そして少女は夢を見る   作:しんり

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Zero編
第一話


 交通事故にあったと思ったら何故か転生を果たしていた元成人、現赤ちゃんです。

 名前は未だない。嘘です。響です。フルネームで水谷響というそうです。

 

 さて、気だるい熱から目が覚めて、事故にあったけど生きてるのかと思って周りを見回そうとした目に一番に飛び込んできた知らない人に、「起きたのね響。お母さんですよ」といきなりお母さんと名乗ってこられた私の気持ち誰かわかりますか?

 わかりませんよね。正直私の方がわからなかったし。

 

 思わず、誰ですかあなた知らないですと叫んだ筈の声が赤子の鳴き声だった衝撃も計り知れない。

 何、何で? え、赤ちゃんの声? 私の喉から? という混乱は火を焚いたように燃え上がって成人にあるまじき泣き声に変換され、そのまま寝てしまって挙げ句それから三日間泣き続けてしまった記憶は封じてしまいたい。

 

 泣いてスッキリした私は、まず現状把握に勤めることにしました。

 手を伸ばしてみれば、予想に違わぬ小さな紅葉のような、ふっくらしてて柔らかそうなもち肌。誰かと上げた声は、「あぅ~」という鳴き声。

 そしてたゆんと目の前に揺れた仮称母の豊満なバディ。

 考えなくても自分が赤ちゃんになっているのは再確認できました。

 

 前世、と呼ぶべきこの私の記憶が正しければ、これはライトノベルなどや二次創作でよく使われる手法、転生を体験しているのが嫌でもわかる。というかわかってしまう悲しいね。

 一応言っておくとゲームとか諸々好きだったけどでもキモオタとか称されるほどフィギュアとかグッズに散財する傾倒に陥らなかったよ。どちらかと言えば、深く考察までしないにわかでしたし。というのは余談か。

 

 とにもかくにもここがどんなところか知りたいと思ったものの、幾ら仮称母や父、そして7つ違いの姉の会話を聞いてもさっぱりわからなかった。

 ただ、生活レベルを見るに、自分の過ごしていた頃よりも少々過去のものであったのはわかった。

 だってアナログテレビ。何より懐かしのブラウン管テレビである。幼少期(今も幼少どころか幼児だけど)のテレビゲームにはこれであった。涙がちょちょ切れそうなほど懐かしい。前世の私が何歳だったかは敢えて伏せておくが。

 

 しかし、生きている年代が分かっても肝心の世界観というものはよくわかっていない。

 でも、両親も仲良く子供の面倒もしっかり見るちゃんとした家庭なので特別変な世界ではないと思う。思いたい、というのが正確なところではあったけれど。

 何はともあれ、すぐに死んでしまいそうなフラグはないかな。これなら、前世覚えてるんです~とか痛いものも押し隠して普通の一般的な子供を模倣すれば普通に成長して暮らすことはできるだろう。

 

 ……なんて安易に思った日もありました。

 

 その数日後に今住んでいるのが『冬木市』という、知らないようで知っている単語であることを目にして耳にして悟りました。

 それ、何かのフラグだったんじゃない? と。

 

 思い返せばまだ赤子の私は日中を殆ど寝て過ごしているので、ニュースといっても仮称母(そろそろ仮称でもなく本当に母として認めようかと思ってる)が好んで見る旅グルメの番組を目撃していただけ。

 現住所を知ることもなくその腕に抱かれていただけだったのである。畜生、もっと起きておけばよかった。

 たまたま地元のご当地グルメを探すと題して、冬木を巡るとかテロップで出た瞬間、あコレ死亡フラグたってない?大丈夫?と考えた。

 

 冬木市。架空都市だったはずである。原作は型月とも呼ばれる会社発のfateシリーズの舞台でもあったはずである。

 大元の原作はPC版かつ18禁ものというのは知っている。一応リメイクされたのをプレイしているし、派生作品のEXシリーズとGOもしている。型月全体でいえばそれくらいしかしてない知らない所詮にわかだけど。

 死ぬ前に派生マンガの魔法少女ものを読んでたり調べたりとかしてたので記憶に齟齬はあまりないはずである。

 

 おっと、話が逸れつつある。修正。

 

 冬木市といえば、聖杯戦争にてこの世の悪の泥? を被って大火災が起きたり、サーヴァント同士の戦闘でなんかあったり変な生物もとい海魔? が川に現れたり。えーと、生気を吸われたり? あ、あとホテルの爆破とか!

 ……少々記憶が原作よりもその10年前の大々的被害の認識が強いけど。

 まぁここが本当にそちらなのか、それとも魔法少女もののほうなのか、はたまた人理焼却コースなのかはまったくどの世界かわからないわけですけども。

 

 ……こんな時にPCというか、何かネットで検索できるものがあればなぁ。と思わざるを得なかった。インターネッツは偉大ってはっきりわかるね。ネット依存症になってまうやろー!

 そんな下らない思考にふぅ、とため息をついて目を閉じると自然と眠たくなってきます。赤ちゃんは寝るのが仕事と言いますし、自然的な現象ですね。

 

 そうして眠り始めたらあら不思議。なんか白い四角い箱の中、前世だと思わしき成長した手足で目が覚めた。鏡はないので顔は見えないが。でも何故かここが『夢の中』であるとはっきりわかる不思議。明晰夢、とは違うと普段なら当てにならない勘が言っている。

 

 そして何故か白っぽい椅子と分かるものに座った私の目の前には、SF映画でも見ているような感じで空中に電子的な青い画面にキーボードが浮かんでいた。

 これが私の想像の産物であるならば、ひどく安直というか捻りがないと思う。でも、こういうチープな感じが好きだったりするので、わかりやすいといえばわかりやすいのかもしれない。

 

 「えぇと? 操作は……ん、マウスないってことはタッチパネル?」

 

 パネルを動かすものがないかと視線をさ迷わせる。が、その視線に合わせて画面が移動したので慌ててしまう。……何故夢の中でこんなに苦しむのか。

 画面の選択はタッチでマウスクリック。ドラッグは視線の移動など。で、記入は手元のキーボード。基本的な操作さえわかれば後はもう慣れさえすれば問題ない。

 

 まずは一番大きな画面を選び、じっくりと観察する。

 画面は通常のPCにおけるデスクトップ画面のようにも見える。画面左側に歯車のアイコンで設定、と下に書かれたものがあったのでそれを選択してみる。

 

 パッと広がった画面には各種設定というという文字が踊り、そこには何というかいろいろ書かれていた。

 えーと、接続先設定。バージョン設定。セキュリティ設定。再生設定。個人設定、と書かれている。

 

 先ず上の接続先設定から確認。開いた画面には、周辺に接続。魂に接続。『××』に接続、とこれは何か文字化けしている。世界に接続、とあった。

 なんじゃこりゃ。と思いつつも、後者二つにするのは怖くてまず周辺を選択してみた。

 

 瞬間的にぱぱっと幾つかの画面が展開し、現在赤子を見つめている視点の画像、いや動画といえばいいのか? が一番に見える。後は見知らぬ男性の顔を見ていたり子供を見ていたり。

 その画面ごとの脇に詳細という文字があったので凝視し選択してみると、画面の三分の一ほどに文字列が並んだ。

 それは個人名から始まり、現在の状態、感情パラメーター?とタブで来歴となっていた。

 個人名、水谷綾子。状態、子供(水谷響)の世話。感情パラメーターには幸福、疲労、心配、愛情となっている。グラフになっているが、今のところ幸福が強いようだった。

 しかしまぁ感情はそのくらいにしておいて、来歴のタブを開いてみる。

 

 出身地は冬木市。家庭不和もなく育っている。系譜は曾祖父に呪術師の類いの血を継いでいる。実家は冬木の小さな神社を管理する家。主な祭神は天照大神様。土地を継ぐのは兄となるらしい。上京後数年、現夫と出会い恋人に。社内恋愛であったという。出張先に実家のある冬木の名前が出たので、身籠った彼女は母の力も借りられるからそちらに一緒に行きたいとして現在の家に至る。

 そして姉を生んで以後子宝に恵まれなかったがついに私が生まれた、と。

 特筆すべき点だけ纏めて、メモ機能がないか探した結果見つけた画面に箇条書きで書き出す。

 

 そして次に目をつけたのは、呪術師、という点である。

 呪術といえば水天日光、えーとその後が出てこないけど、そんな宝具名を使う玉藻の前が扱っていた。そして神社の祭神は天照大神。ここもまた玉藻の前に繋がる点である。玉藻さん好きでした。キャス狐さんマジ良妻巫女可愛い。げふん。

 

 確か呪術というのは魔術と違って周りを変えるのではなく、自己を変えるというもの……だったはず。

 その家系の末であるというならば、この前世というべき自己が表出したというのも納得はできないこともない。

 がしかし、そこに至るまでの某かがわからないので困っているわけだけど。

 

 とここまで考えて、次にいくことにした。深く考えるのは後でもできるし、うん。

 

 接続はもう少し気にはなったが、次のバージョン設定の確認だ。

 出ている画像を全て閉じて、元の設定画面に戻る。

 画面を開いてみると、バージョンα2.1となっていた。更新日時は2月10日。

 でもインストール完了はその半月後くらいの3月頭になっている。

 詳しく見てみると、今でもバージョンα1.2とか1.6とか少しずつ変わっていっているのがちょっと怖い。

 

 何、今の自分って完成形じゃなかったの? 自己の定義についてすっごくあやふやになってきてしまいそうになったので、深く考えないことにした。たぶん深く考えるとドツボに嵌まる。

 そこから更に下に目を通すと、バージョンβに移行しますか?となっていたので見なかったふりをして次にいくことにする。

 

 次、セキュリティ設定。これは何かよくわからないが、外部からの影響レベルについて、みたいである。よくわからん。

 でも要するに、ウイルスを検知してデータが喰われるのを防ぐってことでしょ? 設定は強になってるし、不便がなければそのままでいいや。不都合が出たら変えればいいんだし。

 はい次、再生設定。これは先程のような、母の画像映像を再生というか見る際の設定らしい。大きめの画面で再生するか否か、というものだ。

 別にアニメを見るわけでもなし、小さめの画面でも不便はないだろうと変につつかないことにする。セキュリティと同じである。

 

 そして時間はかかった気がするが、最後。個人設定である。

 ……はい。何というか、設定というよりも今の状態というべきか。それが記されていた。

 

 水谷響。2月10日生まれ。女。

 起源『接続』。属性『無』。

 

 なんじゃそりゃと仰天しつつも続きを見ていく。何か信じられないものを見ているような気分である。

 

 現在の魂バージョンα2.1。記憶名『×× ××』名称特定不能。魂レベル3。現在魂との接続レベル60%。バージョンアップを勧めます。

 未アップデートβ。仮称平行世界者。記録名不明。バージョンアップを勧めます。バージョンアップ時霊子虚構世界への接続を開始します。

 魂拡張段階レベル1。

 次バージョンβ、接続レベル50%以上時レベル2に移行。

 

 とこのようにまあ、なんか突っ込みたいところが多い文章となっていた。

 ええと、まず起源についてはこの現状を納得できるものはあるけれど。属性無って何ぞ。確か架空元素かそんなのではありませんでしたっけ? 記憶違い? わからないんだけど。

 なんかありえないものを見た気分ではあるが、夢ではないけど夢の中なここに確かにあるし、そして何よりも私の知り得ないことも識ることができているという点が納得せざるを得ないところというか。何というか?

 

 記憶名が文字化けしているのは、前世の名前が思い出せないと気づいたのでそのせいだと思う。

 接続レベルが60%となっているのも理由だったのかも知れない。

 でも、気づけなかったのはたぶん、それが普通だと認識していたからなのだと思う。たぶん。

 

 もうよくわからないので、とりあえずバージョンアップの承認だけすることにした。

 面倒くさがってるわけじゃない。ないったらないのである。

 

 見ていたら疲れてきたので、白い椅子に背中を凭れて目を閉じる。

 途端に感じたふわふわとした感覚に身を任せ、目覚めのその時を待つことにした。

 


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