利根率いる第3艦隊はいつも通りの哨戒任務に就いていた。
ーーーーー鎮守府近海・13:30ーーーーー
第3艦隊の主な任務は、鎮守府近海の哨戒任務である。
本日の哨戒任務はあと少しで終了となり、今は引き継ぎの第4艦隊との合流地点へ向かっているところだ。
「うむ、今日も何事もなく終わりそうじゃの。吾輩は腹が減ったぞ・・・。」
先頭を行く旗艦の利根が「ぎゅるるる」とお腹を鳴らせている。
「姉さん、あと少しですから頑張りましょう。深海棲艦の気配がないからといって、油断は禁物です。」
そう注意するのは、利根の妹の筑摩である。
よく気がつく、世話上手なできた妹だ。
「暑い・・・。吹雪、あとでアイス奢って。」
「えぇー?この前も奢ったよね・・・。初雪ちゃん、今日は自分で買ってよ。」
「ケチ・・・。ゲームとマンガ買いすぎてお財布もう空っぽ・・・。」
「それは自業自得じゃ・・・。はぁ・・・まあいいよ。私もアイス食べたかったし。」
「・・・・・・やったぜ。」
まだ任務中ということを忘れているのか、甘味の話をしているのは初雪。
そしてたかられているのは姉の吹雪だ。
「昼で交代だから、お弁当持ってこなかったしねー。・・・・・・ふああ・・・眠い。」
「川内さん、また夜更かししてたんですか?」
「んーまぁねー・・・ふわぁ。・・・吹雪も今度、夜戦演習する?」
「い、いえ、遠慮しておきます。あはは・・・。」
昼間だというのに眠たそうに瞼をこすって欠伸をするのは川内。
川内は「超」が付くほどの夜戦好きで、よく夜更かしをしているためか日中は眠たそうにしていることが多い。
「お弁当と言えば、鳳翔よ。感想はどうだったんじゃ?」
それを聞いて思い出したと、利根が鳳翔に訪ねる。
その顔は面白いネタを見つけたというようにニヤニヤしている。
「えっ?///な、なんで少佐にお弁当を作ったことを知ってるんですか///」
「鎮守府の殆どの者が知っておるし、最近はその噂でもちきりじゃからな。」
わずかに頬を朱に染めて慌てる鳳翔。
それを見て、利根の表情がにんまりとイタズラっぽい笑みへと変わる。
「それに鳳翔よ。吾輩はただ感想はどうだったかと聞いただけじゃぞ?」
「あっ・・・///」
自分の失言に気づいた鳳翔は頬を顔を両手で覆ってしまった。
耳がリンゴのように真っ赤に染まっていることから、相当恥ずかしがっているのがわかる。
「もう、姉さん!鳳翔さんをいじめちゃだめじゃないですか!」
「すまぬすまぬ。じゃが、皆気になるじゃろう?」
一応謝りつつも、利根は後方に続く仲間達へ顔だけ振り向かせる。
「・・・気になる。」
「最近、皆その噂してますよね。私も気になります。」
「それは、気になりますけど・・・。」
「ねむーいー・・・。」
その返事は様々だが、やはり鳳翔と安住の関係については気になるようだ。
約一名、眠たそうなのがいるが、こちらは気にしないでおこう。
「で、どうなんじゃ?少佐はなんて言っておった?」
「え、ええと・・・『とても美味しかった』と・・・///」
「ほうほう、それから?」
「ま、『毎日でも食べたいくらいです』って///」
赤く染めた頬に手をやり、もじもじしながらも鳳翔は律儀に質問へ答えている。
「そ、それから『お礼に今度は私がお弁当作ってきますから、食べてみてくださいね』なんて・・・///」
「おぉぉ・・・もう聞いてもいないのに、のろけ出したぞ・・・。」
恥ずかしさからか混乱している様子の鳳翔はとうとう自分から語りだした。
「鳳翔さん・・・ラブラブですね。私も姉さんにお弁当作ってみましょうか・・・。」
「なに、こののろけ話・・・。」
その様子をみて若干呆れ始めた艦娘たち。
そこへ、思いもよらぬ爆弾が投下される。
「鳳翔さんと少佐って、お付き合いしてるんですよね?もう、したんですか?」
瞬間、その場の空気が変わり、静寂が訪れる。
鳳翔は顔を茹でタコのようにし、再び顔を覆って俯いてしまう。
そして全員の視線が、たった今爆弾を投下した艦娘ーーー吹雪へと注がれる。
「あれ?私、何かおかしいこと言いました?」
自分が何をしたのか全く分かっていない様子の吹雪に、ある者は呆れ、ある者は笑顔でーーー目が笑っていないのだがーーー詰め寄る。
「吹雪、ちゃん・・・?ナニを聞いちゃってるんですか・・・?」
「・・・・・・ないわー。」
「お主、後で工厰裏じゃ。」
「・・・・・・Zzz・・・。」
「えっ。ちょ、何なんですか!?」
状況が飲み込めず困惑する吹雪。
「私はただ、もうキスしたんですか?って聞いただけなんですけど!?」
再びの静寂。
今度は全員が肩をがっくりと落とし、吹雪の肩に手をやりながら頷く。
「うむ、言葉が足りなかったのじゃな。うむ。」
「・・・Zzz・・・・・・。」
「吹雪・・・アホの子?」
「きちんと整理してから話しましょうね。吹雪ちゃん。」
仲間たちの対応の変化に、吹雪は戸惑っている。
一方、鳳翔はまだ再起不能のようで、時折顔を左右に振っては悶えていた。
そうして騒いでいた艦娘たちの談笑を1つの声が遮った。
「皆!静かに!!」
その声に、その場の全員が静まり返った。
声の主は先程まで目を瞑って半分寝ていた川内だった。
「なんじゃ川内、なにk「黙って。」
利根の言葉を遮り、黙らせる。
皆、何事かと川内に注目している。
すると、目を瞑って上を向いていた川内が口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・敵がいる。割りと近くに。」
その言葉に一同は驚愕する。
ゆっくりと目を開いた川内がこう続けた。
「波と風の音に混ざって砲撃の音が聞こえる。あとこれは・・・艦載機の機銃の音?・・・・・・何かが襲われてる・・・?」
そんなまさか、と全員が思ったその時だった。
第3艦隊の全員に緊急通信が入った。
『こちら第5艦隊、島風!帰還途中で深海棲艦の大部隊と遭遇!!救援を要請します!!雷と電が大破!現在、天龍と龍田が応戦中!!繰り返しますーーー。』
艦隊が緊張感に包まれる。
それは、遠征に出ていた第5艦隊からの救援要請だった。
なんでこんなところに深海棲艦の大部隊が?という考えが一瞬頭をよぎる。
しかし考えている時間はない。
「全艦!最大戦速!第5艦隊の救援に向かうのじゃ!!鳳翔!」
「はい!上空の直掩機を先行して向かわせます!続いて緊急発艦急がせます!!」
「司令部への打電完了!第4艦隊も近くまで来ているはず・・・姉さん、そちらにも連絡をとりますね!」
「任せたぞ、筑摩よ!」
利根の指示のもと、各員が一斉に動き出す。
哨戒任務にあたる艦隊には、司令部の指示を待たず、旗艦の判断による交戦許可が与えられている。
これは逼迫した状況にある戦場において、現場にいる者の判断を尊重し、少しでも迅速に対処できるようにするためだ。
それにいちいち司令部の判断を待っていては、その間にいらぬ犠牲が出るかもしれない。
そんな状況になることを危惧した、比良と安住の両名からの指示である。
「ここからだと、到着まで15分ってとこだね。」
「先発した直掩隊はあと7分程で到着するはず・・・。川内さんの言う通り、敵の艦載機がいるとしたら・・・。」
後続の艦載機の発艦準備を急ぎつつ、鳳翔が心配そうな表情で呟いた。
その呟きに続いて吹雪も口を開く。
「空母もいるはず・・・ですね。利根さん、もしかして先日、主力艦隊が取り逃がしたっていう軽空母ヌ級じゃ・・・。」
「その可能性はあるじゃろうな、吹雪よ。じゃが今は全速力で第5艦隊へ合流するのみじゃ!」
「やって・・・やりますよ・・・今日は。アイスも待ってるし。」
初雪も珍しく気合いは十分のようだ。・・・アイスが待っているからなのだろうが・・・。
「姉さん、第4艦隊はあと20分で救援に到着すると。」
第4艦隊との通信を終えた筑摩が利根に報告する。
報告を聞いた利根は、少し眉間に皺を寄せて険しい表情になった。
「あちらの方が少し遠かったか。しかし到着時間はそう変わらぬ・・・鳳翔の航空隊が頼みじゃな・・・。」
鳳翔航空隊が飛び去った空を見つめ、利根は自分の頬を両手でパシンと叩いて気合いを入れ直すのだった。
「待っておれよ・・・すぐに吾輩たちが往くからの!!」
ーーーーーーーーーーつづく
第15話です。
いかがでしたでしょうか。
更新遅くなってすみません。
体調崩して執筆が止まっていました。
季節の変わり目は怖いですね。
皆さんも体調にはお気をつけくださいませ。
今回からまた少し戦闘回になります。
うまく書けるか不安しかないです・・・。
いつも通り生暖かく見守ってくださいm(__)m
それでは、また次回もお楽しみに。