海上輸送路が確保されたことにより、遠征艦隊は今日も補給物資の輸送任務に就いていた。
安全なはずの帰り道、深海棲艦の魔の手が迫りつつあることなど、誰も知るよしもなかった。
ーーーーー鎮守府近海・13:00ーーーーー
少しずつ暑くなってきた今日この頃、巷では梅雨入りしたというニュースが流れている。
ジリジリと照りつける太陽もあり、夏の気配を間近に感じるようになってきた。
今日も遠征任務を遂行した後は、いつも通りお風呂で汗を流し第5艦隊の皆で間宮に行く予定だ。
「皆おっそーい!早く早くー!!」
「おーい、あんまり先に行きすぎるなよー!・・・島風のやつは今日も相変わらずだなぁ。」
単縦陣の先頭を行く天龍を追い抜いて、島風が元気よく進んでいく。
「うふふ、間宮アイスが待ち遠しいのかしらね~。」
「まったくもう!レディならちょっとは我慢できないとダメよ!」
その姿を見守る龍田と、レディには忍耐も必要だと呆れる暁。
「そういう暁も早く戻ってアイスが食べたいんじゃないの?」
「そ、そんなことないし!ぷんすか!」
「はわわ、け、喧嘩はダメなのですー!」
若干そわそわしていたのを雷が指摘し、食いつく暁を電が宥める。
とても任務中とは思えない雰囲気だ。
「元気だなーこいつらも。」
「見た目相応ってかんじね~。」
その様子を微笑ましく眺めつつも、天龍と龍田は周囲への警戒を怠らない。
この2人の存在が、ゆるい雰囲気でも無事に遠征をこなしてこられた所以である。
(しかし今日は天気がいいが、雲が多いな・・・。お陰で多少涼しいのは助かるんだが・・・。)
日差しを片手で遮りながら、天龍が空を見上げる。
(・・・・・・雲上から奇襲攻撃、なんてないよな・・・?対空電探が無いから敵艦載機に奇襲されたらたまらないぜ。)
大小様々な大きさの雲の隙間を見続けていたその時、雲間から太陽が顔を覗かせ、一瞬目が眩む。
(っ・・・!眩し・・・!?)
目が眩んだ瞬間、一瞬だが太陽の中に複数の小さな黒点が見えた。
全身を悪寒が走り、鳥肌が立つのがわかる。
主砲と機銃を上空に向けると同時に叫ぶ。
「敵機直上!!対空戦闘用意!!」
天龍の指示に、弾かれたように動き出す艦娘たち。
陣形を即座に輪形陣へ変更する。幼い容姿をしていても、そこは艦娘。無駄のない動きで艦隊運動に移る。
第5艦隊の輪形陣は他とは違い、天龍と龍田が前後を守り、駆逐艦娘たちが内側に入る形になっている。
「敵機は太陽の中からくるぞ!雲間からの襲撃にも注意しろよ!対空射撃、撃ち方始め!!」
「てぇー!」
「なのです!」
対空射撃が開始され、弾幕が敵艦載機に襲いかかる。
遠征部隊とはいえ、その射撃精度はなかなかのもので、敵機を次々と撃ち落としていく。
「これくらい、レディには朝飯前なんだから!」
「4時方向の雲間から別の編隊が来るわ~!」
「敵の展開がはっやーい!続けて1時と10時からも来るよ!」
敵の編隊が雲を隠れ蓑にして何波も襲来する。
(これだけの量の艦載機・・・確実に空母が居るな・・・。でも何処に?)
敵機の迎撃を続けながら、天龍は周囲を見渡す。
短時間に大量の艦載機を投入してこられるのなら、見える範囲に空母が居るはずだ。
(・・・・・・見つけた!ってオイ!?そんなのアリかよ!?)
確かに空母がいた。護衛の多数の深海棲艦に守られて、ヌ級が1隻にヲ級が3隻、計4隻。
だが、それよりも重大なものを見つけてしまった。
(戦艦ル級が5隻だと!?しかもなんだ、あの先頭のやつは!右目が無い・・・主力艦隊が取り逃がしたっていうやつか!!)
そして不意に聞こえてくる風切り音。
砲弾が飛来する時の音だ。
対空迎撃に気を取られて、まだ誰も気づいていない。
「砲撃が来る!防御姿勢とれ!!」
「ど、どこから!?きゃあっ!?」
「雷ちゃん!?ふあっ!?」
防御するように叫ぶも、間に合わずに戦艦の砲撃が艦隊を襲った。
砲弾が次々と着弾し、無数の水柱が立ち上る。
「雷!電!無事!?」
姉妹の悲鳴を聞いた暁から悲痛な叫びがあがる。
「うぅ・・・雷は大丈夫なんだからっ!」
「はぅぅ・・・恥ずかしいよぉ。」
被弾したものの、雷と電は中破といった様子だ。
「もう!敵の数が多いよ!これじゃ身動きとれない!」
敵艦載機からの爆撃や機銃掃射に加え、敵艦隊からの砲撃も加わったことで島風も自慢のスピードを発揮することができないでいる。
「天龍ちゃん、流石にこれはマズイわ~。物資を投棄してでも撤退すべきよ。」
「ああ・・・わかってる。全艦、ただちに物資を投棄!逃げるぞ!!」
「「「「了解!」」」」
撤退の為に、ここまで運んで来ていたドラム缶を投棄して少しでも身軽になり、速度を上げやすくする。
鎮守府まで後少しなのだが、致し方ない。
物資の投棄が完了し、撤退の為に転舵しようとした時だった。
「雷跡多数!皆避けて!!」
「「「「え?」」」」
「くそっ!」
龍田の悲鳴の様な声。
激しい攻撃の最中、ひっそりと目前まで迫っていた無数の魚雷に駆逐艦娘たちの反応が遅れる。
「あぁぁぁっ!?」
「電!?ーーーっ!?」
魚雷をかわすことは叶わず、多数の水柱と悲鳴があがる。
天龍と龍田が咄嗟に駆逐艦娘たちの前に出て盾となったが、魚雷の数が多すぎた。
「ぐうっ!?クッソが!」
「はぅう!?痛いってばぁ!」
「・・・・・・ぅ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「このくらい、へっちゃらだし・・・。」
「・・・・・・痛いじゃない。」
全員が被弾し、盾となった二人は中破していた。
「雷!?電!?目を開けて!!」
暁の悲鳴に天龍が背後を見ると、雷と電が倒れて意識を失っていた。
轟沈してはいないようだが大破しているようで、目を覚ます気配がない。
(クソ、どうする・・・意識を失ってる二人を曳航して撤退なんて、この状況じゃ不可能だ・・・。)
艦隊はいまだ敵の激しい攻撃にさらされている。
曳航して撤退しようとすれば、速度は出せず敵に狙い撃ちにされ、全滅する。
「く・・・天龍ちゃん、逃げないと!」
ならばどうするべきか。
天龍には旗艦として採るべき行動は分かっていた。
そう、雷と電を見捨て、無事な者だけでも逃がすべきだ。
「連装砲ちゃん!頑張って!私も頑張るから!」
だが天龍にはそんなことは出来なかった。
かわいい妹分たちを見捨てて逃げ帰るなど、出来ない。
「よくも雷と電を!許さない、許さないんだから!!」
しかし、このままでは全滅する。
天龍の心拍数があがる。鼓動がどんどん激しくなる。
(どうするどうするどうするどうするどうするどうする!?)
「ーーちゃん!ーんーーうちーー!」
思考がショートし、何も考えられなくなる。
(どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!?)
「ーーーーー!天龍ちゃん!!」
突然、頬を襲った衝撃に、天龍は我に返る。
目の前には、龍田が立っていた。
「天龍ちゃん、しっかりして!」
「龍田・・・。」
龍田に頬を叩かれたのだと、漸く理解する。
普段は妖しい光を宿している眼に、今は強い意思を込めた龍田が、天龍を叱咤する。
「まずは落ち着いて!天龍ちゃんが皆を守るんでしょう?ならまずは何をすべきかわかるでしょ!!」
龍田に言われ、はっとする天龍。
一度深呼吸し、心を落ち着かせる。
「ああ、わかってる。」
まずは状況整理だ。
こちらの被害は甚大で、とてもここから離脱できる状態ではない。
敵には空母に戦艦、重巡や雷巡の姿も見られ、正面からぶつかっても勝ち目は無い。
さらにはすでに敵艦隊に半包囲されており、完全に包囲されるのも時間の問題だ。
ならばどうする?
幸い、現在地は鎮守府に程近い。
この時間、第3艦隊と第4艦隊が交代の為にこの海域にいるはずだ。
なら、採るべき道は一つだ。
「島風!」
「おうっ!?」
天龍が島風を呼び、命令する。
「オレたちが突破口を作る!その隙に全速力でここから離脱、鎮守府へ先行して救援を要請しろ!」
「え!?でも!」
島風が抗議の声をあげるが、お構いなしに続ける。
「付近に第3艦隊と第4艦隊が来ているはずだ!全周囲でいい!救援要請を叫びまくれ!」
「私たちのことなら大丈夫よ~。この程度、救援がくるまで持ちこたえてあげる。だから島風ちゃん、お願い。」
今自分がここから抜ければ防衛能力が落ちる。
それを心配する島風に、龍田がウインクして大丈夫だと言う。
「・・・・・・わかった。救援を呼んだらすぐに戻るから!!皆まってて!!」
「島風ちゃん、お願い!」
「頼むぜ島風!!暁は雷と電を守れ!・・・龍田!!」
「はぁ~い!」
天龍の号令で砲撃が開始される。
「連装砲ちゃんたちはここで皆を守ってあげて!暁ちゃん、この子たちをお願いね!」
「暁に任せなさい!」
「キュイ!」
連装砲ちゃんたちは島風のお願いに元気よく応えた。
「今だ!行け!島風!!」
「私には誰も追い付けないよ!」
艦隊を包囲しつつあった敵の間をすり抜け、島風は全速力で離脱していく。
その背中を重巡リ級が追撃しようとするが砲撃を喰らい、阻止される。
リ級はゆらりと砲撃のあった方へ顔を向ける。
そこには刀を抜いて突撃してくる天龍の姿があった。
「お前らの相手はオレたちだ!」
ーーーーーーーーーーつづく
第16話です。
いかがでしたでしょうか。
本家の艦これではあり得ない、遠征艦隊への襲撃です。
安全なはずの航路、そこへの襲撃、怖いですね。
まあ、遠征で弾薬を消費するってのは、襲撃に応戦しつつも逃げてるんですかね。
大破した雷と電の運命は!?
救援は間に合うのか!?
天龍たちは持ちこたえられるのか!?
では、また次回もお楽しみに。