MONSTER HUNTER 〜紅嵐絵巻〜   作:ASILS

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第07話 (著:獅子乃 心)

「さて、と。お~い! ボックスの支給品分配するからこっち来てくれ!」

 

 ユクモ村から鳥車に揺られて数十分。今しがた渓流のベースキャンプに着いた(カケル)たちは各々で狩りの準備をしていた。

 

「ごめん、今手が離せないから~! 翔のオトモぉ~私の分持ってきてぇ~!」

 

 ストレッチの途中であった蘭雪(ランシェ)は近くで素振りをしている翔のオトモアイルー、ヤマトに向かって遠慮なしに指示する。当の本人は、そろそろ名前で呼んで欲しいニャ……とトボトボしながら主人の所へと歩いていくのだった。

 

「蘭雪はどうした? ストレッチか?」

 

「そうみたいニャ。ぐるぐるふにゃふにゃといつ見ても不思議な盆踊りを見ているようだニャ。あ、お嬢の変わりに取りに来たニャ」

 

 あれな、と感慨深げに蘭雪がいるであろう方を向く。

 彼女と狩りに行くようになってからというもの、ソロが長かった(と言うかソロしか経験がない)翔は色々な所で驚かされることが多かった。

 一つは、このストレッチ。彼女いわく(ファン)家に伝わる伝統的な運動法らしい。その名も太極拳。ふらふらと動いているようで軸がしっかりとしていて、ぐるぐるゆらゆらと手や腕を回転させる独特の型を持っている。素人目にはよく分からないが、どうやら攻撃を受け流す護身術の様に見えた。

 

「フゥ――。ナデシコ、次は的をお願いできる?」

 

「任せるにゃ。準備は万端。いつでも打てますにゃ」

 

 腕の回転を収束させながら深く息を吐きつつ気をつけの姿勢になる蘭雪。いつもはこれでストレッチが完了し、次のフェイズへと移る。

 

「行くにゃ? それっ!」

 

 蘭雪のオトモアイルー、ナデシコは打ち上げタル爆弾に着火させるとベースの開けた場所から空中へ向けて爆弾を放つ。

 

「――そこっ!」

 

 威勢良く発した言葉とともに、限界まで弦を絞っていた相棒、アルクウノから一筋の矢が放たれる。矢は放物線を描きながら、ナデシコの手を離れた打ち上げタル爆弾のど真ん中に吸い込まれると、彼女たちの遥か頭上で爆発が生まれた。

 

「にゃっ! にゃっ! にゃにゃにゃ~っ!」

 

 その爆発を合図にナデシコは足元の打ち上げタル爆弾に次々と着火し、打ち上がった爆弾を次々と蘭雪が打ち抜くのを繰り返す。無尽蔵に出てくる爆弾もそうだが、蘭雪の射撃の腕も大したものである。

 離れたところでドンパチ始める相棒(パートナー)を尻目に翔とヤマトはコツコツと狩りの支度をするのだった。

 

 

 

 

 

 ところ変わって。ベースキャンプからすぐのこのエリアは渓流の中でも比較的標高が高いところに位置し、緑が多い渓流には珍しくむき出しの地盤が崖のようになっている。そのため、開けたエリアが多い渓流を一望することが出来るので探索に向いているのだ。

 

「ねぇ翔。あの辺にジャギィの群れがいるんだけど?」

 

「狩場だからな、ジャギィの一匹や2匹、群れだっているに決まってるだろ」

 

「バカ、そんな当たり前の事聞くわけないじゃない。群れにしては大きくないかって事!」

 

 蘭雪の指す方向はちょうど渓流の北東部。開けた広場に廃屋が雨ざらしになり、朽ちながら寄生木(ヤドリギ)やツタ、苔に絡まれてエリアの真ん中に2つ鎮座しているのが特徴である。

 最近居着いた蘭雪にしても、そこにジャギィが出現することはもはやお馴染みとなっていた。

 ただ今回は、その群れの量がいつもに比べて大きいのである。

 確かに自然が常に同じ状態でいることはまずない。同じように見えるだけで、川を流れる水も、空に浮かぶ雲も決して同じものである確証はないのだから。

 

「繁殖期って言ってもそうポンポン増える訳じゃないし……。他所の群れが入ってきたかもしれないな」

 

「じゃあ、もしかして……」

 

「ドスジャギィがいるかもしれないですにゃ」

 

 ドスジャギィ。ジャギィの群れの頂点に立つ、言わばリーダーである。群れの中でも取り分け体が大きく、力の強い者だけがなれる。これも自然の摂理である。

 神妙な面持ちの彼らだが、ドスジャギィが群れにいるのといないのとでは大きく違いが出る。優秀なリーダーが号令をかける事で作業効率が上がるのと同じく、ジャギィの場合は遠吠えによる援軍、攻撃のタイミングの支持があるだけで、グッと狩猟が困難になるのだ。

 

「と言ってもだな、依頼書にはクルペッコ以外の大型モンスターは確認されていないって書いてあるし、近くを通りかかっただけかもしれない」

 

「そうね、取り敢えず今はクルペッコの探索に専念しましょ」

 

 北東エリアを跳ね回っているジャギィを一瞥し、一行は探索を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 一行は隣接する川原エリアの入口へと移動していた。

 

「お袋曰く、クルペッコは竜と名がつくものの雑食で、渓流では主に川辺で魚を獲って食べている姿が確認されている、と」

 

 翔は狩猟手帳(ハンターノート)を懐にしまうと後方に控えている蘭雪に確認を取る。

 既に川原エリアには今回の獲物(クルペッコ)が器用に魚を(ついば)んでいるの確認した。ここからはいつもの手はず通りに、と幾らかトーンを落とした口調で言うと、蘭雪は首肯のみで反応する。

 そんじゃ、と翔を始め前衛のヤマトとナデシコはクルペッコの死角になるとこを位置どってスタンバイする。

 

「じゃあ、行こうかしらね。……3、2、1!」

 

 矢をつがえ、弦をギリギリと引き絞る。狙うは彩鳥の名にふさわしい鮮やかな羽。

 いつも通り、ゆっくりと3カウント唱えた瞬間、羽に矢が刺さった音と同時にクルペッコ狩りのゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

――――ギョワアアアアアアァァァ!!!

 

「らぁぁぁッ!」

 

「ニャァァァッ!」

 

 矢が飛んできた方向に注意がそれた瞬間には翔、ヤマトの剣士コンビの刃がクルペッコに肉薄していた。

 大上段、突き、切り払いと立て続けに切り込む二人が距離を取った当たりで、扇のようなクルペッコの尻尾がさっきまで立っていた位置を乱暴に薙いだ。

 

――――キュルルルゥゥゥ……!

 

 悔しそうに唸るクルペッコが二人を視界に捉えた所で、忘れてもらっちゃ困るとばかりにナデシコがありったけの爆弾をクルペッコに向けて投擲する。

 

「それ! それ! にゃあ!」

 

一つ一つはそれほどのダメージではないだろうが、連続して放られる爆弾の衝撃によろよろとたたらを踏むクルペッコ。

 

真打(しんうち)……登場よッ!」

 

 あたかも最初からその地点に移動することが計算されていたかのように蘭雪が打った矢の雨はクルペッコに無数の矢傷を付けた。

 

「流石、お嬢の命中精度ニャ。まるで生花ニャ」

 

「また調子に乗っているとボロボロになって帰ることになるにゃ」

 

 幾らかの余裕を見せるまでに至る彼らのスタイルは、出会ったあの夜から何度も依頼を受けて一つ一つ積み重ねていったものだ。

 相手が一人に狙いを定める前に撹乱し、一つ一つ傷を付けていく。如何なる大木であれど繰り返し斧を突き立てられれば何時かは倒れるものである。

 

 しかし、この程度で倒されるほど竜の名を語る自然の脅威が柔であるはずがないのである。

 両翼を大きく広げると、後ろに大きく後退しながら小さく浮かび上がる。そして、息を大きく吸い込むと口から粘液が放たれた。

 

「っとと、器用に打ち分けやがって野郎。大丈夫かヤマ……ト?」

 

「ニャ、ニャ……ベタベタと気持ちが悪い上に何か変な匂いがするニャ」

 

 彩鳥の名は見た目の鮮やかさから来るものだろうが、粘液を三方向に打ち分けたりトリッキーな攻撃からも来ているのではないかと逡巡してしまう。

 もたもたしていると、クルペッコは飛沫を上げて着地するとそのまま真っ直ぐにヤマト目掛けて突進する。

 不味いと思った蘭雪が矢で牽制するも、お構いなしとばかりにヤマトを捉え、大きく跳ね飛ばす。すかさず切り込みに入った翔が時間を稼ごうと懐に入った瞬間に今度は尻尾が翔を捉え、同じく遠くに吹き飛ばされてしまう。

 

「つくづく男子はバカね、脳みそまで筋肉で出来てるんじゃないの? まったく……」

 

 本心からではないだろうが、悪態をつく蘭雪にもすっかり焦りの色が出てしまう。が、パートナーのナデシコは冷静にクルペッコによる(ついば)み攻撃を(かわ)しては爆弾投擲に精を出している。

「痛ったた、調子良かったのにな……」

 

「調子に乗っていたの間違いニャ。それにしてもこのベタベタがなかなか取れないのはこれ以上ない精神攻撃ニャ」

 

 吹き飛ばされていた剣士組もあの日を境に鍛えただけあって(防具のおかげで)大した怪我は無い。

 

「ほらアンタ達ぃ! ナデシコに時間稼いでもらって情けないと思わないの!? その剣がなまくらになってないんならしっかりしなさいよ!」

 

 ナデシコの攻撃の合間を埋める形で、蘭雪の放つ弓がクルペッコの気を削ぐ。きっと翔達と組む以前はこんな風にして狩りに挑んでいたのだろう。息の合ったコンビネーションに負けてられねぇ、と太刀を構えた翔に走り出したヤマトも戦線に復帰する。

 剣士組は一撃一撃を丁寧に当て、尚且つ欲張らない攻撃に徹する。さっきの失敗は何よりも慢心からのものだ。頼もしい味方に囲まれ、思い通りの狩りが出来るようになると、調子に乗って深追いするルーキーがそのまま狩場から戻らない、なんて事はざらじゃない。彼らのその心がけは着々とクルペッコへのダメージなる。欲張らずとも彼らの描く勝利へのビジョンに一歩ずつ近づいていた。

 

――――ギョワァァァギョワァァァッ!!!

 

 一撃を入れては避けを繰り返す翔達に(らち)があかないと叫ぶかのようにクルペッコが咆哮すると、両翼の先についた火打石を何度か打ち合わせる。

 

「来るにゃ、回避ッ!」

 

 クルペッコの行動が何を指すのかをいち早く察したナデシコは回避を促す。ナデシコの声を聞いた直後、ただ本能のままに身を投げた翔が今さっきまで立っていた場所に一足飛びに跳ねたクルペッコの火打石から小規模の爆発が起きた。跳ねた水飛沫が火打石に当たりしゅうと消える。クルペッコは火竜リオレウスのような直接的な火炎ブレスを持たない。代わりに、両翼の火打石と自ら生成する可燃性の高い粘液ブレスとを組み合わせることで外敵を排除するに用いている。そう考えれば、火竜ほどではないにしろ当たればただではすまないだろう。

 クルペッコは勢いを殺さないようにくるりと回転すると、今度はヤマトへ向けて翼を叩きつける。ニャッ、と短く勢いづけて主人に習いクルペッコのまたをくぐり抜けるように回避する。

 またもや避けられたクルペッコはキュルル、と悔しそうな鳴き声を上げる。そこに何処から現れたのかクルペッコの足元にありったけの爆弾を設置したナデシコがブツに着火するのと蘭雪の指から矢が離れたのは同時だった。

 

――――ギョワアアアアアアッ!

 

 爆風もそうだが嵐のような矢の雨にあてられたクルペッコが思わず体勢を崩した。もがき苦しむも、川原と言うだけあってなかなか立ち上がるのに難儀している。今こそがチャンスだ。

 

「者共ぉ! 行きなさいッ!」

 

「負けてらんねぇ、行くぞヤマト!」

 

「お供するニャ!」

 

 好機とばかりに太刀を振るう翔に続いて、負けじとヤマトが加勢する。通常なら高すぎて届かない頭部も難なく届き、冴え渡る太刀筋は一つまた一つと切り傷を生み出す。

 

「一つ、二つ! これで……決まりだッ!」

 

 練気を纏った太刀を振るい続けた必殺の気刃斬りが決まると翔の体からは妙な気迫の様なものを感じた。

 これは太刀使いの練気だけではなく、双剣使いの奥義とされる鬼人化にも通じ、人によっては、体から赤いオーラが出ているのが見える、と言う報告も出ているらしい。翔から放たれているものも恐らくはその類ではないだろうか。

 遠目から見ていた蘭雪にもそれがはっきりと伝わる程に翔の練気は高く高く練り上げられたもののようだ。

 一方、その攻撃を受けたクルペッコといえば。

 

――――ギョワッギョワッギョワワワアアアッ!

 

 地団駄を踏み、口からは荒く白い煙を吹き出し怒り狂っていた。素早く体勢を元に戻したかと思えば肉薄していた剣士組を尾でなぎ払い、援護に入った蘭雪達をも両翼の羽ばたきによる風圧で弾き飛ばす。

 モンスターの怒り状態とは無意識下に必ず存在する生物の生命保護の為のリミッターを外す。即ち――――なり振りなぞ構わない、ただひたすらに眼前の敵の排除に全力を注ぐ獣の本能が剥き出しとなった状態だ。

 一行から距離を取ったクルペッコは荒い息を吐きながら上体を大きくそらす。その瞬間、一行の目に映ったのは彩鳥の名に恥じない鮮やかな赤色の胸部がみるみると膨れ上がっていく様だった。

 

「やられた。仲間を呼ぶつもりだ」

 

「早く止めなきゃ! ナデシコ」

 

「はいにゃ!」

 

 一行はクルペッコに向かい、各々で反撃に試みるも、虚しくそれは鳴り響いてしまった。

 

――――『ウォォォォォォン!』

 

――――……ォォォン

 

――――……ォォォォォォン!

 

――――ウォォォォォォン!

 

 木々に反響してるだけならどれだけ良かっただろうか。木霊するように帰ってきた鳴き声は徐々に音と数を増し、遂には木々を抜けて飛び出してきた。

 

「ドスジャギィ……やっぱり近くにいたのか」

 

 現れたのはドスジャギィ。それもご丁寧に子分のジャギィも数匹連れての登場だった。

 

「言った通りじゃない、それよりも」

 

「にゃ。駆逐か無力化するのが先決にゃ」

 

「さっきからボクだけセリフがないニャ……」

 

 ジリジリと囲まれつつある状態を各自で牽制しながら方針は決まる。何よりも現状打破。そうと決まれば、とジャギィに斬りかかった翔の視界の隅には、エリア移動のために羽ばたこうとするクルペッコの姿が映る。

「ランシェ、奴が」

 

「分かってるって……の!」

 

 翔の焦りはさておき、クルペッコの動きにいち早く反応していた蘭雪は、相棒アルクウノの機構に異様な香りを放つ毒々しいピンク色の液体が入った透明な瓶を取り付けたと思えば空めがけて幾本もの矢を放つ。

 クルペッコはと言えば、混乱する翔たちを尻目に宙へと既に浮かび上がり、いよいよエリアの境だと思ったその瞬間、真下から一直線に向かってくる殺意とも言うべき物体が自身を傷つけるが、それどころではないとばかりに反撃はせず体力の回復を優先し北の空へと消えた。

 

「逃がしたニャ……」

 

「今はひとまず、コイツらをどうするかにゃ」

 

 今すぐ追いかけるのもいいが、このジャギィの群れを突っ切る必要がある。しかも、今のうちに倒しておけば再来の恐れもない。

 翔は周りに注意しながらちらりと蘭雪の方を向く。蘭雪も同じようにしながらこちらを振り向き目と目が合う。

 

「撃ち漏らしは」

 

「皆まで言わない、さっさと行って来なさい!」

 

 言葉の途中ではあるが、皆まで言わなくとも言いたいことはよく分かっている。小型のモンスターに囲まれた時のいつものアレ。

 蘭雪は口元が緩むのをキッと結び直し、矢を複数番えて構える。2匹のアイルーたちは翔のサイドを固めて剣士組は走り出した。

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ボクたちもいるニャ!」

 

 ドスジャギィは目の色を変えた翔たちに気づくと一声、二声鳴き子分たちを自分の目の前に配置する。恐らくは防御陣形をとったのだろう。だが……。

 

「見え見えよ……っと!」

 

 蘭雪が手を放す。放たれた幾本もの矢は、一度天まで届かんとばかりに上昇すると重力を受けて失速し、再びその重力を受けて加速する。そしてその矢が振りまかれようとする地にいたのは、集められたジャギィたちだった。

 

――――ギャン、ギャァァァン!

 

 予期せぬ方向からの攻撃に一匹、また一匹と倒れていくジャギィたち。そこへ本隊として翔たちが各々の武器を振り回す。

 翔は骨刀【犬牙】を右へ左へと大薙ぎし、バッタバッタと斬り伏せていく。アイルーたちも遅れを取るまいと翔の撃ち漏らしを仕留めていく。

 このまま狩られるものか、子分たちへの命令に躍起になっていたドスジャギィが動いた。ジャギィの中でも取り分け大きな個体だけあり、翔とさほど背丈の変わらないドスジャギィが助走からのタックルを放つ。それは子分を数匹巻き込んで翔を遠くへ弾き飛ばす。弾き飛ばされた当人と言えば、綺麗に受身を取れたようで既に太刀を構えて向き直るところだった。

 

「他所見は命取りよ!」

 

 翔に寄り付くジャギィの牽制も十分と見て、蘭雪の矢はドスジャギィのいる方向を向いていた。しかしその弓の機構には先程取り付けられていた瓶とは異なり、なんとも形容し難い刺激臭のする赤黒い液体が入っていた。

 

「ヤマト、巻き込まれないように離れるにゃ」

 

 主人の意図にいち早く気づいたナデシコがヤマトに注意を呼びかける。仲間の退避が完了したと気づいた蘭雪は限界まで絞った矢を一斉に放つ。

 それは子分の間を綺麗にすり抜け真っ直ぐドスジャギィを捉えると、刺さった瞬間に小規模の爆発を起こしたのだ。

 強撃ビン。弓使いにとって戦局を有利に進めるための道具であり、取り分け戦闘面において必要不可欠なものである。その効能は原料のニトロダケによる爆発、即ちダメージの増幅である。

 この攻撃にはドスジャギィも堪らずたたらを踏む。しかしその目からは依然戦意に衰えは感じない。だが。

 

――――ギャァァァン、ギャァァァン、ギャンッ!

 

 度重なる攻撃に激昂したのか、それとも三度子分に命令したのか遠吠えを幾つか繰り返す。

 翔たちも周りのジャギィを振り払いながら、注意を怠らない。

 ジャギィたちはピョンピョンと跳ねながら再び翔たちを囲みつつ進路の妨害に出た。恐らくは一斉攻撃の命令か。威嚇しながら進路の妨害を徹底する子分たちを一瞥するドスジャギィ。

 

そして、踵を返したかと思えば一目散に逃げたのである。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……こっちは粗方片付けたぞ」

 

「うん、こっちも。後は散り散りになったのかも」

 

「フニャ、骨が折れるニャ」

 

「だらしないにゃ~。回復薬でも飲むにゃ」

 

 渓流の名所たる川のせせらぎはほんのりと朱に染まり、死屍累々とした惨状となっていた。

 ドスジャギィのオトリにされた子分たちは、多方物言わぬ骸となっているか、散り散りになって逃げたのだろう。雰囲気はどうあれ、静けさは再び取り戻した。

 

「しかし、聞いてはいたが厄介な鳴き声だな」

 

「そうね、場所が場所なら飛竜を呼ばれていたかも。卑怯な奴よね、まったく」

 

「残念ながら、自然はそれだけ厳しいにゃ。実力で敵わないなら、助っ人頼めばいいにゃ」

 

「ハンターだって大人数で狩りするニャ。あいこって奴ニャ」

 

 うるさい、と蘭雪に拳固(ゲンコ)を貰ったヤマトがなんでボクだけニャとべそをかいているうちに剥ぎ取りを終えた翔が仕度を整えたようだ。

 

「標的はまだ健在、こっちは割と疲弊。いや、まだイケるな?」

 

「誰に聞いてんの? 余裕に決まってるじゃない」

 

「ストックはまだまだ十分。次こそ仕留めるにゃ」

 

「うっ、ううっ……大丈夫ニャ」

 

 よし、と翔は背中にかけてある太刀を担ぎ直すと、クルペッコの消えた北へと進路をとる。クルペッコが逃げ去る瞬間に放った蘭雪の矢。それに付着していたペイントビンの香りが北の方からする事から、恐らくは2度目のエリア移動はしていないようだ。

 先頭を行く翔に続いて蘭雪、ヤマト、ナデシコと続く。目指すは北の地、水辺エリア。

 

 

 

 一行の狩りはまだまだ始まりにすぎない。




こんばんは。ビビリのクセにライオンハートを偽る獅子乃心であります。
お久しぶり、そう言わざるを得ません。全ては私に責任があります。
が、言い訳は書く方も見る方も気持ちよくないのでバッサリかっと(キラッ

今回で遂に狩りが本格スタートです。いや、大変大変。
ガンナーの描写を意識して挟まないと空気になってしまうのが難点でしたね。
それから口調ですか、(主に蘭雪)マイルドにしないとコアな方の支持を得てしまうところでした(汗)

前回のようなラブコメを入れるのをすっかり忘れてしまったのが心残りです。
流石に命のやり取りをしてるのに、あんな事やこんな事になるのは考えづらかったので……。
日常パートの獅子乃でご期待下さいね(笑)

それでは長々と書くのもアレなのでそろそろ失礼しましょう。

次回はサザンクロスことザクロさん!
メンバー内でも屈指の火に油役の彼の書く次話も火に油を注ぐことになるのか!?

そいじゃ、次章にてお会いしましょう!あでゅ☆

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