「クーリースーマースーがーやぁーってーきぃーたぁー」
「そのクソみたいな歌を止めましょうよヴィヴィオさん。近所迷惑な上になのはさんが憐れなのと私の耳が腐ります」
「その喧嘩買ったよハルにゃん。表出ろよ。覇王が聖王に勝てねーってのはベルカ時代から変わってないから!」
構えようとした瞬間、キッチンから獣の眼光が飛んでくるので即座に構えた拳を下ろし、ヴィヴィオの横に並んで肩を組んで仲良しアピールする。それを受け取ったキッチンの主は数秒間こちらを眺め、満足した様に頷きながらキッチンの中へと消えて行く。その姿を見送ってから息を吐く。ヴィヴィオから離れて再びクリスマスツリーへと向き直り、足元の箱から装飾を拾い上げ、それをクリスマスツリーに飾って行く。それはミッドチルダにもベルカにもない文化だった。なのは達”地球”出身者たちの文化で、とある聖人の生誕を祝うのが始まりで―――今ではただ単にパーティーをする為だけの口実、そういう日だった。
息を吐く。白くはならない。室内だから当然だ。だがクリスマスツリーの向こう側、ガラスの向こう側の景色を眺めれば、そこには白く染まる家の庭の姿が見える。クリスマス、それは冬のイベントの一つだ。もうすでに何度か経験していても、異なる文化のせいかなれない。それとも自分の過去が”祝う”という事から極力離れた人生を送っていたからかもしれない。ただ、それでもちゃんと楽しめている自分がいるのは確かだ。悪くはない。そう思っている。今ではちゃんと友達もいる事だし。
「それにしてもクリスマスですか、不思議な文化ですね」
「ハルにゃん、そうは言うけどベルカ自治区に行けばみんなグランドキャニオン聖王の誕生日祝っているし、多分同じようなノリだよ。なんかめでたかったらとりあえず祝っておけばいんじゃね? 的な」
「凄い……この子……流れる様に自分の過去をディスってる……」
「ヴィヴィオちゃんの未来は巨乳で確定しているし、貧乳とナイチチは無条件で見下すべきかなぁ、って……」
なのはは絶対に教育に失敗したと思う。もしそうじゃなかったらベースとなったオリヴィエの人格が相当残念な人物だったのだと思う。可能性としてはヴィヴィオがただ単にキチガイの極みにある可能性が一番高いのだが、友人というポジションにある身としては友人が根っからのキチガイだとすると自分の評判まで悪くなってしまう。もうすでに遅いような気もする。なるほど、
「ヴィヴィオさん、今日から友人という関係を辞めませんか」
「じゃあどうするの」
「飼い主とゴクツブシで」
「お、今日はハルにゃん死にたいのかな」
そこから構えた所をにらまれて仲良しアピールまで再びワンセット。いつものノリでいつものコントが終わったところで、さっさとクリスマスツリーの飾りつけを進める。本当なら何日も前から飾っているものらしいが、今年はなんだかんだでみんな忙しく、こうやってクリスマスの準備をするのを忘れていたせいで今、バタバタとしてしまっている。まぁ、理由は解る。少し前に発生した”マリアージュ事件”が原因だ。イクスヴェリアの寝顔があまりにも穏やかだから顔に油性ペンで落書きしてしまったのはいい思い出だ。
「それにしてもなんだかんだでバサラ家と高町家の交流も日常的なものになりましたねぇ」
「ママ達、ずっと前から友達やってるからね。たぶん私達もママ達みたいにずっと仲良くやってるんじゃないかなぁ」
ヴィヴィオにそう言われて、そうだな、と思う。なんだかんだでヴィヴィオとは長い付き合いになっている……なってきている気がする。まだ数年の付き合いだ。だけどたぶん、このまま、何でもない関係がずっと続くような、そんな予感はある。生まれ変わってもこうやって、出会ったのだから。きっと、この先もずっとそんな関係が続く気がする。まぁ、悪くはないのだ。悪くは。
一旦そういう考えを頭の中から追い出して、クリスマスツリーの飾りつけをさっさと進めてしまう。今、忙しく働いているのは自分だけではない。管理局の方で仕事をしている人や、子供の相手、料理の準備等で皆、忙しくクリスマスパーティーの準備を進めている。そんな中で、自分たちも遊んでいるのは少々不謹慎だろう。そう思い、さっさと手伝いを頼まれたツリーの飾りつけを進める。途中からヴィヴィオとどちらの方が芸術点が高いかの勝負になってくるが、どうあがいても芸術性ゼロのヴィヴィオより自分の方が上手く飾れたに決まっている。
と、そんなことをしている間に飾りつけが終わる。
「まぁ、こんなもんですね」
「ビューティフル……」
装飾の中にはなぜか気絶しているリィンフォース・ツヴァイの姿とアギトの姿があるが、きっと自ら志願したに違いない。二人には特等席としてツリーの頂上が与えられている。これはこれでなんか捕虜を拷問しているような感じになってきた。拷問だ、放火だ、とどっかへと攻め入るたびに叫んでいるコンビがいる事だしこれで良しとしよう。
「ヴィヴィオにアインハルト、どうやら飾りつけが終わった様だな。しばらくは好きにだらだらしていても良いぞ」
「わぁい!」
「ありがとうございます」
キッチンからエプロン姿のディアーチェに許可をもらったので居間の方へと移動し、ソファ前のテーブルに置かれたボウルからお菓子を手に取り、ソファに座りながらそれに齧りつく。自分が選んだのは”ジンジャーブレッドマン”というクッキーであり、ヴィヴィオが選んだのはショートケーキの一切れだった。それを紙皿の上に乗せて、もぐもぐと食べながらつけっぱなしになっているテレビへと視線を向ける。つけっぱなしになっているテレビではエンタメ番組がかかっており、現在のミッドチルダの流行や出来事をつらつらと見せている。
「あ、クロノさん」
「ほんとだ」
クロノ・ハラオウンが番組のゲストの解説役として出演していた。意外と身近な人物なので、テレビに映っているのを見てちょっとだけ驚いて―――そして思い出す。なんだかんだで自分たちの周りにいる人物って有名人だよね、と。なのはやイストは雑誌やテレビの取材は何度も受けているし、そういう事で何度か仕事をもらっていることもある。自分とヴィヴィオはそこらへん、聖王教会が全力でストップをかけているからなにも来ないらしいが、管理局や聖王教会の仕事”だけ”だと完全にスケジュールを詰められちゃうので、ある程度は自由がきくように軽い立場にして、仕事を少な目、その代わりにこういう仕事を偶に受けてはお金をもらっているとか。
難しい事は良く分からない。だけど、家族を養うという事が難しい、というのは良く知っている。
特にバサラ家は人が多い。その分お金だって必要になってくる。その分、働かなくてはならない。
『―――という事でして、質量兵器の所持に関しては現状様子見という所でしょう。”魔法の様に非殺傷設定がない”と言われていますけど、その言い分は次元犯罪者には通じませんからね。ぶっちゃけた話、セーフティを設けて管理すれば古代ベルカの様な事を恐れる必要はないと思いますね』
『成程、それではクロノ提督に最近の夜の生活に関してをコメントしてもらいます』
『良し、その前に管理局のトップエースの鍛錬法を経験させてあげよう』
「最近はテレビの方も容赦がなくなってきましたね」
「トップがはしゃいでると伝染するからね」
もぐもぐと食べながらどっかで見た事のある芸風に騒ぐ番組の様子を見る。昔と比べて今の世の中は割とタガが外れてぶっ飛んでるなぁ、という思いだ。まぁ、全ての原因はジェイル・スカリエッティだろう。あの男がこの世界で大暴れしたのだ。あの男が欲望のままにふるまい、世界にその姿勢を示した―――その結果、どこかで人間の本能的な何かが外れた……様な感じもする。
なんというか、もっと、自分に正直というか。
そういえば今、ジェイルはどうしているのだろうか。重犯罪者であるのは確かだが、管理局に対する奉仕活動をすさまじいペースでこなしている、というのは聞いた話だ。きっと、今頃留置所で娘たちとクリスマスでも楽しんでいるのだろうか? あの男はなんだかんだで異世界の文化に詳しかったり、お祭りには目がなかったりするし。
そんな事を考えていると、携帯端末にメッセージが送られてくる。ポケットから取り出し、送信者がエリオであるのを確認した瞬間、内容を開く前にポケットの中に押し戻す。どうせ内容はいつもと変わりがないからこの際、無視した方が楽だ。そんな風に判断して視線をテレビへと戻したところで、
―――ズドン、と地に響くような音が庭の方からする。
流石に無視するわけにもいかず、視線を持ち上げて窓ガラスの向こう側、中庭へと視線を向ける。そこには奇妙な姿がいくつかあった。
一つ目は全身茶色のタイツにつのを頭から生やした男の姿であり、その肩にはソリが担がれている。そしてそのソリの上で仁王立ちをしているのは茶髪の女の姿だ―――ただし服装はミニスカートのサンタ服装という冬には少々寒すぎる格好だが。いや、よく見ればトナカイスーツもサンタ服もどちらもバリアジャケットのデザイン変更機能を利用されているのは解る。体温調整機能によって寒く感じる事はないだろう。とりあえず二人―――イストとなのはがクリスマス用にコスプレした来たのは解る。しかしなぜソリ。そしてソリの上で仁王立ちしている。
「あ、ママ達だー!」
わぁい、と言いながらヴィヴィオがガラス扉を開ける。一気に冷気が家の中へと入り込んでくるが、それが完全に部屋を侵食する前に素早くトナカイ&サンタがソリを捨てながら中に入り込んでくる。二人は体を軽く動かしながらいやぁ、と言葉を漏らす。
「メリィィィィクリスマァァァス少女達よ! 良い子にしてたかな? ん? んン? 悪い子は戦犯扱いされて裁判行きだからな! A級戦犯になっちゃだめだぞぉ? A級戦犯になるとこうなるからなぁ!!」
そう言って
「というかママ達今日は無理やりお休み取ってるはずなのに朝から何をしてたの?」
ヴィヴィオの言葉に
「うん? 実はね、今日は休みのはずなのに急に無限図書館が”一人だけ楽しいクリスマスとか許せねぇ……!”とか言ってね、無限図書館内に他の司書たちと一緒に立てこもり始めたからちょっと昔懐かしいタッグ組んで爆撃してきたのよ。おかげでユーノ君を連れ戻すこともできたし―――ほら」
外へと視線を向けると、ソリの上には大きな白い袋があり、そしてそこから首だけを出すような形でユーノ・スクライアの残骸があった。
「ユーノパパァ―――!?」
「惜しい奴を亡くしたぜ……」
「これからスカリエッティ脱獄させてユーノ君を蘇生させなきゃ」
「いや、死んでないから」
もそり、と音を立てながら袋から脱出しようとして―――庭の雪の中にユーノが顔面から沈んだ。それを全力で笑ったトナカイが開け放たれた庭の中へと蹴りによってリリースされ、ユーノが回収される。そのまま閉じられそうな瞬間に、バインドがサンタを掴み、中庭へと引きずり戻す。結果、サンタとトナカイと引き換えに
「アレであの二人には友情しかないって言うんだからねぇ。立場関係なしに身内の中で一番仲が良いのはあの二人なんじゃないかなぁ」
「なんか、終わりのない友情って感じでちょっと憧れますよね」
そう言っている間にトナカイとサンタがクロスカウンターを決めていた。そこからバックステップ、プロレスみたいにポーズを決めながら構え始める。本当に仲が良いなぁ、と思っていると、横で雪の詰まったメガネをどうにかしようとユーノが足掻いていた。そしてそのまま床に倒れた。ユーノから視線を外してガチ殴り合いを始めている庭の二人へと視線を向け、そこから視線を外してテレビへと視線を向けなおす。
「ヴィヴィオさん、なんか暇つぶしにゲームでもしましょうか」
「んー、2人で遊べるもんで……真・ベルカ無双Ⅲとか?」
「Ⅲってクラウスが産廃性能に調整された奴じゃないですか。Ⅴの方にしましょうよⅤに」
「えー、そっちはゆりかご実装されてないじゃん」
「むしろマップ兵器で蹂躙する予定だったんですか」
「ゴミの様に吹き飛ぶ敵を見るのって楽しくない?」
やっぱりオリヴィエって結構残念か暗黒な性格をしていたと思う。じゃなきゃヴィヴィオもこんな風に―――いや、親とかが非常にアレだからオリヴィエは関係ないかもしれない。
「アインハルトー、ヴィヴィオー、そろそろ並べますから手伝ってくださーい」
「はぁーい」
何時の間にかキッチンに増えていたユーリの声に返答しつつ、立ち上がってキッチンの方へと向かう。
なんだかんだで、今年のクリスマスも楽しく過ごせそうな気がした。
ちょっとだけ未来のクリスマス。マテリバ後、ヴィヴィメモ前のお話。やっぱりこの両家は馬鹿ばっかりやってるんだろうなぁ、という感じのお話で。
連載当時はコンビの息の合い方からこれ、ルートあるんじゃね? とか言われつつも男女の友情というものを完全に成立させたコンビだったり。ホントなんで成立してるんだろうな。
ともあれ、グッドクリスマス!