マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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シャタリング・リアリティ

「―――それじゃあブリーフィングを始めるよ?」

 

 場所は機動六課隊舎から大きく離れ、ミッドでも外れの方へ。大型輸送ヘリ内部に自分たちは今、存在している。緊張でガチガチにエリオとキャロが固まっている姿が直ぐ近くに見えるが、それと打って変わって相棒のスバルは大分興奮した様子を見せている……あぁ、そう言えばこういう男っぽいもの、スバルは好きだったなぁ、と思い出す。他にこのヘリの乗船している面々、なのはをはじめとしてフェイト、リインフォース・ツヴァイ、そして操縦者のヴァイスは大分落ち着いた様子を見せている。ここら辺、年長組は流石だなぁ、と思う。やはりこれが経験差からくる余裕というものだろうか、少しだけ緊張している自分がいるだけに羨ましく感じる。

 

「さて、場所はミッド北部ベルカ自治領へと向かっている列車の一つが急に暴走を始めたって報告が入って来たのが約二十分前の話。今が現場へ向かっている最中で、到着までは後三分って所だね。今まで君たちが空間シミュレーターで相対してきたガジェットドローンのⅠ型が列車をハッキング、暴走させているって話だから私達の出番だね」

 

 既に資料は全員に渡されて、チェックも終わっている。ガジェットドローン、あの卵型の機械はレリックに引き寄せられる。そう言う性質を持って制作された機械なのだ。それ故にあの機械が現れるという事は―――あの列車にはレリックがある、ということになる。

 

「ここにヴィータ副隊長やシグナム副隊長がいないのは部隊長についてちょっと別世界へと向かっているのが原因でなるべく早く合流する予定だから、彼女たちが追いついてくるまでは前線は君達に任せるよ―――いいね?」

 

 それは確認ではなく命令だったのは明らかだった。だから自分たちにできるのは緊張と共に頷きはい、と口に出して答えるだけだった。何よりも対応できると思っているからこそなのはは自分達を前線に連れて行っているのだ。もしまだ早ければ流石に情けない姿しか見せていないフェイトであっても止めるに違いない。

 

「じゃあ作戦とかに関しては初出動と言う事もあるしトップに頑張ってもらおうかな」

 

『ういーっす、皆元気かー?』

 

 ホロウィンドウが出現し、そこにははやての姿が映し出されていた。その背景からどうやら次元航行船に乗船している様に見える。彼女も今、全力で此方へと戻ってこようとしているのだろう。

 

『そんじゃ高町一等空尉から引き継ぐな? スターズ分隊はガジェットの殲滅・ライトニング分隊はレリックの確保に動いてもらうで。ただ確認した感じ航空戦力型のガジェットも出ているっぽいんでまずはこっちの露払いを高町一尉とテスタロッサ執務官に任せるで。終わったら即合流って感じでまあ、大体は現場の判断に任せるけど私が命令だした場合は即座に従ってもらうで。ええな?』

 

 揃ってハイ、と答えるとはやては満足そうに頷いて、そしてホロウィンドウの方向がツヴァイの方へと向く。

 

『そんじゃそろそろ通信不可領域何で、次繋がるまで現場の判断は任せるで』

 

「お任せください! 思考模倣でちょちょい、とはやてちゃんの思考再現できちゃいますから!」

 

『ほほう―――じゃあちょっとやってみい』

 

「はい!」

 

 そう言ってツヴァイは目を閉じ、数秒間そのまま過ごしてから目を開き、そしてヘリ内を見渡、そしてフェイトへと視線を向ける。正確に言えばフェイトの胸へ。ツヴァイが何かを口にする前に、ホロウィンドウが消失しながら言葉を残す。

 

『終わったら説教やなリイン』

 

「え、完璧だったのに!?」

 

 がびーん、と音を鳴らしながらツヴァイが落ち込むような様子を見せている。そのコミカルな姿に思わず笑い声がこぼれてしまうのは自分だけではなく、他の皆も同様だったらしく、更にツヴァイが落ち込む姿を見せる。その姿を見て笑ったせいか、心に余裕が生まれる。……少しだけ、自分らしくない緊張をしていたらしい。

 

「姉さん方、笑っているのもいいですけどもうすぐ到着ですぜ」

 

 ヘリの扉が開き、そしてそこからミッド郊外の景色が視界に入ってくるのと同時に、暴走し、走り続ける列車の姿も見える。そこに張り付く様に見える金属の色―――それが間違いなくガジェットだろうと判断する。シミュレーターのとは違って攻撃をまともに食らえば死ぬ可能性のある相手。その考えに一瞬だけ思考が乱れ、そして整う。

 

 なのはよりも酷いもんは流石にないだろう。

 

「よっと」

 

 椅子から立ち上がるのと同時になのはの姿が一瞬でバリアジャケットを纏ったものへと変化する。それに倣う様にフェイト、そしてツヴァイも一瞬でバリアジャケット姿へと変化させる。それで今が纏うタイミングだと認識し、自分も素早くバリアジャケットを纏う。数秒後にはバリアジャケットを誰もが纏い終わっていた。

 

「じゃあ、屋根の上に降りれるように道を作るから合図を送ったら降りてね」

 

 フェイトは笑顔でそう言うとヘリの扉前に立ち―――そして次の瞬間には姿を消した。素早く視線を外の景色へと向けると、そこに移ったのは空を覆う十数というガジェットが一瞬で爆散し、空が赤く染まる光景だった。何時の間にかデバイスを握っていたフェイトはヘリの進路上のガジェットをあっさりと薙ぎ払っていた。その実力に驚愕し、軽く惚けていると、なのはが前に出る。

 

「うーん、フェイトちゃん張り切ってるなあ。これは私も負けてられないかな」

 

 そう言ってなのははヘリから飛びだそうとして―――そして動きを止める。

 

「あぁ、そうだった。大事な事を言い忘れてた」

 

 そう言ってなのはは最後に付け加える。

 

「―――敵対する”人型の存在”が現れたら戦おうとせずに全力で逃げてね?」

 

 なのはもそう言葉を残してヘリから飛び降り―――次の瞬間、空を桜色に染めた。

 

 

                           ◆

 

 

 ……でなきゃいいんだけどね。

 

 レイジングハートを振るい、接近してきた飛行型ガジェットにその穂先を突き刺す。ストライクフレームモードのレイジングハートの先端が突き刺さった所で、内部へとショートバスターを叩き込んでAMFを完全に無視した攻撃を成立させる。次の瞬間に射撃しながら接近してくるガジェットを残骸を盾にすることで防御しつつ、

 

「ハイペリオン」

 

 砲撃魔法をそのまま叩き込む。頭の悪いやり方だがAMFを上回る量の魔力で攻撃すればAMFは関係なく貫通できる。ただ非現実的である為に教えはしないし、普通は使うこともない―――自分の様に魔力に恵まれている人間にしかできない方法だ。腕を振るいアクセルシューターを三十程、全て二重構造のものを生み出し、それを一気にガジェットの群れへと叩き込む。この状況は新人たちの初陣としては丁度いい。実戦経験は積めるのであれば早ければ早い方が何事も都合がいい故に、この状況は願ったりかなったり、というのが自分の意見だ。

 

 と、念話で会話をする。

 

『フェイトちゃん、暴れすぎちゃ駄目だよ』

 

『解ってるよ』

 

 閃光の異名を体現する様にその姿が動く。空を覆う大量のガジェットを間引く。だがそれでも列車の上に存在するレベルの低いガジェットには触れてはいない。あの程度が新人たちの実力を計り、そして実戦経験を積む相手としては丁度いいのはフェイトも理解してはいる。だが、

 

『都合がよすぎるよね』

 

『そうだね』

 

 ―――都合がよすぎる。その一言に尽きる。隊長陣を引き付けるための航空戦力。新人を相手させるための簡易戦力、トップが不在の状況、そして”未だに終了していない状況”、この全てがあまりにも都合がよすぎた。状況を認識し、そして理解する。これは十中八九、

 

 

                           ◆

 

 

「―――罠ね」

 

「ティアナさん?」

 

「隊長達がそれでも動くて決めたんだからどうにもならないわね。まぁ、いいわ―――エリオとキャロの侵入をバックアップするわよスバル」

 

「了解! いっちょに派手にやるよ!」

 

 左手にクロスミラージュを、右手にタスラムを握る。既にどちらも作動を開始して機能の同調を行っている。それによるラグはコンマ1以下になっているが、それでもまだ隊長陣にとっては大きすぎるんだろうなぁ、と後方で湧き出るガジェットとを軽々と蹴散らす二人の姿を確認しながら思う。だが自分たちに求められるのはアレぐらいの働きではない、だから今は気にする必要はないと思う。気持ちを軽くして、口に出す。

 

「ゴー」

 

 それに反応する様にスバルとエリオが前に出る。キャロによるAMF貫通支援魔法は既に付与されている。屋根の上に配置されているガジェットが一斉に此方を向く。自分の立ち位置をキャロの前へと持って行き、庇える位置に立つ。

 

「行きます!」

 

「必倒ッ!」

 

 一番近くのガジェットが反応できる前にスバルとエリオが接近、一撃で一機ずつスクラップにする。それもただスクラップにするのではなく、そのまま上半分を完全に消し飛ばす形でだ。そのままスバルとエリオは動きを止めず、敵陣へと踏み込んで行く。素早く、短く、動きを小さく。この数週間で覚えた事を確実に動きに取り入れながら、受け取ったばかりのデバイスを慣らす様に踏み込んで行く。そのまま素早くガジェットを撃破し、再び踏み込む。その動作は機動六課の空間シミュレーターでやっている演習の時と全く変わらない。ただ、その光景を見てキャロが言葉を零す。

 

「脆……い?」

 

 いや、違う。敵が脆いのではない。

 

「演習内容がハード過ぎるだけよ」

 

 なのはなんて化け物と日常的に相対しているからこそ目の前の兵器が鉄屑の様に思えてしまうのだ。レベルの高い状況に慣れているからレベルの低い相手に違和感を感じてしまう、肩透かしを感じてしまっているのだ。だが今はそんな事よりも、前に出る事だ。前へと踏み出せばその動きにキャロがついてくる。エリオとスバルが避けたガジェットの攻撃が此方へと流れてくる。それを素早くタスラムとクロスミラージュで放つ魔力弾で撃ち落とし、キャロを護衛する様に前へと進む。

 

 アタッカー二人が車両の境目へと到着するのを確認する。

 

「ストップ! そこ、お願い!」

 

 指示を出せばそこでエリオとスバルが動きを停止し、その周辺をクリアしようと近寄ってくるガジェットの迎撃だけを始める。短い言葉で此方の意図を察してくれるのはやはり少しは集団で戦うことに慣れてきた証、と言う事なのだろうか。走り、スバルとエリオに追いつくと、クロスミラージュとタスラムをガジェットへと向けて構え、動きを止める。

 

「ここから侵入できるからそのまま目標のある先頭車両へ向かって。こっちはなるべく派手に動いてひきつけるから。それに車両内の方が―――」

 

「狭くて突破力があるから僕の領域ですね」

 

「ナイトを気取るなら傷一つつけるんじゃないわよ」

 

「勿論です!」

 

「え、エリオ君!」

 

 少しだけ笑いながらも、車両と車両の間の隙間から車内に入れるようにスバルがエリオとキャロに手を貸し、下へと降ろす。エリオとキャロが下へと降りたのを確認し、そして視線を持ち上げる。周りには自分とスバルを書くむ様にガジェットの姿がある。それはまるで此方の行動を待っているようで、実に気味が悪い。それが自分の考えに信憑性を持たせてくれる。

 

「……スバル、適度に流して私達は上からエリオとキャロを追いかけるわよ」

 

「ティアがそう言うなら正しいんだけど―――どうして?」

 

「一、相手の動きがおかしい。二、隊長達が派手に暴れている割にまだ追いついていない。三、ガジェットの数が減っているように見えない。四、視線を感じる」

 

 スバルに難しい事を言っても仕方がない。伝える言葉は完結的に、シンプルにする。つまり、

 

「先頭車両へと向かって真っすぐぶち抜いていけばいいのよ! 下の二人に遅れない様に!」

 

「了解!」

 

 言葉にした瞬間スバルが先頭車両へと向かって動き始める。そしてそれと同時にガジェットが動き始める。その動きに遅れないように全力で前進を始める。それと同時にスバルを援護する為に二つの銃口に魔力弾を形成し、それをガジェットの内部へと叩き込む。なのはレベル相手には全く無意味だと把握したが、相手が木偶であれば全くの問題はない。スバルへと襲い掛かろうとしたガジェットを迷うことなく破壊し、前へ進むのと同時、ほぼ二倍の速度でスバルが拳を振るってガジェットを叩き壊す。

 

 相変わらず惚れ惚れする活躍だと思う。だからこそ、それには負けていられない。

 

 次の車両へと飛び移りながらホロウィンドウで下の車両、エリオ達の動きを追いかける。彼らはどうやら自分やスバルも早く、前へと進んでいるらしい。それに追いつくために更に走るペースを上げ、体を止める瞬間を生まない様に気をつけながら射撃を行う。そうして行うのは完全にスバルのサポート、自分で撃墜する事にはこだわらず、スバルの攻撃後の硬直をカバーする事と、自分の回避だけを考えて行動する。無理をする必要がないのであればなるべく余裕を持つ。それが正しい選択肢だ。

 

 なぜなら―――

 

「鏖殺する」

 

 ―――次の瞬間には黄色のウィングロードが壁の様に立ちはだかるのが見えた。

 

 

                           ◆

 

 

 爆発をストラーダを盾にすることで防御する。それでも衝撃はストラーダを超えて体へと伝わってくる。防御する、という事は最悪の選択肢であるとフェイトには教わっている。スピードタイプにとって防御は考えられる限り最悪の選択肢であり、最大の持ち味であるスピードによる回避が不可能である事を示す為だ。だから一瞬で脳にレッドアラートが鳴り響く。

 

「私の一撃を防ぐ、か。なるほど未熟だな。が……仕方のない事か」

 

 声の主が煙に紛れてその姿を確認する事が出来ない。だが煙の中で煌くものが見える。金属だ。そしてそれは間違いなく己に回避と言う選択肢を与えなかった得物だ。だから口に言葉を出しながら体を動かす。

 

「隠れてっ!」

 

「は、はい!」

 

 小さい、鉄色の刃が煙から放たれる。それを横へ飛ぶように回避しようとし、熱を感じる。

 

「ドクター曰く”ステージ2”、だそうだ。嬲るような形になるが悪く思うな」

 

 そして鉄のナイフが爆ぜた。

 

 

                           ◆

 

 

 戦場全体を見て一つの停滞が生まれていた。先ほどまで空気を揺らしていた魔法の轟音は姿を潜め、そして一つの静けさを生み出した。そして戦場全体を支配していたのは緊張感だった。状況が確実に、そして足速く進行しているという緊張感。同時に、この状況が作り上げられ、操作されているという理解。故に戦場は相対の瞬間に静かさを得ている。

 

 それだけの理由があるから。

 

「……」

 

「……」

 

 黙るしかない。目の前、現れた存在に、口を閉ざすしかなかった。恥じる様子もなく、隠れようとする様子も、偽る様子もなく。ただそこに己の存在を証明する様にその人物は立っていた。

 

 まるで自分の鏡写しの様だ、と思う。

 

 自分が昔使っていたロングスカート型のバリアジャケットのデザインをそのまま発展させたような形、色は紫で、正直な話その姿には軽い懐かしさを覚えた。髪の色は茶、だがそれは機能性を重視しているのか適度な短さで揃えられており、そのまま大きくした、という形が似合っている。だから見れば解る、あの頃から一切変わっていないのだろうと。だが右手に杖を握り、そして肩の上に赤髪の小さな存在を浮かべる彼女は口を開く。

 

「お久しぶりです」

 

 あぁ、懐かしいという感慨を得る前に、既に自分は念話でフェイトとどうやって突破し、新人へと接触するかを話し合っていた。素直に喜べなくなってしまったのは純粋に悲しいと思いつつも、レイジングハートを構え、少しだけ目を閉じてあの頃を思い出し、言葉を引っ張り出す。

 

「……久しぶりシュテル」

 

「えぇ、そしてさようならです」

 

 変わらないものがあれば、変わるものもある。

 

 どんなに残酷であろうと―――現実からは逃げられない。




 少しだけ展開圧縮。そろそろタイトルを回収しよう。

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