艦これif ~隻眼の鬼神~   作:にゃるし~

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敵に捕捉された船団は迎撃隊を出しつつ離脱を図るが・・・。


第28話「海の彼方から・4」

耳をつんざく爆発音。

直後に聞こえてくる幾人もの叫び声。

 

「船尾に被弾!機関部に火災発生!!」

 

「消化いそげー!!」

 

「レイモンドが負傷した!メディックを寄越してくれ!」

 

被弾箇所から上がった火の手は瞬く間に広がり、真っ黒な煙をごうごうと立ち上らせる。

 

「Shit!敵機の数が多すぎるわ!」

 

憎々しげに見上げた先には、夕焼けの空を埋め尽くす敵機の群れ。

せめてもの抵抗と、僅かに残った機銃で弾幕にもならない対空砲火を撃ち続ける。

 

「く・・・狙いが・・・。」

 

頭から流れ出る血が右目に入って視界が赤く染まっていく。

それによる視界の悪化で機銃の狙いがつけられなくなる。

 

「何も見えない!敵機はどこ!」

 

手で擦ってみても、一度血が入り込んだ視界は目を洗い流さなければ治らない。

 

「敵機直上!!逃げてアイオワ!!」

 

「ッ!?」

 

半ば悲鳴になった叫びを聞き、反射的に顔を上げる。

その目に映ったのは、必殺の距離で爆弾を投下しようとする敵機の姿だった。

 

「私の強運も、これまで・・・ね・・・。」

 

瞳を閉じて呟いた声をかき消すように、爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・17:58(ヒトナナゴーハチ)ーーーーー

 

 

 

サラトガから発艦した迎撃隊は、敵の大部隊の間近まで迫っていた。

 

「イーグル1ー1より全機へ。眼前に見える敵部隊と間もなく接触する。」

 

隊列を組んで飛行する艦載機、その先頭を行く機から後続機へと通信が入る。

 

「向こうは元気一杯の大部隊。対するこちらは疲弊し、予備機をかき集めた、たった19機の迎撃隊。」

 

迎撃隊の指揮を執るのは、F6F(ヘルキャット)を駆るパイロット妖精だ。

その声は緊張しており、自分達の置かれている状況をよく理解していることがわかる。

 

「まともに戦っていたら数的不利な此方に勝ち目はない。だが、勝つ必要は無い。」

 

F6Fが3機にF4U(コルセア)が16機しかいない、敗北しかないこの状況で、勝つ必要は無いとはどういうことだろうか。

 

「敵機は多い、だから撃墜に固執するな。撃破でいい。抱えた爆弾を投棄させる程度に痛め付ければ上出来だ。」

 

指揮官機の言葉を聞きながら、F6Fの3番機がくるりと機体を横転(ロール)させ、下方警戒のために背面飛行の状態になる。

言葉を交わさずともやるべきことが分かっているのだろう。

つまり数は少ないが、F6Fのイーグル隊はかなりの手練れだということだ。

 

「簡単に言えば、お相手を選ばず取っ替え引っ替えのパーティーってことだ。ホーク隊の諸君、理解できたな?」

 

「こちらホーク1ー1、了解しました。腕がなります。」

 

「3ー2了解。乱○パーティーってことですね。」

 

「4ー3了解です。3ー2、それを言うなら大○交パーティーだろ。」

 

「2ー2了解だっぜ。今回は楽しくなりそうだっぜぇ。」

 

F6F妖精がオブラートに包んで説明した作戦に、F4U妖精たちは様々な反応を示した。

この絶望的な状況でも軽口を言えるのは、自信の表れだろうか。

 

「フッ・・・相変わらず威勢のいい奴らだ。そろそろ始めるぞ。」

 

一瞬だけ口元に笑みを浮かべて、F6F妖精が機体を左右に少し横転させる。

主翼を振るようなその動作が、戦闘開始の合図。

 

「皆の幸運を祈る。全機、ブレイク!!」

 

号令と共に迎撃隊の全機が編隊を崩して上下左右に散り、決死の航空戦が始まった。

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域・18:01(ヒトハチマルヒト)ーーーーー

 

 

 

「・・・航空隊は戦闘を開始したようです。」

 

「あの子たちが心配?」

 

報告を終えて遠くに見える空戦を眺めるサラトガの肩に、アイオワが手を置く。

 

「ええ。・・・みんな無事に戻ってほしいけど・・・・・・。」

 

「気持ちは分かるわ。でも、今はそんな心配をしている状況じゃ・・・なさそうよ!!」

 

アイオワがそう強く言い放つと同時に振り返り、主砲を撃つ。

放たれた砲弾は真っ直ぐに飛んでいき、やがて着弾して2つの水柱を作り出した。

水飛沫の中から姿を現したのは・・・。

 

「戦艦・・・ル級!」

 

サラトガが驚きに目を見開く。

いつのまにか、お互いを視認できる距離まで敵艦隊に接近されていたのだ。

 

「戦艦ル級が2隻に重巡リ級も2隻か・・・手厚いお出迎えね。」

 

接近に気づかれたのを察した敵艦隊が、先程のお返しとばかりに砲撃を開始した。

大きな的である輸送船の周囲に着弾の水柱がいくつも立ち上る。

 

「あちらも撃ち出したわね。応戦するわ!」

 

遠距離砲撃の命中率など知れている。

それでも繰り返す内に少しづつ狙いは合ってくるもので、砲撃が命中するのも時間の問題だ。

弾着観測されていないことだけは、不幸中の幸いか。

 

「輸送船は全速で離脱を!急いでください!」

 

『ダメだ!機関の調子が悪くて13ノットしか出せない!とても逃げ切れないぞ!!』

 

「そんな・・・!?」

 

サラトガは輸送船だけでも逃がそうとするも、返ってきた通信がそれが不可能であると告げる。

何か策はないかと思考を巡らせるが、小島群から出たため周囲に遮蔽物に出来そうな物はなかった。

あの時にもっと反対しておけばよかったと、後悔から下唇を噛み締める。

 

「・・・・・・旗艦権限をサラトガに移譲。」

 

「え・・・?」

 

後悔の渦からサラトガを現実へと引き戻したのは、敵艦隊との砲戦を続けているアイオワだった。

 

「私が突撃して囮になる。こんな状態でも、肉薄されれば16inch砲は驚異のはず。」

 

『貴様ッ!?何を勝手なことを!!』

 

通信機から士官の怒鳴り声が聞こえるが、アイオワは構わず続ける。

 

「そうなれば、敵も狙いを変えざるを得ない。大丈夫、逃げる時間くらいは稼いでみせるわ。」

 

「ダメです!ここまで来て貴女まで失うわけには!」

 

「これしか方法がないのよ!私たちの任務は輸送船を無事に日本へ送り届けること!そうでしょ!」

 

自分を犠牲にしてでも任務を全うしようとするアイオワと、これ以上の犠牲を出したくないサラトガ。

2人の意見がぶつかり、戦闘中にも関わらず口論へと発展する。

ヒートアップしていく2人の会話に口を挟める者は、士官を含めその場には居なかった。

 

「サラ!いい加減聞き分けなさい!」

 

「く・・・私に旗艦を移譲したというなら、そんな作戦は認めません!」

 

『そうね。そんな作戦はいらないわ。』

 

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第28話です。

いかがでしたでしょうか。

あまり長くすると読むのが大変と思ったので、今回も短めで刻むことにします。
はい、言い訳です(*_*)

実はちょっと展開をどうしようか行き詰まって筆がとまっておりました。
でも、ある程度展開が固まったので、次の話はそう更新遅くならないかもです。

筆が進まないときは間話のネタとか考えています。
そちらの方が先に仕上がれば、続きではなく間話が投稿されるかもしれないです。
その時は、また行き詰まったんやなぁと思ってくださいませ。

さて、艦これ最後の秋イベが近づいていますね。
秋冬で前後編に分けてレイテ海戦だそうなので、楽しみです。
提督の皆様、資源の備蓄は十分か・・・?

それでは、また次回もおたのしみに。

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