その幾つもの建物の一室、灯りのついたそこには2つの影があったーーー。
ーーーーー鎮守府・
「ーーー以上が、各艦隊からの報告の概要です。続いて急遽投入した試製艤装の件ですが・・・。」
中年の男が、夜空を見ながら部下からの報告に耳を傾けている。
窓から入り込んだ夜風が頬を撫で、口の端でくわえた煙草の先から漂う煙を拐っていく。
「乙型ニ式は中破していますが修復可能。また、乙型一式が大破。殆どの残骸は回収できましたが、修復はほぼ不可能につき、新たに建造する必要があります。回収したブラックボックスを解析した明石と夕張の話では、今後の正式採用および実戦投入を視野に入れるなら、最低限の改良として出力リミッターの搭載と装甲の強化が必須とのことです。詳しくは報告書をご覧ください。」
「・・・・・・・・・・・・。」
頼りなさげな若い男が上官への報告を終え、資料から目を離して顔をあげる。
彼の上官は報告を始めた時と同じく、窓の外を眺めているようだった。
「・・・・・・・・・比良提督?」
「ん?ああ、すまん。報告ありがとう、安住少佐。」
安住に呼び掛けられて、はっとして比良が振り向く。
考え事でもしていたのだろうか。
「煙草、短くなってますよ。」
そう言うと安住は比良に近づき、灰皿に手を伸ばす。
窓際に置かれていたそれを差し出すと「あちち。」と言いながら、かなり短くなっていた煙草の火を灰皿に擦り付けて消す。
「・・・・・・煙草を吸うなんて、随分久しぶりですね。」
真新しい灰皿に捨てられた数本の煙草を見ながら安住が比良の横へ並ぶ。
「・・・・・・。」
灰皿が再び窓辺に置かれたのを確認すると、比良が無言で煙草の入った小箱を差し出す。
安住は一言「戴きます。」と言って箱から飛び出していた1本の煙草を抜き取る。
そして、比良が差し出したライターの火へ口にくわえたそれを近づけた。
かすかにジリジリという音がし、やがて煙草の先から煙が出始める。
「・・・・・・・・・ふぅー・・・。」
煙を軽く吸い込むと、指で挟んだ煙草を口から離し、目の前の夜空へ向けて吐き出す。
ふわりと広がったそれは、流れゆく薄雲がそうしたように、刃物のような月を覆い隠した。
「・・・・・・・・・・・・。」
隣をちらりと見る。
箱から新しい煙草を抜き取った比良が、火を着けているのが目に入る。
カキン、というライターの蓋が閉じる音を聞きながら、比良が煙を吐き出すのを待つ。
「・・・ふぅー・・・・・・。」
目を閉じた比良が煙をたっぷり吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
こうして比良が煙草を吸う時は、決まって『何か』があったときだ。
安住も煙草は吸わないが、こういう時だけは付き合うことにしている。
そのためだけに、煙草を吸う練習をしたのはいい思い出だ。
煙草を吸う要因となる『何か』は、その時によって悩み、不安、苛立ち、怒りなど正体は違う。
だが、今回ばかりは大体察することができている。
「・・・・・・先日の遠征艦隊への襲撃の件、ですか。」
「・・・・・・・・・・・・ああ。」
顔を向けて口を開いた安住と視線を合わせず、比良は先ほどのように夜空を眺め続けている。
そんな比良の態度を全く気にせず、安住が再び口を開く。
「あれからもう3日ですか・・・・・・。」
「・・・・・・そう、だな。」
天龍率いる遠征艦隊が深海棲艦による奇襲を受けた事件からすでに3日が経過していた。
結果から言えば、救援はギリギリ間に合った。
到着した総勢4艦隊からなる救援部隊の介入により、未知の敵は残存していた敵艦隊と共に撤退。
第5艦隊は暁と島風を除いて全員が大破し、鎮守府へ帰還すると直ぐに、救護棟のICUへ搬送された。
雷と電はその日の内に意識を取り戻し、現在は病室へ移されて怪我の治療を受けている。
天龍も昨日の昼過ぎに目を覚ましているが、現在もICUからでられていない。
龍田も長く意識不明の状態だったが、夕方に一度意識を取り戻している。。
「・・・まだ、目を覚まさないのか。」
比良が言っている意味が安住には分かっていた。
安住の表情が曇り、苦い顔で視線を下に落とす。
「・・・・・・・・・・・・ええ。・・・叢雲さんは今も・・・・・・。」
未知の敵から至近距離で砲撃を受けたらしい叢雲は、轟沈寸前の状態で運ばれてきた。
それは重傷という表現が不相応に思えるほどの、そうと言われなければ生きていると分からないような悲惨な有り様だった。
身体の至る所に打撲痕や火傷があり、裂傷による出血で全身血塗れの状態、右腕は酷い火傷を負っていた。
左足は脛の辺りからおかしな方向に折れ曲がっていて骨が飛び出し、左腕も肘から手首までの間が潰れた状態。
一番酷かったのは、腹部からの出血だ。
戦艦級の砲弾が貫通したそこからは鮮血が止まることなく流れ続け、海上に赤い帯を作り出していた。
「とても・・・・・・生きているとは、思えない状態でしたからね・・・。」
「もし・・・響が無茶をしてでも助けていなかったら・・・。」
そこまで口にして、二人の背筋に寒気が走る。
救援が到着して直ぐに、響は全速力で叢雲の救出に向かっていた。
腹部への零距離砲撃で意識を失った叢雲に敵がトドメの砲撃を放つ瞬間、猛スピードで急接近した響が、敵に拘束されていた叢雲を奪いさったのだ。
しかし砲撃を完全に回避することは叶わず、砲撃が掠めたブースター右舷の盾がアームごと吹き飛ぶ程の被害を受けた。
だが、盾で砲撃を逸らすことには成功したため、救援艦隊の援護砲撃を受けつつ、自身もミサイルや魚雷で牽制し、最後はブースターの速度を活かしてその場から離脱することに成功したのだった。
「・・・あと少しでも遅かったら・・・・・・。」
「・・・・・・あの場で轟沈していただろうな・・・。」
叢雲は現在もICUで集中治療を受けており、生死の境をさ迷い続けている。
幾度も心停止になりかけるも、精鋭揃いである人と妖精の医療チームの懸命な処置によって、なんとか命を繋ぎ止めている状態だ。
艦娘の身体は人間のそれと何も変わらない。
そのため、人間の医療が通用するのだ。
人間と違う点を挙げるとすれば、艦娘は妖精の力による治療も受けられる所だろう。
妖精の不思議な力によって、人間の医療では到底不可能な怪我であっても治療ができる。
人間と妖精の力を合わせた治療で、叢雲はギリギリの所で踏みとどまっているのだ。
「くそ・・・情けない。普段偉そうなことを言ってあいつらを戦場に送り出すくせに、俺は安全な場所から見ているだけだ・・・。」
握りこぶしを震わせて苦しそうに言う比良。
「・・・・・・だからこそ、私が彼女たちと共に戦場へ行くんです。提督の想いも背負って。それに・・・。」
宥めるように紡いでいた言葉を一旦そこで切り、一度深呼吸してから続けた。
「きっと皆分かっていますよ。だから、誰も不満なんて言わない。自分に今出来ることを精一杯やればいいんですよ。・・・誰かさんがいつか言ったみたいにね。」
「・・・・・・・・・・・・言うようになったじゃないか。」
「それはどうも。誉め言葉として受け取っておきますね。」
口の端に笑みを浮かべる安住。
釣られて比良も笑みを浮かべた。
この二人は軽口を叩きあうくらいが丁度いいのだ。
緩んだ頬を真剣なものに直し、月を見上げた比良が呟く。
「とにかく、早く容態が安定して目を覚ましてほしいもんだな・・・。」
「そうですね・・・。」
それで会話が途切れた二人は再び煙草を吸い始め、今度は月に向けて煙を吐き出していく。
夜空に開いた切り口のように輝く月が、彼らの大切な仲間を拐っていけないよう、邪魔するように。
そのまま暫く無言で煙を吐き出していた二人。
どれほどの時間が過ぎただろうか、灰皿に3本目の煙草をすり付けた安住が思い出したように話す。
「そういえば、あの新種の深海棲艦。大本営は『戦艦 タ級』と呼称することにしたようです。」
「味方を喰って進化する、だったか・・・。戦闘映像を観て、俺たちはとんでもないものを相手にしているんだと、改めて思ったよ。」
苦い顔をした比良がくわえた煙草を噛み締める。
それが悔しさからくるものか、怒りからくるものか、本人にしかわからない。
「明日は大本営へ行って、
「そのはずです。あんな規格外の敵が現れたんです。大本営も焦っているんでしょうか・・・。」
「わからん。が、何を対策するっていうんだか・・・。まだ敵の情報もほとんどないってのに。・・・・・・留守の間のことは任せるぞ。」
「はい。戻ってこられる頃には、目を覚ましていますよ。きっと。」
比良がいつもの調子を取り戻してきているのを見て、安住が腕時計をちらりと確認する。
そしてまだ少し残っていた煙草を一気に吸い終えると、灰皿に煙草を擦り付けた。
「では、私はそろそろ行きます。提督はそろそろお休みになってくださいね。」
「おう。あと1本吸ったら寝るさ。」
部屋を出ていく安住に、後ろ手に手を振りながら、口にくわえた最後の煙草に火を着ける。
扉が閉まり執務室に一人残された比良は、遠ざかっていく足音を聞きながら、煙を吐き出して呟いた。
「提督『は』、ねぇ・・・。お前こそ、ちっとは休んどけよ・・・。」
ーーーーー鎮守府・
鎮守府では、自炊をしたい者たちの為に調理室がある。
その扉の隙間から、廊下へ灯りが漏れていた。
「・・・・・・。」
調理室の前を通りかかった人影が扉をそっと開ける。
そこには、調理台でせっせと何かを作っている鳳翔の姿があった。
「何をなさっているんですか?」
「ひゃっ!?」
声を掛けられた鳳翔が驚いて思わず飛び上がる。
後ろを振り返ると、安住が調理室へ入ってくる所だった。
「もう、驚いたじゃないですか!」
「あはは。すみません。」
頬を膨らませて抗議の声をあげる鳳翔。
対して安住は悪びれた様子もなく笑っている。
「これは、夜食ですか?」
「はい。響ちゃんたちにもっていこうかと。ついでに交代で夜警に出る皆にも軽食をと思って。」
調理台の上にはおにぎりや玉子焼きが入った弁当箱がいくつも並んでいた。
まだ中身の詰められていない物もあるようだ。
「私も手伝いますよ。鳳翔さん、何をすればいいですか?」
「ええっ!?そんな、安住少佐に手伝っていただくわけには!」
軍服の袖を捲り、調理を手伝うべく手を洗う安住に、鳳翔は両手を振り慌てた様子で断ろうとする。
「遠慮しないでください。これでも料理が趣味なんですよ。あと、二人きりの時は『少佐』は無しですよ?鳳翔さん。」
「あう・・・。でも、安住さんも、もう数日間ほとんど寝ておられないのでしょう?お疲れでしょうし、私の手伝いはいいですから早くお休みになってください。」
鳳翔は心配そうに安住へ休むように言う。
安住も比良も、ここ数日殆ど眠っていないのだ。
大本営への新種の報告や事務処理、警備体制の見直し等、仕事に追われていたのはたしかだ。
しかし、二人が睡眠時間を削ってでも仕事を片付けて、時間の許す限り重傷を負った艦娘たちの様子を見に行っていることを、鳳翔はもちろん鎮守府の全員が知っている。
だからこそ、少しでも休んで貰うために手伝って貰うわけにはいかないのだ。
いかないのだが・・・。
「・・・ご迷惑なら、そう言って頂ければやめますが・・・・・・。」
しゅんとして悲しそうな顔でそんなことを言われてしまうと、鳳翔は断れない。
(そんな捨てられた子犬の様な顔で見ないでくださいー!///)
鳳翔は両手で頬を覆って、赤くなってしまっているだろう顔を隠す。
ただでさえ安住の前では心臓の鼓動が聞こえやしないかと思うほどドキドキしているのだ。
普段は中々見ることが出来ない表情に、鳳翔の胸はいつも以上に激しく高鳴っている。
なんとか顔が赤くなっているのは見られずに済んだ。
後は緊張が態度や、声色に出ないようにすれば完璧だ。
「・・・わかりました。では、玉子焼きを作ってくださいますか?私は他のおかずを作りますから。」
「はい。お任せあれ!」
観念したように手伝いをお願いする。
それを安住はニコッと笑って快諾した。
なんとか、この察しのいい人に内心の緊張はバレなかったようだ。
「~♪~~♪」
鼻唄を歌いながら玉子焼きを焼いていく安住。
料理が趣味というほどあり、慣れた手つきで丸めていく。
楽しそうに作る姿を見ると本当に料理が好きなんだというのが伝わってくる。
その姿に思わず頬が緩む。
(本当に楽しそう・・・。こうして並んで料理をしていると、まるで・・・。)
「夫婦みたいですね。」
「えっ!?」
「え?」
鳳翔が驚いて隣を見ると、安住も驚いたように顔を向けた。
お互いに目を丸くして見つめ合う形になる。
「え、あの・・・今、なんて?///」
顔を真っ赤にした鳳翔が口をぱくぱくとさせながらなんとか言葉を紡ぐ。
その様子を見て安住は自分が何かしでかしたことに気づく。
「あの、ええと、もしかして・・・声漏れてましたか?」
「は、はい///」
「いやぁ・・・あ、あははは・・・///」
安住も顔を赤くして、ぽりぽりと頬をかいた。
時々、心の声が漏れてしまうのは安住の悪い癖だ。
「えーと、玉子焼きが焼けたので、味見してみてください。」
恥ずかしさをまぎらわすように安住がお皿に載った出来立ての玉子焼きを差し出す。
その玉子焼きは肉厚でほかほかと美味しそうな湯気を出している。
「じ、じゃあ、1ついただきますね。」
「どうぞ、召し上がれ。」
鳳翔も気をまぎらわすいい機会を得たと思って、玉子焼きをひと切れ箸でつまみ、口へ運ぶ。
「はむ・・・。」
肉厚の玉子焼きは噛むと抵抗も少なくふわりと歯を受け入れる。
1回、2回と噛み締めると出汁の香りが口の中一杯に広がり、中心部の少しとろけた玉子が溢れ出す。
「はふはふ・・・・・・美味しい!安住さん、とても美味しいです!」
「お口に合ったようでよかったです。さ、お弁当箱に詰めましょうか。」
「そうしましょう♪」
こうして二人のお弁当作りは続いていった。
ーーーーー鎮守府・
叢雲たちが24時間体制で看護を受けているICU。
月も西へ傾き始めた頃、ICUの前にある待合室に、吹雪、初雪、響の姿があった。
待ち合い室にはICU内が見える窓がついており、窓越しでの面会も可能となっている。
叢雲たちがICUへと運ばれてからというもの、吹雪と初雪はずっと待合室に寝泊まりしていた。
今は備え付けられている宿泊用の簡易ベッドで姉妹仲良く眠っている。
「すぅ・・・・・・すぅ・・・。」
「・・・あいす・・・・・・むにゃむにゃ。」
吹雪も初雪も可愛らしい寝息をたてている。
妹の叢雲が心配で中々眠れない状態が続いていたが、さすがに疲れたのか、眠ってしまったようだ。
かすかに廊下から足音が聞こえ、その足音が入り口の前で止まる。
すると扉が静かに開き、誰かが入ってくる。
その気配を感じて、ソファで眠っていた響が目を開けた。
「あ、起こしちゃったかな?」
「ん・・・・・・川内さん?」
響が目を擦りながらソファから上半身を起こす。
その拍子に、身体にかけられていたブランケットが床に落ちた。
「ふわぁ・・・眠ってしまっていたみたいだ・・・今何時だい?」
「ん~、
静かに待合室へ入ってきた川内が、床に落ちたブランケットを拾って響へ手渡す。
それを受け取りながら、響がソファから立ち上がる。
「
「うん。もう引き継いできたところだよ。」
「いつも夜警ありがとう、お疲れさま。」
「ん、別にお礼なんていいよ。私にできるのはこれくらいだからさ。」
いつもなら夜警が終わると「朝だ~・・・ねむぅい・・・。」と言ってさっさと汗を流して昼まで眠っている川内。
だが、今回の事件があってからというもの、吹雪たちの替わりに毎日夜警に参加しては、寝る前にここへ立ち寄っている。
「響こそ、あんまり無理しちゃだめだよ。」
「・・・うん。川内さんもね。」
響も、暫定で持ち回りとなっている哨戒任務が無いときは殆ど待合室へ来ている。
第1艦隊での相棒のことが心配で気が気じゃないと、昨日理由を聞いたときに恥ずかしげも無く言っていた。
「それで・・・・・・どう?叢雲たちの容態は。」
窓から見えるICUの中、沢山の医療機器に繋がれた叢雲が寝かされているベッドを眺めながら川内が問う。
「龍田さんは夕方に意識を取り戻したけど、それからずっと眠ってるよ。」
「そっか。龍田さん意識戻ったんだね。・・・よかった。」
龍田の無事を確認し、安堵する川内。
しかし、響の表情は曇ってしまう。
「でも叢雲はまだ・・・・・・。」
「・・・・・・大丈夫、叢雲はきっと助かるよ。」
響の頭を優しく撫でながら、川内が続ける。
「こんなに手のかかる相棒を残して、先に逝くなんてできる奴じゃないよ。」
そう言ってニコッと笑う川内に、響はジト目を向けるのだった。
「それ、慰めているつもりなのかい・・・?」
「さあね~♪・・・・・・ん、誰かくるね。」
ケラケラと笑っていた川内が突然真剣な表情になり、待ち合い室の入り口に目を向ける。
「・・・・・・何か聞こえるのかい?私には何も聞こえないけど・・・。」
「足音が二人分、近づいてくるね。廊下の角を曲がった・・・あと20秒でここにくる。」
川内は艦娘の中でも異様に耳が良い。
その聴力で先日の襲撃事件の折、救援要請が入る前に敵の存在に気づいている。
また、夜戦が得意というだけあって夜間視力も非常に良く、数キロ先で跳ねた魚の姿すらくっきりと見えるという。
「ん・・・・・・ああ。誰かわかった。」
「え?足音でわかったのかい!?」
「まあね。ほら、到着のようだよ。」
その言葉の直後に待合室の扉がゆっくりと開いていく。
扉の外にいた二人を、川内は背を向けたまま迎えた。
「こんな時間にどうしたのさ。安住少佐に、鳳翔さん。」
川内の後ろには、何かの入った包みを持った安住と鳳翔が立っていた。
「相変わらず、いい耳をしていますね。」
「川内さん、響ちゃん。こんばんは。」
「ふふっ。誉めても何もでないよー?」
振り返ってウインクしてみせた川内は、唇に人差し指を当てて静かにするように促す。
一瞬何のことか分からず、安住たちが首を傾げる。
「吹雪たちが寝ているんだ。だから、あまり騒がしくしない方がいい。」
そこへ、カーテンで仕切られたベッドの方を指差しながら響が補足した。
響の指差す先を見た安住がなるほどといった様子で頷く。
「たしかに、少し声量を押さえた方がよさそうですね。」
「とりあえず、座りましょうか。」
鳳翔が皆にソファの方へ座るように促し、それに従って部屋の中央に置かれたソファへと各々腰をおろす。
待合室の中央には背の低い長机がICU内が見える窓に対して垂直になるように置かれており、それを挟む形で長いソファが2つ対面で置かれている。
「んっ・・・このソファの座り心地はすごいね~。油断すると眠っちゃいそうだよ。」
「たしかに・・・実に
ソファへ深く腰かけた川内が、気持ち良さそうに伸びをしている。
ふかふかと柔らかい感触が身体を包み込むように受け止めてくれるこのソファは、座る者を眠りの世界へ誘う。
その魔力のせいで、響は先ほどまで眠っていたのだ。
「川内さんは夜警帰りだから余計に眠くなるのかもしれませんね。いつも夜警の旗艦、ご苦労様です。」
安住が対面に座った川内へ頭を下げ、労いの言葉をかける。
だが川内は手をひらひらと振って、響の時と同じように対応する。
「だから別にお礼とかはいいんだって。それよりさ、鳳翔さん。その包みはなんなの?」
仄かに漂う香りで察しはついているのだろう。
鼻をひくひくさせた川内が前のめりになって、机に置かれた包みを見ている。
「それは私も気になってる。司令官も包みを持ってきたけど、何なのかな?」
響も気になっているようで、少しそわそわしている。
鳳翔は安住と顔を見合わせて微笑むと、包みをほどいて中から弁当箱を取り出した。
「ふふふ。こんな時間ですけど、お夜食ですよ。引き継ぎで夜警にでた皆さんのお弁当と同じものですけど、よかったら召し上がってください。」
差し出された弁当箱の蓋を開く川内たち。
塞ぐ物の無くなったそこからは、美味しそうな匂いが溢れ出している。
「美味しそう~!夜戦には補給も必要だよね♪」
「
両手を合わせて「いただきます!」と言うと二人はお弁当に食らいついた。
「お茶は私がいれますね。」
安住は机の端に置かれていた紙コップを取り、持ってきていた水筒からお茶を注いで響たちの前へ置いていく。
「もぐもぐ、ごくごく・・・ぷはっ!おにぎりも玉子焼きも美味しい!さすが鳳翔さんだね!!」
夢中になって食べている川内たちへ、鳳翔が微笑む。
「ふふ、玉子焼きは少佐の手作りですよ。」
「え!?」
「それは本当かい!?」
「これ司令官が作ったんですか!?」
「・・・・・・夫婦の合作!?」
「うわぉ!?いつの間に!?」
驚いて目を見開く川内と響。
いつの間にか起きてきてお弁当を摘まんでいた吹雪と初雪も声をあげて驚いている。
「これでも料理が趣味なんですよ。あはは・・・。」
「夫婦って・・・・・・///」
それぞれ違う理由で照れる二人。
にわかに騒がしくなった待合室に、外が見える窓から朝日が差し込み始める。
微かに聞こえてくるその騒がしさに釣られてなのか、ICUのベッドで眠り続けている叢雲の顔が僅かに微笑む。
ゆっくりと目を開いた叢雲は、ゆっくりと数回まばたきをして小さく呟いた。
「まったく・・・騒がしいわね・・・・・・ゆっくり寝られないじゃないの・・・。」
「・・・・・・!!」
その声を敏感に聞き取った川内が突然、ICU内が見える窓に駆け寄り、他の皆も何事かと後に続く。
目を覚ました叢雲の姿を見て泣き出す者、慌てて医療スタッフの待機している部屋へ連絡する者、号泣して抱き合う者。
様々な反応を見せる皆の中で、響と叢雲の目が合った。
いつもの自信満々な様子で微笑む叢雲に、響は止まることなく溢れ続ける涙を拭うことも忘れ、震える声で相棒の帰還を出迎えた。
「・・・・・・おかえり、叢雲・・・!」
ーーーーーーーーーーつづく
第20話です。
いかがでしたでしょうか。
長い・・・今までで一番長い・・・。
このまま長くなっていくのだろうか・・・。
最近、お気に入りの登録数が減ってきて少し寂しいにゃるし~です(@q@)
まあそんなことは気にせず、自分の書きたいことを書いていきますよ!
そもそも、自分の妄想を形にして残したくて始まったこのお話ですしね。
ICUは集中治療室のことですね。
色々種類があるみたいですけど、まあそこはざっくりとでいいやって思いました。
商業作品じゃないですし・・・。
煙草を吸うと目が覚めるとか落ち着くとか聞くことありますが、どうなんでしょうね。
私は煙草吸わないので分からないです。
でも、仕草とかはかっこいいな~って思うんですよね。
というのも、昔の上司が煙草の似合う人でした。
あんなに煙草を吸う様がカッコいい人は中々いないと思います。
『卵』と『玉子』の違いってなんでしょうね?
昔、調理されていないものは『卵』で、調理されたものは『玉子』と聞いたことがある気がしまあすが・・・。
よくわかりませぬ・・・また調べておこう。
タグに『轟沈表現あり』と書いてありますが、あれは念のためというか、なんというか。
今はちょっと色々手探りなんですが、2部では間違いなくめちゃくちゃ死ぬことになるかも・・・?
でも轟沈させるだなんて怖くてできないかも・・・。
全てはこれから次第ですね・・・。
感想頂けるとモチベーションあっぷになるので、ちょっとしたことでもいいのでコメントして頂けると助かります(>_<)
感想こじきとかいわないで・・・。
では、また次回もお楽しみに。