マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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コンティニュー・シチュエーション

 火花が散る。腕に握った得物を一回転させながらそれを前へと付きだす。前に見えるのは金髪、黒のバリアジャケット姿の女―――鎌の形をしたデバイスを握る女を知らぬ魔導師は存在しないだろう。

 

「……!」

 

 突き出された槍をフェイト・T・ハラオウンが踏む。穂先が体へと到達するよりも早い動きだ。いや、全体的に相手の動きは軽く、そして早いと認識する。戦った事のない相手だが、迷わず踏み込んでくる姿勢を通していい戦士だと判断する。前進する姿勢は既に次の攻撃へと繋がる為の一歩だ。何度も何度も繰り返して行っているために意識せずとも体が反射的にそう動く領域の動き。よほど鍛錬しているのだろうと解る。

 

 故に、槍を手放す。

 

「ッ!」

 

 瞬間に前へ踏み出そうとするフェイトの体が沈む。それと同時に足を柄を蹴るように持ち上げる。前へと進もうとしたフェイトの体は蹴りあげられた槍に従って垂直に向きが変わる。だがそこで動きを止める事無く、フェイトは柄を頂点とする状態の槍を登りきる。まだ前進するか、と少しだけ驚きを得る。普通なら一旦距離を取る所だが、よほど己の動きに自信があるのか、愚かなのか、もしくは策があるのだろうか。

 

『ゼストの旦那!』

 

 承知している。

 

 フェイトが前へと踏み込もうとするのと同時に穂先を蹴り、柄に足を乗せたフェイトを落とそうとする。が、フェイトはそのまま此方へと落ちてくる柄へと足を張りつかせたまま落ちてくる。おそらく体重移動、重心の移動で足と体をそのまま張り付かせているのだろう。落ちてくるのと同時に素早く鎌が振るわれる。だがそれよりも早く前へと出て、

 

「―――!」

 

 拳を振るう。フェイトがそれに反応し、攻撃の動作を動きへと即座に変化させる。柄と穂先の位置が完全に入れ替わり、槍へと手を伸ばす頃には既に横を抜け、バックハンドで斬撃を繰り出すフェイトの姿があった。これが”閃光”と称される魔導師の実力か、と少しだけ武威に踊る己の心を押さえつける。こんな歳になっても強者との戦いはこれほどまでに心を躍らせる。―――だが割り切らなくてはならないのが立場の辛い所だ。だから槍を素早くつかみ、刃が首に到達する前にそれを阻む。相手が両手で握る刃と、此方が片手で遮る刃……速度は相手が圧倒しているが此方の方が力が上か、と判断する。

 

 まあ、問題はないと判断する。これが二対一なら体の事を考えて危ない事もあったが、一対一である以上、

 

「男に敗北はない」

 

「投降を」

 

 相手も無駄だと解っているだろうに投降を呼びかけてくる。優しい娘だ。此方を一撃で屠る事で苦しむ事無く終わらせようとしている事ぐらい、動きを見れば理解できる。少なくともそれを理解できる程度の年月戦い続けて来たし、他人を眺めてきた。故に経験からくる判断で思考する。勝てない相手ではないと。少なくとも此方はまだ”理解できる”領域にある。あの二人よりも遥かに中身を見通せる。であれば、”底”が窺えるというものだ。

 

「ゼストだ」

 

 開戦の証として名を告げ、戦意を体に滾らせる。槍を振るって相手の鎌を弾いた瞬間、相手が残像を残す動きで回り込んでくる。その動きをあらかじめ予想していたように、相手へと向かって後ろへと踏む様に距離を詰める。相手の武器のキルゾーンの内側へと。本来であれば槍にとっても攻撃の届かない領域になるのであろうが―――それを覆す程度の技量は持ち合わせている。そもそも相手の内側へと踏み込むという行為は一定以上の実力者であれば割と好まれる回避方法だ。

 

 相手も己も、それに対する対処方法を持ち合わせていないわけがない。

 

 バックステップするのと同時に素早く相手の姿が遠ざかって行く。なるほど、シンプルな選択だと判断する。相手が速度に自信を持っているから、此方が到達するよりも早く動けるから取れる手段だ。だからそれに対応する様に槍を両腕に絡め、体を回転する様に槍を振るう。最小限、武器を振るえる範囲にまで下がったフェイトが振るってきたデバイスと衝突し、魔力の火花が散る。そのまま槍を動かす。突きこむのではなく短く握り、刃の平を打撃として正面から叩き込む様に振るう。それに反応しフェイトが鎌で切り払う。

 

 そしてフェイトが踏み込む。

 

 反応する様に後ろへ倒れる。

 

「なっ!?」

 

「未熟」

 

 倒れる体の上部を鎌の形をしたデバイスが薙ぎ払い、空ぶる。倒れる体を槍で支え、そのまま片手で全身を持ち上げる。そして、そのままサマーソルトを放つように蹴りを繰り出し、フェイトの体に一撃を叩き込む。その姿が蹴りの衝撃を殺す為に少し高く、強く吹き飛び、回転しながら着地する。それと同時に此方も一回転し、両足で着地する。そこで言葉を発さず、デバイスを剣状に変形し、構える姿を見て改めて評価する。

 

 ……なるほど、戦士だな。

 

 若手の管理局員の中には相手を傷つけたくない、説得が通じる、話し合いは重要だと判断し、実行する者が割と多い。そのせいで不意打ちを受けたりして命を落とす者だっている。目の前の女、フェイトは自分からすればまだまだ若い娘だが……それでも戦士として相対する相手に言葉ではなく刃で相対する礼儀は存在していた。故にこの時間はお互いに次の動きを考えるための時間だ。その中で判断する―――押し勝てるな、と。相手が機動六課の隊長格である事は理解したし、相応の実力も持っている。だがリミッターのせいで全体的な実力が落ちている。この状態であれば能力的には己と互角だ。

 

『旦那の方が経験差で押し潰せるぜ』

 

 そういう事だ。

 

 そう思考したところで大きな揺れを感じる。地上か、もしくはホテルで今、激しい戦闘が発生しているのだろう。その衝撃はここ、ホテルの地下駐車場にまで響いてくる。レリックの奪取を目的とするのは己の役目だ―――護衛戦力がいた場合として、撃破できる戦力である故だ。だがそれも逃亡時の事を考慮してのチョイスだ。本来は地上で暴れる組が敵を可能な限りひきつけ、そしてそのうちにレリックを奪取する予定だった。だが、それはスカリエッティの横やりで失敗している。問題はそのせいで此方の隠密が完全に破られ、レリックの強奪を目的としている事が登場と同時にバレてしまった事だ。

 

 現状、時間をかければフェイトは倒せない事はない―――リミッターがついている事が前提だが。

 

 だがそれはあまりにも時間をかけすぎる。この状況からして強引な方法に出なければレリックの強奪はありえない。とすれば―――強引にでも進まなくてはならないという事だろう。

 

『駐車場内のスキャン七割終了したぜ!』

 

 ありがたいと思う。アギトの全機能は自分の肉体のサポートと、そしてこの駐車場のトラックのどれかに運び込まれているレリックの探索に向けられている。フェイトを倒す、ではなく正確には削りきる事が自分の得られる成果。いや、多少は無理をすれば突破する事も不可能ではない。負担は大きいが、できなくはない。一人一人の戦力であれば間違いなく此方が現状、相手がリミッター影響下という状況もあって有利だ。ならば倒して探せばいい。割とノリでやる、というのがこういう事だろう。ともあれ、

 

「―――狂気が足りん」

 

「……狂気?」

 

 何かを成す。悪に染まっても正す。手段を選ばず救う。それは全て一途な狂気だ。妄念や執念を超えて狂信とも呼べるほどの狂気。その領域に至れば人間の精神というものは”超人”と呼べる部類に入り、精神に影響され肉体は容易く限界を超える。故に、狂気が足りない。相手からは此方を止める意志や覚悟は感じる。立派な物であり、かなり強いものだとも感じる。だがそれは脅迫概念や狂気のクラスへとは至ってはいない。

 

「―――貴様らでは決して勝てない。そもそも狂気の度合いが違う」

 

「貴方は―――」

 

 フェイトが口を開くが、それを聞き入れない。成すべき事がある。果たすべき事がある。確かめなくてはならない事がある。友よ、お前は今何を思って何をしている。人生を、誇りを、今までの全てを捨てて家族を選び取った狂気。死を超えても生き恥を晒し、レジアスを正そうとする己の狂気はそれにまず間違いなく負けてないと断言する。故に、

 

「フルドライブモード」

 

 一瞬で落とす。

 

 

                           ◆

 

 

「そーれっ」

 

 空に浮かび上がる巨大な魔法陣から巨大な腕が出現し、それが大地に叩きつけられる。軽い悲鳴が発生するがそれが心地よい。たぶんそれは私への評価であり、そして称賛の声だからだ。何てことをしやがるんだ、という声は間違いなく己への評価だ―――えっへん、と胸を張り、上がってテンションに任せてもう一度手を振るう。

 

「ごーごー白天王! やっちゃえやっちゃえ白天王!」

 

 魔法陣が再び出現し、大地を薙ぎ払う様に腕だけが出現し薙ぎ払う。今度は足が別の魔法陣から出現し大地を踏み砕き、別の腕が大地に叩きつけられる。そうして逃げ惑う敵の姿を見て思う―――快感、と。なんだかこうやって逃げ惑う姿を見ていると非常にテンションが上がってくる。普段は後方から支援ばかりやらされているものだが、これがキチガイダブル覇王の見ている光景なのかと思うとあの二人がキチガイな理由が大分見えてきた。確かに楽しいこれは。

 

「楽しい」

 

「こっちは楽しくないわよ―――!!」

 

「なんですかこれぇ―――!!」

 

「こっちにくるなぁ―――!!」

 

 視線を前へと向ければ姿が四つほどある。どれもバリアジャケットは白をベースとして、自分よりも年上だが、全体的に見て歳の低い連中だ。データは確認している。ブレインのティアナ・ランスター、脳筋のスバル・ナカジマ、桃色チビのキャロ・ル・ルシエ、そしてハァハァせざるを得ない短パンショタのエリオ・モンディアルだ。短パンショタって何か素晴らしい響きがある気がする。

 

「右、右、左、下、上、そぉーれ」

 

 命令通りに魔法陣が展開され、順番通りに究極の召喚蟲、白天王の体の一部が召喚される。召喚された一部分は命令に従って動き、召喚された一帯を一回だけ薙ぎ払う様に攻撃してから消える。それを機動六課新人フォワード勢は必死の形相で回避している。なんだか前遊んだダンスゲームを遊んでいるようで結構テンションが上がってきている。これはもう少し遊んでもいいんじゃないかなぁ、とホテルの上階でこれでもか、ってぐらいに連続でフラッシュしまくっている桜色の光をなんとか見ないようにしながら思う。

 

『イスト先輩ホントお疲れ様でーす。その砲撃兵器をこっちへ絶対に連れてこないでくださいー』

 

『テメェこのロリっ子……! あ、ヒロインが戻ってきた、あ、あ、ヒロイン参戦だぁ―――!!』

 

 悲鳴を上げているが結構楽しそうだなぁ、と思う。緑色の光が上では混ざって、そして二つの姿が後方へと飛んでゆく。流石にこれはプランにないし、予想外の部分かなぁ、と判断しておく。

 

 すぐ近くのガジェットを引っ張ってきて、蹴り、大地に倒すとその上に座る。金属が少しひんやりしていてお尻に冷たさが伝わってくる。まあ、座っていればそのうち何とかなるだろうと判断する。

 

 まあ、

 

 壁が犠牲になっている間に自分は自分の仕事をしよう、と思った直後、ダンスゲーム途中だったティアナが此方へと銃弾を放つ。だがそれは自分の前に現れるガリューによって阻まれ、消える。あぁ、そういえばただの雑魚集団ではない、と言われていた気がする。まぁ、正直どうでもいい連中だ。母の復活を邪魔させるのであればまず間違いなく敵で、そして踏み潰すべき存在だ。だから終始ワンサイドゲームで進める。

 

 守り、護衛にガリューを配置し、攻撃に白天王の部分召喚で徹底的に攻め続けて相手に反撃する時間を与えない。ガジェットの上に座っているのでAMFも発生している。抜け道を知り、召喚術士である自分には関係のない事だ。だが相手にとっては脅威だ。訓練を受けているとはいえ、上手く魔法を行使する事も出来ないだろう。

 

 と、

 

「シッ―――!」

 

 一人、閃光の如く動き、ダンスゲームから脱出する姿がある。一直線に此方へと向かって接近してくると槍を振るって攻撃を放ってくる。だがそれは此方の護衛についているガリューが片手で受け止め、そしてカウンターを叩き込んでその姿を吹き飛ばす。ゼストの槍術を見ているだけに物凄い未熟だと解る。それでも頑張りが伝わるし短パンショタ属性なので、

 

「70点、ガリュー」

 

「―――」

 

 残りを口にする必要はない。ガリューが次の瞬間には地を疾走して四人へと襲い掛かる。白天王の部分召喚は割と魔力が消耗するし、楽ではないのだが―――まあ、この状況を見て判断する。おそらく相手側も此方側と同じ様な指示を出されているのだなぁ、と。

 

「未熟者は未熟者で、他を邪魔しない様に、と」

 

 これで隠密奇襲が成功していればまた役割は違ったのだろうが、と思う。が、まあ―――割と楽しいしいっか、と思う。ただ、まあ、

 

「古代ベルカコンビは間違いなく激戦だろうなぁ」

 

 背後から聞こえる轟音と爆撃の様な衝撃を流しつつ、暇だな、と思考する。

 

 ―――味方が強すぎるのも問題だ、とも。




 他の組がマジなところでこのロリのこの空気である。

 エリオきゅんが本格的にヤバイ(

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