗟に言い出したこれは見苦しいか?だっていきなり変な事言ってもしょうがないしいつもの彼女ならこれでうまく丸め込めるんだけど…
「…あはは。何それ」
今のサテラは怒ってもいなければ嫉妬もしていない。
ただそこにいるのは年相応に笑って少し照れて頬を赤く染めている1人の可愛らしい少女だけだった。
その姿に俺は見惚れてしまった。きっとどこの野郎が見ても一度は心を奪われてしまう。カーミラとはまた違う、純粋でただ彼女の事を知りたいと思ってしまうほどの美貌は永遠に見ていたいと心を奪われてしまった。
ゆらゆらと揺らめく木陰の中で俺は今もう一度彼女に惚れ直した。
200年後
俺がサテラにさっきの質問をされたのは通算3回目だ。
嫉妬の魔女に一方的に愛され死ぬ事を許されぬ日々を過ごして体感時間は1000年を超えている。
しかし、どれほど時間をかけても俺の中にある魔女因子は言う事を聞いてくれない。
さっきだって暴走して自分ではない自分が出てきてしまった。
サテラもきっとそうだろう。
彼女はもっと愛に満ちていて決して俺のために殺人なんておかすわけがない。
はぁ、困った困った。今回は一体どうしようか……
「って事で助けてくれよ」
「いきなりやってきて何を言ってるのかしら」
毎度毎度困った時に助けを求めるのは魔女ではなく彼女にしている。確かに彼女は年齢の割に背が10歳前後くらいの歳の子ぐらいしかなく金髪でロリでドリルみたいな髪だがこれでもかってぐらい頼りになるのだ。
「それにベティーは禁書庫から出られないかしら。誰かに頼むならこの前言ってたがーるふれんど?なるものに頼むかしら」
「だーかーらー、『その人』ってのは俺のことなんだって言ってるだろ。いい加減認めてくれよ」
「母様がこの世界でお前と嫉妬の魔女は信じるなっていってたかしら」
「マジで許さねぇあの魔女、地元じゃ救世主なんて呼ばれているこの俺を詐欺師呼ばわりするなんて」
「自分がバカみたいにマナを出したせいで寄ってきた魔獣を倒して救世主なんて呼ばれたことぐらい知ってるかしら、マッチポンプもいいとこなのよ」
確かにそれは言えてるが今話すのはなしだろ。だってあれは酔った勢いでやったことでつまりはノーカンといっても問題はないだろう。いや、問題だらけか。
それにしてもこいつ…段々と俺が言葉を巧みに使ってきやがって、これじゃうかうか遠回しの軽口も言えない。
「なぁ、ベアトリス。そろそろマジで外に出てみないか?今はちょうどお日様がでてきて絶好のピクニック日和だと思うんだけど?」
「何度も同じ事を言わせるんじゃないかしら。ベティーは母様との契約が果たされるまで禁書庫から出るつもりはないのよ。それはお前も充分知ってるはずかしら」
「ああ知ってるさ。だけどお前の契約が果たされるのは…」
俺は次につなぐはずだった言葉を紡ぐ。
その先の言葉は嫉妬の魔女が許さない。
喋ってしまった途端誰の言葉も聞けない聞こえない空間でただ心臓を握り潰されるイベントが始まってしまうのだから。
だけどお前の契約が果たされるの…200年後だ。
なんて言えたらどれぐらい気が楽になるだろう。ベアトリスはこれから200年もの間ただ魔女の言葉を信じ禁書庫にこもりつづける。その時間はどれぐらいの不安が遅いどれほどの孤独がベアトリスを支配するかなんて考えただけでも魔女を呪いたくなってしまう。きっとあいつは聖域で呑気に暮らしているのだろう、そう考えるとなんかムカついてきたな。
「すまん、ベアトリス」
「なんのマネかしら…やめるのよ…そんな下衆な表情でベティーに近づいてくるんじゃないかしら」
俺はそのままベアトリスに一歩、着実に一歩ずつ歩み寄っていく。そんなベアトリスは嫌そうな誰かに助けを求める顔を浮かべている。しかしそんな奴は今この場にいない。
「やめるかしら、ベティーに……え?」
ベアトリスの気の抜けた言葉。しかしそれもしょうがない。だって俺はベアトリスを抱きしめたのだ。彼女に告げる言葉は懺悔の言葉。今から長い間孤独を味わせる申し訳なさの気持ちで俺の心は一杯だった。
「ベアトリス…ごめん。今からお前を1人にしてしまう。きっと寂しがりやのはお前は涙が枯れて尽きるまで泣きまくると思う。…!だけど、きっとお前が過ごして時の中でもセピア色にならない傲慢なやつが来るかもしれない。その時はそいつの手を取れベアトリス。」
「お前もベティーを置いて行くかしら…母様やロズワール…リューズのようにベティーを置いて行くのかしら」
ベアトリスが聞きたかったのはただそれだけ。
彼が訴えかけている戯言になんて目もくれず、ただ自分のことを抱きしめる彼が居なくなる、彼が遠回しにそう伝えていることなんて賢い彼女には分かってしまうのだ。
「悪い、けど!お前には…」
「もういいかしら、出て行くのよ。お前の顔なんて2度とみたくないかしら」
「ベアトリス…お前には絶対にい…」
「出ていくかしら!!」
「分かったよ。ごめん。」
俺はそのまま禁書庫を後にした。
ベアトリスの真意に気づけなかったわけではない。
瞳の奥底では俺の事を拒絶していないなんてことはすぐわかる。ただ、俺が次に進みやすいように、自分のことでつまずかないように自分という足かせを彼女自身が取り除いてくれたのだ。
そのことにまた、彼女を連れ出してやりたい気持ちが沸き起こるがすぐ首を横に振りその考えを却下する。
ベアトリスを救うのは俺じゃない。
そう自分に言い聞かせる。優しくて寂しがりやな彼女を救うのは彼しかいないことぐらいわかる。
だから…だから…
「はやくこいよ…スバル」
この世界にいない騎士の事を思ってしまうのだ。