Growth of Fighter   作:陽下 ノクト

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すっごく間が空きました。ごめんなさい。


Chapter 0

 ショップエリアでは、オラクルのアイドルであるクーナのライブが行われていた。シエラさんはどうやらこれを知っててこの場所を勧めたようだ。自分達が来たのがちょうど開始の時刻だったらしく、辺りは一気に歓声に包まれる。クーナは例の異世界での戦いが終わった直後もライブを行っていて、新曲を複数発表した。今から歌われるのはそのうちの一曲のようだ。

 『明るく、激しく、鮮烈に!』という彼女のモットーに合った、アップテンポで楽しげな曲。演出も非常に凝っており、空中に飛び出したり、ダーカーのような敵を双機銃で撃ち倒したり、終には大型のそれをA.I.Sと共に撃退するというスケールの非常に大きい、まるでアークスのようなパフォーマンス。

 曲が終わるとまた大歓声。彼女が愛されていることがよくわかる。

 しかし次の曲に入ろうとした途端に雰囲気が一変し、落ち着いた口調でクーナはタイトルを呟く。

「…光の果て。」

 ピアノとコーラスで始まった曲は静かに歌われていく。聞いた話では、何処かのとある少女たちをイメージした曲で、アネストロさんも作詞に関わったのだとか。

 その曲は少しずつ盛り上がりを増していき、サビに入る。

 “この世界は変わるよ そう、変えられるよ どんなときだって 笑ったり悩んだり 共に歩く君がいるから” 

 その歌詞を聴いた後、テルが呟いた。

「…ねぇ、ルーク君。今の歌詞、まるで……」

「ん、なに?」

「…ううん、何でもない。素敵だね。」

「そうだね。」

 その後に会話は無かったが、彼女の瞳は少し潤んでいた。

 

 ライブが終わって間も無く、シエラさんからの通信が来た。

「お二人とも、いかがでしたか?」

「とっても楽しかったです…!ありがとうございました…!」

「俺も楽しませてもらいました…ところで……どうやって通信してるんですか…?」

「聞かれると思ってました!これはですね、お二人の中のフォトンを通じて会話しているんです!こうすると、周りに聞こえることが無いんですよ~!」

「…流石は、全知存在の孫とも言える存在ですね……」

「えっへん!…で、本題ですが、お二人の教導役の方々が決まりまして、それぞれ連絡したのでもう少しだけ待っていただければいらっしゃると思います!」

「了解です!」

「はい。それでは、また!」

 

 待つこと数分、少し騒がしいと思って辺りを見渡したところ、誰かが此方に走って来ているのを確認した。

「見ぃつけたああああああ!」

「待てコラバカ姉!あんた関係ないでしょうがぁ!」

 バカ姉と呼ばれた女性は近くまで来てもスピードを緩めず、最終的に煙を上げんばかりの急ブレーキで停止した。反動で胸部のたわわな脂肪が揺れる。

「いぇい!アークス1の情報屋、パティエンティアのパティちゃん参上!君たちがアネストロさんの推薦を受けたアークス候補生君だね?連絡は聞いたよ~!」

「ど、どうも…」

…この人が教導役なのだろうか…?いや、無関係と言われていた。と言うことはあっちの妹と思われる人がそうなのだろう。大分高速で近づいて来ているが。

「ティアァァ……ッパァァァンチ!」

 叫びながら女性はパティちゃんと自称した人物の背部に向け、足を踏み込み上体を捻ったことでスピードが最大限生かされた拳をぶつける。

 クリーンヒットのために地にのびるお姉さん。

「鉄拳制裁だよ、パティちゃん。」

 一瞬のうちにおきたことが多すぎて、情報の処理が追い付かずに唖然とする他ない。

 一方、妹さんは拳を解き、痛そうに手を靡かせる。

 ……どちらの教導なのかわからないが、この人についていけるだろうか……

「お見苦しいモノを見せちゃいました。ごめんなさい。えーっと、初めまして。テルさんの教導役をすることになった、ティアです。」

「…テルです…よろしく……お願いします…」

 テルは相変わらずの細々とした声で答える。こういうところも治してくれるといいんだけど。

「こっちがテルちゃんってことは、君がルークくん?」

「…あっ、はい!そうです!」

 パティちゃんがなかなか起き上がらないが、大丈夫なのだろうか……?

「あぁ、パティちゃんは頑丈なのと衝撃の吸収性高いのが取り柄だからあんまり効いてないよ。大袈裟にこけて、死んだふりしてるか気絶してるかだから。」

「そのとーり!ティアも私の良いところを見つけられるんじゃん!」

「あれ、バカにしたつもりなんだけどな…あっそうそう。ルークくんを教導する人なんだけど、少し準備があるみたい。待ってる間にちゃんとした自己紹介しよっか。」

 

 

 思ったよりもこの人たちは凄い人達のようだ。まだアークスになったばかりの頃からアネストロさんへ情報を提供し続けたり、六芒均衡ですら入手し得ない情報を持っていたり、終いにはマトイ様を三人目のメンバーとして加えたらしいのだ。

 種族が同じであるからか、テルが話に聞き入り、彼女らに心を開こうとしている。情報屋としての彼女たちの能力が作用しているのだろう。非常に喜ばしい。

「おーい!パティさーん、ティアさーん!どこだー?」

 聞き覚えのある声がパティエンティアを探している。どうやら植えられている観葉植物に隠れて、此方が見えていないようだ。

「こっちこっち~!ずーっと待ってたよ!」

 パティさんは手を振りながら跳び跳ねる。やはり揺れている物を、ティアさんは忌々しく見つめる。悲しいかな、吸収力の代償は重くて軽く、柔く鋭い。双子に生まれたはずの二人に、なぜ差をつけられたのか。残酷だ。

 さて、声の主はどうやら駆け回って来たらしく、肩で息をしている。短く切り揃え、小さく三つ編みにしてある青空色の髪、真っ白な肌と、デューマンの女性の特徴である二本の角。小さき日の彼女を、俺は知っている。

「い…イオ姉?」

「ん?おぉっ!ついに来たね、ルーク。待ってたよ。」

 イオ姉とまた会えるなんて!しかも教導役になってくれるとは、何てツイてるんだ!

「え…知り合い…?」

「そ、家が近くてな。ちっちゃい頃遊んでやってたんだ。こいつはまだちっちゃいけどな!」

「イオ姉が成長速いんだよ!」

「ハハ!ごもっとも。」

 懐かしい。いくつも年は離れていないはずなのに、こうしてみると凄く頼り甲斐のある姉貴のようだ。

「それでイオ姉、なんの準備をしてたんだ?」

「武器の調達だよ。実を言うと、バレッドボウばっかり使ってたからカタナが鈍物しかなくてさ。アネストロセンパイに頼み込んでお下がりを頂戴したんだ。ほら、この黒いやつ。」

 そう言ってイオ姉は、カタナを見せびらかす。アネストロさんの双機銃と同様、本物の武器だ。そんなものををもらえるほど仲が良いと言うことだろうか。

「さて、そろそろ最初の授業始めた方がいいかな?パティちゃんは…情報の整理でもしてたら?」

「えー!私も授業したいー!」

「パティちゃんおもいっきり打撃型じゃない。イオちゃんの迷惑だよ。」

「おれは別に構わないよ、ティアさん。と言うか一人じゃ心配だからいた方がいいかも。」

「さっすがイオくん!分かってるぅ!」

「しょうがないな。面倒臭くなったらいつでも呼んで。すぐ回収にいくから。」

 了解、と答えるイオ姉。暫くテルとは別れることになりそうだ。

「…またあとで会おうね……ルークくん…」

「うん、またあとで。」

 そうして、最初の授業を始めるべく、俺たちは教導役各員の部屋に向かった。


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