季節はすっかり夏になり、蒸し暑い日が続いていた。
ーーーーー鎮守府・
静かな執務室に、キーボードを叩くカタカタという音が響いている。
パソコンの画面に写し出された書類には、次々と文字が打ち込まれていく。
暫くしてキーボードを打つ手が止まった。
「ふぃー・・・こいつはこれで終わりっとな。」
ため息を吐き出し、のけ反るようにして椅子の背もたれに男が体を預ける。
目が疲れたのか両目を瞑って片手で目頭を押さえている。
「お疲れさまです、提督。少し休憩にしましょう。お茶、入れますね。」
「ん、おお。すまん霧島、頼むわ。」
男の名は比良。この鎮守府の提督である。
そして比良を労ってお茶を入れているのが、彼の秘書官である霧島だ。
先日の大本営への出張以降、霧島との距離が物理的に近くなっているのは、気のせいではないだろう。
(たらしは安住の専売特許だってのになぁ・・・俺は何をやってるんだか。)
頭をボリボリとかいて自己嫌悪に陥っていると、机に湯呑みが置かれる。
顔をあげると、いつのまにかニコニコした霧島が戻ってきていた。
「お茶が入りましたよ。」
「おう、ありがとう。いただくとするか。」
湯呑みを手に取り、口に近づけたところで止まる。
「おお・・・茶柱が・・・。」
「ふふっ。良いことがあるかもしれませんね。」
「新しく配属になる艦娘が、美人さんだったりしてな。がはは!」
人によっては、意図的に茶柱を立てることができるらしいが、果たして霧島はどうなのか。
気になった比良だが、聞くのはやめておいた。
「提督は夏だというのに熱いお茶がお好きなんですね。」
湯飲みに口をつけ、緑茶の味を堪能しているとふいにそんなことを聞かれた。
「ん?まあな。冷えた麦茶もいいんだが、やはり茶は熱い物の方が気合いが入る気がして好きなんだ。」
「なんですか、それ・・・うふふ。」
二人で他愛ない会話をしていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
誰なのか確認するため、霧島が口を開こうとするのと同時に扉が勢いよく開いた。
「てーとくー!お手紙だっぴょーーん!!」
扉の向こうから現れたのは、睦月型駆逐艦の4番艦 卯月だった。
「卯月ちゃん!ちゃんと許可を貰ってから入室しなさいって言ってるでしょう!!」
「ぷっぷくぷぅ~☆ちゃんとノックはしたぴょーん♪」
霧島から注意されるが卯月は気にした様子もなく、てとてとと可愛らしく走って比良の膝の上にダイブした。
飛び付かれた比良は椅子から転げ落ちそうになりつつも、卯月をしっかりと受け止める。
「うおぅっととと!こらこら卯月、危ないじゃあないか。」
「すんすん。提督の匂いは安心するぴょん~♪」
飛び付かれるのにも慣れてしまった比良も注意するが、やはり卯月は気にしていないらしい。
比良の胸板に抱きつき、顔を擦り付けて匂いまで嗅いでいる。
その頭にお盆がぽん、と軽く置かれた。
「ぴょん!?・・・霧島さん何するぴょん!」
「まったく・・・いつも元気一杯なのが卯月ちゃんの良い所だから、私はこれで許しますけど・・・少佐がいたらこれじゃ済まないわよ?」
それを聞いた卯月の表情が固まる。
以前、クーラーを壊して安住に怒られた時を思い出したのか、顔が青ざめていく。
「うゅ・・・しれーかんは起こると怖いぴょん・・・。顔は笑ってても目が笑ってなかったぴょん・・・・・・。」
しゅんとして俯いてしまった卯月の頭を、大きな手が優しく撫でる。
顔を上げると苦笑した比良の顔が目に入った。
「あいつの顔が笑ってる内は対して怒っちゃいねえさ。ちょいと不器用なだけだ。」
「・・・・・・本当?」
「本当だとも。ちゃんと謝ったら許して貰えただろう?」
「・・・うん。次からは気を付けなさいって、頭撫でてくれたぴょん!」
涙目だった卯月の表情にいつもの明るさが戻ってくる。
「なんだか今日の提督は一段とステキだっぴょん~♪すりすり~♪」
「あっはっは!こら卯月、くすぐったいぞ!」
「ぷっぷくぷぅ~♪」
元気を取り戻した卯月とじゃれ合っていると、霧島が何かを思い出したように卯月に問いかける。
「そういえば卯月ちゃん。提督に何か用があったのではないかしら?」
「あっ!そうだったぴょん!!うびゃ!?」
「おごぅ!?」
勢いよく頭をあげた為、卯月の頭は比良の顎を下から突き上げる形で衝突した。
二人はぶつけた箇所を押さえながらぷるぷると震えている。
「こ、これを急いで提督に持っていくように、士官さんから預かってたぴょん・・・。」
「霧島・・・すまんが代わりに読んでくれ・・・うぐごご・・・。」
卯月から手紙を受け取り、内容を見た霧島の表情が険しくなる。
「提督・・・これは指令書のようです。」
「指令書?」
やっと顎に受けたダメージから回復した比良が、霧島から差し出された指令書を受けとる。
指令書に目を落としたその表情もまた、険しいものとなった。
「どんな指令だったぴょん?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
声が聞こえていないのか、二人は黙ったままだった。
首を傾げる卯月の頭に比良の大きな手が置かれ、撫でられる。
「うゅ・・・?」
暫くそのまま撫でられ続けていると、比良が静かに口を開いた。
「緊急作戦会議を行う。霧島、至急艦娘全員を会議室に集めてくれ。卯月も手伝ってくれるか?」
「了解しました。」
「了解だぴょん!」
霧島はビシッと、卯月はびしっと。
それぞれ敬礼して作戦会議の準備に取りかかった。
執務室を慌ただしく出ていく後ろ姿を見送りながら、もう一度、指令書を見る。
そこには、こう書かれていた。
『我が国へ向かっていた同盟国船団が消息を断った。艦隊を派遣し、此の捜索及び救助を敢行されたし。』
ーーーーーーーーーーつづく
第24話です。
いかがでしたでしょうか。
艦これ夏イベに集中していたので、執筆止まっていました。
この作品を読んで頂いている方々には申し訳ありませんでした。m(__)m
夏イベも終わったので、ちょこちょこ執筆を再開していきます。
日常の話をもう少し書こうかと思ったんですが、ちょっと話を進めないと書きづらかったので時間を進めていきます。
うーちゃん、可愛いですよね!
でも、うちの艦隊にはまだ来てくれないです・・・。
早く来てほしいです・・・。
同盟国船団ですが・・・海外艦娘が出てくる予感・・・?
出てくるかもしれないし、出てこないかもしれない。
この先の展開を楽しみにしていてくださいませ。
え?夏イベの戦果はどうだったかって?
初めての大規模作戦でしたが、新規艦娘を4人保護しました!
リシュリューさん、加入早々攻略に参加させてしまって、正直すまんかった・・・。
でもそのお陰でE7までいけました・・・本当にありがとう。
ただ・・・夏イベ最終日前日に、スマホが粉砕する事故にみまわれ、E7丙のラスダンで断念しました。(;_;)
アークロイヤルさんをお迎えしたかった・・・。
皆様の戦果はいかがでしたでしょうか?
よい結果であったなら、自分のことのように嬉しいです。
さて、これからもちょこちょこ書いていきますので、今後ともよろしくお願いします。
では、また次回をお楽しみに。