そして少女は夢を見る   作:しんり
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お久しぶりです。

ちまちま書き溜めていたSN編を投稿です。
四次セイバー陣営の方は躓いてしまっていてまだかかりそうです…申し訳ないです。
SN編開始とはいえ書き溜めが殆どないので更新は遅くなるかと思います。

稚拙ながらこの物語を少しでも楽しんでいただけたらと思います。
どうぞ、SN編もよろしくお願いします。
それから、これからも捏造やら独自解釈やらが混じっていますので改めてご注意ください。


SN編
第一話


 かの大災害から10年が経過した冬木の都市。
 いまだにその爪痕を残した場所を復興させることも出来ず、その火災のあった一帯は公園になっています。
 当然、私の実家があった場所もその内に含まれていますけれど。

 そう。私、水谷響という一個人は家族を喪って10年が経つのです。
 私は母と父、姉の死を悼み寂しく思いましたが、人として通る道故に割りきってはいます。これを心無いと言う人もいることでしょうけれども、そんなことは自覚しております。実際従兄弟には気味が悪いと嫌われてしまっていますから。
 しかしそれは特にどうだっていい事実でしかありません。幾多もの方が亡くなってしまったのも悲しいことではありますが、やはり私としてはそれまででしかない感傷です。

 何故今になってそんなことを言うのかって?
 答えは簡単です。

 聖杯戦争が、10年という短い周期をもって、この冬に再度始まると言われたからです。
 ならばその話の主人公となった少年と、同じ境遇と言って差し支えない水谷響というものにどんな差があるかということは言っておかねばならないからです。

 私は彼のようなどうしても、どうしようもないその感傷を、感情を抱くことはできませんから。
 他人の分の荷物を、私は背負うことはできません。理想を抱くことも強い願いを抱くことも、です。
 私は少なくとも、痛くない死に方をすることしか望みませんから。まぁ痛くとも死んでしまう時は死んでしまうので、それはそれで受け入れますけれど。

「響、今日から学校か。…いや、昨日からだったか?」

 一人で祖父母の家に住みはじめてもう八年が経ちます。
 その間もこの声をかけてきた金色。英雄王ギルガメッシュと、彼の住みかでもある教会の神父の言峰綺礼がこの家に来るので、一人の時間がそう多いわけでもありませんでした。
 お二人とも、何故か私の在り方に興味と面白さを感じているようですから。それで来るのでしょうね。
 まったく困った趣味の人たちです。
 ギルガメッシュ何て特に、中学の半ばには…というのはあまり関係のない話になりますから割愛するとしましょう。

「そうですよ。今日の晩御飯のリクエストですか?」
「今宵は酒によくあうものを出すがいい」
「わかりました。ギルガメッシュ、あんまり散らかさないでくださいよ?」

 ふんと鼻で笑って手を振った彼は明らかに人の話を聞くつもりはないらしい。
 まぁ何度も言ってきましたから、聞き飽きたのかもしれません。というかたぶん、最初の頃はともかく今は聞き流していると断言できます。
 まったく、困った王様です。

「それではいってきます」

 どうせ王様には勝手に出入りされますが、戸締まりを確認して学校に向かいます。
 私の横を同じ学校の生徒が足早に通りすぎるのを見ながら無心で足を動かして校門を抜けると、運動部の朝練の声が聞こえてきます。
 私は部活には何も所属していませんので、少し微笑ましく思えますね。

「おはよう、水谷さん」
「うん。おはよう」

 教室に入ってクラスメイトと挨拶をかわし、自分の席に座る。
 しばらくすればチャイムが鳴り響き、担任の藤村大河が駆け込む。先生はいつでも元気なので見ていて飽きないです。それに生徒をよく気にかけるいい先生だと思います。

 今日も平穏で代わり映えのない授業を受け終われば帰宅するのみだ。

 帰りがけに食材を買い足して家へと帰ると、王様は勝手知ったる様子で寛ぎ自分で買って置きっぱなしにしているゲーム機を操作していた。そんなことをしているということは新しくソフトを購入したのでしょう。
 新しい物が好きな王様らしいというものです。

 そんな姿をキッチンから眺めつつ、晩御飯を作ります。

 流石に一人の生活も長いですし、舌の肥えた王様がいるので腕前はそこそこのものと自負しています。
 王様はあれがいいこれがいいと本を買ってきてはリクエストするので、それに応えるのも中々骨が折れた思い出です。

「今日は言峰さん、出かけているのですか?」
「うむ。故に貴様の料理はこの我が全て平らげてやろう」

 出来た料理を並べていけばゲームを終わらせたギルガメッシュが機嫌よくつまみ食いをしている。
 またかと呆れつつ、ご飯をよそって私も座ります。
 彼のかけてくる言葉に返事をしながらの食事ではありますが、慣れてしまったものです。

「それで?召喚する気はおきたのか、響」

 食べ終わって箸を置いた途端の、突然の話題転換に私は思わずぴたりと動きをとめてしまいます。
 …何を隠そう、数日前から私の左手にはあの時と同じく令呪が宿っていました。

 王様はこれを見咎めて以降すっかりにやけ顔が張り付いているのです。
 学校などではいろいろとばれると面倒ですので、礼装を作って隠して生活をしています。

「…何で私よりも乗り気なんですか、まったく。王様は私で遊ぶのがお好きですね」

 わざとらしく大きく息を吐き出してみせれば、ニヤリと赤い瞳が細められました。
 この人もそうですが、どちらにしても言峰も動くのでしょう。なにせ愉しいことが好きな、人を掻き回すのが好きな方たちですから。その対象に私も入っているのは困ったところです。花の彼も同様ですけど。
 私はそこまで面白い人間ではないと思うのですが、彼らからは何故かそんな扱いを受けるのです。本当に何故か。

「お前は憤怒も恐れも持たないが、中々に面白いぞ?時にかつて共に大地を駆けずり回った盟友を思い起こすほどにな。まぁあれよりは劣るが、人らしさはお前の方が強い」
「あなたの盟友といえば、エルキドゥでしたね。そのような評価をしていただけるのは光栄です、ギルガメッシュ」
「ふん、そこは人形というのかと怒るところであろう。まぁ、貴様らしいがな」
「あら。それでは次はフリだけでも致しましょうか?」
「よいよい。見た目だけ真似るのはつまらんからな。どうせなら、もう少し違う方法を試してみるのも一興よな」

 くつくつと笑うギルガメッシュですが、いままでも散々にからかわれてきています。正直やめてほしいですが、聞いてはくれません。
 そんな彼も、しばらくすれば笑いもおさまるもので私の折った話に戻ってくる。
 早く早くとせっつかれて溜め息が隠せないです。
これがずっと続くと疲れるもので、もうそろそろ折れてしまおうかと悩んでいたところです。

「…仕方ありませんね。王様の機嫌を損なっても後が大変なだけですし、そろそろ召喚するとしましょう。まったく、仕方のない方ですね本当に」

 更に上機嫌になっていく王様にやれやれと肩を竦めて、早速召喚の儀と相成りました。
 まったくもって忙しい方です。でも変な人を召喚したいわけではないので、王様には居間で待機してもらいます。
 …彼が触媒になるとどうなることか分かりませんからね。

 さくっと記録の中から召喚の魔方陣を引っ張り出して、床に紙を散らばせる。
 その上にその魔方陣を書き出して詠唱を開始します。
 ピリピリとした痛みが令呪の宿る左手から発せれるが、声は途切れさせずに紡ぎ続ける。

 詠唱が終わった途端にゴウッと部屋の中を強い風が巻く。

 思わず目を閉じてその強風を耐え忍び、室内の気配がかわったのを肌で感じる。
 そっと目を開いて、魔方陣を見ればそこにはひとつの仮面が浮かんでいました。

「…あなたが、私のマスターですか?」

 それは美しい肢体を持つ女性でした。
 召喚の影響から点滅する照明に照らされた褐色の肌。顔の大半を白い髑髏の面で覆っていますが、手足はほっそりとしていて美しさをもっている。瑞々しい印象を持たせる彼女は、一見すれば少女のようにも感じられます。
 瞠目しつつも名前を告げます。
 すると彼女は触れられる距離に近づいてきて、その指先が伸ばされ私の頬に触れたかと思えば、あと一歩というその隙間はあっという間に詰められました。

「…?!」

 唇の触れあう感触に目を見開いて、密着してくる彼女の肩を引き剥がそうと手を当てます。
 しかし、曲がりなりにも相手はサーヴァントです。見た目に反して私なんかよりも力はあり、ぴくりとも動かないです。

「…あなたが、私のマスター…あぁ…なんて、なんてこと…私に触れて、私と唇を重ねて…まだ、生きている……あぁ」

 ほんの少し離された唇から、感極まったような、それでいて幸福に打ち震えるような甘く囁く声が溢れた。

「私はハサン・サッバーハ…アサシンのサーヴァント。あなたの手となり足となる、あなたの暗殺者です…マスター」

 陶酔しきった声音に、仮面の奥から感じる熱く焦がれたような視線を感じます。
 マスターと呼ぶ声にも酷く熱にうかれたようなもので、囁く声は砂糖のように甘く脳を溶かすような蠱惑さで、女である私でもどきっとしてしまうものがありますね。

「えーと、ハサン?その、召喚に応じてくれたのは嬉しいのだけど、そろそろ離れたりとか…しない?」
「…はい。それが主のご命令であれば」

 ふ、と僅かに感じていた重みが離れて、視線で追っていた彼女、ハサンは床に足をついて頭を垂れた。
 指示を待つような様子にすっかり困ってしまった私です。

「うん、と…触れたことに喜ぶってことは、ハサンは毒でも持ってるとか?」
「…はい。マスターの仰る通りに、私はこの身全てが毒を持っています。この指も、足も、唇も全て…ですがマスターは、私の毒に溺れていません。…私は、あなたのような主を求めていました。我が身は全て、あなた様の思うがままです」

 どうやら彼女は愛が重いタイプの女の子のようです。いえ、何時だったかの記録にも、そんな方はいるのですけれど。ええ。
 まぁ兎に角、あまり王様を待たせるとうるさいことですし彼女を立ち上がらせて部屋を移動することにしました。

「遅いぞ、響」

 居間に戻るなり開口一番がこれです。まったく、ギルガメッシュは本当に急かしいですよね。

「ごめんなさい、ギルガメッシュ。でも楽しみは時間をかけた方がいいこともあるでしょう?」
「ふん、まぁな。それで、お前が此度召喚したのは…暗殺者か。あの童話作家ならば尚面白かったが、まぁよかろう」
「はいはい。アンデルセンでなくて私はよかったですけど。…ごめんなさいね、ハサン。うちにはこの横暴で我が儘な王様が入り浸るのだけど、あまり気にしないでね」
「…わかりました」

 ワインを飲みつつの言葉に私は苦笑を返して、構えかけたハサンに振り返ってそう言う。
 彼女は僅かに不審そうな目をギルガメッシュに向けつつ、私の言葉に従ってその肢体の動きを緩急させた。
 それを見て私は部屋に置いていた電気ポットのスイッチを入れてお茶を用意する。
 どうせギルガメッシュはそのままワインを飲むでしょうから、私とハサンの分だけの用意です。

「あ、マスター…私に、そんな…」

 彼女にお茶を差し出すと、慌てたように首を振られた。
 恐らく、暗殺者という職をしているからには人から善意でお茶を出されるなんてこと滅多になかったのでしょうからこその慌てぶりなのでしょう。

「気にしないで、ハサン。自分のを淹れるついでだし。そこの王様なんて人のことお構い無しだから」
「相変わらず減らず口を叩くな。響、貴様年々我に対して容赦なくなってきてはいないか」
「そんなの気のせいですよ、ギルガメッシュ。というか、あなたが受肉してから何年経っていると思っているんですか。あなたに遠慮しても、あまり意味はないと常々思ってきていましたから」

 肩を竦めつつ何だかんだためていたらしいここしばらくの不満を言われるが私はそれを受け流す。
 こういうやり取りは意外と珍しくはないです。王様がこんな姿を晒すのはたぶん、彼の盟友と近しいものを感じているからなのでしょう。彼がそう言っていましたから、そう間違いではないと思います。

「さて、ギルガメッシュはおいておくとして。ハサン、あなたは何か聖杯にかける望みがあるのですか?私は特にないですけれど、一応聞いておきたいと思いまして。答えづらければ答えなくてもいいですよ」
「私は…いいえ。あなたに出会えただけで、いいのです。強いていうなれば、毒でしかないこの身を…くらいのもので、あなたが私のマスターであるならばそんな願い…」

 「我をおいておくとは」とかなんとか文句を言う王様は放置してハサンと話をします。お互いの認識を擦り合わせるのは大事ですからね。
 彼女は触れあうことのできる存在がいたならばそれで十分と思っているようです。
 確かに触れれば毒によって殺してしまうのなら、触れあうことができるのは大事ですよね。人の体温を感じると落ち着くものがあるのは私も知っていますから。
 ならば、現界している間だけとはいえ、彼女に暖かさをわけるくらい私にもできるでしょう。何、外部からの毒とかそういうものの影響は元々効かないように設定していますし、バージョンが上がって催眠をかけたりとか呪われたりする魔術をかけられても効かないようになりました。
 …流石に高位の魔術は防げませんけれどね。時と場合によるとは思いますけど。

 それに人の暖かさに飢えた少女ひとりが家に増えたところで、この家には私一人で伯父も伯母も最近は月に一度か二度会う程度でしかありません。
 王様とかが茶々を入れてくるよりは可愛い女の子の方が気楽というものですし。
 だって彼にはデリカシーというものがありませんからね。年頃の女の子の扱いには注意するべきだと思います。
 私は観測世界と名前のつけられた前世の記録に近い人格ですからね。その辺はちゃんと気にするんです。…本当ですよ?
 幾ら元が人形のように感情が欠落している部分があるとはいえ、そこら辺は大事なんです!

 これから聖杯戦争が本格的に始まるまでは、今しばらくのんびりと学生生活に浸ろうと思います。
 勿論、今まで同様令呪の隠蔽は継続しますとも。進んで敵対したいわけではありませんからね。