マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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Chapter 7 ―Bad Boys Bad Girls―
アナザー・サイド


 良くやるものだと思う。

 

 追跡を撒く為に十数を超える回数異世界への転移を繰り返してから再びミッドチルダへと戻ってくる。スカリエッティが所有するアジトは管理局の目鼻先、つまりクラナガンから見て東、ミッドチルダ東部の森林の中に存在する。これだけ管理局に近くてアジトが管理局側に発見されないのはスカリエッティが陸・海・そして空の三部隊の管理局のトップに守られているからだ。スカリエッティの関連情報が流出しない様に認識され、なおかつこの森林地帯は普通の人間が入ってこれない様に自然保護区となっている。故に調査の為の許可をもぎ取る事さえ難しい状況になっている。それに自然の多い場所にはリンカーコア保有の魔法生物も存在するため、魔法を少し使ったところで魔法生物が使用したとカモフラージュができる。隠れ家としては非常に優秀な所だ。

 

 森林地帯の一角、洞窟に偽装されている入り口を他の二人と一切会話をすることなく入り、そのまま奥へと進んで行く。暗い洞窟の中を明かりもつける事無くしばらく進んでいると、急に空間が切り替わって明るくなってくる。そうして見えてくるのは自分が立つ壁と床、そして奥のエレベーターだ。迷う事も止まる事もなくエレベーターに乗り、そして研究区が存在しているフロアへと向かうボタンを押す。音も振動もなくエレベーターが動きだし、上部の倉庫エリアを抜けてその下に存在する研究区へと到着する。

 

 エレベーターの扉が開くと、そこから降りる。ここまで来るとようやくアジトへと戻ってきた、という感じはする。報告をさっさと済ませるためにも研究区、その奥のスカリエッティがいるであろうモニタールームへと三人で向かう。別段とチンクともノーヴェとも仲が悪いだけではない。ただこの二人とは必要以上に会話する必要性を感じない。だからやはり無言のままモニタールームへと到着すると、そこは爆音と光で溢れていた。

 

 壁には壁全体を覆うようなモニターが、床にはお菓子が散乱し、そして灰皿の上には潰されたタバコが捨てられていた。他にもジュースやら飲み物が放置されており、モニターの前には数人が集まっていた。

 

 そうやって注目されているモニターに映っているのは二人の魔導師の姿だった―――ただしCGで。ワイヤレスのコントローラを集団の中心人物、紫色の髪の男が握りながらモニターの中の存在を操作している。

 

 つまりコイツ、スカリエッティは今はゲームをして遊んでいる。

 

 横にホロウィンドウを浮かべ、その向こう側の人物と連携を取っているように見える。

 

「あ、ゲージ! ゲージ空になった!」

 

『秒間20連打でゲージ溜め! どう? いける? いける!?』

 

「来た! ゲージキタァ―――!!」

 

「ドクターそこ! そこッスよ!」

 

 良く見るとスクリーンの中に映っている二人の魔導師の内一人はなのはだ。そしてもう一人は……昔、難事件を解決した魔導師だったはずだ。そしてその視線の先にいるのはスカリエッティの人相を更に極悪化させたようなキャラクターだった。何やらなのはが一気にゲージ吸い上げて砲撃をスカリエッティへと叩き込んでいる。そしてその光景を周りの娘達は興奮した様子で見ている。それに対して任務から帰ってきた我々三人は心底呆れているとしか言いようがなかった。

 

 軽く溜息を吐いて存在感をアピールしても、相手は全く気がつかない。それどころか白衣姿のスカリエッティは大分テンションあがって来たのか、立ち上がると白衣を脱ぎ、投げ捨て、そして近くのジュースのボトルを掴むとそれをラッパ飲みする。

 

「あと少し! あと少しで私撃破!」

 

「頑張ってスカリエッティをぶっ殺せ!」

 

「DLCで僕追加されてない!?」

 

 声でやっと我が家の馬鹿担当が混じっているのに気が付いた。こいつ、お菓子とジュースに絶対つられて参加しているな、と気づいたところで後ろへと向き直り、チンクとノーヴェと視線を合わせる。チンクも自分もノーヴェも少なからずダメージは存在している。それもそうだ、危険な任務から帰ってきたのだ、帰ってきて労われる事をある程度予想しているのだ。なのに任務から帰ってきたらオンラインゲームで協力プレイ中のスカリエッティがゲームの中の自分をリンチしていた。

 

 よし、うん、と頷く。チンクもノーヴェも何をするか察したのか一歩後ろへと下がる。

 

「3……2……」

 

 レヴィがこっちを察知して逃げ出すのと同時に周りにいたナンバーズを回収する様に水色の髪の”ナンバーズ”、セインがその特殊能力で他のナンバーズを掴んで床の中へと潜る。ゲームに夢中のスカリエッティはそれに全く気付かない。だからゆっくりとルシフェリオンを構える。カチャ、と音を鳴らしてルシフェリオンが変形し、その音に気付いたのかスカリエッティがゲームの画面から此方へと振り返る。

 

「あ、おかえり」

 

「ただいま戻りました」

 

 迷うことなく非殺傷設定で可能な限り手加減したブラストファイアーを目の前の男に叩き込む。

 

 

                           ◆

 

 

「―――あぁ、お疲れ様。良く頑張ったね。期待通りの働きだよ、やはり君たちに任せてよかった」

 

 そう言って少しだけ服を焦げさせているスカリエッティが楽しそうな表情で言ってくれるが、ギャグにしか見えない。火力調整を誤ったのかと思うが、この程度では懲りない男である事を自分は把握している。何気に魔力もたくさん保有しているし、その気になれば防御できたのだろうから問題はなかったと判断する。だからバリアジャケットも武装も解除して普段着へと姿を戻した状態で、腕を組む。自分の意志を察してか、ホロウィンドウが自分の代わりに声を放つ。

 

『―――で、駄目なのか?』

 

「駄目だねぇ」

 

『死ねばいいのに』

 

「酷いなぁ、私程善意に満ちた犯罪者も少ないと思うよ? 何せ本来は不可能な事をささやかな対価と引き換えにやってあげているのだから。まあ、私から言わせれば奇跡なんて所詮その程度だ、というだけの話なんだがね」

 

 モニタールームに存在するのは己と、チンクと、ノーヴェ、そしてスカリエッティとホロウィンドウだけだ。他の者は蜘蛛の子を散らす様に逃げてしまった。だから前よりも大分静かになった部屋で、スカリエッティを睨む。その視線をスカリエッティはおどける様に怖がりながら、口を開く。

 

「私と君たちの契約はシンプルだ。寿命を延長して欲しかったらレリックを持ってきたまえ。適合するレリックであれば延命処置を行おう。その代わりに”マテリアルズ”は傭兵として私が利用する。君も君のデバイスも覇王だって自由に動き回れる。契約としては抜け道も多くて双方満足する内容じゃないのか? コツコツ仕事したって君たちがレリックを見つけてこなければ私は何もしない―――そういう契約内容だ」

 

 それがこの四年間の契約内容。スカリエッティの傭兵として自分たちが活動する代わりに、イストを初めとする残った人員は自由にレリック探索に動き回る。そのサポートもスカリエッティはやってくれる、何故なら我々に適合しなかったレリックを買い取ってくれるからだ。もちろん金銭でのやり取りではなく”権利”や”行動”をレリックと引き換えにしているのだ。この二年間で自分、レヴィ、そしてディアーチェの延命処置は完了した。―――だがユーリだけは完了していない。この二年間彼女を救うために適合するレリックだけが見つからない。体内にロストロギアが存在する為により繊細なチョイスだとこの男は言っているが、真実はきっと―――。

 

『知ってるよ』

 

 そう言って答えるホロウィンドウには一人の男の姿が映し出されている。長く伸びた赤毛を首の後ろ辺りで纏め、顔に傷を残す男の姿だ。何故だかわからないが上半身裸だ。という事は半裸で先ほどまでゲーム遊んでいたのかあの男。スカリエッティに対してどうしようもないやつだな、何て言葉が聞こえてきそうな視線を送るがそれは貴様だ。

 

 そして、ホロウィンドウが此方へと向けられる。

 

『まあ、こっちはこっちでお嬢ちゃんとおっさんと次元世界渡り歩いてレリック探し回ってるから』

 

「王と馬鹿の面倒はお任せください。あと髭剃りサボっていますね? ちょっと伸びているので面倒になる前にしっかりと剃っておいてください。そこらへん彼女たち大分甘いので見逃してしまうので気を付けてください。あぁ、あと熱いからって理由で簡単に上を脱がないでください。いいですか? 貴方は一家の長なんですから―――」

 

『スカ君、後は任せた』

 

「あ、待ちたまえ」

 

 そういう間にもホロウィンドウはその表示を”通信拒否”という状態へと変化させている。それを眺めた後、スカリエッティが此方へと視線を向けてくる。そして気まずそうに視線を漂わせてから、横のチンクとノーヴェへと視線を受ける。

 

「おかえり、良く頑張ったね!」

 

「ドクター、話を振るのが遅いです」

 

 そしてバッサリと切られる。ノーヴェもチンクもどちらかと言えば武人肌で気の長い方だが、流石に自分のトップが任務中にゲームやっている姿を見てしまうと少し、というか結構イラっと来る。これで相手のトップは直接前線指揮をしてくるという光景を見ているのだから余計に苛立ちはあるだろう。気のせいか若干青筋が浮かんでいる様にさえ見える。

 

「では」

 

 まあ、此処からは自分には関係の無い事だ。次の任務があるまでは待機だろうから部屋から出ることにする。撤退時に分かれて向こう側へと向かったアギトはちゃんと合流できたのかなぁ、と軽く考えながらもモニター室に背を向けて部屋から出る。

 

 モニター室から出ると見慣れた面子が揃っていた。水色の髪の少女がセイン、そのまた横にいる水色がレヴィ―――この二人は水色繋がりとアホな事から割と仲がいい。その横にいる特徴的な語尾のがウェンディで、ナンバーズの中でも割とノリがいい方だ。というかこの二人がナンバーズの中では圧倒的にノリがよすぎるのだ。騒動の中心には毎回混じっている気がするが、まぁいい。

 

「ドクターどうなってるんか解るッス?」

 

「たぶん折檻されているんじゃないでしょうか」

 

「うわぁ、悲惨」

 

 等と言いつつもその表情には憐れむ様子は全くないどころか笑顔が浮かんでいる。いい感じに楽しんでいるなぁ、と思っていると、レヴィが近づいてくる。この四年間で彼女も自分と同様、色々と大きく育ったなぁ、と思う。基本的に髪型はロングのポニーテール、普段着は何時も通り動きやすい水色のシャツとホットパンツで、自分よりも遥かに大きい胸が少しだけ、羨ましい。そこらへんで差別してくる人ではないと解っているのであんまりというか全く気にしないが。

 

「ところでシュテるん無事?」

 

「一撃貰いましたがユニゾン中でしたからね、問題ではなかったですね」

 

「シュテるんがそう言うなら全く問題なかったんだろうね。良かった良かった」

 

 そう言って笑いながら背中をたたいてくるレヴィは姿は成長しても全く中身は変わらないものだと思う。まあ、この数年で変化したのは関係と、外見ぐらいで、中身に変化は一切ない。それだけ自分たちが確固たるもので出来上がっているのだ。だからどこに所属しようが結局変わる事なんてなく、何時も通り続く。

 

『おーい、貴様ら菓子を焼いてやったから早く来ないとなくなるぞ』

 

 ディアーチェの声が研究区に響き、そしてモニター室を盗み見ようとしていたウェンディとセインの姿が止まる。そして声がした瞬間には既にレヴィの姿は水色の線となって消えていた。そしてその次の瞬間にはウェンディを置いて一人だけ床を抜けて下へセインが床抜けをするのだからこいつらも結構芸風決まっている感じだなぁ、と思う。まあ、ディアーチェの事だ。どうせ遅れた人用にキープぐらいはしてくれているだろう。無駄に急ぐ必要もない。

 

 それよりも、と、

 

 研究区の奥を目指す。

 

 ナンバーズの生まれ場所であり、そしてスカリエッティの狂気が渦巻く場所。その奥へと歩きなれた通路を進み、そして到達する。いくつもの調整槽の中に、稼働しているのが二つだけ存在する。液体で満たされている二つの中には裸の女性が浮かんでいるのが見える。片方には紫色の髪の女性が浮かび、もう片方には金髪の女の姿が浮かんでいる。ここ最近はこの中に浮かんでいる時間も増えてきたな、と思う。ま、それも仕方のない事なのだろう。

 

「ただいま、ユーリ」

 

 意識は落ちているので返答はない。唯一延命処置を受けられないユーリだけは寿命が近づいている。メンテナンスもなしに数年間活動していたツケが回ってきているようで、最近はここにはいって誤魔化す回数が増えてきている。どうにかして適合するレリックを見つけなくては、と思う。だがスカリエッティも馬鹿じゃない。これは―――人質なのだろう。

 

「ダーリンの活躍に期待するしかありませんね……」

 

 溜息を吐き、ユーリが浮かぶ調整槽をしばらく、眺め続ける。

 

 思い通りにいかないのは―――実にもどかしいものだ。




 若干説明臭くなってるかも。

 貴様らは徹底的な鬱を期待してたのだろう。

 だがそこにいるのは半裸ゲーマーと白衣ゲーマーだ。遊んでるのはたぶん協力プレイできる無双ゲーっぽいの。管理局というか次元世界版。

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