マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ターン・ザ・テーブル

 動きの中で見る。

 

 相手の動きが変わった。

 

 自分が敵対するのはエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ、双方共にまだ子供だ。自分を害する事は出来ても、自分を倒す事には至らない少年と少女だと判断している。なぜなら彼らは圧倒的に未熟だからだ。昔打倒したゼストと比べると同じ得物を使っているというのに遥かに技量で劣っている。地力でも負けているし、全てにおいて劣っている。唯一勝っているのは速度だが、それも一流ではなく二流という範囲で収まっている。相手がまだ成長途中であると考えるのであれば十分すぎる戦闘力だが―――一流、超一流と相対するのであれば圧倒的に不足している相手であると判断する。自己を高く評価するのはそこまで好きではないが、最低でも己がストライカー級である事は自覚している。故にその判断から思考する―――自分に負けはない。

 

 そう、自分に負けはない。自分が相手を圧倒する戦場。言い換えれば弱者を嬲るだけの戦場がここにはあると判断している。いや、だからこそ相手の動きの変化に違和感を覚える。今しがた己の攻撃を回避した動きは正しい選択肢だった。いや正しい、ではない。正確に言えば最善の動きだ。攻撃を回避して相手へと攻め込むために置いて状況に対して一番正しい判断だ。それを相手を取ってきた。それ自体は何の問題もない。

 

 だが問題は相手がそれを未熟な体術のまま行ってきた事だ。

 

 それで判断できるのは―――助言者が付いたか。

 

 

                           ◆

 

 

『はい、右へステップステップ、下にダック、前へロール、上へジャンプ!』

 

 段々動きにアクセントが付き始めている気がしないでもないが、それでも驚くほど動きが軽い。相手が放ってくるナイフを回避し、爆発を回避し、そして少しずつだが確実に距離を詰めているのを感じられる。先ほどまで回避一辺倒だけだったのが信じられないぐらいだ。ツヴァイの指示通りに体を動かせば確実に相手へと接近するのを感じる。これは、

 

『先への見通しと経験の差ですね。モンディアル三等陸士はまだまだ子供です。残念ですがこればかりはどうしようもありません。戦闘に関しては高いセンスを持っていますが経験が足りません。ですので”次へと繋げる動き”をできていません。ここら辺は訓練と実践を繰り返す事で覚えるのですが、高町一尉のスパルタのおかげで中途半端ながら身についています―――ですがそれだけでは足りません。リインがモンディアル三等陸士に伝えているのはその”次のステップ”です。その次のステップを高町一尉が教える前に本格的な戦場へと出てきました』

 

 理解している。自分は未熟だ。誰かの助けがなければまともに動けないぐらいには未熟だ。ティアナの指示が無ければまともな作戦行動は出来ないし、スバルの様な爆発力を持ってはいない。だからと言ってキャロの様に特殊な能力を備えているわけではない。少し希少かもしれないが、雷の変換資質は存在するものだ。だから今の自分を評価するのであればフェイト・T・ハラオウンの劣化。それもただの劣化ではなく超劣化。一流相手であれば一方的に嬲られる弱者側だ。

 

 だから、

 

 頑張ります……!

 

 それだけが今の自分の価値だから。それだけが今の自分にできる事だろうから。後ろにはキャロがいる。自分を置いていかずに残ってくれている。逃げようと思えば一人だけでも逃げられるのに。外へ出て戦った方がもっと有利であるだろうに、此方を心配して残っていてくれている。だとしたら一人の男として、無様を晒す事だけは絶対にできない。してはいけない。

 

「頑張ります!」

 

「良い遠吠えだ」

 

 そう言って此方を見て、そして笑う相手はたぶん身内には優しいタイプなんだろうな、と思う。言葉の端に優しさが見える。だが敵であれば容赦はしない―――シグナムの様な武人タイプであると判断する。だから行く。己の道を信じる。

 

『いいですね―――』

 

 通します。

 

 ツヴァイの声に従って動く。体は指示に従って素早く動く。日ごろからティアナの声を聴いて動く事に慣れているからかもしれない。格上の相手に、指示通り動くという行動が自然にできる。それに従って体は相手の攻撃をかわしながら前進する。相手へと接近するための動きを形作って行く。相手を追い込むための状況を生み出して行く。リーチも火力も相手が上だ。だからと言って此方が負ける要素は一切ないと断じる。負けてはいけない。

 

「通します!!」

 

「来い!」

 

 相手のナイフが目の前に迫っているツヴァイの声が聞こえる。加速術式と強化術式が稼働している。最善が何であるかをツヴァイが伝えてくる。だから体は前進する。速度は乗っている。だから問題はないと判断する。通すと宣言した。だから前に出るのと同時に足は相手のナイフを踏む。体は軽い、軽くしている。だからナイフが沈む前に踏み越える事が出来る。踏み越えて沈む。そこでナイフが爆発する。だが既に前進し終わった後での爆発だ、影響はない。だから口に出す。

 

「貫け―――ストラーダ」

 

『I shall make your path』

 

 雷刃となったストラーダを振るいながら相手へと向かって突き進む。スパークしながら振る刃を相手が回避する。回避した―――故にこの瞬間が自分のタイミングだ。相手が回避動作へと入った瞬間からが勝負。

 

『頑張ってくださいねモンディアル三等陸士―――』

 

 そこでツヴァイの念話が切れる。おそらくこちらを気にするだけの余裕がなくなったのだろうと判断する。だがツヴァイの指示から必要な”ライン”は見えた。あとはそこまでどれだけ自分が追いつけるかの勝負だ。そして速度に関してはフェイトに劣っていても―――いつかは追いつく。その気持ちで常に槍を振るい続けてきた。だから見えたラインへは到達する。早く、誰よりも早く。邪魔にならない様に、並んで走れるように、

 

「早く……!」

 

『Sonic move』

 

 スパークを残しながら加速し、相手へ追いつく。そうして振るう刃が中空を切る。相手が空中で体を捻る事で回避するのが見えた。それで攻撃は回避される。体は熱を持っている。相手がナイフを放っている。それが自分の目の当たる位置へと既に設置されているのは確認できる。あと三センチ前へと進めばそれが目に突き刺さる。であるなら横か、後ろへと下がるべきだ。

 

 加速する。

 

『Sonic move』

 

「連続加速かっ!」

 

「無理、無茶、無謀は承知の上です!」

 

 そもそもソニックムーヴという魔法が連続で使用されないのはそれが人体の限界を超える加速魔法だからだ。一流の魔導師であれば連続で使えるし、加速時間も増える。だがそれは一流の魔導師の話であれば、という話だ。自分の様な未熟の魔導師であれば体が悲鳴を上げるのが道理。だがそこはキャロが全力で支援してくれた力がある。ある程度の無茶をするのは可能だ。この無茶を自殺へと変えないのがなのはの教導だ。

 

 ここで勝利すれば自殺ではなく無茶になる。

 

 加速から回避と前進の動きを同時に果たす。背後でナイフが爆破するのを感じつつ相手へと接近し、そしてストラーダを突き立てる。穂先が刺さるのは相手のコート、そしてその上から電流を流し込みつつストラーダを全力で振り抜く。ようやく命中した全力の一撃。それで相手を吹き飛ばし、身体が崩れるのを感じる。

 

「―――任せました」

 

「うん―――!」

 

 次の瞬間、窓の外から巨大な炎が列車内を焼き―――そして同時に爆炎が車両を爆砕した。その衝撃に吹き飛ばされ、後ろへと流されながらも確認する。

 

 軽傷でダメージを済ませ、立つ相手の姿を。

 

「流石に少々焦ったが―――続けるぞ?」

 

 

                           ◆

 

 

 熱線が伸びる。それが放ったハーケンセイバーを飲み込んで一瞬で融解、爆散させる。一瞬で出力の違いを自覚させられ、己の領分以外で敵わない事を把握する。バルディッシュを迷うことなくザンバーモードへと変化させる。遠距離は、中距離は、

 

『大丈夫なのは?』

 

『大丈夫―――間違った仲間は殴って黙らせて反省させろ、って習ったから』

 

 怖いような頼もしいような―――この状況であれば間違いなく心強いと思える。だから遠距離の攻撃手段は全て捨てる。その代わりに自分は自分のなせる事、即ち接近戦に全てを込める。この火の粉の檻を突破しようとすれば強引にできるだろうが、あまり現実的な手段ではない。だからシュテルに接近する。フラッシュムーブは既に発動済み。動きの全てを常に加速させる。そしてシュテルの死角へと回り込む。それにシュテルは敏感に反応する。

 

「ルシフェリオン」

 

 デバイスが再び槍の形を取る。それがバルディッシュ・アサルトと一度だけ切り合った瞬間に体を離す。次の瞬間なのはがアクセルシューターを五十程浮かべ、それを一斉にシュテルへと向けて放つ。それに対してシュテルが火球を三十程浮かべ、ぶつけ合う。閃光と爆炎が空を覆う。瞬間、バルディッシュと自分に使用している魔力を極限まで減らし、飛行と加速に必要な魔力をギリギリの出力へと落とし、シュテルの頭上へと飛び上がり、落下、加速する。音を殺し衝突によって生まれた煙の中で再びバルディッシュに魔力を流し込み、刹那の隠密からの奇襲を繰り出す。

 

 が、

 

「っ!」

 

「使い古された戦術ですね」

 

 此方へと向かって寸分の砲撃が叩き込まれる。反射的にバルディッシュを振るい、放たれた砲撃を両断する様に斬撃を放つ。砲撃とザンバーによる斬撃が拮抗するのは一瞬、出力は相手の方が上回っているのでそれ以上は完全に飲まれる。故に拮抗した瞬間に雷光の加速を持って脱出し、回転しながら雷刃を飛ばす。軽い飛行行動でシュテルが回避した先、なのはがレイジングハートでのチャージを済ませている姿があった。

 

「エクセリオンバスタァ―――!!」

 

 軽度の収束砲撃が放たれる。それをシュテルは片手で握ったデバイス―――ルシフェリオンを向けて、そしてそこに一瞬で収束させた砲撃をぶつけ合わせる。

 

「粉砕!」

 

 砲撃がエクセリオンバスターと衝突し、その勢いを削ぐ。だがその程度で全体は消えない。だが素早く二射目は放たれていた。それもまた炎の赤い砲撃。

 

「滅砕!」

 

 エクセリオンバスターの大半を二射目の砲撃が削ぐ。そうやって連続で砲撃を繰り出す能力はなのはにはない。なのはとシュテル、その両者は似ているようで違う。その進化した方向性、スタート位置は同じでも終点は違っていたらしい。なのはにはない技術で、なのはをシュテルが追いつめる。

 

「ブラストファイアー!」

 

 エクセリオンバスターを貫きながら三射目がなのはに命中する。その瞬間を見逃さずにシュテルの横へと素早く、砲撃のモーションが終了する前に到達する。砲撃が終了した直前、振り向きも攻撃も出来ないその瞬間は完全に無防備だ。砲撃を行ってデバイスフレームも放熱を必要としていた最低でも一秒のラグが必要であるというのはなのはから得ている知識だ。故に躊躇する鳴く、目の前の障害を切り払おうとし、

 

「リミッターが無ければ届いていたでしょうね」

 

 爆炎が生じた。とっさの判断でバルディッシュを盾の様に構えると体が後ろへと押し出されるのを自覚する。そして悟ったのは攻撃の失敗だった。気が付いたのは炎を纏った腕、その纏わりついた炎を放った事だけだった。だがそれは散弾の様に此方を焼こうとしてくる。一撃一撃は威力は低いのだろうが―――ユニゾンしている今、その出力はけた違いだ。単純に言って散弾一発が低出力の砲撃並みの威力を放っている。受け止めるだけでも一苦労だ。最善は回避する事だ。だが、相手の様子―――隙が無さすぎる。

 

『慢心も油断もないね』

 

『うん』

 

 返答と同時に炎の中からなのはが出現する。砲撃の直撃を受けたというのにダメージを受けているような姿は見せず、垂直にレイジングハートを振り下ろしていた。

 

「ディヴァインブレイカー……!」

 

「温いッ!!」

 

 シュテルが迎撃の為に砲撃を放ち、そしてそれがディヴァインブレイカーの中央を穿つ。砲撃の剣はその一撃によって砕かれ、魔力が―――

 

「バーストッ!!」

 

 拡散せず爆破した。収束技能を応用した使用済み魔力の遠距離爆破。拡散を収束で防ぎ、再コントロールを得てからの爆破。威力は中々の物だと理解しているが、オーバーS級を倒すのであれば明らかに不足している。だからこそ結果を確認する前に、なのはの一撃が命中したのを確信した瞬間にカートリッジを消費しつつザンバーを振り回す

 

「雷光、一閃!」

 

 極大の雷光を刃として放つ。それが爆破の発生した空間を薙ぎ払い、そして爆破によって発生した煙を吹き飛ばしながらシュテルへと命中するのを見た。だがその空間の中で彼女はルシフェリオンを両手で構えていた。反射的に相手の放つ次の動きの規模を察し逃げ道を考える―――だがこの空間では狭すぎる。迷うことなく持ち込んできたカートリッジの半分を消費する。

 

『なのは、溜めて!』

 

『了解!』

 

 そう告げると同時になのはの前へ移動する。瞬間、シュテルから膨大な魔法を検知する。レッドアラートをバルディッシュが告げるが、逃れられないのは理解している。その代わりにバルディッシュのザンバーモードに魔力を込め、それを振るう。

 

「集え明星、全てを焼く焔と化せ……!」

 

 極大の熱線が放たれる。だがそれが本番の前の前座である事を察する。放たれる砲撃はデカイが、それでも感じる魔力と収束に対してあまりにも弱すぎる。だがそれでも全力を振るう事に躊躇はない。

 

「薙ぎ払え、ジェットザンバー!!」

 

 雷刃を振り回すのと同時に熱線がぶつかる。高速の二連射の熱線。それとジェットザンバーがぶつかり合って消え去る。だがその瞬間、相手側も此方側も―――魔力の収束は完了している。なのは自身も相手が収束を始めるのを感じた瞬間には収束を始めていたのは天性の勘か、あるいは経験から来る行動だろうか。素早くなのはの背後へと移動した瞬間、

 

「真・ルシフェリオンブレイカァアアッ!!」

 

「スターライト・ブレイカ―――!!」

 

 最高レベルの収束砲撃が真っ向から衝突を果たし、そして中央で一瞬の拮抗が生まれる。どちらも砲撃戦魔導師としては最高レベルにある事を把握している。技量的には相手が上と言ったところだろうが、収束の純度ではなのはの方が上に見える。それが技量差を互角に追い込むのであれば―――勝負は出力差によって決まる。

 

「ちょいヤバかも……!」

 

 出力の勝負であれば話にならない。リミッターがなく、そしてユニゾンで強化を施されているシュテルの方が圧倒的だ。故にスターライト・ブレイカーが押され始める。それに堪える様になのはが込める魔力を増やそうとする、が、

 

「押し切らせてもらいます」

 

 宣言通りそれを気にすることなく真・ルシフェリオンブレイカーがスターライトブレイカーを飲み込み、焼き払い始める。巨大な熱が接近するのを感じる。更にカートリッジの消費とオーバードライブモードを思考した瞬間―――馴染み深い魔力を感じ、安堵する。

 

 ―――間に合った。

 

『―――お疲れさん』

 

 三種の砲撃がスターライト・ブレイカーに合流し、一気に勢いを巻き返す。そのまま相手の砲撃を食い破り、その勢いで一撃をシュテルへと到達させる。その結果、少しだけダメージを受けたシュテルの姿を確認しつつ、檻の外側から砲撃した存在に視線を向ける。少し距離があって直接の声は聞こえないが、念話を通して彼女の声は聞こえる。

 

『フォワード陣の皆お疲れ様な。援軍連れてきたし―――巻き返すで』




 ガンバレ男の子。かっこよくなれ男の子。そのチビはセメント化するぞたぶん。

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