艦これif ~隻眼の鬼神~   作:にゃるし~

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戦闘海域からの離脱に成功した島風は鎮守府への緊急回線で救援要請をしていた。
緊急回線は作戦司令部への直通通信だ。
この日、その作戦司令部には司令部要員の他にも人影があった。


第17話「艦隊防衛戦・3」

ーーーーー鎮守府・13:10 作戦司令部ーーーーー

 

 

 

鎮守府にある作戦司令部、普段は安住が前線で指揮を執る為あまり使われない場所だ。

だからといって機能していないわけではなく、各所との通信や出撃中の艦隊の現在地を追跡したり、様々な情報の処理等が行われている。

そんな司令部に、珍しく比良と安住が来ていた。

 

「各地の泊地も少しずつ完成して、徐々にですが戦果をあげてきているようですね。」

 

「ああ。大本営所属の艦娘たちも各地へ配属され始めているらしいな。」

 

「その内、うちから出向、引き抜かれる艦娘もでてくるでしょうね。なるべくそうならないで貰いたいものですが。」

 

「そうだな・・・他所の泊地に提督として就任予定の士官の中には、良くない噂をきく者もいるからな・・・。」

 

二人はどうも各泊地の完成状況や戦果、これからのことについて話し合っているようだ。

このような話なら執務室ですればいいのだが。

なぜ司令部で話し合っているかというと・・・。

 

「しっかし、このくそ暑いのに執務室の冷房が故障するとはなぁ・・・。卯月のやつめ。」

 

「そうですね・・・まあ、こどものイタズラと思いましょう。彼女も壊したと分かって謝っていましたし。」

 

そう、比良が休憩で席を外している間に卯月がエアコンの温度を上げ下げしまくったことで、執務室のエアコンが壊れてしまったのだ。

 

「まあ、たまには司令部で執務するのも悪くはないか。」

 

司令部には、提督用の簡易執務室も用意されており、大規模作戦等で司令部を離れられない場合に臨時の執務室としても機能するようになっている。

 

「気分転換と思いましょう。もうそろそろ遠征に出ていた第5艦隊が帰還する頃ですね。」

 

「もうそんな時間か。よし、たまには間宮券でもやって働きを労うとするか。」

 

比良が制服の胸ポケットから間宮券の束を取りだして枚数を数えていると、扉からノックの音が聞こえた。

 

「駆逐艦 響です。」

 

「同じく、叢雲よ。」

 

「どうぞ、入ってください。」

 

「「失礼します。」」

 

入室の許可を貰い、部屋に入ってきたのは響と叢雲だった。

その手にはビニール袋がぶら下がっている。

 

「こんにちは、今日も暑いわね。ん、この部屋は冷房が効いていて涼しいわね。」

 

「提督、司令官、こんにちは。差し入れだよ。」

 

そう言うと、二人がビニール袋から何かを取り出す。

 

「ありがたく受け取りなさい。」

 

差し出されたそれは、鎮守府内の酒保で販売されている1日数量限定の『大和ラムネ』だった。

それを受け取った比良は艦娘がするように眼を輝かせる。

 

「おおお!!これが噂の『大和ラムネ』か!酒保に行くといつも売り切れなんだが、よく手に入れたな!」

 

「叢雲さん、響さん、お気遣いありがとうございます。」

 

お礼を言うのも忘れてこどものようにはしゃぐ比良に替わって、安住が二人へ礼を言う。

 

「『大和ラムネ』!美味いじゃないかーーー!!」

 

「別にアンタたちの為じゃないわ。たまたま残ってたから買ってきただけよ。」

 

比良がさっそくラムネを飲んで感動しているが、叢雲は無視してたまたまだと言う。

 

「叢雲はこう言ってるけど、さっきは『執務室の冷房が壊れて暑がっているだろうから、いつも頑張ってくれている二人に、これでも差し入れして涼んで貰おうかしら』・・・って言ってたよ。」

 

「ちょっと響!?アンタ何ばらしてくれてるの!?って・・・あ///」

 

クールに決めようとした叢雲だったが、響によって阻止される。

顔を赤くした叢雲が頭から煙を出して両手で顔を覆ってしまった。

 

「では、私もありがたく戴きますね。・・・・・・ん、ぷはっ。これは・・・!美味しい!!」

 

ラムネの美味しさに、安住は眼を丸くして驚いている。

 

「こんなに美味しいラムネは飲んだことありませんよ!」

 

「ふふ・・・それはよかった。ね、叢雲。」

 

「そ、そうね。私たちに感謝しなさい。」

 

そんな他愛もない会話で和んでいる時だった。

扉が激しくノックされる。

 

「て、提督、少佐!緊急入電です!」

 

「入れ!」

 

比良の許可で司令部の通信士が慌てて入室し、素早く敬礼して報告する。

 

「報告!第5艦隊の島風から入電!深海棲艦の大部隊に襲撃された模様!救援要請が来ています!」

 

「なんだと!?」

 

「被害状況は、雷、電が大破して意識不明。現在は天龍、龍田、暁が敵艦隊と交戦中とのことです!」

 

「ーーーっ!!」

 

その言葉を聞いた響は、島風も凌駕するほどの勢いで部屋を飛び出していってしまった。

 

「響!?ちょっとどこいくの!」

 

慌てて叢雲が響を追いかけて部屋からでていく。

 

「分かった。貴様は引き続き情報を集めろ。恐らく第3、第4艦隊からも救援に向かう旨の通信が来る筈だ。そちらと情報を共有出来るようにしておけ。俺もすぐに行く。」

 

「ハッ!」

 

比良からの指示を受けた通信士は敬礼をすると急いで司令部へと戻っていった。

部屋に残ったのは比良と安住だけとなった。

 

「安住、すぐに動ける艦娘は?」

 

「非番や艤装が修理中の艦娘を除けば、主力からは由良と阿武隈。あとは演習に出ている予備隊の艦娘たちですね。」

 

「了解だ。直ちに艦隊を編成して救援に向かってくれ。あと、たぶん響と叢雲が飛び出していこうとするだろうな。」

 

「でしょうね。そちらは工厰に話を通して『アレ』を準備してもらっておきます。」

 

「頼む。」

 

「ハッ!」

 

比良と手短に戦力の確認と方針の決定を済ませると、安住は全体放送で艦娘たちに呼び掛けるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

響は出撃ドックへと走っていた。

この鎮守府の出撃ドックは工厰と併設されており、帰投後の整備や修理をスムーズに行えるようになっている。

 

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・。」

 

出撃ドックが見えてきたところで、後ろから肩を掴まれる。

 

「ちょっと響!!アンタどうするつもりよ!」

 

追いかけてきた叢雲が響に追い付いたのだ。

 

「止めないでくれ・・・私は行かなきゃならないんだ!」

 

「アンタ一人で行ってどうするってのよ!!」

 

「暁を、雷を、電を・・・守るんだ!」

 

響は叢雲を引きずってでも出撃ドックへ向かおうともがく。

叢雲はそれを必死に引き留める。

 

「だからって!駆逐艦1隻じゃどうにもならないでしょ!!」

 

「私はもう、一人だけ生き残るなんて嫌なんだ!!離してくれ叢雲!!」

 

「いい加減、落ち着きなさいって言ってんのよ!!」

 

そう言い放つと、叢雲は響を強引に振り向かせて思いきり平手打ちを喰らわせた。

 

「っ!?」

 

その衝撃で響がよろめいて尻餅をつく。

 

「はあっ!はあっ!・・・いつもの冷静さはどうしたのよ!こういう時こそ冷静にならなきゃいけないんでしょうが!!」

 

眼を見開き、ぶたれた頬に手を当て、呆然とした様子で響は叢雲を見上げていた。

 

「提督と司令官のことだから、すぐにここから救援部隊を寄越すはずよ!それに今は第3艦隊と第4艦隊が哨戒の為に出ているでしょう?きっと彼女たちもすぐに救援に向かうわ!」

 

「でも!」

 

「話は最後まで聞きなさい!!」

 

反論しようとした響を、ぴしゃりと叢雲が黙らせる。

 

「ここからだと間に合うか五分五分。だったら闇雲に出撃するんじゃなくて、間に合わせるにはどうすればいいかを考えなさい!」

 

「・・・・・・・・・。」

 

ひとしきり叫ぶと、叢雲は息を切らせて響に手を差し出す。

 

「行くなら私も一緒に行くわ。それに、私たちには『慧眼の軍神』なんていうあだ名のついた司令官がいるじゃない。絶対に間に合う方法を考えついてくれるわ。」

 

「ああ・・・そうだね。叢雲の言う通りだ。取り乱してすまない。」

 

その手を取り、響が立ち上がる。

そこへ警報が鳴り、全体放送が聞こえてきた。

 

『緊急事態発生!現在、第5艦隊が敵の大部隊の襲撃を受けている!直ちに救援部隊を編成し、これを差し向ける!』

 

聞こえてきたのは安住の声だった。

 

『蒼龍、飛龍、由良、阿武隈、古鷹、加古、朧、曙、漣、潮は至急、出撃ドックへ集合せよ!』

 

「救援部隊の編成のようね。」

 

「・・・・・・。」

 

救援部隊の編成に、自分が含まれていないことに憤りを覚える響。

ぎゅっと力強く握られた拳が小刻みに震えている。

 

(大丈夫だ、落ち着くんだ私・・・。)

 

深呼吸をして、再び頭に血がのぼりそうになる心を落ち着ける。

 

『それから響と叢雲の両名は出撃ドックで艤装を装備後、第3格納庫へ行き、明石と夕張の指示に従うように。』

 

第3格納庫、主に装備のテストが行われている場所だ。

なぜそんな場所へ向かえと?

そんな疑問が浮かぶが、今はとにかく時間が惜しい。

今は自分達の司令官を信じて行くだけだ。

 

「行くわよ、響!」

 

「了解!」

 

 

 

ーーーーー鎮守府・13:20 第3格納庫ーーーーー

 

 

 

出撃ドックで艤装を装備した二人は、格納庫の扉を開けて中へ入った。

すると、大声で明石に呼ばれる。

 

「響ちゃん!叢雲ちゃん!こっちこっち!!」

 

「明石さん!」

 

二人は急いで明石のもとへ駆け寄る。

 

「ちゃんと艤装は装備してるね。」

 

「ええ。だけど、なんでまた第3格納庫に?秘密兵器でもあるのかしら?」

 

叢雲が腕を組んで疑問を口にする。

その疑問に答えたのは明石ではなかった。

 

「さすが叢雲ちゃん。その通りだよー!」

 

だが、声の主の姿が見えない。

 

「夕張さん?どこにいるんだい?」

 

響が辺りをきょろきょろと見回すが、どこにもその姿がない。

 

「ちょっと待ってねー。今そっちに行くから。」

 

その声を合図に、明石の背後の床がスライドして開いていく。

そしてその下から何かがせりあがってくる。

 

「これは・・・。」

 

「一体何だってのよ。」

 

格納庫の地下から夕張と共に姿を現したのは、2基の大型の機械だった。

艤装のようにも見えるが、それにしては大きい。

 

「これが、秘密兵器よ!」

 

夕張が腰に手をあて、さほど無い胸を張って「えへん!」と誇らしそうにしている。

そこへ明石からの説明が入る。

 

「これは艤装の追加パーツの試作品。名付けて『試製噴式機動推進装置 』!!通称『追加ブースター』!!」

 

「長ったらしい名前ね。単にブースターでいいじゃない。」

 

「う・・・、まあそう言わずに。装備の説明をするね。」

 

「うん、お願いするよ。」

 

叢雲の厳しい指摘に一瞬言葉を詰まらせるが、気を取り直して装備の説明に入る。

 

「これは艤装の上から装着するタイプの追加装備で、主に機動力の向上を目的としているの。」

 

「といっても目的は今回のような緊急時に、艦娘を素早く現場へ派遣すること。」

 

「今回はこれを二人に装備してもらって、救援部隊の先鋒として戦闘海域に向かって貰うことになるわ。」

 

明石の説明を真剣に聞く二人。

その表情に、これなら救援が間に合うという希望が見えはじめる。

 

「でも、注意してもらいたいんだけど、この装備は本来、重巡や戦艦が使用することを前提に設計されているの。」

 

「だから、駆逐艦である貴女たちが使用することで、身体にどんな影響があるかは分からない。」

 

「場合によっては生命に関わるかもしれない・・・。それでも、これを使う覚悟はある・・・?」

 

言い終えると、明石は不安そうな表情で二人を見る。

だが、それは愚問だ。

間に合うのなら、仲間を、姉妹を助けられるのなら、そんなことはどうでもいい。

 

「当たり前よ。私を誰だと思っているのかしら?」

 

「私も覚悟は出来てる。必ず、皆を守ってみせるよ。」

 

叢雲と響、二人の決意と覚悟を感じて明石が頷く。

 

「うん、ならこれを二人に託すね。夕張、調整お願い。」

 

「りょーかい!二人とも、3分頂戴。出来るだけ負担が少なくなるように調整してみるから!」

 

そうして、二人の艤装に追加ブースターが装着され、夕張と明石による調整が開始される。

叢雲に装備されたのは『乙型一式』と呼ばれる、ブースター側面に可動式制動装置が増設された、突進力と旋回性能が向上されたタイプ。

響に装備されたのは『乙型二式』と呼ばれる、ブースター側面に増設されたサブアームに大型の盾が装備され、強硬突撃を想定したタイプだ。

そして共通の装備として、ブースター上部には小型の対空対艦ミサイルが片側80発格納され、下部には対潜爆雷を満載。

ミサイルは現用兵器の為、深海棲艦に対しての効果は期待できない。

だが艤装の一部としてなら効果を発揮するのではないかという考察のもと、試験的に装備されている。

 

「よし、これで今できる調整はやれるだけやったよ。」

 

「二人とも、扱い方は身体で覚えて貰うしかないけど、いけそう?」

 

ブースターの調整を終えた明石と夕張が、これから出撃する二人に問う。

 

「うん、大体わかったよ。問題なさそうだ。」

 

「こっちも、いつでも行けるわ。」

 

艤装とのマッチングはうまくいっているようで、二人の意思に合わせてブースター各部の試製制御用のスラスターが小刻みに動く。

 

「よし、じゃあ出撃ゲートを開くよ!」

 

夕張が近くのコンソールを操作すると、先程あがってきた床が再び下がり始める。

それと連動して格納庫の地下隔壁が開いていき、やがて海水が響たちの足元へ侵入する。

 

「二人とも、最後の注意事項。もしも途中で異変を感じたり、警告音が鳴ったら直ぐにブースターを切り離すこと。最悪、安全装置が作動して強制的に分離するとは思うけど、くれぐれも無理はしないで。」

 

「分かったわ。」

 

「了解。」

 

いまだに不安そうに見つめる明石に、二人は心配いらないというように頷いてみせた。

そして最後の隔壁が開くと、外の光が差し込んでくる。

ブースターに火が入り、艤装を通じて徐々に大きくなる振動を感じる。

二人は深呼吸し、その時を待つ。

そしてーーー。

 

「叢雲、出撃するわ!」

 

「響、出撃する!」

 

緑色のランプが点灯して『出撃』の合図が出ると同時に、二人はブレーキを解除し、勢いよく飛び出していった。

守るべき仲間と姉妹が待つ戦場へーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーつづく




第17話です。

いかがでしたでしょうか。

島風の救援要請は、まずは鎮守府に届いていました。
こんな状況なら、響は飛び出していこうとすると思うんです。
そこで、ちょっとオリジナル装備を出した次第です。
二次創作だし、アリですよね・・・?
あんまりなチートにはならない予定です。
試作機ですし・・・。

では、次回もお楽しみに。

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