風に煽られ、白い水飛沫が幾度となく宙を舞い踊り、バシャバシャと水面に落ちる。
落ちる事の無い小さな水滴は霧状(ミスト)となって舞い上がった。
白い霧を、縦一閃。骨刀【犬牙】が閃き、白い飛沫を赤く染めた。
「チッ、浅い……!!」
宙を舞うクルペッコにかすったのは剣先僅か。
村雨 翔が目を開けていられたのはそこまで。舞い上がる水飛沫が顔にかかり、思わず目を閉じてしまう。
「やっべ……!?」
そこからは、ほぼ直感的な動きだ。
姿勢を一瞬にして低くし、勢いをつけて右側へ。太刀を抱え込むように転がった。
その直後に、すぐ脇でガチンッというギロチンのような、硬い音が鳴る。
「翔ッ、速くどきなさい!! 喰われても責任取らないんだからねッ!!」
ヒュゥッ、と空気を穿ち、一本の矢がクルペッコの嘴(くちばし)を掠めた。
小さく舌打ちしつつ、黄 蘭雪(ファン ランシェ)は矢筒から今度は三本の矢を取り出して弓に番(つが)える。ギチギチと聞きなれた弦の軋む音がした。
ある程度力を込めたところで手を解放すると、勢いよく矢が三方向に広がりながら飛来し、クルペッコの正面にいた翔のオトモであるアイルー、ヤマトの頭上を通過して鮮やかな両翼と頭に直撃して傷を付けた。
今まで翔に注がれていた視線が――――殺気がこちらに向いたのを肌で感じる。これで、翔が安全に離脱するだけの隙は作れる筈だ。
(目の前で死なれちゃ気分悪くなるし……。翔の為じゃ、ないんだからねッ!!)
そう、あくまで自分の気分的な問題である。
決して翔の為ではない。決して翔の為ではない。
――――ギュルォォオッ……!!
クルペッコが上体を反らす。ブレスだ。大した威力は無いものの、当たると臭いし属性の耐性も格段に落ちるという。
生態を翔が説明した時、万が一火打石の一撃でも食らえば致命傷ものだ。
そう言えば、翔は他に何か言っていただろうか……?
************
「クルペッコのブレスは属性の耐性を下げる効果があるらしいな」
ベースキャンプを出る直前の話。
ハンターノートのページを真剣に捲る翔が言った。
「何ソレ?」
手首を回しつつ翔の後ろからついて来ていた蘭雪は首を傾げつつ肩越しに彼の手元へと目を落とす。
そこには随分と使い込まれ、色落ちなどの劣化が激しい、分厚いハンターノートが一冊。
「モンスター図鑑ってところか? とにかく、見て聞いて調べたことをまとめてんだよ」
「へぇ……しっかし、古臭いしもうボロボロじゃない」
「ああ。もう何年だろうな……親父が使わなくなったのを貰ったんだし」
蘭雪にも辛うじて見て取れる程度の文字だ。
「親父、狩りの途中でも気付いたことは何でもメモとる癖があったらしくってさぁ。モンスターの目の前でもハンターノート開くとか言ってた」
すげぇよなぁ、とちょっとズレた感想を呟く翔に「アンタねぇ……」と呆れ声をしつつ、蘭雪は先を促す。
「クルペッコの気が変わらないうちに早く行きましょ。変にモンスターを呼ばれちゃ敵わないわ」
水筒のキャップを開け、一気に
しかし、
「あれ……?」
空だった。水一滴すら、入ってなどいない。
さっきの準備運動でとりすぎたのか。
「なんだ、空か?」
「むぅ、考えなしに飲むモンじゃないわね……」
水筒を逆さにして振っても何も入っていない空の容器から水が湧くわけでも無く。
見かねた翔は自分の腰にひっかかている水筒を取り出して中身を確認し「ほら、飲めよ」と蘭雪に差し出す。
「喉渇いてんだろ? 飲んでる間に
「あ、ちょっとッ……」
そう言った翔は蘭雪の手の中の水筒を取って自分のを押し付け、駆け出して行ってしまった。
「……別に出るついでに汲めば良い話じゃない……」
バカね、なんて言ってみるものの、内心有難く感じる。
パーティーを組んでしばらく経つが、意外と不快感もない。初めての出会いがアレだったのにも関わらずにだ。
いや、それはともかく。
「さっさと飲んじゃお」
くれたのは有難いので快くいただくとしよう。
グイッと一息に
そして、気付く。
喉が渇いて水が飲みたい。
↓
水が無い。
↓
翔の水筒を貰う。
↓
水を飲む。
↓
コレ、間接な“アレ”では……?(今ココ)
「ブッはぁッ!?」
思考の結果、華の乙女らしからぬ形相で吹き出した。
「こ、ここここここれッ!? まさかッ、か、かか間接……ごにょごにょ……」
つまりは間接キスである。
――――いやいやいや。待って。一旦落ち着かないとでしょ。深呼吸、そう、深呼吸よ深呼吸。深呼吸、大事。うん。
落ち着けと自分に言い聞かせているにも関わらず動揺を抑えきれない蘭雪。
――――冷静になりなさい、黄 蘭雪っ!! そもそも、翔がまだ口を着けたとは限らないじゃない!?
希望的観測である。
「よぉ、ランシェ~……………………って、あり? どした?」
そしてこんな時に限って犯人(無自覚)のお帰りだ。
「うっさいッ!! この能天気!! ばーか!!」
「はぁッ!? いや、何だよソレ!?」
自分で考えなさいッ、と翔向こうずねを蹴る。「いてェっ!?」と声を上げるも、実際防具越しなのでそこまででもない……はず。
「さっさと行くわよ!! 全く、無駄な労力使っちゃったじゃないの!!」
「そりゃそっちの勝手――あだだだだだっ!? 耳、耳は勘弁ッ!!」
こうして二人がわたわたと進む中。
「ご主人、痛そうなのニャ……」
本気でとぼけるヤマトが後を追い掛け。
「見ものにゃぁ。この先楽しみってところにゃ」
しめしめと一匹愉しげな感想を述べるナデシコがついて行った。
************
「ッ、集中集中っ!!」
ブンブンブンと二、三頭を横に振って余計な思考を追い出す。ここは狩場、つまりは命のやりとりを行う場であり、弱肉強食。一瞬の隙が永眠へのショートカットアクションと同等だ。
スッと視界が狭まり、クルペッコ一点に注がれる。
その時には既にクルペッコは息を吸い終え、ペペペッと三連続のブレスが飛来してきた。
冷静に。二歩バックステップ。目の前で粘着質の臭いを発する汚物が撒き散らされるが顔を顰めてる場合じゃない。
余分な思考を出来る限りカットし、クルペッコの喉元一点を見据える。
嘴の形状からして恐らく、中身が空洞の笛の様な物なんだろう。あれが壊れれば良くて他モンスターが呼べなくなるか、最悪時間稼ぎ辺りにでもなるはず。
蘭雪が次の弓をつがえる間、翔が太刀を大きく振り上げる。
振り降ろし、突き、切り上げ。たった三パターンだが切りつける場所が少しでもズレれば刃が通らずにたちまち弾かれてしまう。しかし、如何せん手応えが悪い。それに僅かだが刃からも削れるような音が聞こえている。そろそろ砥石を使わなければ。
蘭雪も後衛ながら翔の動きが少々ぎこちなくなり始めているのを悟った。疲労か、はたまた太刀の不具合か。とにかく苦しそうなのはわかる。
「翔ッ、無理しないで退いて――――……ッ!?」
退いてなさい。そう言おうとした矢先、クルペッコがいきなり蘭雪へ向かってホバリングをしながら一瞬にして距離を詰めて来ていた。思わず構えていた矢があらぬ方向へと飛んでいく。
ぶわっと翼の風が砂を舞い上げ、視界を塞ぐ。風にすくわれないよう姿勢を低くし、目を瞑りながら後ろへ。そして直ぐに顔の前でクロスしていた腕を降ろす。
「ランシェッ、早く避けろッ!!」
「えッ、うん……!?」
それよりも早く翔の声が無意識に蘭雪の体を反応させ、横へと倒れるように転がりながら自分のいた場所を振り返れば先ほどまで彼女がいた場所をクルペッコが嘴で噛んでいるではないか。
翔に内心感謝しつつすぐさま起き上がって走る。後衛がこんなとこにいては恰好の的だし、何より前衛にとって邪魔だ。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
駆け出した蘭雪と入れ替わるように翔がクルペッコへ駆け込み、太刀を振り降ろす。一撃、二撃と何度も何度も斬り付け、時に立ち位置を変えて幾度と無く斬る。
蘭雪も元の距離へと立ち位置を直し、どんどんと矢を放つ。それはさながら矢の豪雨。矢は翔には決して当たらず、しかし的確にクルペッコを射抜いた。
「ニャニャニャーッ!!」
ヤマトも果敢に飛び上がり、得物をクルペッコの頭部に叩き付ける。
「ニャニャッ!! ヤマトを忘れちゃ困るのニャ!!」
小さい体を活かし、ヤマトはクルペッコの体や頭によじ登って攻撃を繰り返す。
クルペッコはわずらわしいと言わんばかりにその場で回転を始めたり翼をバタバタと振ったり頭を振り回して暴れたりとしているが、粘着質にヤマトは貼り付く。
「足元がお留守にゃ」
刹那、クルペッコは自身の鼻腔が微かに何かが燃える臭いを感じて足元を見た。そこには三個の小タル爆弾がいつの間にか設置されており、既に爆破までの時間は一息と言ったところ。
動物本能的に一瞬怯んだクルペッコ。何か悪寒を感じて逃げようとするも、もう遅い。
足元で連鎖的に三度、小規模だがクルペッコの足をもつれさせるには充分な爆発が巻き起こり、体勢を崩して横倒しに転んだ。
「ナイスだナデシコ!! チャンスチャンス!!」
「姐さん感謝するニャ!!」
「いえいえ、それほどでも
転倒してバタバタともがくクルペッコ。これ以上に無い好機だ。
「オオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!」
太刀を大きく振り上げ、頭上で大きく回転させ、無防備なクルペッコ斜めに斬る。更に、反対に頭上でまた太刀を返して斬る。
見れば、翔からは真っ赤なオーラが立ち昇っていた。太刀使いの伝統奥義、通称『気刃斬り』だ。 自らを鼓舞し奮い立たせ体の内側から練気を創りだし、その溜まった練気を太刀に乗せて斬る。たったそれだけの行程でありながら難易度は想像以上だ。
頭上で舞の様に滑らかに太刀を振り、目一杯振り下ろす。斬、と確かな手応えと共に鮮血が飛び散りユクモ装備を汚した。
だが、まだ終わらない。
「ラストォォォォォォォォォォッッ!!!!」
これが本命。身体を捻り力を込めて縛りを解放、クルペッコに突っ込みながら身体を回転させ腕も限界まで伸ばし、太刀を大きく振るう。
『気刃大回転斬り』と呼ばれる技だ。練気を纏った刃を地面と水平にして振り回し、自分の辺り一帯を巻き込む大技であり並の練気程度では到底出せない。
骨刀【犬牙】が一際輝きを放ち、鮮血が舞う。
――――ギョワァァァァァッッ!?!?
感じた事の無い痛みが全身を駆け巡り、思わず暴れ悶え苦しむ。
「ニャアッ!?」
クルペッコの上に登っていたヤマトが大きく吹き飛ばされて頭から地面に落ちる。その隙をついてか、クルペッコは包囲網を転がって脱した。
「まだまだ元気ってか。中々にしぶとい野郎だ……」
手応えは確かにあった。ダメージも相当に大きい筈だ。が、目の前のクルペッコは全く動じているようには見えず。むしろ怒りの形相へとシフトしているような気さえしてくる。
(……怒り状態、なのか……?)
背負った太刀の柄を今一度強く握り直しクルペッコの出方を探る。向こうが警戒して動きを止めている以上、下手に動くのは愚策。こちらの方が小回りが効くとは言え初めての相手だ。隙を見せて一気に崩されては手の打ちようが無い。
(――――考えろ、焦るなよ。相手は未知数だ。またジャギィ達を呼ばれる可能性だってある。親玉なんて呼ばれて乱戦とかこっちから願い下げだぜ……。やるなら速攻、一気に畳み掛けて休む暇すら与えないのが良いか。でもこっちは朝から駆け回ってる、スタミナなんか向こうが圧倒的有利だし、やっぱり地道に削ってくか……?)
と、そこで翔の思考は途切れる。
ゴンゴン、ゴンゴン、と二回ずつ。クルペッコが左右にステップを踏みつつ翼の火打石をぶつけ合ってリズミカルに踊り始めた。
「しまッ……!!」
――――またジャギィ達を呼ぶ気か!?
パーティーの誰もがそう危惧する。
乱戦はモンスター二頭を同時に相手どらなければならない。ドスジャギィだけなら兎も角、今はクルペッコも一緒だ。集中力を二分しなければならない分、危険度は増す。
(阻止しねぇと……!!)
パーティーを分ける、と言う手もあるにはある。元は翔と蘭雪もソロ活動が普通だからだ。しかし、クルペッコ相手に二人で苦戦するのだ。一人相手では犠牲を伴う時間稼ぎにしかならないし、もしクルペッコにやられてしまえばドスジャギィを倒したとしても二の舞にしかならない。
大きく息をするクルペッコの喉元が大きく膨らむ。
――――キュォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ……!!
今までとは全く違う鳴き声。とてもモンスターを呼ぶようなものには聞こえない。
「この――ゲッ、はァッ……!?」
太刀を引き抜き上段から一太刀――浴びせようとした時。クルペッコのキレが増した動きの回転が尻尾を大きく振るわせ、翔に叩き込まれた。
「翔ッ!?」
「ご主人ッ!?」
「っ、直撃にゃ……ッ」
今のは誰が見てもモロに入った。モンスターと人間の体重差を考えればダメージは洒落にならない。
蘭雪とヤマトは顔を真っ青にし、ナデシコはただ一匹、冷静に動き出していた。
爆弾とブーメランをとにかくクルペッコへ投げつけ翔が倒れてる方向とは逆へ、注意を引いて分断するように動く。
「いっつぅ……ッ」
「翔、大丈夫ッ!?」
「ああ、余裕余裕……」
駆け寄る蘭雪に痛々しい笑みを浮かべる翔。どう見ても余裕とは言い難い。
「ヤマト、ナデシコの援護を頼む。俺とランシェはちと話したらすぐ行くからよ」
「合点ですニャ、ご主人!! しっかり回復頼みますニャ。――オトモアイルーの
勇ましく、そして微笑ましく敬礼してクルペッコへヤマトは駆け出す。
「ランシェ、ちょっとクルペッコに関してだ」
回復薬を呷り、太刀を砥石にかけながら翔は言う。
「……何か、わかったの?」
「わかった、とは言えねぇかな。推測になるけど」
ちらっとクルペッコを見る。翔も蘭雪もその光景に何かしらのデジャヴを感じていた。
「クルペッコのキレが急に増しやがった……いや、元に戻ったって方が正しいのか?」
「急に? でも回復させるきっかけなんて……」
「まさかとは思うけどな、推測じゃ
「鳴き声って……永遠に鳴かれたらキリが無いじゃない!!」
「いや、そう簡単に連発は無理なんじゃねぇのか? 人間と同じでさ、全力疾走して息絶え絶えの時に百点満点の歌聴かせてくれなんて無理な話だろ。向こうだって安定して鳴きたきゃ止まる筈だ」
確かに正論と言えばそうか。しかし、推測は推測だ。
「……嘴よ。嘴を狙うわ。多分、喉だけじゃなくて嘴にも何かしら構造があってそれも壊せちゃえば楽になる筈よ」
手早く観察した情報を伝え、ここから先は休みを与えないようにして嘴の破壊を念頭にする。その分正面に位置取らなければならいので危険度は増すが、向こうに永遠鳴かれ続けるのもよくない。
「オーケー。さっさとケリ付けるぞ!!」
「了解ッ」
************
所変わりエリア7。背の高いススキが生い茂り、水辺も近いところにあるためか水溜まりが所々にある視界の悪いエリアだ。
――――ギョワァァァァッッ!!
火打石が激しくぶつかり合い、爆発音と共に炎が暴発する。それが更に二回。
クルペッコのしつこい攻撃を転がって何とかやり過ごした翔はヤマトと共にクルペッコを挟むように位置取って反撃に移る。
立ち回りの中に時折気刃斬りを混ぜたり、細かく位置を変えながら何度も何度も斬りつける。
特に狙うのは頭部――その嘴だ。が、いくら体格の大きいモンスターと言えど一点を狙い続けるのは至難の技。これまで当てれたのも高々一○回程度でどれも“辛うじて当てられた”と言うもの。体重移動もいい加減で致命的一撃はまだ一度も無いのだ。
ブゥン、と辺りを凪ぐようにクルペッコが身体を一回転させ尻尾を振るう。翔は予備動作を瞬間的に見抜き、バックステップを踏んで太刀を切り払った。擦れ違い様、翼を刃が切り裂き血が溢れる。
クルペッコの攻撃は誰にも当たらず空を凪ぐ。
刹那の技後硬直を狙い翔とヤマトは再び肉薄して得物を振るう。
鬱陶しげに身体をくねらせて出されるアギトを横に転がって避け、がら空きの真後ろからヤマトが先に襲う。
一瞬の怯み。そこに翔は追い討ちをかけるが如く上段から太刀を叩き込んだ。
無防備な体勢への一撃。クルペッコは足をもつれさせ地面を転がりもがく。そこへ矢と爆弾の豪雨が降り注いだ。太刀が翼を斬り裂く。木刀が嘴を殴打し。矢が体躯を貫き。ブーメランが鋭く喉元を抉る。
――――ギョワアアァオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!
もうたくさんだ、そう叫ぶような絶叫にも聴いてとれる。
目一杯体を捻りもがき、肉薄していた翔とヤマトを蹴り飛ばす。
体格差からして必然。大きくバランスを崩した翔とヤマトは糸が絡まるように何度も転がって一段深い水たまりに頭から突っ込んだ。
グルリと視線を翔たちから外して、しつこく攻撃してくる蘭雪を見やる。
アレがジャマだ。
怒りに身を任せ地面を駆け突進。蘭雪は矢を放って牽制しようとするがモノともせずに突っ込んでくる。
「な、ちょッ――――ッッ!?」
技後硬直で全く身動きが取れない蘭雪。咄嗟に体を横に倒そうとするも、振り降ろされる硬い嘴が肩口を捉えて圧倒的質量差に地面を何度もバウンドした。
「――――――――ブッ、ッハァ!! クソ、ヤバい……!!」
大きな水飛沫と共に翔がやっとこさ水面から浮上。小脇には一緒に沈んだヤマトが丸くなっていた。
ダメージと疲労のところへ突然の冷水だ。精神的にも体力的にもギリギリをさ迷っている。
「ヤマト、休んでろ、ケリつけてやるからよ!!」
小岩の陰にヤマトを降ろし、びしょ濡れの体を渇かす暇も無く突貫を仕掛ける。
その視線の先。
悠然と佇むクルペッコが倒れた蘭雪を見下ろしながら――――――――まるで勝利を誇示するように火打石を打ちつけ合いながら踊り始めた。
ぞわり、と悪寒が背を這う。
アレはダメだ。今、こんな状況で使われたら……。
足を回す。走る。体を走らせる。
距離がありすぎる。
間に合わないのか。
(間に、合わねぇ……ッッ!!)
――――――――渓流の空に一つ、大きな雄叫びが響き渡った。
大変長らくお待たせいたしました。
ごきげんよう。第8話担当こと五之瀬キノンです。
まずは謝罪を。
数か月に渡り更新を滞らせてしまい本当に申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。
この話、本当はLOST担当だったんですが紆余曲折あり自分が担当になりました。
大体半分はLOST、半分は自分が書いてます。
何分急ピッチで仕上げたのでお見苦しい点もあるかもしれません。
その時はどうぞ、キノンまで連絡を。
さてさて、今回のお話。クルペッコ狩猟編継続でございます。
実際彼はもっと鳴くんでしょうが、まぁここはこれで許してください(ぉぃ
クルペッコは自分的にすごくニガテです。他モンスター呼ばれると時間かかるんで面倒で面倒で……。
上位とか亜種なんて五回も行ってないですから(ジョー怖い)
何とかあげれた第8話。
次回第9話は蒼崎れい先生担当です。
彼なら次の更新も安泰でしょうね。驚くぐらいハイペースなお方でして……敵いません(苦笑)
次回、お楽しみに。
それでは、またいつかお会いしましょう。