MONSTER HUNTER 〜紅嵐絵巻〜   作:ASILS

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第21話 (著:獅子乃 心)

 繁殖期【秋】の香りを徐々に増していく渓流の木々は朱や黄に染まり始めている。

 渓流の流れには綺麗に染まった葉が、まるで上等な着物の模様のように鮮やかで、モンスターが生息するような人の手が中々入らないが故に残る自然の美しさを表しているようだ。

 一行は渓流の最西部に位置する開けた場所にいた。

 

「しかし村長のうっかりって怖いよな。一番重要なとこが抜けたりするから」

 

 断崖区域を抜け、天然の吊り橋を渡りきった翔はふぅと息を吐きながらぼやいた。

 

「ギャップとは時に武器ににゃるのにゃ。蘭雪もしっかり覚えておくにゃ」

 

 翔の後方。殿(しんがり)を務める蘭雪の脇にぴったりとくっついているナデシコが妙な事を言う。

 

「何言ってるんだ、ナデシコ?」

 

「いえ、こちらの話ですにゃ」

 

 当然疑問に思う翔とその脇にいたヤマトが首を傾げて見るも、ナデシコはただ首を振るだけだった。

 そもそも翔、蘭雪、ヤマト、ナデシコのいつものメンバーが祭りの準備も終盤という時にわざわざ渓流まで出向いたのかと言えば、理由は村長にある。

 村長のうっかり――と言うのも改修工事で手一杯で、もてなしの料理の材料集めを忘れていたらしい――によって山菜採りをお願いされたのだ。

 他の同業者(ハンター)達は軒並み地元へ帰っていったか、一番風呂を楽しみに風呂の完成を待っている。

 再び何かしらの依頼をするのも気が引けるし、在中のハンターでもっとも渓流を熟知しているのが翔を除いて他になかったのもある。

 そんな理由(ワケ)で少し困った笑みを浮かべた村長にお願いされて仕方なく出向いたという訳だ。

 

「この際仕方ないわ。さっさと片付けて、そして美味しいもの作ってもらいましょ。私たちには当然その権利があるハズだもの。あ、それならちょっと多めに採っておいた方がいいかもしれないわね」

 

 タダ飯が食べられるかもしれない、そんな理由で翔が答えるよりも早くに依頼を受けた蘭雪ではあるが今回ばかりは翔ありきの依頼だ。気分的に気楽だからかまだ見ぬご馳走によだれを垂らす始末だ。

 

「自分も依頼を受けたのに人任せかよ……。まぁ俺の経験とヤマトの鼻があれば難なく集められると言えばそうなんだけどな。でも数が足りるかどうか……」

 

 繁殖期【秋】と言えばのびのび育った作物が豊富に採れる。農場で栽培が難しい物も渓流を利用すれば難なく手に入る。だが今回のお目当ては格が違うのだ。

 

「ドスマツタケはな、そう易々と手に入る代物じゃ――」

 

 呆れながら首を振る翔の言葉を遮るようにヤマトが騒ぎ立てる。

 

「やった! やったニャ! ご主人ご主人! ドスマツタケがあったニャ!」

 

「――って言ってるそばからでかしたヤマト!」

 

 (くだん)の代物。翔たちのお目当てはドスマツタケというキノコの中では最高級の値段で取引される食材である。

 その味も然ることながら遭遇率の低さが値段の高さに繋がっている。

 その遭遇率と言うのが驚くことに伝説の素材と謳われる火竜の逆鱗を凌ぐとも言われている。

 人の手で栽培が出来ない以上は自然の物を自力で手に入れるしかないが、手に入れることすら敵わない。そんな食材をこうも簡単に引き当ててしまうヤマトは幸運だったと言える。

 実際のところ秋ともなればそれなりの数が発見されるので火竜の逆鱗を凌ぐと言うのは言い過ぎなのだが。

 

「まずは一本にゃ。依頼ではこれを10本と書いてあるにゃ」

 

「幸先がいいな。泥だらけになって初めて一本。納期をギリギリになってようやく達成ってのがいつもなのにな……」

 

「これは何かあるかもしれないわね……例えばヤマトがジャギィに食べられちゃうとか」

 

「ニャ、ニャニャニャンて事を言うのニャ! このボクに限ってそんな事あ、あああるワケニャいニャ!」

 

「嗚呼ヤマト、可哀想ににゃ。せめて骨くらいは拾ってあげるにゃ。骨まで食べられてたら諦めるにゃ」

 

「そ、そんニャご無体ニャ~」

 

 幸先のいいスタートを切った一行は翔の引率で採取をはじめるのだった。

 

 

 

 

 

 日が頭上をとっくに通り過ぎだんだんと朱色に変わり始めた頃、ようやくドスマツタケをノルマまで集めることが出来た。

 渓流という自然とそして彼ら自身の幸運が重なった事で翔たちの道具を入れるポーチの中にはしっかりとその存在が横たわっているだろう。

 

「今年は実りが良かったんだろうな。こんなに早く帰れるなんて滅多にないから」

 

「アンタの言ってたポイントのほとんどに生えてたわよね。毎年これだけ採れるならパパがきっと黙ってないでしょうね」

 

「ボクの鼻も大分貢献したニャ。報酬の3割はボクのものニャ」

 

「アンタはこのクタビレタケで十分よ。それが嫌なら私が直々に採ってきてあげた特産キノコで我慢しなさい」

 

「こんな仕打ちあんまりニャ……」

 

 功労者に対する仕打ちとは思えないが、これでも何度となく互いを助け合った小隊(チーム)である。あくまで言葉のキャッチボールと言う奴で、冗談だと分かっている。

 ……冗談のハズである。

 

 一行は依頼数よりも僅かながら多めに採ったドスマツタケを含む多くの山菜で道具入れ(ポーチ)に携えながら渓流区域を北東に進み木々の茂る、如何にもキノコが群生していそうなポイントを最後に依頼を終えることにした。

 

「そう言えば翔って料理出来るじゃない?」

 

「何だよ藪から棒に。たまにはお前が作ってくれるのか?」

 

 珍しくジャギィの影もない静かな渓流を進みながら蘭雪の問いに翔は問い返す。

 

「これを機に教えてもらうとか、不器用ながらお手製の料理を作る……なかなかポイントは高いにゃ」

 

 ぶつぶつと口を挟むナデシコの言葉は誰にも理解できないのであまり深く考えないのがこの小隊(チーム)の暗黙の了解になりつつある。

 

「違くてさ。毎日違うものが出てくるしレパートリーとかどのくらいあるのかなって。ユクモ村(ここ)にきて大分経つけど同じ料理でも工夫されてるし」

 

 ああ。そういうことか。顎に手を添えながらこれまで作ってきた自分のレシピを思い返す。思えば物心ついた頃から両親があまり近くにいない生活を過ごしていた。近所の人に持ってきてもらったおすそ分けを真似し始めたのがきっかけだったような。

 

「ご主人のご飯は何を食べても美味しいニャ! ボクがお世話になる頃には今と同じくらい美味しかったニャ!」

 

「親父もお袋も忙しかったからなぁ。最初は村長とか近所の人に助けてもらってたけどあんまり世話になるのも迷惑(アレ)だったし、下の奴らの手前だ。兄貴としての」

 

「あれ、ちょっとストップ。レパートリーの話は一旦休憩」

 

 今日はいつにも増して唐突な話題転換が多いな。翔はそんな事をボヤキながら蘭雪に視線を向ける。

 そんな彼女はいつになく興奮気味でもう怒ってるのかテンパってるのかよくわからない。

 

「アンタ兄弟いたの!? 初耳なんだけど!? 弟? 妹? ねぇ!? どっち!?」

 

「お嬢がいつになく荒ぶってるニャ。触らぬお嬢に祟り(ニャ)しニャ」

 

「荒ぶれば鬼人、静まれど鬼人にゃんて言われてたのを思い出したにゃ」

 

 ここが狩場だと忘れてもらうのは困るのだが反応するモンスターが一匹も。それこそどこにでも湧いて出るブナハブラですら顔を出さないからか蘭雪の大声を咎める者はいない。

 咎めたくともヤマトじゃ反撃が怖い。ナデシコは……宛にならないか。

 

「……両方だよ。二卵性の双子。お前の一歳(ひとつ)年下(した)

 

 瞬間天高く拳を振り上げ勢いよくガッツポーズしながら奇声を上げる。

 

「な、なぁナデシコ。アイツどうしちゃったの? ドキドキノコでもつまみ食いしたのか?」

 

 こっそりとナデシコに耳打ちをすると、つぶらな瞳がまっすぐと翔の方を向いた。

 

「違うのです翔さん。蘭雪は一人っ子で周囲には年上の人しかいにゃい環境で育ったにゃ。私は蘭雪のオトモににゃる前から知ってるにゃ。きっといつか年下の兄弟やそれに近しい関係を結ぶことに飢えてたんだにゃ」

 

 考えても見ればロックラックに遠征した時にも感じた。商店を開いていた親父や雲雀。それに村に来ている来来亭の主人や絢菜さん。こっちに来ても俺やラルク姐さんと考えてみれば周囲では最年少かもしれない。

 

「なるほどな。気持ちはわからんでもないな」

 

「姐さんもお嬢のお姉さんって感じだニャ。たまには世話を焼いてみたくなるものニャ」

 

 世話を焼かれまくっている猫はさておき。

 沈静化しつつあるテンションで蘭雪は肝心な事を聞き忘れていた。

 

「ふぅ、忘れるところだったわ。貴方の兄弟は一体全体何処にいるのかしら。一回も見たことないし離れて暮らしてるんでしょ?」

 

「あ、うん、まぁ、そうだな。遠い。遠いな。結構ある」

 

 勿体付ける翔に不信感を覚えた蘭雪は追求する。

 

「別にいいわよ。どうせこの祭りが終わっても何日か駐留するハンター達(ヤツ)はいるんだし、私達は何かしらの目的があって狩りをしてるって理由(ワケ)でも無いんだし。この前みたいにキャラバンとかの護衛でもしながらのんびり顔でも見に行こうじゃないのよ」

 

 渓流区をとっくに抜け、ついには森林区域まで入ってくるも彼らは当の目的を忘れて話し込んでいた。

 蘭雪がウキウキしながら顔を見たがる翔の兄弟達。残念なことにそう簡単に会えないことを心苦しくもお伝えしなければならない。

 

「アイツらはちょっとした事情があってなぁ」

 

「うん」

 

 同調するように蘭雪は頷いて相槌を取る。

 

「いや、俺もどうかしてるとは思うんだけどさ」

 

「うんうん」

 

 話に聞き入っている。もう時間の問題かもしれない。

 

「その、な。アイツら今ドン――――」

 

 

 

 ――――クェェェェェェッ!

 

 

 

 その時だった。翔の黒とはまた違った輝きを持つその瞳が一心に翔を見つめている時、先程まで自分達が通ってきた方向。渓流区へと繋がる入口からガーグァが群れをなして雪崩込んで来たのだ。

 邪魔だとばかりに一行を押しのけるガーグァの群れに、ぼーっとしていたヤマトが真っ先に跳ね飛ばされた。

 ナデシコは既に彼らの進路上から離れた位置で様子を伺っているが、咄嗟に反応出来なかった蘭雪を進路上から突き飛ばすも自身は迫り来るガーグァにもみくちゃにされる。

 

「な、一体何の騒ぎよ。さっきまで影も形も無かったってのに」

 

 跳ね飛ばされて目を回しているヤマトの介抱に向かったナデシコがこの事態について分析する。

 

「さっきまでが静か過ぎたのにゃ。普段ならキャンプを出たところでガーグァぐらい見るはずにゃ。ケルビもいにゃければ、ジャギィもいにゃい。どう考えても異常にゃ」

 

 まるで大津波が来る直前に一斉に潮が引く様な。

 何かしらの運動には予備動作が入る。これがもしそうなのであれば。

 

「まさか。ガーグァが何かに脅かされただけでしょ。それくらいで大騒ぎ……何かって何よ?」

 

「何かって何ニャ?」

 

 フラフラしながら体を起こすヤマトが蘭雪に注目する。

 もみくちゃにされていた翔も埃を払いながら蘭雪に目を向けた。

 

「ちょっと、私に聞かれたって分からないわよ。翔の手帳に載ってないの。いつもの便利な奴」

 

「そんなもん載ってるわけ無いだろ。とにかく依頼は完了してる。予備分の採取は後にして少し渓流を巡回した方がいいだろう。これから行商の一般人もユクモ村に向かってくる。万が一の事を考えるならここで俺たちが食い止めないと」

 

 渓流との付き合いが長い翔でさえこの事態には何か嫌な予感を覚えた。

 翔の提案に逆らう者はなく、皆一様に覚悟を顔に表している。

 もうこれはただの採取クエストではない。

 責任を果たす。誰もがそう思った時だった。

 

 

 

 ――――ギャオ! ギャオ! ギャオ!

 

 先程ガーグァが雪崩込んだ入口に現れたのは一匹のジャギィ。

 瞬間、それぞれが自分の武器に手を添える。

 一匹であればなんてことはない。だが誰もがそれで終わるなんて安直な思いを抱いてはいない。

 水の少ないこの区域(エリア)にビシャビシャと水面を叩く音が大きくなっていくのを感じる。

 こんな時はどうすれば良かったのだろう、一つに纏まるのか、それとも散開し回避に専念し様子を探るのだったか。

 

 入口に人と同じくらいの影を見つけた。

 それはジャギィの群れを束ねる者。ドスジャギィ。

 ドスジャギィは入ってくるなり咆哮しながら前にいたジャギィを突き飛ばしてこちらへと向かってくる。

 

「全員散開ッ! 仲間を呼ばれたら面倒だぞッ!」

 

「翔ッ! あれ見てッ!」

 

 ドスジャギィから距離をとるために横っ飛びに飛んだ翔は蘭雪の指差す方を見る。

 そこには翔たちの誰にも目もくれず、ただもう一つの入口の方へとひた走るドスジャギィの後ろ姿があった。

 

「何なんだ一体……。俺たちが見えてなかったって事は無いだろ?」

 

「ボク、アイツと目があったニャ。いつもギラギラしてる癖に何かに怯えてたニャ」

 

 駆け寄ったヤマトが主人にぴったりとくっついてすがる。

 ヤマトまでおかしくなった理由ではない。ここにいる皆が皆わけがわからない。

 視界に映った縄張りを荒らす害虫に何をするでもなくただ走り去った。

 まるで――――。

 

「――――アイツ、何かから逃げてたんだニャ」

 

 ガーグァの群れ、ドスジャギィ、そしてヤマトの言葉が嫌な予感をより確固たる物へと変えていく。

 その時蘭雪が注意を呼びかける。指はあの方向を指している。

 

 ――――ギャオ! クェェェ! ギィギィ! ――――

 

 雪崩込むモンスターに種族の垣根は無かった。

 今までどこに隠れていたのだろう。

 ガーグァ、ジャギィ、ケルビ、ブナハブラ、ファンゴその他諸々。

 ただ一様に何者かから逃げるように、我先にと。

 翔たちは眼中になく、ただの一度も攻撃を仕掛けてくるような素振りも見せなかった。

 その一団が過ぎ去った後。また渓流に嫌な静寂が戻った。

 もう前にも後ろにも、その姿を見せるものはいない。

 一行はただその入口一点だけを見つめていた。

 

「ハ、ハハハ……これでただのアオアシラだったらお笑いよね。クルペッコとかならわかるけど」

 

「クルペッコにゃら声真似で大型のモンスターを模倣すればあるかもしれないにゃ」

 

「でしょ、臆病風に吹かれて馬っ鹿みたい。あのドスジャギィも私たちも」

 

 冗談だ。冗談のつもりだ。冗談であってほしい。

 声が震え、脚が竦み、見えざる驚異に怯えている。

 ただその状況下に一人きりではない事だけが唯一の救いかもしれない。

 それから何秒たったのか。何分かもしれない。時間の感覚など等に忘れてしまった。

 嫌に長い間静寂が保たれていた。聞こえるのは自身の鼓動と息遣いのみだ。

 だが三度(みたび)それは訪れた。今度は大きい。

 各々が自然と武器にまた手をかける。本命であればここで食い止める。

 ズシ、ズシ、ズシ。明らかに大きな足音。それも早い。

 

「来たぞ、お出ましだッ!」

 

「私から行く。みんなは怯んだ隙に飛び込んで!」

 

(おう)ッ!』

 

 先程までの弱気はどこへ行ったのか。それとも一周回って吹っ切れたのか。

 そんな事は誰にもどうでもよかった。何よりも目の前の敵を排除する。それだけだ。

 弓使い特有の間合いを計り、ギリギリと弦を絞る。

 飛び込んでくる、放つ、倒れる、飛びかかる――――。

 彼女の頭の中では先の展開がシュミレートされていく。

 

 

 

 そして、目標は入口をこじ開けるようにその巨体を表した――――。

 

「これでも、喰らいなさいッ!」

 

 飛び込んできたのは青熊獣(アオアシラ)。その青い巨体は怒りと思しき感情で満ち、既にトップスピードでこちらへと迫る。

 蘭雪はシュミレーションのとおり、瞬時にその眉間に照準を定め、限界まで絞られた弦を放す。

 

 ――――ガァアアアアアアアアアッ!

 

 勿論モンスターと言えども奇襲攻撃には対応できない。

 照準通りとは言えないが前足の付け根に深々と刺さった矢が、その青い巨体を横転させる。

 

「行くぞお前らッ!」

 

『ニャア!』

 

 作戦通り。翔たちは武器を手に走り出し、もがくアオアシラ目掛けて突撃する。

 

 

 

 だが、その瞬間。苦しむ獲物は落雷によって止めを刺されることになる。

 必然、彼らもその衝撃によって弾き飛ばされ事態を理解できない。

 唯一。その射程から離れていた蘭雪だけがその姿を見る事が叶った。

 

「――嘘でしょ。なんでまたアイツが」

 

 落雷と同じ色をした碧色の鱗。稲妻の様なその鋭角な姿。

 この地で再び相見える事になるとはそこにいた誰もが予想していなかった。

 

「ジンオウガ……なるほどな、通りで他の奴らが逃げ出す理由だ……」

 

「ご主人、しっかりするニャ! 姐さん、手伝ってニャ!」

 

 なかなか立てないでいる翔の頭の中ではこれまでの事が全て一つに繋がっていた。

 この辺じゃ奴に敵うモンスターはそういない。まさに頂点。

 そんな奴が何処からか知らないが縄張りを広げてくれば必然。他の弱い生き物は住処を追い出され逃げる他生き延びる手立てはない。

 そんなことを考えながらジンオウガの足元見る。

 青い毛皮を黒焦げにされた肉塊の表面にはやはりところどころ血が出ている。

 最後まで抗いながらも敗走していた。そして、俺たちにかち合ったと。

 

「悪いことしちまったな。まぁ結局アイツを相手に逃げ切れたかなんて目に見えてるけど、なァ!」

 

 ポーチから取り出していたペイントボールをジンオウガ目掛けて投げつける。

 弧を描くでもなく、真っ直ぐに飛来したそれはジンオウガの顔面で弾けた。

 瞬間、辺りに独特の香りを振りまきその存在を周囲に認知させる。

 ただ、この侮辱的行為を多めに見るほどジンオウガは寛大じゃなかった。

 

 ―――ウォオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 先ほどの落雷以上の衝撃を鼓膜に感じる。

 その咆哮はまさに周囲を震撼させるようだ。ユクモの山々を轟かせる。

 

「ちょっと翔、アイツ怒らせてどうするのよ!?」

 

「閃光玉も無けりゃ罠の一つも無い。つまりアイツからは逃げられっこない。例え逃げられてとしても近隣の村が襲われちゃハンター(オレたち)のいる意味なんてない。覚悟を決めるしか無いんだ」

 

「ご主人の自棄っぱちにはほとほと呆れるニャ。だけどボクはついてくニャ」

 

 ジンオウガに注意を払いながら翔に蘭雪は猛抗議する。

 幾らなんでも装備の十分でない今戦う意味は無いとさえ思っていた自分には衝撃だった。

 男達の案に賛成すべきか、無理矢理にでも撤退すべきか。

 命がかかる以上は、全員で行動した方が生存率は高いに決まっている。

 決死でジンオウガを退ける事に専念するか。様子を見て全力で逃げるか。

 

「蘭雪。今回ばかりは相手が悪いにゃ。翔さんやヤマトはああ言ってるにゃ。けど私は蘭雪の一番に従うにゃ」

 

 動くなら早いほうがいい。ジンオウガは確実に怒り狂っている。

 ましてあの時と同じ個体ならば尚更見逃してくれる訳がない。

 無双の狩人。誰が読んだか知らないが、あの目は確実に私達と同じ目をしている。

 

「アンタ達、言ったからには本気(マジ)になりなさいよ! ……ごめんねナデシコ。アイツらのサポートお願いね」

 

「畏まったにゃ」

 

 翔に続いて蘭雪とナデシコも武器を構えた。彼らの準備は整った。

 全員の眼差しがジンオウガに向かうと、これを待っていたように巨躯が構えを取る。

 そして――――。

 

 ―――ウォオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 宿命とも呼べる戦い。いまジンオウガとの戦いの火蓋は切られた。




新年明けましておめでとうございます。

……と言うには少し遅めでしたね。今話担当の獅子乃です。

前回のお話から続けてみると、あれ?こんな話だっけ?ってなるでしょう。
まぁ作戦ですね。ゆるっと始まる系で緊張感を解く作戦です。
こんなに時間を空けたのも作戦……な訳がないです。すいません。

その辺の繋がりの為にもう一度前回を読んでいただければ幸いです。

さて今回のお話。サブタイトルをつけるなら「再来」とかでしょうか。
何だかいや~な予感しかしないですねぇ。
これからどうなっちゃうんでしょう。楽しみですねぇ。

ジンオウガと言うとあの後ろに目でもついている様な範囲のでかい攻撃や、こちらの動きに合わせて転がった先にパンチをかましたりと中々手こずった記憶がありますね。
現在発売中のモンスターハンター4にも登場するということで獅子乃も遅ればせながらお年玉で3DSと一緒に購入しました。
いいですね、遠くの人と気軽に楽しめるのは。でも田舎の友人達は持ってないんだな……。
関係なかったですね。私事でした(苦笑)

さて、次回はサザンクロス先生ですね。
結構無理難題をお願いしてしまっているところがあるので頑張って欲しいです。
それでは閲覧してくださったみなさん、今年も[MONSTER HUNTER ~紅嵐絵巻~]とASILSをよろしくお願い致します!

21話担当の獅子乃でした。

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