不見倶楽部   作:遠人五円

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秘封倶楽部と不見倶楽部

「えーですからですねー、幽霊というのは一種のタルパのようなものであると思うんですよ。それは個人の領域を出ないものですが、集団が認知したタルパが幽霊として見えると、それが我らの説でありまして」

 

  遂に始まったオカルト総会であったが、それは副部長の言う通り別に楽しいものでは無かった。軽井沢大賀ホールというコンサートでよく使われている会場を一日借り切っての発表会。本来耳を(くすぐ)る美しい音色と光に包まれているステージ上での発表は、それがどうしても退屈で仕方なかった。朝八時から始まったオカルト総会は基本的に二つの部門に分かれている。成果物の発表がまず一つ。もう一つは成果物の展示だ。展示と発表の両方をやる部活もあるのだが、不見倶楽部は後者に当たる。願子たち四人の書いた化け猫観察日記と、副部長が出したものは展示のみのものであり、数日前に審査のために提出は済ませてあるため、後は他の部の発表やら展示品を見て表彰までの時間を潰せばいいのだが、その時間すら今の四人には苦痛であった。

 

  その理由は幾つかあるが、一つは昨日訪れた少女だ。秘封倶楽部会長『宇佐見菫子』、そう名乗った少女は、昨日ホテルの一室で何をしたのかというと結論から言えば何もしなかった。大袈裟な登場にもかかわらず、少女がやっていたことは先程まで無かった壁の凹みが気にかかり、ホテルの宿泊客たちに聞いて回っていたらしいということ。その時に伯奇が苦い顔をしたのは言うまでもない。副部長が「知らね」というと特に菫子は何も言わずに出て行ってしまったが、部屋に入ってからずっと伯奇を見ていた菫子の様子と、願子たちが今まで会ってきた幻想の存在とどこか似通った雰囲気を持っていることが頭の片隅に引っかかる。

 

  もう一つは今まさにこの状況だ。

 

「はあ? あの人間何言ってるのよ、タルパってなに? 幽々子様とかがそんな存在なわけ無いじゃない。ね?」

「ははは、そーだねー」

 

  オカルト研究部たちの発表は頑張っているのは分かるのだが、普段聞く副部長の話と比べるとどうにも具体性に欠け、また実演の実験もあるのだがどれも失敗するものばかり。これがネクロマンサーだと言ってカエルの死体に電極をぶっ刺し破裂させた発表を見たときは四人ともドン引きした。そんな発表を受けて、それに詳しい橙が口を挟まないわけがなく、解説のためにきたオカルト関連の教授たちよりも詳しい橙のダメ出しが続き、願子たちはあまり発表自体を楽しめなかった。

 

  今四人が出来ることと言えば橙を(なだ)めつつ、その橙が時折零す教授たちの解説よりも面白い解説に耳を傾けることだけだった。

 

「まさかこんな感じになるとは思わなかったよ……。なんて言うんだろう、勝手に自分でハードル上げてたっていうかさあ」

「なに言ってんの願子、副部長がもともと楽しくはないって言ってたでしょ」

「あら、それはそうだけど私ももっとこう楽しくなくとも面白いものだと思っていたわ」

「だからね、紫様が仰るにはね!」

「へーそうなんですか、知りませんでした。まさかホブゴブリンにそんな使い方があるなんて」

 

  ぼやく三人の代わりに杏が橙の相手をしているが、どうも話がだいぶ明後日の方向に飛んで行ってしまっているらしい。それを三人は横目でちらりと見てみるが、かなり面倒くさそうなので橙の相手を杏に完全に投げ渡し、右から左に流れていく話をBGMに会話を続ける。

 

「それにしてもあの宇佐見菫子って人なんだったんだろうね」

「知らないけど、前に一度話題には上がったじゃん。まあ菫子じゃなくて秘封倶楽部がだけど」

 

  伯奇が不見倶楽部を強襲した日、丁度その日にオカルト総会の出席名簿に上がっていた秘封倶楽部を名前が似ていることもあり、オカルト総会前から願子たちも気にはしていた。

 

「名前しか分からなかったけどね」

「あらそれなら今日貰ったパンフレットを見ればいいのよ。部活の紹介文が乗っているでしょう? うちも副部長さんが書いていたし菫子さんも書いているんじゃないかしら?」

 

  久し振りの塔子のグッドアイデアに願子たち三人は入り口で手渡されたパンフレットをパラパラと(めく)る。出席校の数が数なので結構分厚く、部活の名前の下には塔子の言った通り部活紹介文と、部員数が載っていた。どうも文字数制限が無いようであり、どの部活も五行以上の長ったらしい紹介文である。秘封倶楽部のページを探す中で三人の目に付いた不見倶楽部の紹介文。

 

『見えないものを見て、聞こえないものを聞く部活』

 

  このたった一行だけであり、周りの文字だらけの紹介文たちの間ではそこだけぽっかり穴が空いているように見える。しかも他の部は普段の活動などを書いているというのに、はっきり言ってこれでは意味が分からない。さらに部員数が、副部長と願子たちで五人のはずなのに六人と表記されており、副部長は別に名が売れなくていいと言っていたが、これでは悪目立ちしてしまう。実際に受付で願子たちが不見倶楽部の名を出した時白い目で見られたのだが、確実にこれのせい、間違いなく周りは厨二病の残念な集団だと思っているに違いなかった。

 

「ふ、副部長……」

「これ絶対他に書きようあったでしょ、副部長絶対楽しんで書いたでしょこの紹介文」

「副部長さんて実は愉快な人だものね」

「言っとくけど塔子、これのせいで今愉快なのはあたしたちだから」

 

  後で説教ね、とまるでお母さんのようなことを言って友里がさらにページを捲り、三ページほど捲ったところでようやっと秘封倶楽部の項を見つけることが出来た。部員数はたったの一人、つまり宇佐見菫子だけである。そして肝心の紹介文に書いてあったのは、

 

深秘(ひみつ)(あば)く』

 

  不見倶楽部の紹介文よりさらに短い、というかもう一言である。それに曝くってなんだ、もう活動とか以前にそれはただの宣言ではないのか、同じようにパンフレットに穴が空いたように載っている秘封倶楽部の紹介文にそんなことを考える三人。

 

「なんでだろう、凄いシンパシーを感じるね」

「その言い方だとあたしたちまで仲間見たいじゃん、副部長と菫子がでしょ」

「実際どうなのかしらね、副部長も部長がいなくなってから一人で部を廻していたんでしょう? 副部長と菫子さんて実際似てたりするんじゃないかしら?」

「そんなことはどうだっていいけど、その副部長と伯奇はいったいどこに行ったのよ」

「私が見てみようか?」

「別にいいでしょ、そこまでしなくて」

 

  三人がそんな話をしている時、あまりオカルト総会に興味のない副部長はこの時会場の外にいた。会場の外のある池を眺めることもなく、手すりに寄り掛かる副部長の隣に伯奇もおり、副部長と同じ方向へ厳しい視線を飛ばしていた。

 

  二人の前には昨日部屋を訪れた少女、ニコニコと愛想笑いを浮かべた宇佐見菫子がいる。軽井沢大賀ホールに着いてからというもの、副部長たち一行に気づかれないように尾行していた菫子だったが、願子たちには気がつかれ無かったものの副部長たち三人にはバッチリ気が付かれていた。

 

  昨日同様に菫子が伯奇を見ていることに気が付いた副部長が伯奇を伴って菫子を釣ったというわけだ。その作戦は見事に成功したと言える。オカルト総会も始まり今この場には三人しかいない。

 

「宇佐見さんだっけ? うちのおまけに何かご用ですかね?」

「おい! 誰がおまけだよ‼︎」

「だってお前不見倶楽部の部員じゃないだろう」

「それでも言い方ってもんがあるだろうが!」

「あの、そろそろいいですか?」

 

  菫子はというと副部長と伯奇のことをどうにも測りかねていた。副部長たちが自分を誘導していることには分かっていたが、菫子もあえてそれに乗っかったのだ。だというのにいざ三人きりになった途端こんな漫才を見せられるとは思っていなかった。

 

「ああ悪かったな、それで要件は? 出来れば過激なことじゃないといいんだがどうかな?」

「へえわざわざそう言うってことは過激なことだと思ってるんですかね? 私普通の女子高生ですよ?」

 

  今まで伯奇に向けられていた目が副部長の方へ向く。ただその目は見下したものであり、副部長は初めて伯奇と会った時のことを思い出していた。なんでこんな女の相手ばかりしなければならないのかと内心で溜息を吐く。太陽の光を受けてキラリと光る菫子の眼鏡がどうにも鬱陶しく、好奇心という名の毒に侵された者の顔を毎日嫌という程見ている副部長には願子の姿と重なって見えた。

 

「半々だな。俺は別に読心術者じゃないものでね」

「それでも半分はそう思ってるんですね」

「そりゃあだって、昨日万平ホテルで伯奇を壁に押し込んだのはお前だろう?」

「は? おい副部長マジで言ってんのか」

「マジもマジだよ、それだけは間違いない。幽体離脱はその構成要素の半分に自分の魂を使っているからな。それが器となり、後はそれを満たしているものが電気だろうと霊気だろうと器は変わらない。魂の形っていうのもその者固有のものだから一目見れば分かるさ」

 

  副部長の言葉を聞いて目の色を変えたのは伯奇ではなく菫子の方だ。昨日不見倶楽部の宿泊室に赴いたのは、自分に手を出そうとしてきた存在が気になったからだ。今までいろいろとおかしなものに触れてきた菫子であるが、人が幽体の自分に手を出そうとしたのは初めてだった。だからこそ興味の対象である伯奇を追ったのだが、そこに着いてきたおまけ。部屋の中にいた六人の中で副部長には特に期待していなかった菫子の考えは変わる。

 

「見れば分かる……ですか、おかしな事を言いますね貴方は。ひょっとして貴方も普通じゃないんですかね?」

「すこーしだけな」

「へぇ……」

 

  菫子の問いに目の前で指で何かを摘むような動作を付けて答える副部長はふざけているように見えるが、そうでは無い。初めて伯奇と会った時のように、好奇心から段々と好戦的な空気を発し始める菫子を落ち着かせるためのものだったのだが、これは逆効果であったらしい。挑発していると受け取ったのか、横に伸びる口端はどうにも平和にはいかない事を示していた。

 

「まあ待ってくれ、お前のお目当の相手は俺じゃなくて伯奇だろう? なら俺に絡むのはそっちの要件を終わらせてからでいいんじゃないか?」

「んー、そうですね、いいですよその口車に乗ってあげましょう」

「おい副部長お前なにあたしを売ろうとしてんだよぁあ?」

「これが今回の旅行代だ」

「チッ、クソ!で? あたしに用事ってなんだよ、くだらないことだったら泣かす」

 

  冗談じゃないと示すためか伯奇の身体から真っ赤な霊気が漏れ始める。相変わらず怒りで霊力を振るう伯奇の霊力の色は赤。可視化できるほど濃度の濃い霊気を受けても菫子は戸惑うことはなく、寧ろ嬉しそうに顔を綻ばせる。そうすると伯奇の元へと歩いて行き、急なことで面食らっていた伯奇の手を両手で掴んだ。

 

「凄い! 私とは違うみたいだけど似たようなことができる人に外で初めて会ったの! やっぱり貴方は本物だったのね! ねえお願い名前を聞かせてくれないかしら⁉︎」

「なんだよお前……ったくあたしは博麗伯奇だよ」

「博麗⁉︎」

 

  パッと手を離し距離を取る菫子の顔からは笑顔が消えていた。その理由は明白だ。『博麗』、その名を聞いてこの反応、菫子は博麗のことを知っている。

 

「貴方、博麗の巫女……じゃないわね、前に幻想郷で見た人とは違うみたいだし」

「なっ! お前幻想郷に行ったことがあんのか⁉︎」

「ある。まだ短い時間しかあっちには行けないけどね。その意味はそっちの男の人の方が詳しそうね、博麗の名も幻想郷の名も聞いても全く動じてないみたいだし」

「幽体離脱だろう? 面白いことを考えるもんだ、半分幻想でも半分はそうじゃないからってところだろう」

「その通り! 貴方話が分かるわね、やっぱり普通とは違うみたい」

 

  少し落ち着き余裕が出たのか、口調も砕け偉そうな態度に戻った菫子に向けられるのは厳しい伯奇の目と、同じく厳しいものになる副部長の目。自分から幻想郷へ行こうという存在を止めることはしない副部長であるが、菫子の様子はどうもそれとは違う空気が言葉の端々から感じられる。

 

「それで? 博麗は分かるけど貴方はなんで幻想郷のことを知ってるの?」

「知ってちゃ悪いか? うちだってオカルト研究部だぞ、知っててもおかしくないだろう?」

「その割には博麗と一緒にいたり普通より詳しそうじゃない、なんで?」

「……べつに言うことでもないさ」

 

  副部長の煮え切らない態度に菫子が取ったのは単純なこと。足元に散らばる小石が急に空中に浮いていく、それに驚いたのは副部長ではなく伯奇の方だ。霊力や魔力といった力をまるで感じることができない。それなのに目の前では普通ではありえない事象が起きている。手を前に掲げる菫子の動きに従って浮き上がっていく小石は菫子がやっているのに間違いない。菫子が指を鳴らしたのを合図に副部長へと小石が降る。石飛礫の時雨に綺麗さはなく、あるのは単純な破壊力を内包した無骨さのみ、ただそれは伯奇の結界によって簡単に阻まれ軽い音を上げると何もなかったように大地に帰った。

 

「てめえ……!」

「へぇそれが結界、初めて見たわ」

「お前いったいなにしやがった!」

「あれ? 分からないの? 博麗なのに」

 

  小馬鹿にした表情を浮かべる菫子がこてんと首をかかげる姿は伯奇の怒りの導火線に見事に着火させた。世界を沈ませる力が徐々に溢れ出し地面に影のように広がろうとしたが、副部長が伯奇の肩を叩いたことで最悪の事態は避けられた。

 

「おい落ち着け伯奇、ここでおっぱじめてどうする。こんなとこでやってみろ、八雲紫もいないんじゃあ誤魔化すのも無理、仕事が増えるどころの騒ぎじゃ無くなるぞ」

「だがよ!」

「分かってる。が、それでも今はダメだ。……宇佐見さん、あんまりこいつを挑発するなよ、お前が思っているより伯奇は強いし負けることになるぞ」

「そんなのやってみなければ分からないでしょ、それに私の力がなんなのか分かっていないみたいだし負けるのはそっちなんじゃない?」

 

  不敵に笑いまた小石を浮かせる菫子は本当にそう思っていた。それは副部長にも伯奇にも分かるのだが、それに乗っかりここで闘いを始めて仕舞えば会場にいる千人以上に幻想を知られてしまう可能性が大きい。それもただの一般人ではなくオカルトに興味のある者たちにだ。それは避けなければならないため、仕方がないと副部長は言葉を続けた。

 

「そうでもないさ、それは超能力だな。悪いが俺は宇佐見さんほどじゃないが超能力を使う奴を一度見ているからその流れで分かるぞ」

「嘘……貴方……人間?」

 

  言葉だけでは効力が薄いかもしれない。そう考えた副部長が遂に秘密を隠していた薄い膜を取り払う。昼間でも目立つ深緑の輝きに目を奪われた菫子から出る言葉は副部長が人間であるかどうかも疑わしいといったものであった。その感想からして効果は絶大だ。

 

  小石がポトリと地面に転がり、それに繋がっていた見えない手のような流れが消える。

 

  それにしてもすごい力だと副部長は思う。

 

  超能力、通常の人間にはできないことを実現できる力、サイコキネシス、パイロキネシス、テレパシー、アポート、テレポーテーション。超能力と言われるものだけでその種類は膨大な数に及び、実現する現象も全く異なる。科学的な見方が強く、一般人に近代最も身近なオカルトの一つと言っていい。

 

  そんな果てしない万能に近い能力は副部長でも一度見ていなければ気づかなかっただろう。諏訪の祟りの中にあった超能力に対する信仰、その負の感情によって生まれた祟りの怪物との闘いは副部長が思い出したくない祟りランキングの上位に位置する。

 

  動かなくなった菫子を見て、副部長はここで決めるために口を動かし続ける。好奇心によって動く者を止める時は、その好奇心を満足させ、別のものに興味を移すのが一番だ。副部長の蟲の目を見つめる菫子の意識は伯奇から副部長へと確かに移り始めていた。

 

「人間だよ、どうしようもなく人間だ。それよりこれで分かっただろう? ここには伯奇にお前の能力を看破できる俺がいる。ここで闘えばそっちの負けは確実だ。土産に俺が幻想郷のことを知っている理由を話してやるからそれでここは手打ちにしないか?」

「……分かったわ、話して」

「俺は昔親友を幻想郷に送った。だから知ってる満足か?」

 

  幻想郷に送った? 副部長の話を受けて菫子の目が見開く。人が人を幻想郷へ送る。それがいったいどれだけ凄いことなのか分からない菫子ではない。菫子は『超能力を操る程度の能力』という規格外の力を持つ少女だ。そんな菫子でも入るのに苦労し、(あまつさ)え妖怪や幽霊ではなく人を幻想郷に送るということがどういうことか。

 

「本当に? 貴方が?」

「俺はこういう時に嘘を言えるほど器用じゃなくてな」

「ふーん……いいわ、引く。ただ貴方とはまた絶対会うわね」

「いや多分もう会うことないんじゃ」

「私が会いに行くもの」

「あ、そう」

「だから名前教えてくれない? そうじゃないと不便でしょ」

「……俺は不見倶楽部の副部長だよ」

「いや、そうじゃなくて名前」

「俺は不見倶楽部の副部長だよ」

「いやふざけてないで」

「俺は不見倶楽部の副部長だよ‼︎」

「……はいはい分かりました、分かりましたよ」

 

  明らかにドン引きしている菫子におかしいなと首を傾げる副部長の方がおかしいのだが、困ったことにここにはそれを指摘してくれる者がいない。

 

「それではこの辺で私は失礼しますね副部長さんに伯奇さん」

「てめえ次会う時は首を洗っておけよ!」

「そんなことしなくても私の首は綺麗ですよ」

 

  捨て台詞を残して菫子は飛び去っていく。会場に行かず空を突き進む菫子はそのまま帰る気らしい。丁度菫子が見えなくなったのと合わせて、会場から五つの影が副部長と伯気の元に走ってきた。色眼鏡を掛けた願子が先頭にいるあたり副部長たちを見つけたのは願子であり、その願子の姿に副部長は少し汗を流し、急いでコンタクトを付ける。

 

「副部長探しましたよ! 全く‼︎」

「ぉお願子? どうしたんだよそんなに急いで何かあったか?」

「なにかあったか? じゃないですよ! もうすぐ表彰ですよ! なんで外なんかにいるんですか⁉︎」

「いやあちょっと風に当たりに」

「なんか副部長先輩怪しいです」

「え? いやそんなことないってなあ伯奇?」

「ん、おうそりゃあれだ副部長が昨日の幽霊の正体見つけてよ」

「あら凄い! 流石副部長さんね! 教えてくれるかしら?」

「いやそれは後でもいいでしょ、今は表彰!」

 

  幽霊の正体に目を輝かせる三人の代わりに友里が全員の背中を押し、会場の中へと戻る。発表の時は席はかなりの数埋まっていたが、まだ疎らに空いていた席が目に付いた。その時とは異なり表彰のために全国のオカルト研究部が一同に集まっている場は壮観の一言に尽きる。

 

  暗い会場の中唯一スポットライトを浴びるステージは光り輝いて見え、最初に発表部門の優秀者たちが表彰されていった。司会の若い男性の声が会場に響き、渋い髭面の偉そうな人が賞状を渡していく。

 

「あ、カルト新聞部の人たちが呼ばれてるよ」

「あれは表彰されますよ、なんていうか情報量が段違いでしたもん」

「流石新聞部って付いているだけあるってことかしら?」

「へー、なんだよ面白かった?」

「「「「うーん……」」」」

「あ、そう」

 

  表彰は特に問題なく粛々と進んで行き、発表部門の方の最優秀賞は京都の五光同盟が選ばれ終わった。次は展示部門、これこそ不見倶楽部の部員たちが待ち望んでいたものだ。優秀賞、最優秀賞、この二つのどちらかには選ばれたいと願子たちは強く手を握る。

 

「優秀賞は、ーーーー」

 

  不見倶楽部の名前はない。選ばれたのは五校、その展示物は確かに面白く願子たちも納得せざる終えないものだった。悪魔を呼ぶ触媒の作り方、幽霊の見方、地獄の歩き方等々良く作り込まれていたものだ。最後に残った最優秀賞は流石に無理だろうとがっくし四人は肩を下ろす。

 

「最優秀賞は、不見倶楽部‼︎」

「「「「え?」」」」

 

  だが天は彼女たちを見放さない。そう、諏訪で駆け回っていた日々は無駄では無かったのだ‼︎

 

「おい、これ名前は?」

「それが分からなくて……」

「はあ? なにやってんだ」

「いやですけど」

 

  ただマイク越しになんかごちゃごちゃと聞こえてきて願子たちは喜ぼうにも喜べずにいた。横にいる副部長の顔を伺おうとちらりと見ると、副部長は満足気に頷いているばかり。

 

「えー最優秀賞は不見倶楽部の副部長が書いた信濃物語です! ここまで詳しく長野の民間伝承をまとめ上げるとは素晴らしい! まさに長野版遠野物語です! 特に諏訪の項目は教授たちでさえ唸るような出来でした! おめでとう‼︎ あ、あと同じく不見倶楽部の化け猫観察日記も努力賞です。発想は面白い、次回も頑張ってください!」

「おーやったなお前たち、努力賞だってさ」

「副部長、それって嫌味?」

「いやそういうわけではなくてですね友里さん」

「副部長先輩のいじわる!」

「いや杏? そういうことじゃなくて」

「流石に酷いわ副部長さん」

「いやいや塔子さん⁉︎」

「見損なったよ副部長!」

「いやいやいやいや」

「お前が悪い、諦めとけよな副部長」

「お前ら絶対楽しんでんだろ!」

「「「「代わりに今日のディナーは豪華にお願いしまーす!」」」」

「ああもう分かったよ‼︎」

 

  これなら高くなってもディナー付きで万平ホテルに予約するべきだったと副部長は激しく後悔した。

 

 




宇佐見菫子が出てきましたね。皆さんが思ってるだろう通り深秘録への布石です。ただこれは最終章での出来事になるのでまだ大分先になりますね。

一葉高校念願の症状ゲット、生徒会長が転げ回って喜びます。オカルト総会編は次回で終わりです。またオリキャラの新キャラが出ちゃいますね。原作キャラを書いてバランスを取りたいです……。

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