マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ファニー・デイ

 どんなに普通であろうと望もうと、否応なしに人間という生き物は変化を強いられる。そうやって時と共に変化する人間はその変化を楽しめる希少な生き物だとどこかで教わった。多分、凄く馬鹿な人がそう言って教えてくれた気がする。どっちかは覚えていないがそれ以来変化は楽しもうと、そう決めている。ただその中にも祝福すべきと、そして逃げるべき変化というものがあると自分は思っている。その逃げるべき、とは一体何か。それを答えるのであれば我が隊の同僚を見ればいいと思う。

 

 模擬戦終了から何日か経過した日―――朝の訓練が終わると昼食の時間になり、昼食のための時間がしばらくの間用意されている。その間に食べたり休んだりと色々するわけだが、そう長くもないが短くもない訓練の合間の休み時間、食堂で何時も通り四人―――ではなくここには三人が集まっていた。自分と、スバルと、そしてキャロ。女子三人。新人フォワード女子組、という事で割と寮の方では一緒の割合が大きかったりする。まあ、唯一の男子であるエリオがハブられるのはこの際仕方がない。

 

 まあ、今回エリオがここにいないのは意図してからだ。非常に嫌な予感しか抱いていないのはキャロ以外の全員だと思う。なぜなら他のテーブルでは皆楽しそうに昼食を取っているのに、誰一人として此方に視線を向けようとしないからだ。ちなみにフリードは逃げる様にエリオについていった。もうこの桃色チビ本当にどうしようもねぇな、と言いたい所を全力で頑張って黙る。そして、その代わりにキャロが口を開く。

 

「エリオ君が襲ってこないんです」

 

「ハイ、終了で!」

 

 立ち上がって手を振る。だよなぁ、と声が周りのテーブルからもしてくる。貴様らやっぱり聞いていたな、と口に出して言うが返事は帰ってこない。この機動六課、本格的に外道六課というか身内に対して厳しい芸風を覚えつつある。何なんだろうこの一体感は。出動の時でさえここまでの一体感はなかったと思う。まあまあ、と言ってキャロが此方を椅子に座らせてくる。もうどうしよっか、と思ったところで横へ視線を向けると、いつの間にかスバルの姿が消えていた。

 

 逃げた……!

 

 我が親友よ、相棒なら最後まで付き合ってくれと言いたい所だが、やっぱりこいつの相手はハードルが高い。というか私でも普通に逃げ出すので良く頑張った方だと思う。さあ、生贄は私一人だ。かかって来いキャロ・ル・ルシエ、胃を壊す覚悟は完了している。

 

「えーと、でなんだっけ?」

 

「エリオ君は夜這いに来てくれないんです」

 

「まずはその言葉をどこで覚えたのかを話し合おうか? うん?」

 

 ヤバイってレベルじゃない。この幼女は一体どこでそんな言葉を覚えてきた。軽く頭が痛くなる思いだ。確実にフェイトじゃなくて砲撃魔王の影響が強い様に思える、というかあの砲撃魔王の影響じゃなかったら誰の影響何だろうか一体。とりあえず片手を前にだし、キャロを止める事から始めるのをファーストステップにする。いいか、と言ってキャロの動きを止めて此方に意識を向けさせる。

 

「―――第一にアンタ十歳よ」

 

「愛があれば関係ありませんよね!」

 

「そうね、犯罪者の常套句ね」

 

 本当にな。犯罪者はよく言ったものだよ、目的の為であれば手段はどうでもいいと。キャロの理論は究極的に言うとそうだし、スカリエッティの言っている事とそう変わらない……のだと思う。スカリエッティの主張は知らないし解らないけど、たぶんそんな感じだと思っている。まあ、本来は一生関わらない、というか関わりたくない部類の生き物だよなぁ、とスカリエッティの事は思う。

 

「で、エリオ君が誘いに乗らないんですよ」

 

「私は褒めてやりたいわよ」

 

「でもそれじゃあ私の勝利じゃないんです」

 

「うん、そうね」

 

 どうでもいいと叫んであげたかったがキャロの表情が真剣なのでそんな事は言えなかった。拳が白くなるほどに強く拳を握り、力強くエリオの存在を主張している。あの少年は人生本当に詰んでいるよなぁ、となのはと同じようなキチガイ生物を見ながら思う。これ、大きくなったら確実にキチガイウェポン化する様な気がする。確か究極召喚なんて事が出来るってドヤ顔で言ってたっけこの桃チビ。エリオの将来ブラック化待ったなし。

 

「だから私思ったんです……もしかしてエリオ君側で受け入れる準備ができてないんじゃないのか、って」

 

「今更それに気づいたのね。というか寧ろ好感度のパラメーターが存在する事に私は驚きよ。貴方今まで好感度上げる様なイベントをこなしてきたのかしら? 魚は釣った後に餌を上げなきゃ意味がないわよ」

 

「美少女と一緒に居るだけで好感度って上がるもんじゃないですか?」

 

 助けを求めて視線を巡らせるけど、どのテーブルの人間も食べることに必死で此方に視線を向けてくれない。というか先ほどまで貴様ら全員食べないで此方に耳を傾けていたんだから少しは力を貸せよと言いたいが、たぶん全力で逃げられるのでやめておく。クソ、こいつら慣れてやがるな、とリアクションに対して判断する。何時か絶対この恨みは晴らさせてもらおう。

 

「いいキャロ? ―――エリオはあんたと違ってキチガイじゃないのよ?」

 

「ッ!?」

 

 まるで世界の真理を言われた様な表情でキャロの表情がゆっくりと氷結する。いや、あるいは残酷な真実なのかもしれないけど。それでもキャロの表情は固まり、まるで世界の終末を迎えるような感じだった。そのまま、キャロは固まり、ゆっくりと口を動かす。

 

「え……いや、だって……エリオ君短パン美少年だし……フェイトさんが連れて来たし……」

 

「アンタの基準で人をおかしくするには一体何が必要なのか大体見えて来たわ―――ともあれ、いいキャロ? これは釣りと一緒よ。エリオはあんたの様な超奇天烈異次元ワンダーランドな脳味噌していないから恋愛観とかは一般人と一緒よ。ここは不利でもいいから最低限普通の方法で攻めるのよ。十歳が体ネタなんて汚れに走っちゃ駄目よ、手遅れになるから」

 

 うんうん、と周りの人間が言っているのがちょっと腹が立ったので魔力弾を数発乱射する。それに悲鳴を上げながら食堂内が一気に混沌に包まれるが、お前らいい加減にしろよ、という気持ちの方が上なので特に気にしない。やっぱりこれは芸風に染まったんだろうなぁ、とは思うが一切後悔はないというか最低限これぐらい出来なきゃ胃が死にそうな事を確信する。

 

 ともあれ、

 

「ここで普通の恋愛ならどうするか解る?」

 

「……部屋に誘って襲う?」

 

「すいません、誰かお酒のキツイやつください」

 

 こいつ本当にどうかなるの……?

 

 そんな思いが胸を見たし、頭を抱えながら椅子に座り、テーブルに突っ伏す。軽く言って無理だろこれ。一体どこでこんな化学変化をしたか解らないが、こんな生き物に普通の恋愛観を叩き込むっていったいどうすればいいんだよ。少なくとも自分には無理だ。普通って言ったのにこの超肉食発想。いや、エリオが草食過ぎるのか。いや、そこは違うだろう。この少年少女はまだ十歳だぞ。それを考えたら色々早すぎるだろう。恋愛とかまだごっこレベルの年代のはずなんだけどなぁ、普通は微笑ましい光景のはずなんだけどなぁ―――どうしてこんなに頭を痛めなきゃいけないのだろう。

 

「ティアナさん? 頭痛いんですか? 大丈夫ですか?」

 

「あんたが原因だよ……!」

 

 落ち着け―――落ち着け。キャロに自覚はないのだ……いや、つまりはもっとひどい事なんだがそれは。だけど、まあ、落ち着け。年長者としての余裕を見せろティアナ。そう、お前は賢い子。お前は強い子なんだティアナ、頑張れ。スバルに勉強を教えた時よりはイージーだろ。だから何とか頑張るんだティアナ……頑張ればきっといい事はあるから。良し、少しだけ気合が入った。改めてキャロへと向き直り、そして口を開く。

 

「いい、キャロ? つまり大前提としてエリオの好感度が低いって可能性を考慮しなさい」

 

「え、カンストさせたつもりなんですけど」

 

「クソォ―――!!」

 

「アレは発狂してもおかしくない」

 

「だよな、俺もそう思う」

 

「良く頑張るわぁ、ティアナちゃん……」

 

 そう言ってるなら手伝えよ貴様ら。頭をガンガンとテーブルに叩きつける。変なものを見る様な目でキャロが此方へと視線を送ってくるが、原因はお前だよ。お前が私の脳味噌をいい感じに破壊してくれているんだよと言ってやりたい。だけど相手は自分よりも遥かに年下だ。そんな相手に一々怒っていては年上の同輩としては失敗だろう。そう、年上……年上の余裕を見せるのだ。そうしなければいけない。この際エリオの無事は二の次にして、自分さえ助かればいい。ごめんエリオ、守れそうにないよ。

 

「まずはエリオの好感度を稼がなくちゃ駄目よキャロ」

 

「あ、はやて部隊長に借りたギャルゲーで学びました! 毎朝起こして、料理して、あの女の匂いがする……! をやればいいんですよね」

 

「これはアレね、部隊長と少しお話しなきゃいけないわね」

 

 主犯は貴様だったか部隊長。何故か激しく納得できる犯人。というかあの人、実務はちゃんとやる癖にそのほかの私生活とかは全部投げっぱなしらしい。しきりにネタに走りたがったりしていつもその被害をフェイトが受けているというか押し付けている、と前なのはが言っていた気がする。そろそろ泣いてもいい気がするけどどうなんだろうか、フェイトドM説。真実なら同情の余地なし。

 

「良く考えなさいキャロ。好感度にカンストなんてないわ。これをこつこつためてエリオから振り向いて攻略してくるように仕向けるのよ。肉食系乙女ゲー状態から攻略系ギャルゲー状態へとシフトさせるのよ」

 

「ティアナさんってもしかして天才ですか……?」

 

 お前よりは確実に頭がいいけど頭痛で悩まされているよ。結局エリオを犠牲にする方向性でしか話を進められなかった―――無理。自分にこの桃色チビの更生は無理だ。完全に諦める。さらばフリード、さらばエリオ、お前らはいいチームメイトだった無茶しやがって……。

 

「と、なれば私はどうしたらいいんでしょうか」

 

「―――デートですよ! やっぱりデート! 好感度を稼ぐのならやっぱりデートしかありませんね! こりゃあもう二人の仲は大進展、エリオきゅんエロメロ! ってなっちゃいますね!」

 

「エロメロですか!」

 

 何時の間にかシャーリーが登場して、キャロに味方していた。もうこれはどうにもなりませんわ。そう思ってそっと、頭を抱える。デートというのはいいけど、エロメロっていったいなんなんだ……そんな言葉聞いたこともないし使われるのが見た事もないというかシャーリーがノリノリすぎてガチでビビる。というか、

 

「シャーリーさん何時の間に」

 

「恋バナの気配したらそりゃあもう登場するしかないでしょう」

 

「やだ、なのはさんと同じ気配の生物……」

 

 何気に楽しんでいるから厄介だ。自分も楽しもうとすればこの状況を楽しめ―――るわけないか。うん、自分はこの二人と違って割とまともな感性を持っているからまず無理だ。ともあれ、シャーリーの登場でこの事態は完全に自分の手からコントロールを失って暴走し始めている。キャロの暴走っぷりとシャーリーの愉快犯っぷりが合わさって最悪に見える。実際食堂は先ほどまで人で溢れていたのに今では避難してかなり数が減っている。皆、自分に正直だなぁ、と思いつつ、同じテーブルなので完全に逃げる機会を失った自分に対して少しだけ嫌気を感じる。お願いだからスバルに帰ってきてほしい。そう思って食堂のガラス張りの窓の外側を見ると、

 

 心配そうに遠くから見つめるスバルの様子があった。ただ此方と視線が合った瞬間、即行で森の中へとローラーを走らせて逃げ込んだ。あやつめ、今夜徹底的に復讐してくれるわと思ったところで、キャロが目を輝かせながらシャーリーを見る。

 

「クラナガンでデート……!」

 

「えぇ、そうですよ! デートですよキャロちゃん! デートでエリオ君のハートをゲットして首輪を繋げておきましょう! 世の中には寝取り趣味の人もいますから、それになびかないぐらいの好感度を稼がなくちゃいけません!」

 

「もう……助けて……」

 

 そんな声が聞き届けられるわけもなく、キャロとシャーリーの熱狂に囚われて救いの声はかき消された。




 桃色チビが順調に無敵属性を付与している件。

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