満身創痍の深海棲艦に引導を渡すべく、砲雷撃戦が開始されようとしていたーーー。
ーーーーー南西諸島沖・12:30 第1艦隊ーーーーー
零戦隊の会敵からおよそ30分、第1艦隊は敵艦隊まであと少しの距離まできていた。
「攻撃隊より入電!『我、先制攻撃ニ成功セリ!敵ハ被害甚大ナリ!』とのことです!」
「了解です。敵の損害状況はわかりますか?」
「はい、重巡リ級が大破、駆逐ハ級を1隻撃沈、軽空母ヌ級は1隻撃沈、1隻中破とのこと。制空権も掌握したし、上々ね♪」
攻撃隊の戦果に、赤城は上機嫌のようだ。
慢心、ダメ、ゼッタイ。はどこにいったのだろうか・・・。
「では、赤城さんは航空全隊を収容、同時に次の攻撃隊の準備を急がせてください。」
「了解しました。・・・え?」
安住の指示に従い、次の攻撃へ向けて艦載機の準備を始めた赤城。
しかし、その表情が急に真剣なものへと変わる。
「赤城さん?なにかありましたか?」
安住が問いかける。すると、赤城が血相を変えて報告する。
「被弾帰投中の零戦から入電!こちらに向かう敵攻撃隊を確認!恐らくは零戦隊の迎撃をすり抜けたものと思われます!!」
「対空電探に感あり!10時方向、敵編隊を視認!機数は12機、編隊が3つに別れた・・・突っ込んでくるぞ!」
赤城の報告とほぼ同時に木曾から敵機発見の報があがる。
瞬間、艦隊に緊張が走る。
「全艦、対空戦闘用意!射程に入り次第、撃ち方始め!!敵は空母を狙ってくるはずです!」
「くっ・・・まさか零戦隊が取り逃がすだなんて。慢心していたというの・・・?」
安住からの号令を待たずに、艦娘たちは対空戦闘の体制を整え、対空射撃を開始していた。
「対空機銃撃ち方始め!三式弾装填!主砲、6基12門、一斉射!!」
「さて、やりますか。」
「よーく狙って・・・ってー!」
(さすがですね。こちらが指示をだすまでもなく、やるべきことがわかっている。これは下手に口を挟むよりも、情報整理や周辺警戒をしていたほうがいいかもしれない・・・。)
伊勢の主砲が吠え、敵編隊に向けて三式弾が発射される。
三式弾とは、簡単にいうと対航空機迎撃用の散弾といったところだ。
砲弾が炸裂すると、内部に入っていた無数の子弾が炸裂地点周辺にはじけとび、弾幕を形成する。
基本的には対空用であるが、その特性から対地攻撃にも効果を発揮する。
「砲弾炸裂まで・・・・・・3、2、1・・・三式弾、予定通り炸裂。・・・先頭の敵編隊、全滅!次の編隊を狙撃するよ、次弾装填急いで!」
三式弾は3つに別れた敵編隊の先頭の4機の目前で炸裂し、纏めて敵機を葬った。
その間にも他の艦娘からの対空砲火が着々と効果を発揮していく。
「赤城はやらせないわよ!この10cm連装高角砲と提督が引っ張ってきた試作の91式高射装置、その対空射撃を抜けられるものなら、抜けてみなさい!!」
「ハラショー。たまには派手に撃ちまくるのも悪くない。」
叢雲と響の息のあった圧倒的な弾幕形成により、逃げ場を失った敵機が次々と撃墜される。
そしてあっという間に最後の敵編隊にもその牙を剥く。
「この編隊で最後!よく狙って!」
「弱すぎるっ!・・・・・・っ!?敵機が魚雷を投下したぞ!あの方向は・・・狙いは指揮艦か!?」
「やらせない・・・!!」
「響!?・・・・・・あの子まさか・・・!」
対空砲火で最後の敵機を撃墜するが、置き土産とばかりに敵機が魚雷を投下した。
その進行方向には指揮艦があり、このままいけば魚雷は指揮艦に命中、撃沈は避けられないだろう。
「魚雷接近!かわせかわせ!」
「かわすったってこの距離じゃどうしようもないぞ!」
「くそっ機銃で爆発させてやる!」
指揮艦の乗組員が機銃をとりだし、魚雷に向けて撃ちまくる。
だが、砲弾でもないかぎり水中の物に損傷を与えることは不可能だ。
「ちくしょぉぉぉ!ここで終わってたまるかよぉぉぉぉ!!」
それでも乗組員は機銃を打ち続けるが、抵抗むなしく魚雷は直撃コースで接近し続ける。
(万事休すか・・・!)
安住と乗組員たちは直撃を覚悟し、周囲の物につかまり衝撃に備えた。
その時、安住たちの目に思わぬ光景が飛び込んできた。
「・・・・・・!あれは・・・!?」
「
響が魚雷に向けて砲撃しながら猛スピードで指揮艦の方へ向かってきていたのだ。
しかし、砲撃はなかなか魚雷に命中しない。
響に徐々に焦りが見え始める。
(くそ・・・あたれ・・・あたれっ!このままじゃ・・・また私は・・・!)
砲撃が魚雷の至近で炸裂するが、信管をギチギチに絞めてあるのか魚雷は爆発しない。
そうしている間にも魚雷はどんどん指揮艦との距離をつめていく。
「響さん!もうこれ以上は無理です!離れてください!!」
「響ちゃん!離れて!巻き込まれちゃう!」
「何をしてるのっ!早く離れなさい!」
(これ以上は砲撃が指揮艦にあたる・・・・・・それならっ・・・!!)
全員が響に離れるよう叫ぶ。
それとほぼ同時に響が
響はそのまま魚雷を追い抜き指揮艦と魚雷の間に割り込むと、その場で急停止して艤装に装備された盾を構える。
「響さん!なにを・・・・・・まさか!?」
(もう二度と・・・私の前で仲間をやらせない!)
そう、響は自分の身を持って指揮艦の盾になるつもりだった。
「響の嬢ちゃん!そこはあぶねえ!!逃げろぉ!!」
「何考えてるの!そこから離れて!響!!」
指揮艦の乗組員や他の艦娘たちが叫ぶ声が遠く聞こえる。
ついに魚雷が目前に迫る。
「不死鳥の名は、伊達じゃない。」
響は腰を低くし、衝撃に備える。
魚雷が命中する寸前、響はぎゅっと強く眼を瞑った。
(暁、雷、電ーーー!)
そしてーーーーー。
ーーーーー爆発音が、響き渡った。
ーーーーーーーーーーつづく
第9話です。
砲雷撃戦をすると言ったな?あれは嘘だ(^_^;)
いかがでしたでしょうか。
零戦隊長の懸念が的中してしまいました。
乱戦になると迎撃をすり抜けていく敵もいるってことですね。
艦これの航空戦で敵機が生き残って攻撃してくるのも、こういうことかと思います。
慢心、ダメ、ゼッタイ。
連・相・報も徹底しないとですね。
魚雷から指揮艦を庇った響の運命はいかに・・・。
では、また次回をお楽しみに。
ちなみに第1艦隊の輪形陣は、下記のようになっています。
進行方向
↑
伊勢
木曾
響 叢雲
赤城
由良
指揮艦
ちなみに今日が作者の誕生日なんですよね。
あ、関係ないですね、はい(+_+)