艦これif ~隻眼の鬼神~   作:にゃるし~

4 / 37
日本近海で出会った女性は、たしかにこう名乗った。

航空母艦 鳳翔であるとーーーーー。


第3話「艦娘」

煙草の臭いが充満する部屋の中、高級なものであろうソファに深く腰を下ろした男が問いかける。

 

「・・・それで、諸君らは一体何者なのだね?」

 

とある自衛隊駐屯地にある応接室で、数名の女性が取り調べを受けていた。

 

「ですから、私たちは軍艦なのです!」

 

紅白の巫女服を着た長髪の女性が、これまで何度も答えてきた返事を返す。

この数十分、同じ問答の繰り返しばかりだ。

 

「ふむ・・・大日本帝国海軍の軍艦、航空母艦 赤城ね・・・にわかに信じられんな・・・。」

 

煙草を吸いながら、男が赤城と名乗る女性に疑わしそうな目を向ける。

 

「まあそれは今はどうでもいい。私が知りたいことは2つだけだ。」

 

男は口から煙を吐き出し、短くなった煙草を灰皿に押し付けて火を消し、次の煙草に火をつけた。

その態度に赤城は自らのこめかみがピクピクと痙攣するのを感じた。

 

(この男・・・これが初対面の人に物を聞く態度なの!?)

 

赤城は拳を強く握ることで苛立ちをなんとか押さえて、男が言う知りたいこととは何かを問おうとした。

だが、隣に立っていた青白の巫女服を着た女性が「代わりに」というような目配せをして男に問う。

 

「知りたいこと、とは何でしょうか。」

 

その言葉に、男は今度は青白の巫女服の女性に視線を向ける。

まるで値踏みでもしているかのような目付きに、女性は嫌悪感を抱く。

 

(下品な視線を向けないで貰いたいところだけれど、赤城さんも我慢の限界が近いから、仕方ないわね。)

 

女性の目付きが鋭くなったことにも気づかない男は、再び煙草の煙を吐き出しながら、口を開いた。

 

「君はたしか、加賀と言ったか・・・。いいだろう、私が知りたいことは、諸君らは何故、奴等・・・深海棲艦と戦い、勝つことができる?というのが1つ。」

 

そしてもう1つ、と続ける。

 

「諸君らの目的。何が望みなのか。ということだ。まさか善意で我々人類を助けました。なんてことはなかろう。何が狙いなのだね?」

 

応接室に沈黙が訪れる。

赤城たちは視線を床に落とし、誰も口を開こうとはしなかった。質問に答えようとしなかった。

 

否、答えられなかったのだ。

 

なぜなら誰も、何故自分達はあの異形の怪物・・・深海棲艦といったか。

それと戦える、いや、戦わねばならないと思ったのか。

何故、自らの攻撃が深海棲艦に効果を発揮すると確信できたのか。

自分たちの目的、望みは何なのか。

疚しいことなんてない、ただただ、守らなければという衝動に突き動かされていただけなのだ。

 

赤城たちは何一つ、目の前の煙草臭い男を納得させるような言葉を持ち合わせていなかった。

 

数十分の沈黙。いや、数分か。実際には数秒だったのかもしれない。

その沈黙を破ったのは、男でも赤城たちの誰でも無かった。

 

応接室の扉をノックする音が聞こえる。

 

「誰だ!今は重要な会議をしている所だ!後にしろ!」

 

男は苛立ちを隠そうともせず、煙草を灰皿に擦りつけながら扉に向かって怒鳴った。

 

「重要な会議中、失礼します。その会議に関係があると思われる、重要参考人をつれて参りました。」

 

「・・・・・・入れ。」

 

扉の外から聞こえてきた言葉に、男は眉間に皺を寄せ怪訝そうな顔をしたが、「重要参考人」という言葉に興味をもったのか、外の人間に入室を許可した。

 

「はっ、比良二佐。以下2名、入ります。」

 

応接室の扉が開き、女性が1人、男2人に挟まれるようにして部屋に入ってくる。

 

一体、「重要参考人」とは誰なのだろうか。

この状況をどうにかしてくれる人だとでもいうのだろうか。

落としていた視線を上げ、女性の姿を見たとき、赤城と加賀は思わず声をあげていた。

 

「「鳳翔さん!?」」

 

鳳翔と呼ばれた女性は赤城たちの方へ顔を向け、にっこりと微笑むと、新しい煙草を取り出している男に向け敬礼した。

 

「大日本帝国海軍所属 航空母艦 鳳翔と申します。恐れながら、先程仰られていた質問への返答をさせていただきたく。その代わり、私たちのこれからの処遇についてのお考えをお聞かせください。」

 

先程の微笑みからは想像できないような凛とした表情で、鳳翔は男に話しかけた。

男は煙草をふかしながら、ちらりと鳳翔をみた。

 

「今度は鳳翔、だと・・・?・・・・・・いいだろう、答えてもらえるのならばなんでも構わん。話せ。」

 

相も変わらず、人を苛立たせるような態度の男に、赤城は自分の額に青筋が浮かぶのを感じたが、鳳翔の邪魔をしないよう、ぐっと堪えていた。

その様子を横目で見ていた鳳翔は、視線を男に戻し、話し始めた。

 

「まず、1つめの質問に対する答えですが。私たちが深海棲艦と戦えるのは、推測ですが、お互いが対となる存在だからではないかと考えています。」

 

対となる存在。

その言葉に、男の目付きが変わるのを、その場の全員が感じていた。

 

そして鳳翔は自らの推測を語り始めた・・・。

 

 

 

ーーーーー数十分後ーーーーー

 

 

 

「・・・・・・と、いうことになるかと考えています。」

 

鳳翔がひとしきり話終え、一息つくと、鳳翔の左に立っていた中年風の男、比良と言ったか。が話始めた。

 

「ふむ、簡単に纏めると、深海棲艦は大昔の大戦で沈んでいった軍艦の生まれ変わり、のような物で、沈んだ時の無念や怨念といった負の感情の塊のような物だと。」

 

続けて今度は鳳翔の右に立っていた若い男、こちらは安住だったか。が話し出す。

 

「対してあなた方も、同じく大戦で沈んでいった軍艦の生まれ変わりのような物だが、決定的に違うものがあるんですね。」

 

今度は比良が、それはと続ける。

 

「あなた方は無念や怨念といった負の感情に支配されているわけではない。そして共通して、人間を守りたい。という意思がある。大元にある起源が同じ存在だからこそ、お互いに影響を与え合うことができる。」

 

最後になるほどな、と呟き、比良がいまだに煙草を吸っている男に向き直った。

 

「推測の範疇を出ない話ですが、そう考えると辻褄が合う気がします。いかがでしょう、ここは彼女らの話を信じ、共闘してみては。」

 

それを聞いた男の目がつり上がるが、比良は構わず続けた。

 

「得体の知れない者の力に頼ることに危機感を覚えるのはわかります。ですが、我々人類には深海棲艦に対抗する手段が無く、すでに彼女らに一度助けられているのも事実です。全世界の制海権もその殆どを奴等に奪われています。」

 

「・・・・・・。」

 

男は返す言葉に詰まったのか、煙草をくわえ、続きを促した。

 

「であれば、現在のところ唯一、深海棲艦に対抗する力を持つ彼女らに協力を願い、現状を打破するほか無いと思われます。深海棲艦は陸地の目前まで迫ってきているのです。沖合いでは上陸され、占領されている島もあるという話です。今ここで死に物狂いで踏ん張れなければ、人類は・・・・・・滅ぶでしょう。」

 

「・・・・・・たしかに、世界各国で深海棲艦に対抗する力を持つ人が現れたという報告が次々と上がってきている・・・しかしな・・・・・・。」

 

男が煙草の煙を吐き出し、押し黙る。

それをみた比良がさらに口を開こうとした時、応接室の扉が勢いよく開いて、何かが飛び込んできた。

 

「全員伏せろ!」

 

叫んだのは安住だった。

 

安住は叫ぶと同時に腰のホルスターから拳銃を抜き、鳳翔たちの前へ庇うように飛び出していた。

一方で比良は安住が叫んだ瞬間、阿吽の呼吸で安住の隙をフォローしつつ、男の前へ出て床へ伏せさせ、拳銃を構えていた。

 

「き、緊急連絡です!!」

 

飛び込んできたのは伝令の下士官だった。

全力で走ってきたのか、息も絶え絶えといった様子だ。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

比良が安住に目配せする。

すると安住は伝令が飛び込んできた扉の方向を警戒しつつ伝令に近づいていった。

 

「ノックも無しに飛び込んで来るとは何事ですか。今は戦争中です、事と次第によっては・・・。」

 

安住は伝令に拳銃を突きつけて、先程の行動について問い詰めた。

その声色と雰囲気には、先程までの少し頼り無さそうな面影は全くなく、まるで別人のようだ。

伝令は怯えながらも、手に持っていた書簡を差し出した。

 

「こ、これを・・・大至急最優先で何をおいても届けるようにと・・・。」

 

書簡を受け取り、宛先を確認する。

 

「・・・・・・それだけですか?」

 

「は、はい・・・。」

 

安住は一瞬、比良と視線を交錯させ、そして・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・次は無いですよ。気を付けてください・・・ご苦労様です。」

 

「・・・はい・・・申し訳ありませんでした・・・・・・。」

 

役目を果たした伝令を解放し、緊張を解く。

 

「みなさん大丈夫です。ブレーキの効かない慌てん坊の伝令が転がり込んで来ただけでした。」

 

それを聞いて全員がほっとため息をつき、各々が立ち上がる。

 

「大丈夫ですか?立てますか。」

 

安住は鳳翔の近くに寄り、手を差し出した。

その雰囲気は、再び少し頼りなさげなものへと戻っていた。

 

「あ、はい。大丈夫・・・です。」

 

手をとり鳳翔も立ち上がるが、先程のことへの驚きからか、まだ少し緊張しているようだった。

 

全員が無事なことを確認すると、安住は比良と男の方へ近づいていく。

 

「・・・・・・これを。」

 

そして書簡を宛先である男に差し出す。

男は乱暴に書簡を奪い取ると、内容を読み始めた。

 

「こ、これは・・・・・・!」

 

その顔色がみるみる変わっていくのを、比良と安住は見逃さなかった。

 

「どうかされましたか。」

 

「い、いや、なんでもない!私はこれで失礼させてもらう!その娘たちは一先ず比良君、君に任せる!」

 

すかさず比良が問いかけるが、男は比良に鳳翔たちの処遇を任せると慌てた様子で部屋から出ていってしまった。

 

「了解しました・・・・・・っと、一体どうしたっていうんだ・・・?」

 

「これは、何かキナ臭い事が起こってそうですね・・・。」

 

「そうだな・・・。」

 

この時の書簡が何を意味していたのか、彼等はすぐに知ることになる。

 

 

 

ーーーーー数日後ーーーーー

 

 

 

「あの時の書簡は、こういう事だったのか・・・。」

 

「全く、上は相変わらずやることがエグいですね。」

 

先日の事件から数日、テレビでは同じニュースが繰り返し流れ続けていた。

 

   深海棲艦へ対抗する兵器の開発に成功!

   国連軍の一翼として新日本海軍が設立!

   秘密兵器の名はーーー「艦娘」ーーー!

 

事態は静かに、けれども急速に動き始めていた・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




あああああああ!
難しい!こんなシーン最初は出てくるなんて思ってなかった!!

考えもなしに発車するものじゃないと思った第3話でした。
いかがでしたでしょうか・・・(~_~;)

赤城さんと加賀さんの登場です。
空母ばっかりじゃん・・・出てくるの_(._.)_
ちなみに、発言していないだけで、二人の他にも艦娘は数名いました。
誰がいたかは・・・イメージするんだ・・・(@_@)


どこまで続くのか、どうなっていくのかわかりませんが、ちょこちょこ書いていきます・・・。

では、また(^q^)シュリュウダンヲナゲロ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。