絶望という物は容易く訪れる。それは別段遠いものでも珍しいものでもない、そこにある、そう感じ取れればいつだって存在するものなのだ。故に絶望するにはそう難しい手順は必要ない―――希望を踏みにじられれば、それだけで絶望は出来る。故に絶望する。未来を感じられない。後がない。次へと続かない。それこそが絶望だ。故に今、この瞬間、明確な絶望を感じる。絶望を感じずにはいられなかった。絶望という言葉をそのまま辞書で調べた様な感じだった。つまりなんというか、回りくどい言い方を止めてストレートに言うのであれば、
エリオ・モンディアルに明日はないかもしれない。
「……で、で、でで、デートですか」
「やだ、話を始めただけなのにエリオの目から光が消えてるよ……」
そりゃあ目から光も消えるよフェイトさん。
機動六課の隊舎、ロビーでフェイトと正面から向き合いながら座る。最近はこうやってフェイトと話し合う時間も大分減ったなあ、と思う。その代わりに新人フォワードと一緒に過ごす時間が圧倒的に増えた。何というか、見た目通りというか、フェイトはかなり身内に甘い人間だ。べったり、と言ってもいいぐらいに。だから機動六課へと来る前は仕事はちゃんとするが、それ以外の時間は良く面倒を見られたものだ。だがこっちへ来てからは一人で、一人の隊員として活動する様になったので練習やら相談やらを含めて、別行動が一気に増えた。だから、こうやってフェイトと話す時間は本当に久しぶりだと思う。ただのその内容は精神的レイプに近い事だけど。
「フェイトさん、僕キャロに狙われているんですよね……?」
「うん、なのはとはやての弟子って感じだよね。悪い子じゃなかったはずなのに……」
少なくとも機動六課へとやってきた頃は確実に”あんな”感じじゃなかったはずだ。少なくとも普通だったのは覚えている。なのにこの数ヶ月でこんな、こんな風になってしまった。一体何が原因―――と言われたらやっぱりなのはとはやてしか見つからない。確実にあることない事吹き込んだな、というのは納得できる。おかげで今ではティアナは桃色淫乱チビという称号をキャロに与えている。ちなみにスバルが脳筋特攻娘で自分がビリビリ短パンショタ少年。意外とティアナってネーミングセンスが死んでいるのかもしれない。
ともあれ、
「キャロが悪くないというのは解っていますが、それでも恐怖しか感じないんですけど。それも根源的な恐怖を。何か……こう、油断してたらぱっくり食べられちゃう的な恐怖を。フェイトさん、キャンセルは不可能なんですか」
「それがなのはが”面白そうだからその日は休みにしよう”なんて言っちゃって、もう私一人の力じゃどうにもならないんだ……ごめんね……ごめんね……ごめんね……!」
本当に心の底から謝っているフェイトの姿を見ているとどうしようもなく申し訳ない気持ちになってくる。この人は一体普段からどれだけなのはとはやてに振り回されているのだろうか。いや、振り回されていても割と楽しそうな表情をしているのでどうこう言えないのだが、割とMっけがあるという説は当たっていると思う。というか何年も一緒の仲間がそう言っているんだし割と当たってるんじゃないかと思う。あとフェイトさん、いい加減一緒にお風呂入ろうとするの止めてください。流石に十歳ではキツイです。
ヴァイスがしきりに感想を求めてきて更に辛いです。あのパイロット、煩悩というか欲望に忠実すぎて割とエロな話にオープンだから新境地というか、結構新鮮なキャラだったりする。今まで周りには女ばかりでそういう話ができる男がいなかった分、少しだけ楽しいのだが……身内のエロ話だけは勘弁してほしい。
「え、えーと……それでデートの日は何時なんですか」
「明日」
「……」
「明日」
「ほぁっ!?」
「明日なんだよ……エリオ……」
逃げ場等なかった。あぁ、逃げ場などなかった。頭の中でサムズアップ決めたなのはが”魔王から逃げられない”なんていい笑顔で言っているイメージが湧きあがるが、一体あの砲撃魔は何を育て上げようとしているのか心底気になる時がある。まあ、それはいいから―――助けて神様聖王様。
◆
「いい、スバル? ―――アレを見なさい」
久しぶり、というか機動六課へと来てから初めての休暇だった。その日、制服ではなく私服へと着替えた状態で機動六課の隊舎、ロビーのソファから入り口近くのエリオとキャロを見る。シャーリーに見送られながら機動六課のビルの外へと出て行く二人、エリオとキャロは手を繋いで外へと出ようとしている。だが良く見れば解る。エリオはレイプ目だ。この少年は一体あとどれだけ苦労をすることになるのだろうか―――被害が来ない限りは見守っているから頑張ってくれサンダーボーイ。
「アレが人生の墓場に片足突っ込んだ男の顔よ」
「そう言えば師匠もなんだか偶にあんな顔をしていた気がする」
「あぁ……そう言えばそんな気もするわね……」
となるとどっかの肉壁兄貴は色んな意味でエリオにとっては先輩なのかもしれない。本人がまだ生きていたら……オリジナルが生きていればエリオに是非ともアドバイスを送ってほしい。いや、まあ、本人の事だし絶対に”諦めて受け入れろ”とかそんな感じのアドバイスなんだろうけど。ともあれ、エリオとキャロは今日二人っきりでクラナガンでデートだ。既に魔導師のランクもB+級扱いなので二人で街中を歩かせても全く問題はない。
何よりも、
全力でステルス状態のフェイトが二人の後ろを気配を殺しながら付いて行っているので問題は起きても一瞬で滅び去りそうだなぁ、とかは思っている。フェイトは過保護だなぁ、と思いつつもアレが親心だろうか、とは思う。まあ、あの二人の……いや、キャロの平和なデートは約束されているのでエリオには存分に頑張ってほしい。ほら、エリオが頑張れば頑張る程キャロが道を外れるけど戦力的な意味では人道から外れれば外れる程なんかインフレーション起こすし。フリードシールドとかまず昔は思いつかなかった戦法だし、ドラゴンって人間の数倍の生命力と防御力持っているし、意外と悪くはないんじゃないかと思う。
ともあれ、エリオに合掌。
足元で嬉しそうにエリオを見送るミニドラゴンを捕獲する。きゅくるー、等と鳴き声を漏らしながら困惑しているドラゴンを掴んで、頭の上に乗せる。まあ、折角の休暇なのだ、自分達も街の方へ遊びに行く予定なのだが、そこに普段からお世話になっているペットを連れて行っても問題はないだろうと思う。フリードを両腕で抱きエリオとキャロと、そしてニンジャごっこしているフェイトを見送りつつスバルと移動を開始する。
「うーん、それにしても久しぶりの休暇ねー」
「そうだね。久しぶりの休暇だから今まで休暇は何をしてたのか忘れちゃったよ」
「あははは」
スバルの言葉に笑いつつ、クラナガンへ着いたら何をするか話し合い、そして向かうのは機動六課のガレージだ。複数あるガレージの内の一つに入ると、大型バイクをチェック中のヴァイスの姿がある。近づきつつ片手を上げて挨拶すると”お”、と声を漏らしながらヴァイスが此方に視線を向けてくる。
「よ、お望みのもんだ。言っておくけどこれ、俺の私物だから傷つけないでくれよ」
「解ってますって。大型二輪の免許はちゃんととってるので心配ありませんよ」
「お、んじゃあ任せても大丈夫か」
フリードをスバルに預け、バイクのシートに格納されているヘルメットを二つ取り出す。一つを被り、もう一つをフリードを抱えて両腕が塞がっているスバルの為に被らせる。ヘルメットがしっかりと脱げない事を確認してから二人でバイクに乗る。もちろん運転する自分が前で、その後ろにフリードを挟むようにスバルが座る。バイクに命を吹き込み、そして軽くエンジンの音を唸らせると、ガレージのシャッターが開く。ヴァイスがサムズアップを此方へと向け、
「楽しんで来いよ!」
その言葉にサムズアップで返答し、バイクを発進させる。最初は緩く加速させ、車道に出て直線になった所でスピードを上げて行く。もちろん法定速度は守るスピードでバイクを走らせる。機動六課の周りの自然が流れて行くような景色を見つつも風を感じ、バイクを走らせる。後ろからきゅきゅきゅとミニドラゴンが若干五月蠅いが、楽しんでいるようで結構―――久々の休暇で少し遊びたい気分なのだ、サイフの中身も凄い溜まっているので思いっきりハメを外させてもらうことにする。
一気にアクセルを踏み込んでバイクを加速させ、クラナガンへと向けてバイクを走らせる。久しぶりに見るバイクでの風景を楽しみつつ、人通りの少なかった道から少しずつクラナガンへと入って来る事で他の車などに気を付ける為に若干スピードを落として行く。
「スバル! どっから回る!」
ヘルメット越しだと声が通りにくいので叫ぶように声をだす。少しだけ、声がヘルメットの中で反響していて五月蠅く感じるが、これも結構慣れたものだと思う。
「ティアに任せる!」
「それが困るのよバカ!」
スバルの返答も何時も通りだなぁ、と思いつつ苦笑する。もう少し自主性を持ってくれた方が友人としては嬉しい所なのだが、なんというか、こういう小動物っぽさもそれはそれでスバルの魅力なのかもしれないなぁ、と思う。
クラナガンへと到着する頃にはバイクのスピードを大分落として、少しだけウロウロする。こうやって友人と外へ遊びに行くときは明確に”どこへ”と決めずに街をぶらぶらするのが楽しいのではないかと思う。どうしよっか、と思うが、中央よりは東部の方がそう言えば娯楽施設多いなぁ、という事実を思い出す。
「パーク・ロードでいい?」
「任せるー!」
「少しは考えなさいよ!」
「私! ティアの背中に抱きつくので今忙しいから! キャー! ティアの背中あったかぁーい!」
「レズか貴様ぁ!」
二人して笑いながらバイクを再び走らせる。今度はミッドチルダ、というよりはクラナガンの東部へと向かって。距離自体は別段クラナガンから遠いわけではない。バイクでの移動で十数分ほどの距離だ……信号が緑だった場合を想定して。ただ東部にはパーク・ロードという娯楽エリアが存在していて、遊んだり、食べたり、休暇を過ごすにはうってつけの場所だったことを思い出す。まあ、特に目的もないんだったら思い付きだがそこで時間を過ごすのが結構いい感じなんじゃないかなぁ、と思う。
だからバイクをパーク・ロードへと向けて走らせながら、どうするかを考える。機動六課では結構な金額が支給される―――今までの戦いの規模や相手の強さを考えたら結構妥当な金額だ。だがそれが今まで勤めていた陸士隊よりもかなり高額な事を考えると、若干複雑な気持ちになる。だが、まあ、そのおかげで結構な金額がある―――新作の服とか、結構いい感じに買えるんじゃないかなぁ、と思う。
ま、色々あるがともかくはパーク・ロードだ。其処が自分たちにとっての休暇の場になる……と思う。まあ、気に入らなかったら気に入らないでバイクがあるのだから場所を変えればいいだけの話だ。今日一日、存分に遊ぼう。そう思ってバイクのアクセルを更に力を込める。
◆
―――薄暗い闇の中を行く。
重くのしかかる疲れと痛みをこらえながらも闇の中をひたすら進み続ける。何かを引きずっているという感覚が”それ”には存在してはいるが、正しく理解できているとは言えないだろう。そもそも正気かどうかさえ怪しい。ただ目覚めてしまった。目覚めてしまったのであれば―――止まる事は許されない。それはそんな脅迫概念にも似た思いを抱き、動き続ける。歩き出したのであれば止まってはいけない。頑張らないと、頑張らないと。頑張らないと駄目なんだ。そんな強い思いを抱いてただ歩き続ける、闇の中を。
それ以外は全くと言っていいほどわからない。どこが始まりでどこが出口なんて、そもそも考えも出来ない。ただどこかへと向かっている事と、そして何かを求めているという事だけは理解できている。それでも漏れるのは不安の声と、恐怖を晴らそうとする声で、
「ぱぱぁ……ままぁ……」
少し、疲労でかすれたような声がその子供の口から漏れ出る。助けを求める声を聞く事の出来る存在は其処にはいない。故にそれは自力で、助けてくれる存在の所へと向かわなくてはならない。それは険しいが、それでも―――少女は訳も解らない思いに突き動かされて歩き続ける。自分が零す言葉の意味も解らず。
「ぱぱぁ……ままぁ……くらうすぅ……」
―――少女の努力が報われるのはあと少しだけ、先の事だ。
フェイトそんが順調にダメになっている気がする。ともあれ、いよいよあの子登場。読者から恐怖されつつ超次元世界ベルカラスボス登場ですなぁ。