マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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フロウイング・ナウ

 空に浮かび上がる黒い船。それを見上げながら漏らせる言葉は一つだけだった。

 

「出やがったな……!」

 

「ナカジマ隊長アレは―――」

 

「うろたえるんじゃねぇ! 俺達は俺達の仕事をスマートにこなせ! いいか、雑魚の俺達ができる事を思い出せ、そして実行しろ! 大将が折角俺達でもできる事を見繕ってくれてるんだ、それさえできないなら俺達は雑魚以下の屑だぞ!」

 

「ハイッ!」

 

 前線へと駆けつける部下へと指示を投げながら再び空を見上げ、黒い巨大な船の姿を視認する。―――ゆりかご。それがあの兵器の名前。既に隊長格にはそれが古代ベルカの遺産であり、そしてスカリエッティの切り札であるという情報は公開されていた。末端にまで公開されなかったのは必要以上の混乱を避けるためだろう……少なくとも戦闘中に情報を受け取ったら考える事が多すぎて混乱する暇がない。だからそれはいい、だが、

 

「でかいな、アレは」

 

 巨大な三角形、形としては戦闘機を超巨大化したようなものだ。ただ明らかに戦艦よりも大きなサイズをゆりかごは誇っている。アレが本当に古代ベルカ時代に数々の次元世界を滅ぼした死の箱舟であるとすれば、戦艦や航空船での空からの支援がない今の状態、かなりきついというか無謀な相手になる。最初に空港を破壊されたのは飛行戦力を潰す為だというのは理解しているが、

 

「やっぱりかぁ」

 

 空を見上げれば飛行する鋼の塊が見える。相手側の航空戦力が本格的に出現し始めている。そして、

 

 爆発を感じる。舌打ちをしながら前方へと視線を向ければ部下が数人、倒れている。その先に存在しているのは新たな姿のガジェットだ。今度のは今までの様に小さい、スマートなタイプではない。もっと巨大で、数メートルほどの大きさを誇る巨大なタイプのガジェットだ。その横にはカマキリを思わせる様な鎌を装備したガジェットも存在し、その鎌にはべっとりと血が付着していた。良く見れば防壁だったものはその鎌によって切断されていた。

 

「作戦開始から2時間、ここが俺達の限界か……? 一旦下がるぞお前ら! まだ爆発してねぇやつをくれてやりな!」

 

 後ろに下がりながら指示を出す。命令通りに部下が戦闘を続けつつも後ろへ下がる。爆発が生じ瓦礫が吹き飛び―――しかしガジェットの歩みは止まらない。今回現れているものは今まで戦っていた物よりも遥かに頑丈で、そして優秀にできているらしい。体から出すコードで爆破と瓦礫をある程度防いでいるのが見える。これは完全に自分の手には負えないな、と判断する。

 

「―――その為の我々です」

 

 撤退を判断した次の瞬間、凄まじい速度で横を抜け、一瞬でガジェットまで到達した姿がある。その姿は巨大なガジェットの姿まで到達すると軽い跳躍をを行い、そこから一撃でガジェットを真っ二つに破壊する。爆炎を左腕で薙ぎ払いつつ、すぐ横の鎌を持ったガジェットに右腕で攻撃を叩き込み、そして襲い掛かってくる逆側のガジェットを蹴りで粉砕する。ノースリーブの”騎士甲冑”を身に纏うその姿は、

 

「聖王教会か!」

 

「肯定します! 聖王教会所属シャッハ・ヌエラ以下第一から第三騎士団中央に展開します! これより武装陸士隊の撤退の援護をしつつ敵陣へと斬りこみます! 以降現場での判断は小隊長へ譲渡、最低百体の撃破がノルマだと忘れずに!」

 

「―――了解ッ!!」

 

 背後から一気に騎士甲冑に身を包んだベルカの騎士達の姿が出現する。撤退行動に入る此方の姿を一眺めし、そして軽い頷きを送ってから前へと進み―――騎士剣で敵を一撃で両断する。そこにはほぼ魔力が込められていない、技量によって行われる斬鉄の技術だった。聖王教会騎士団精鋭。精鋭と言えば聞こえがいいだろうが、その実態は少し違う。精鋭という連中は”戦時”からの技術や考え、魔導、そういったものを色濃く残している家系連中が多く所属している。エリートの家からはエリートが、そういう風潮はベルカでは珍しくはないが、この場合は少しだけ話が違って、つまり、

 

「キチガイの騎士団……!」

 

 部下の一人がそう呟き、そしてガジェットを粉砕しつつ騎士団員たちが口々に叫ぶ。

 

「敵だ!」

 

「戦争だ!」

 

「手柄だ!」

 

「ぶち殺せぇ―――! 餌には困らないぜ!」

 

「流石ベルカだぜ。やっぱり安定しているなぁ……」

 

 つまりは騎士団の”精鋭”とは頭のおかしいウォーモンガー連中が大半であるという事だ。―――だが戦時からの技術等を色濃く受け継いでいる彼らに精鋭の名は相応しい。魔力だけではなく、技術などで延々と戦えるように彼らは育ち、訓練させられてきた。

 

「……まるでどっかの馬鹿を思い出すわな」

 

 空を見上げれば空戦魔導師が動き始めている。全体的に管理局の陣がスカリエッティとの全面戦争の状態へと入っているが、新登場のガジェットに陸士武装隊の方はボロボロにされている。戦うにしたって一度下がって、負傷者を運んだ方がいいかもしれない。……いや、継続的に戦う事を考えるのであれば下がるのがいいだろう。ホロウィンドウを出現させながら上へと許可を貰おうとすればすぐさま了承が返ってくる。あちらでも此方の状況はしっかりと把握しているらしい。

 

「んじゃ、一時撤退だ野郎共! 前線任せましたよ!」

 

 前線でトンファーを振るう騎士が振り返りつつ頷く。その瞬間背後から襲い掛かってくるガジェットを三機、一瞬で両断しつつ余裕を見せて言葉を返してくる。

 

「任せなさい―――あまり時間かけていると全て倒してしまいますがッ!」

 

 そのまま騎士は深く敵へと斬りこみ、姿を爆炎の中へと投じる。その姿が改めて頼もしく、そして羨ましく思う。結局戦場の主力なのは彼らエースの存在で、この戦場の勝敗を決めるのも彼らの存在だ。そう思うと少しだけ、魔力の無い人間として、それだけの戦闘力がない人間として悔しいものがある。……が、同時に彼らだけでは戦場を動かせないという事ぐらいは知っているし、理解できる程度には大人だ。

 

「うし、撤退だ」

 

 下がりつつ、最後に一度だけ空を見上げる。そこには見えたのは―――。

 

 

                           ◆

 

 

「―――フレースヴェルグ!」

 

 魔力弾が空に浮かぶ空戦型ガジェットを撃ち抜き爆散させ、そして空に道を作る。まるで数ヶ月前の様だと思う。ただ今回はガジェットの規模が凄まじいだけで、やっている事は何時も通りだ―――ただその数がシャレにならないだけで。

 

「あかん、キリがないでこれは」

 

 フレースヴェルグに前よりも魔力を込めてはなっている。AMFごと貫通して打ち抜く程度には強力なのを放ち、ガジェットを薙ぎ払っている。だがそれでもガジェットの数が減る事はない。それよりも増えている。視線を真直ぐ先へと向ければゆりかごからガジェットの姿が出現しているのが見える。つまりゆりかごにガジェットの生産施設が存在するという事だ。アレを潰せば下も上も戦局は大きく安定する筈だ。ただ、

 

「シグナム達がやられたんは大きいなぁ……」

 

『はやてちゃん、九時、十一時、二時から来ますよ!』

 

「ッ、フレースヴェルグ!」

 

 再び射撃魔法で一気に敵を薙ぎ払う。だがそれでもキリがない。他にも空戦魔導師は存在するが、それでも絶対数は圧倒的に少ない。故に一人一人にかかる負担が凄まじい。自分はまだツヴァイとのユニゾンがあるから負担が楽だが―――他の魔導師はそうもいかない。

 

「リイン、状況はどうや」

 

『武装陸士隊が撤退して、そのカバーに騎士団の方々が入りました。若干押され気味だった状況を逆に食い込む形で巻き返していますが、今度は空の方が一気に厳しくなってきて現在相手の進行率は60%という所です! ちなみに80%超えたらマジヤバって感じですよ』

 

「何か若干変な表現あるけどありがとうな。―――シグナム達がやられたのが痛いなぁ」

 

 勝てると思って配置したシグナム達だったが、まさか開幕聖王とは予想外にも程があった。来るにしてもナンバーズによる襲撃だと思っていたのだが。王自ら動いたのであれば勝てない理由も理解できる。それにもう一人、予想外の人物を保護できたし。

 

「ティアナ達はどうしてるん?」

 

『部隊と行動しています。他の二人も一緒ですね』

 

「んじゃティアナ達には自由に動いてええと言っといて。フェイトちゃんとなのはちゃんから何も来ないって事はたぶん通信できない場所にいるか、もしくは負けちゃったって事やから、最悪を想定して動くよ」

 

 なのはとフェイトには作戦開始前からある程度勝手に動かしている。バレたら間違いなく処罰ものだが、それをしてでもやるだけの価値はある。しかし開戦以降から返事がないのは確実に戦闘を行っているからだと思う。敗北して死んでいる可能性もあるが、どちらにしろあの二人がそのままただで死ぬはずがないし。死ぬにしたって解りやすいサインを出すに違いない。……いや、桜色の砲撃は見えない所を考えればなのははまだ隠密中だと判断する。

 

「さて、優先順位はどれが上や。指揮官としてであれば味方の生存と、そして勝利や。だけど個人としての目的はヴィヴィオちゃんの奪還や。だけど私は立場に縛られている。指揮官としての役割を放り出して前に出る事はできへんし、最低でも数人六課の人間を残しとかなあかん。一応シグナム達を出したおかげである程度の示しは付けたけど……むむむむ」

 

『指揮官は大変ですねー』

 

「せやなぁ……」

 

 何が辛いって、身内の死や敗北までを計算に入れなきゃいけないのが辛いのだ。死んだ場合を前提にしての分岐プラン等を作ったり、突破された場合を想定したり、そういう事まで考慮しなくてはいけない。だから正直、そういう類の事はあんまり周りの連中にさせたくはない。どう足掻いても向いていないし。ゲンヤからは自分でさえも優しすぎて向いてないって言われた事もあるが―――まあ、夢の為だし必要だと割り切っている。

 

 さて、

 

「こちらもいい加減攻勢にでよっか―――出すで、出したくなかった最終兵器……!」

 

『は、はやてちゃん……それはまさか……!』

 

 手の動きでホロウィンドウを出現させる。それで繋げるのはもう一つの部隊の様子だ。ここら辺はツヴァイのサポートがある為素早く情報が入ってくる。ホロウィンドウを通して見える映像ではフリードに乗ったキャロと、エリオ、そして巨大なムカデの背中に乗ったルーテシアとガリューのコンビがチームとなってガジェットの群れを潰しながら進んでいる。損耗の色は少なく、そして相乗りしているエリオに向かって殺意が隊から向けられている。これはツッコメと芸人としての血が騒ぐが、それを無理やり抑え込んで、そして小隊長、キャロ、ルーテシアにホロウィンドウを繋げる。

 

『あ、八神部隊長』

 

『おっす隊長! ガジェット潰し楽しいです』

 

『敵は皆殺しだ』

 

『助けてください隊長、生きている気がしません』

 

 主に味方からのヘイトでだろうかそれは。エリオはどの環境に居てもキャロかルーテシアがいれば面白いので安定しているなぁ、と思いつつも、サムズアップを幼女二人に向ける。

 

「キャロ、ルーテシア。やってもええで」

 

『ヴォルテール―――!』

 

『ヒャッハー! 白天王!』

 

「レスポンス早いな貴様ら」

 

 許可を出した瞬間、廃墟を吹き飛ばし、瓦礫の雨を降らせながら二体の巨大な姿が出現する。片方は黒い龍、キャロを守護する巨大な真竜と呼ばれる最強種の存在だ。もう一つの巨大な白い姿は蟲だ。それも真竜クラスの未判別種、無人世界の主クラスの大物。どちらにしろ二体ともストライカー級が何人も集まってようやく対等、というレベルの化け物だ。ストライカー級魔導師といえども一対一で挑めば回避優先にでもしなければ一瞬で蒸発できるほどの暴力の主たちが。

 

 それが出現するのと同時に空へと向かって吠える。

 

「さ、派手にぶっぱなして道を開けるでリイン」

 

『了解しました―――術式の展開を行います!』

 

 白い魔法陣が出現するのと同時に、背後で口を開く二つの巨体が口を開き、そこにエネルギーを溜める。それが臨界へと到達する頃には此方の魔法の準備も完全に完了し―――そして放つ。

 

「終焉の笛、ラグナロク!」

 

「―――!!!」

 

「グルァァッ―――!」

 

 二つのブレスと、そして三種の砲撃が一斉に放たれる。それが一直線に叩き込まれ、空を埋める銀色を一気に吹き飛ばす。足音で大地を震動させながら肩に主を乗せ、部隊と共にヴォルテールと白天王が動き出す。その姿は真直ぐ、最前線へと向かって。

 

 ただ、

 

「……やっぱ、この程度でどうにかしようって考えは甘かった、かな?」

 

 最強クラスの生物のブレス、そしてSランクオーバーの砲撃をガジェット越しとはいえ、受けとめたゆりかごの船体には傷など存在しなかった。黒いその姿はまるで生物的なデザインを所々に見せ、その色とデザインから思い出させるものがある。

 

「まさに悪夢って感じやな……頼んだで、皆」

 

 状況把握のためにホロウィンドウを一気に二十出現させつつ、次の射撃と牽制の準備に入る。此方は手札を切った。だが、まだだ。

 

 まだ此方も相手も、切り札を出してはいない。

 

 本当の勝負は―――これからだ。




 ゆりかごちゃんの姿がおかしいようです。

 戦争は第一フェーズから第二フェーズへと移行しました。つまり小手調べから衝突へとチェンジですな。そんなわけで夢のヴォル白さんタッグ結成、普通に考えたらこのタッグどうやって滅ぼすんだと思うのにせいおー様が相手だったりゆりかごmkⅡ相手だとそう思えない不思議。

 不思議!

 次回から本格化、ですねー。

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