艦これif ~隻眼の鬼神~   作:にゃるし~

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敵艦隊に発見された霧島たち。
捜索のため分散していた足柄たちは、迎撃のため合流を急いでいた。


第26話「海の彼方から・2」

ーーーーー沖ノ島海域・17:16(ヒトナナヒトロク)ーーーーー

 

 

 

波を掻き分けて進んでいると、頬を撫でる潮風が髪を乱していく。

先頭を進む足柄が髪を軽く押さえながら、顔を振り向かせて後続に問いかける。

 

「二人ともちゃんと付いてきてる?」

 

振り向いた先に、二人の仲間の姿が見えた。

 

「当たり前よ。」

 

強気の口調で返したのは、綾波型駆逐艦の8番艦 曙。

その性格を表すようなツリ目と、膝まで届く長い髪を花飾りのヘアゴムで右耳の後ろ辺りで束ねているのが特徴だ。

 

「な、なんとか・・・。」

 

自信の無さげな口調で答えたのは、同じく綾波型駆逐艦の10番艦 潮。

こちらは弱気な性格を表してか、縮こまるように背中を丸めていて、くりっとした目も不安そうな色をしている。

 

「大丈夫そうね、もう少し速度を上げるわよ!しっかり付いてきなさい!」

 

二人の様子を確認した足柄が速度を上げた。

それに曙と潮が追従する。

曙は難なく速度を合わせて足柄の後方にぴったりと付いていく。

だが潮の方は手間取っているようで、ふらふらと酔っぱらい運転のようになっている。

 

「ひゃあああ!?は、はやいぃ!?」

 

「・・・・・・・・・はぁ。」

 

放っておくといずれ波に躓いて転びそうな様子を見て、曙がため息をついた。

 

「・・・潮。」

 

「ふぇ?」

 

名前を呼ばれて潮が顔を上げると、前を行く曙がこちらを向いていた。

曙は器用にも進行方向に背を向けて、後ろ向きに航行している。

 

「ど、どうしたの曙ちゃひゃわっ!?」

 

その姿に一瞬見とれた為に、波に足を取られて躓いた。

慌てて腕をバタバタと振り回してバランスを取ろうとするも、体は前のめりに倒れていく。

 

(こ、転んじゃう!)

 

迫る海面を見て、反射的にぎゅっと目を瞑る。

しかし、潮が海面に顔を打ち付けることはなかった。

 

「何やってるのよ、まったく。」

 

「あ、あれ?」

 

目を開けると、潮はいつの間にか曙に抱き止められていた。

 

「曙ちゃん、ありがひゃぁ!?」

 

お礼を言おうとした所で、おでこに軽い衝撃を受ける。

曙にデコピンされたのだ。

涙目になって抗議の視線を向けるが、ふん、と鼻を鳴らされて一蹴されてしまった。

 

「言いたいことは有るけど、潮、まずは深呼吸して少し落ち着きなさい。」

 

「う、うん。・・・・・・すぅー・・・・・・はぁー・・・・・・。」

 

潮は素直に、言われた通り深呼吸をする。

深く息を吸って、ゆっくり吐き出す。

何度かそうしていると次第に落ち着いてきたようだ。

 

「・・・・・・落ち着いた?」

 

「うん・・・ありひゃああ!?」

 

またしても、お礼を言いかけたところでデコピンされた。

 

「もぅ~!何するの!」

 

両手をぶんぶんと振り回して抗議の声をあげる潮。

 

「言い返す元気があるなら、もう大丈夫よね。」

 

曙はぶっきらぼうにそう言うと、潮に背を向けて前を進んでいく。

 

(曙ちゃん、怒ってるのかな・・・私が鈍くさいから・・・。)

 

「・・・・・・潮。」

 

しょんぼりして俯いていると再び名前を呼ばれた。

今度はデコピンを警戒しながら、潮が恐る恐る顔を上げる。

しかし、曙は潮に背を向けたままで、デコピンをする気配もなかった。

 

「潮はやれば出来る子なんだから、もっと自信を持ちなさい。」

 

「ふぇっ!?」

 

怒っているのだと思っていた曙からそんな言葉を投げ掛けられ、潮は少し戸惑った。

それに気づいているのか、いないのか、曙は言葉を続ける。

 

「落ち着いて、訓練を思い出してやればいいのよ。七駆の中で一番成績いいじゃない。」

 

「・・・・・・。」

 

曙の紡ぐ言葉を、潮は黙って聞いていた。

戸惑って声がうまく出なかったというのもあるが、曙からこんな事を言われるとは思ってもみなかったからだ。

 

「それに、今はあたし達がついてるんだから。不安なら頼りなさい。」

 

「ふーん?曙にしては素直じゃない。」

 

そこまで言ったところで、今まで黙って聞いていた足柄が二人の会話に割って入ってきた。

 

「な、何よ。文句あるわけ?」

 

思わぬ乱入者の登場に一瞬驚く。

そのため、つい強気の口調で返してしまった。

 

「全然。むしろ良いことだと思うわよ?でも、一体誰のお陰なのかしらね?」

 

だが、足柄は気にした様子もなく意地悪な笑みを浮かべて曙を見ている。

 

「べっ、別にクソ提督は関係ないでしょ!」

 

「誰も提督とは言っていないと思うんだけど~?」

 

曙がムキになって噛みつく。

しかし、無意識の失言を指摘されて頬がみるみる内に紅くなっていった。

 

「ととととにかく!潮はもっと自信をもつこと!いいわね!」

 

恥ずかしくなった曙はそっぽを向いて早口に捲し立てる。

 

「うん・・・曙ちゃん、頼りにしてるね。」

 

曙の不器用なりの素直な励ましに、潮は笑顔で返した。

 

「あら潮ちゃん、私には頼ってくれないのかしら?」

 

「あ、足柄さんも頼りにしてます!!」

 

よよよ、と涙を拭うそぶりをして見せる足柄。

それを見た潮は、両手を慌ただしく動かして焦った様子で答えるのだった。

 

「ふふっありがと♪私も二人のこと頼りにしてるわ。」

 

「はい!」

 

「ふんっ///」

 

足柄のウインクに潮は元気に、曙は未だ残る恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いたまま答えた。

曙はそのまま何気なく、遠くに浮かぶ入道雲を眺めていた。

 

「ん・・・?あれって・・・。」

 

 

 

ーーーーー沖ノ島海域 小島群・17:22(ヒトナナフタフタ)ーーーーー

 

 

 

この海域には小島がいくつも密集している箇所がある。

その小島の1つにある洞窟に、輸送船と護衛の艦娘が隠れていた。

 

「怪我の具合はどう?」

 

「これくらい・・・痛っ!?」

 

「無理しないで・・・。」

 

二人の艦娘が会話していると、輸送船の上から声を掛けられる。

 

「救助部隊はどうなっているのだ。偵察機からは何か連絡はあったのか?」

 

声の主である士官は明らかに苛ついており、言葉にも怒気を孕んでいた。

 

「いえ・・・数十分前に、遠方に味方の物と思われる機影を視認し、確認の為に接近するという旨の通信を最後に連絡が途絶えました・・・。恐らくは通信圏内から外に出たのかと。」

 

艦娘の一人が申し訳なさそうに告げると、士官は積み荷のコンテナの1つを蹴りつけた。

 

「偵察も満足にできんとは!まったく使えん連中だ!!お陰で3日もここに足止めだ!!」

 

「大佐、どうか静かになさってください。もし潜水艦が近くに居れば気付かれてしまいます。」

 

艦娘が士官を宥めるが、頭に血の上っている相手には逆効果だったのか、顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。

 

「ええい五月蝿い!!味方機だったのかも知れんのだろう?いや、味方機に違いない!直ぐにでもここを出て救助部隊に発見して貰いやすくするべきだ!違うか!?」

 

「ですが艦隊の損耗も激しく、次に襲撃された時に守りきれる保証が「黙れっ!!」

 

洞窟内に響く程の声で怒鳴られ、艦娘は一瞬体を跳ねさせて言葉を詰まらせてしまった。

それを隙とみたのか、士官はさらに大声で怒鳴り散らす。

 

「電探も通信機も壊れて!精々、近距離無線が限界と聞いた時にも失望したが!」

 

「何故海を横断する程度のことができんのだ!」

 

「沈んでいった艦娘共も!もう少しは盾として使えるかと思ったが、役立たず共め!!」

 

「ーーーッ!!それは!!」

 

沈んでいった仲間たちを愚弄する言葉に、艦娘が反論しようとする。

しかし、横から出された手によって制止されてしまった。

 

「二人とも落ち着いて。」

 

怒鳴り合いに発展しかねなかった状況に割って入ったのは、先程怪我の具合を看て貰っていた艦娘だ。

まだ何かを言いたそうにしている士官も手で制止し、傷ついた艦娘は話し始めた。

 

「敵に発見されるリスクがあるし、何時までもここには居られない。」

 

「だから、味方の救援が来ている可能性があるならそれに賭ける価値はある。」

 

「このチャンスを逃せばどうなるかわからない・・・ということを大佐は仰っているのよ。」

 

最後に「そうよね?」と言って輸送船の上から見下ろす士官に笑顔を向ける。

士官は一瞬言葉に詰まったようだった。

 

「私も大佐と同意見だし、外の様子を見てくるから出発の準備進めておいてね。」

 

沈黙を肯定と受け取り、傷ついた艦娘は洞窟の外へ出ていこうとする。

すれ違い様、艦娘にだけ聞こえるように「私がついてるから大丈夫よ。」と言い残していった。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

傷ついた艦娘が出ていった後に残されたのは、静寂。

そして、気まずそうに軍帽をかぶり直す士官と、悔しそうに下唇を噛み締める艦娘だった。

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・大佐。」

 

しばしの沈黙を破ったのは艦娘だった。

 

「・・・今からでも考え直して頂けませんか。彼女は大破しているんですよ。」

 

「もう決まった事だろう。お前も早く準備を始めろ。」

 

「でも!このままじゃ彼女も轟沈していしまいます!」

 

「くどい!!」

 

士官の怒声で再び沈黙が訪れる。

艦娘を忌々しそうに一瞥すると、士官は舌打ちをした。

 

「・・・お前じゃなく、アイツのように聞き分けのいい姉の方が残っていればよかったのにな!!」

 

最後にそう吐き捨てて、士官は輸送船の中へと入っていく。

艦娘はそれを聞いて表情を暗くして俯いた。

 

「レックスが沈んだのは、貴方のせいじゃない・・・。」

 

両目から涙を溢しながらぽつりと言ったその言葉は、輸送船の機関が始動する音にかき消され、届くことはなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第26話です。

いかがでしたでしょうか。

早く合流しないといけないのに、のほほんと会話してていいのか・・・。
イインダヨ、グリーンダヨー!

はい、ということで足柄、曙、潮サイドのお話でした。
曙はツンツンしているように見えて、優しい娘なんですよね。
捻くねてる所はあるけど、ただ不器用なだけだと思うんです。
ぼのたん可愛い、好きです。

同盟国船団ということで、予想はついているかと思いますが。
艦娘は海外艦の娘たちです。
次回くらいに正体をちゃんと明かせたらと思っています。
一応、本編中にヒントだけ入れておきました。
鋭い方はもう分かってるかもですね。

さて、三人は霧島たちといつ合流できるのでしょうか。
そして曙が見つけた物とは・・・。
船団の判断は吉と出るか凶と出るか・・・。



長くなりましたが、今後もゆったりと更新していくので、よろしくお願いします。
それでは、次回をお楽しみに。

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