艦これif ~隻眼の鬼神~   作:にゃるし~

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第33話「会談」

ーーーーー鎮守府・08:21(マルハチフタヒト)ーーーーー

 

 

 

鎮守府の港に1隻の輸送船が到着した。

船体の各所に見られる損傷から、道中の戦闘の激しさが窺える。

その船上では船員が慌ただしく動き回っていた。

 

「とりあえず桟橋に船をつけるぞ!負傷者の移送準備いいか!」

 

「受け入れて貰えるんだろうな!?」

 

「大佐たちが話をつけてくれているはずだ!心配するな!」

 

やがて輸送船が桟橋に接舷すると、タラップが掛けられた。

担架に乗せられた負傷者が慎重に船から下ろされていく。

 

「医療棟はこっちだ、手伝うぞ!」

 

桟橋の反対側に接舷した指揮艦や工厰からも続々と人が集まってきている。

負傷者が搬送される様子を横目に、軍服に身を包んだ将校らしき人物が2人、別のタラップから桟橋に降り立った。

中年くらいの将校が、走り回っている士官を呼び止める。

 

「君、ちょっといいかね。」

 

「何でしょうか。」

 

呼び止められた士官は息を切らせながらも背筋を伸ばし、中年の将校に敬礼した。

 

「ここの責任者と話がしたいのだが。」

 

「そのお話は私が引き受けます。伍長は負傷者に手を貸してあげてください。」

 

「はっ!」

 

士官が言葉を返そうとするよりも早く、会話に割り込んだのは安住だった。

指示を受けた士官が、負傷者を運び出す人の中に走っていく。

その姿を見届けると安住が将校たちに向き直って敬礼した。

 

「安住 護 少佐です。」

 

「アルバート・S・マッケンジー大佐だ。」

 

「ルーカス・ウィナー少佐です。」

 

将校たちも敬礼を返し、それぞれ名乗った。

中年で風格のある方がアルバート、若年で安住よりも体格のいい方がルーカスというらしい。

 

「そうか、君が艦娘の指揮を執っていたアズミか。」

 

「危ない所を救っていただき、感謝します。」

 

「いえ、救援が遅くなってしまい申し訳ありません。」

 

「こうして無事に着けたのだ。誰も文句は言うまいよ。」

 

「お気遣い、感謝致します。」

 

挨拶もそこそこに、安住が話を戻そうとする。

 

「責任者との面会の件ですg「霧島あぁあああぁぁぁああぁぁ!!!」

 

背後から聞こえてきた大声に、安住の声がかき消される。

アルバートたちが声のした方を見ると、傷ついた艦娘に駆け寄る男の姿が見えた。

 

「テイトク!?ナンデココニ!?」

 

「ヒドイケガジャナイカ!!ハヤクニュウキョ・・・イヤ、サキニテアテカ!!」

 

「チョッ!!ユックリナラアルケマスカラ!!ハズカシイカラヤメテクダサイ!!マッテ・・・ヒ、ヒエー!!」

 

将校であろう男は艦娘をお姫様だっこすると、建物の方へと走り去っていった。

 

「・・・ハリケーンのような男だったな。」

 

「・・・一体何だったんでしょうか。」

 

一連の出来事に唖然とする2人。

 

「・・・・・・あれが、ここの責任者です・・・。」

 

そう言って片手で顔を覆った安住を見て、アルバートとルーカスは再び唖然とするのだった。

 

 

 

ーーーーー鎮守府 応接室・09:05(マルキュウマルゴー)ーーーーー

 

 

 

アルバートたちは鎮守府本庁舎の応接室に通されていた。

上等なソファに腰を下ろした2人と向き合う形で、中年の大柄な男が対面のソファに座っている。

 

「いやぁ先程はお見苦しい所をお見せしてしまったようで。」

 

男は苦笑いを浮かべて頭の後ろをボリボリと掻いた。

そして咳払いを1つして、真剣な表情を作り、敬礼する。

 

「申し遅れましたが、私がこの横須賀鎮守府を任されている比良 源治郎 大佐であります。」

 

2人も敬礼を返し、お互いの自己紹介が終わった頃、応接室の扉をコンコンと叩く音がした。

 

「安住です。お茶をお持ちしました。・・・っとと。」

 

「おお、入ってくれ・・・っと、手が塞がってるかな。今開ける。」

 

扉越しに聞こえた安住の声に反応して、比良が立ち上がって扉を開けた。

 

「失礼致します。ありがとうございます、提督。」

 

部屋の中へ入ると、安住は応接机に持ってきた物を置いていく。

 

「マッケンジー大佐、アイスコーヒーです。」

 

「うむ。」

 

「ウィナー少佐は、アイスティーでしたね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「提督は緑茶で良かったですよね。」

 

「ああ、熱いやつな。」

 

各々に配られた飲み物に口をつける。

そして一息ついたところで、アルバートが話を切り出した。

 

「早速で申し訳ないが、話をさせてほしい。」

 

「まずは我々の救援要請に応じてくれたことに感謝の意を示したい。」

 

「本当にありがとう。おかげで乗組員たちや残った艦娘を犠牲にせずに済んだ。」

 

「私からも感謝します。」

 

米軍の将校が揃って頭を下げる光景に、比良と安住は言葉がでなかった。

顔を上げたアルバートが再び話し始める。

 

「さて、ここからが本題・・・いや、いくつかの要求になるか。聞いてもらいたい。」

 

「まず艦娘と船員たちの治療に食事。輸送船および艦娘の艤装の修理、補給。」

 

「艤装の修理に必要なデータは後でお渡しする。データはそちらの好きに扱って貰って構わない。」

 

「最後に、輸送船の修理完了後、ここから我々の目的地までの護衛をつけて貰いたい。」

 

「不躾な頼みであると分かっているが、どうか聞き入れてはくれないだろうか。」

 

話を聞き終えて、比良は顎に手をやり目を閉じた。

どうすべきか思案しているのだろうか。

 

(・・・・・・中々に無茶な要求だが、どうだ・・・。)

 

(最悪、治療と食事だけでも約束してくれないでしょうか・・・。)

 

応接室に沈黙が続く。

アルバートとルーカスの顔に汗が浮かび、頬を滑り落ちていく。

やがて比良が顎から手を離し、目を開いた。

 

「・・・・・・1つ、お聞かせ願いたいことが。」

 

「何だろうか?」

 

「あの輸送船の積み荷は、一体何ですか。」

 

「在日米軍基地への機材や武器弾薬、食料等だ。」

 

受け入れる側としての当然の質問に即答で返すアルバート。

積み荷について聞かれることは予測済みだったのだろう。

しかし、比良は首を傾げて不思議そうな顔をした。

 

「・・・それだけですか?」

 

「どういう意味だね?」

 

「物資の輸送にしろ艦娘の移送にしろ、いまだ生きている空路を使えばいい話なわけで。」

 

怪訝な顔をしたアルバートの眉がピクリと動く。

 

「わざわざ危険を冒してまで海路で輸送する必要が・・・いや、しなければならなかった物があるのでは、と思いましてね。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「そう睨まないでください。外部からの来訪者を受け入れる以上、聞いておかなければならないことなのですから。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「補給物資だと思っていた物が、実は深海棲艦の生体サンプルで、ちょっと目を離した隙に脱走されて基地が全滅しました。・・・なんて事態が起きても困りますからな。」

 

そう言った比良は表情と声色こそ冗談めいていたが、目だけは笑っていなかった。

射殺(いころ)さんばかりの視線に耐えられなくなったのか、アルバートが目を逸らした。

 

「・・・情けない話だが、我々も今積んでいる物資の全てを把握しているわけではないのだ。」

 

「度重なる襲撃で海中に投げ出されてしまった物も多い。」

 

「なにより、船団の責任者を乗せた船が沈んでしまっている。」

 

「私より上の階級の者も全員、道半ばで戦死した。」

 

「そんな状態だから搭載品リストとの照合もままならんが、たしか気圧の変化に弱い精密機器を多く積んでいたはずだ。」

 

「言い訳ばかりだが、代官の私では君の疑問に満足いく答えを返せない・・・。」

 

「本当にすまないと思う。だからどうか、部下や艦娘たちのことだけでも・・・。」

 

話していてこれまでの事を思い出したのだろう。

悔しげにアルバートは顔を歪めて俯いた。

 

「・・・・・・顔を上げてください、大佐殿。」

 

視線を上げると、先程までの厳しい表情を崩した比良の姿が見えた。

 

「あなた方の要求、聞き届けました。修理、補給、治療に食事。護衛の件もお任せください。」

 

「い、いいのかね?」

 

要求を快諾されるという予想外の返答に驚き、アルバートは思わず聞き返した。

 

「勿論です。上からは最大限、力になるよう言われています。」

 

そう言った比良は笑みを浮かべ「それに」と付け足す。

 

「上からの命令がなくとも、できる限り力になるつもりでしたよ。我々は敵ではないのですから。」

 

そして、事後報告はお家芸だと冗談めかして比良は豪快に笑ってみせた。

 

「・・・助かるよ。無茶な要求を快諾して戴き、感謝する。」

 

アルバートたちがほっと胸を撫で下ろし、場の空気が和んだ所で比良が申し訳なさそうに切り出す。

 

「先程は無礼な質問をしてすみませんでした。」

 

深々と頭を下げる比良をアルバートが手で制した。

 

「いいんだ。『ご挨拶』といったところだろう?ああいうのはこちらもよくある。」

 

「そう仰っていただけると、こちらも助かります。」

 

「さて・・・。」

 

残っていたコーヒーをぐいっと飲み干し、アルバートが席を立った。

軍棒をかぶり直して扉へと歩いていく。

 

「皆に受け入れて貰える旨を伝えに行くとするよ。」

 

「それならば私が行きます。大佐はお休みになってください。」

 

やり取りを静かに聞いていたルーカスが慌てて立ち上がり、制止させようとする。

 

「負傷者の手当てや移送も、人が足りていないだろう。私だけ休むわけにはいかないさ。」

 

「しかし・・・!」

 

小言は後で聞く。今は見習おうじゃないか、なぁルーク。」

 

「!!・・・わかりました。私も同行します。」

 

ルーカスが諦めたのを見て、アルバートは軍帽のつばをつまむと僅かに顔を振り向かせた。

 

「ヒラ大佐、アズミ少佐。我々はこれで失礼するよ。」

 

「はい。後程、皆さんに冷たい飲み物をお届けします。」

 

「ありがとう、アズミ少佐。」

 

敬礼する安住に微笑みを返し、ルーカスが開けた扉を出ようとする。

 

「マッケンジー大佐、もうひとつだけお聞きしても?」

 

「何かな?」

 

比良の問いに再び立ち止まる。

 

「護衛先の目的地は、一体?」

 

「ああ、伝え忘れていたな。」

 

アルバートは、ひとつ大きなため息をついて静かに言った。

 

「・・・・・・佐世保だ。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第33話です。

いかがでしたでしょうか。

色々あって更新が滞ってしまいました(;_;)
またちびちびと書いていこうと思いますので、よろしくおねがいします。

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