MONSTER HUNTER 〜紅嵐絵巻〜   作:ASILS

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第17話 (著:サザンクロス)

さて。現在、ユクモ村では村長から出された緊急クエスト、温泉街大拡張基礎工事で村人や湯治にやって来ていたハンターがえっちらおっちら働いている。村人は勿論、屈強なハンターも複数人参加しているので作業はかなりスムーズに進んでいた。狩猟で例えるなら、ターゲットの体にちらほらと傷が出来始めるくらいだろうか。

 

 温泉街大拡張基礎工事が目に見える形にまで進んだ頃、村長からこんなお触れが出た。

 

『皆様、お疲れ様です。作業もある程度進んだことですし、今日は休息日ということに致しましょう』

 

 とのことだ。そんな訳で皆、思い思いに散って行った。ある者は温泉に浸かりに、ある者は酒を飲んだり、ある者は昼寝をしていたり。そんな中、翔達は、

 

「水浴びに来たのは俺達だけか?」

 

 村の近くにある川へと遊びに来ていた。この川は狩猟場となっている渓流に流れている者とは別物だ。なので、モンスターの死骸が流れてきたり、川が血に染まって真っ赤になるなんてスプラッターでホラーなことは起こらない。水も綺麗で、魚もそれなりに泳いでいる。水遊びにも釣りにも使えるものだ。ちなみに今、この川に遊びに来ているのは翔と蘭雪、二人の愉快なオトモ×二。そしてラルクスギアの計五人(?)だけである。

 

「ご主人、ここにいるのは僕達だけですかにゃ?」

 

 そうみたいだな、と翔は背後に立つ、アイルーサイズの銛(お手製)を担いだヤマトを振り返った。水遊びをしに来たのだから、当然二人とも相応の格好をしている。翔は上半身裸、下はトランクス型の海水パンツというポピュラーな出で立ちだ。一方のヤマトは、当たり前だが裸である。

 

「ま、人もいないし、のんびり出来そうだな」

 

 川の幅はそれなりにある。加えて、深さも蘭雪の胸元くらいまでありそうだ。しかし、流れ自体はかなり穏やかなので、溺れたりするようなことにはならないだろう。

 

「あら。私達だけしかいませんか?」

 

 背後から聞こえてきた涼やかな声に振り返る翔。そして、声の主の姿を見て彫像のように固まった。

 

「やはり皆、男だしお酒のほうがいいのかしら……あら、どうしたの、翔くん?」

 

 声の主、ラルクスギアは動かなくなった翔を見て首を傾げた。脇に竹で出来たチェアーを抱え、反対の手には数冊の本が風呂敷に包まれていた。問題は彼女の着ている水着だ。

 

 所謂、ビキニと呼ばれる水着だ。体を覆う布面積はかなり小さい。加えて、ラルクスギアは十人中十人の男が視線で追うほどの美人であり、グラマーな女性だ。その光景は青少年である翔にとって些か、いや、相当に刺激的だった。

 

「……」

 

「翔くん?」

 

「……はっ! いや、別に何でもないですよラルク姉さん。えぇ、本当に」

 

 再度、ラルクスギアに名を呼ばれ、翔は慌ててラルクスギアから顔ごと視線を外した。そうでもしなければガン見してしまう。しかし、顔を明後日の方向に向けて尚、視線はラルクスギアの方へと動こうとしていた。片手で両目を覆い隠すも、男の本能が指と指の間をこじ開けようとする。

 

(くっ、静まれ俺の右手……)

 

 己の中で自分自身と苛烈な戦いを繰り広げる翔。そんな彼をヤマトとラルクスギアは不思議そうに眺めていた。

 

(駄目だ……これ以上はもう……!)

 

 奮戦虚しく、翔が己に負けかけたその時、

 

「何やってんのよあんた……」

 

 呆れ返った風の第三者の声が翔をはっとさせる。声をかけたのは翔の相棒、蘭雪だった。傍らにはオトモのナデシコが付き添っている。蘭雪もラルクスギア同様にビキニタイプの水着を着ていたが、彼女に比べると布面積は大きい。それに蘭雪は……凄く控えめに言ってもラルクスギアに見劣りするので(どこがとは言わないが)、彼女の水着姿は翔を落ち着かせるには十分だった。

 

「……」

 

「どうしたにゃ、蘭雪?」

 

 無言で空を睨み始めた蘭雪にナデシコが怪訝そうに訊ねる。

 

「いや。何か物凄く失礼なことを言われたような気がしたから」

 

 対して、蘭雪は視線を翔へと戻した。それからラルクスギアへと移し、成るほどと納得する。そして翔に向かって一言。

 

「このムッツリスケベ」

 

「なっ! 違う、違うぞ!! 俺はムッツリスケベなんかじゃない!!」

 

 激しく動揺しながらも、翔は首を振って否定する。しかし、蘭雪の目は冷ややかなままだった。

 

「お姉さまの水着姿に見惚れて、それを隠そうとしてる時点でムッツリ確定よ」

 

 蘭雪の言葉に翔の不審な行動に疑問を抱いていたラルクスギアも納得の表情を浮かべる。

 

「そういうことですか。翔くん。別に見るなとは言わないわ。でも、そういうのは女性が不快にならない程度に抑えなさい」

 

 ラルクスギアの言葉が止めとなり、翔はその場にがっくりと膝を突いた。

 

「違う、違うんだ。俺はムッツリ何かじゃないんだ……」

 

 ぶつぶつと呟き続ける翔の横でヤマトがぼそりと囁いた。

 

「ご主人はムッツリ……」

 

 その一言を翔は聞き逃さなかった。ヤマトが反応する暇も与えない、迅雷の如き動きで翔はヤマトを両手で掴んだ。そして躊躇うことなくヤマトを頭上へと持ち上げ、

 

「誰がムッツリだこのバカ猫ぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「ぎにゃあああああああああああああああ!!!!!」

 

 天高く放り投げた。綺麗な放物線を描くヤマト。落下していく先には川が待ち受けている。

 

「にゃっ! にゃっ! にゃっにゃあっ!!」

 

 必死に空中で体を動かすも、努力虚しくそのまま川へと落ち、綺麗な水柱を立ち上げた。

 

「翔くんがあの強肩を狩場で発揮してくれたら、石ころでも結構なダメージになるでしょうね」

 

 と、ラルクスギアは水遊びの後、市に語った。

 

 

 

 

「私はここで本を読んでるけど、皆はどうする?」

 

 竹のチェアーを広げながらラルクスギアは翔達に今後の予定を問うた。

 

「私はナデシコと一緒に泳いできます」

 

「そうしますにゃ」

 

「俺とヤマトは魚を獲ってみようかなって」

 

「百匹は獲ってやるにゃ!」

 

 勇ましくヤマトは銛(お手製)を突き出す。皆に凄く生暖かい目で見られていることは内緒だ。

 

「私の目の届かないところには行かないように。それと、危ないと思ったこともしないように」

 

 いいわね、と念を押すラルクスギアに元気良く返事をする二人と二匹。思い思いに川へと向かっていく四人の後ろ姿を見るラルクスギアの気分は保護者のそれだった。

 

(……って、そこは保護者じゃなくてお姉さんでしょ!)

 

 と、チェアーに腰を下ろしながら胸中に湧き上がってきた感情に突っ込みを入れる。そもそも、彼女は保護者という年ではない。仮に息子や娘がいたとしても、翔達ほど大きいなんてことは絶対にない。それにラルクスギアには彼氏がいない。彼氏がいない。非常に大事なことなので二回言いました。

 

「彼氏かぁ……」

 

 小さくため息を吐きながらちらっと川のほうを見やる。そこには偶々、ヤマトと魚を獲る位置を話し合う翔の姿があった。その後ろ姿に視線を送りながらラルクスギアは小さく呟く。

 

「……悪く無いかも」

 

 狩場に立つ自分と翔の姿を想像し、そんなことを呟いていた。しかし、彼女はすぐに自分自身の言葉を心の中で否定する。現状、翔とラルクスギアではハンターとしても人間としても釣り合いが取れていない。そして何より、

 

「蘭雪がいるしね」

 

 でもまぁ、そんな未来もあるのかも知れないし、なったらなったで悪くない、と思うラルクスギアだった。

 

 

 

 

「ぷは!」

 

 水面から勢い良く顔を出しながら蘭雪は大きく息を吐き出した。彼女に続き、ナデシコが川の中から頭

を出す。二人で川の中を泳いでいる真っ最中だった。

 

「前から思ってたけど、本当に綺麗ねこの川の水。普通に飲めちゃいそう」

 

「でも、飲んだらお腹壊しちゃうにゃ」

 

 流石にいきなり飲んだりしないわよ、と苦笑いを浮かべながら蘭雪は再び川の中へと身を沈める。川の透明度はかなりのもので、遥か先まで見えるほどだった。

 

 不意に水中を泳ぐ蘭雪の真横を小さな何かがかなりの速さで通り過ぎた。反射的に目で追ってみると、それが魚だということが分かる。色合いから見て、サシミウオあたりだろう。蘭雪がサシミウオが泳いできた方向を見ると、そこには腰まで川に浸かった翔の脚が見えた。魚が近づいてくるのを待っているらしく、微動だにしない。

 

「……!」

 

 と、ここで何か思いついたのか、蘭雪の目が輝く。そして息を吸いに水面まで戻ると、また川の中へと潜っていき、川底にある石をひっくり返して何かを探し始めた。

 

(絶対に碌なこと考えてないにゃ……)

 

 川の流れに身を任せながら、ナデシコは主の始めた奇行にため息を吐くのだった。

 

 

 一方、翔とヤマトの主従は各々の方法で魚を獲ろうとしていた。翔は腰まで川に浸かりながら手掴みで、ヤマトは川の中央辺りにある岩の上から銛(お手製)を構えて獲物に狙いを定めている。

 

「それっ!」

 

「にゃにゃ!」

 

 今のところ成果は二人とも無いが。ヤマトに至っては勢い余って岩の上から転げ落ちたりしている。翔の方は時々、魚に手が触れたりとおしいところまでいっているのだが、それだけだ。獲るには至らない。何十回目かのトライが失敗し、翔は大きくため息を吐いた。

 

「また駄目か。やっぱり、素手で獲るのは無理があるか……いやいや、まだまだもう一回!」

 

 失敗に挫けず、再び構える翔。神経を研ぎ澄ませ、川の中にいる魚を凝視する。集中する彼の後ろに水中から忍び寄る影。BGMにはあの某鮫のものがピッタリだろう……ここは海じゃなくて川だが。

 

(まだだ……まだだ……)

 

 そんなことは露知らず、翔は丁度目の前の水面にやって来た魚に全神経を集中させていた。翔のことを大きな障害物としか認識していないサシミウオ。ゆっくりと、徐々に近づいてくる。

 

(まだ……もう少し……今!)

 

 今まさに、水面を貫くようにしてサシミウオを獲ろうとしたその時、翔の足に激痛が走る。

 

「いでぇぇぇぇぇっっっ!!!」

 

「にゃ!?」

 

 翔の絶叫に驚き、ヤマトはまた岩の上から滑り落ちた。そんな中、ラルクスギアは本から視線を外すことは無かった。凄まじい集中力だ。

 

「な、何だぁ!?」

 

 足元を手探りし、激痛の源を探す。そして彼が掴んだのは

 

「カニ?」

 

 不機嫌そうに鋏を動かすカニだった。そこまで大きなものではないが、その鋏がもたらす痛みは中々のものだった。

 

「あはは。翔ってば絶対私に気づいてないわね」

 

「……やっぱり碌なことじゃなかったにゃ」

 

 水面から頭だけを覗かせころころと笑う蘭雪の横で、彼女と同じように頭だけ水面から出したナデシコ

が嘆息する。蘭雪のやったことは至極簡単なことで、川底からカニを見つけて翔の足元に気づかれないように置いただけだ。その結果、カニは翔の足を挟んだのだ。

 

「うふふ。さぁて、もう一回くらいやってやろうかしら」

 

「蘭雪。流石に二回もうまくいくとは限らな、人の話は聞いて欲しいにゃ」

 

 小悪魔風の笑みを浮かべながら川底にカニを探しに行った蘭雪をナデシコは慌てて追いかける。

 

「こんの野郎。折角、いい感じだったのに……ラルク姉さん。何か、魚を獲るいい方法ってないです

か?」

 

 憎憎しげに見ていたカニを放り投げながら翔はラルクスギアへと視線を向けた。翔の問いにラルクスギアはそうね、と思案顔になる。数秒後、黙考していたラルクスギアの口からある漁法の名が出てくる。

 

「石打漁法、なんてどう?」

 

「石打漁法?」

 

「えぇ、ガチンコ漁と呼ばれたりもするわね」

 

 方法は簡単。川にある岩に石を叩きつける、それだけだ。岩と石がぶつかり合った衝撃波で魚が気絶し、水面に浮かび上がってくるのだ。

 

「おぉ、そんな方法があったのかにゃ!」

 

 ラルクスギアから話を聞いたヤマトは早速銛(お手製)を放り投げ、手ごろな石を探し始めた。翔はへぇ~、と感心したように頷いている。

 

「そんな方法があったのか。でも、それって危なくないんですか?」

 

「そうねぇ。危ないといえば危ないかしら。川の中にいる生き物全部に不必要なストレスを与えることになる訳だし、教えておいてなんだけど止めておいたほうがい「ふんにゃあ!!」……遅かったわね」

 

 ガァン! と岩と石がぶつかり合う凄まじい音が周囲に響いた。翔とラルクスギアが音がした方を見る。そこにはドヤ顔で岩の上に立つヤマトと、彼が岩に叩きつけただろう石が転がっていた。

 

 ラルクスギアの教えた石打漁法は確かに成功したようだ。その証拠にヤマトが立っている岩の周りにそれなりの数の魚が浮かんでいた。更に言うなら、少し離れたところでも何かが水面に浮かんでいる……魚というには些か大きすぎるが。

 

「「「……」」」

 

 三人がそれが蘭雪とナデシコだと気づくのに数秒。二人を救出するのにはその数倍の時間を要した。

 

 

「うふふふふ。ちゃんと食べれるようにしっかり焼いておかないとね……ナデシコ、もっと薪をくべて」

 

「了解にゃ。どんどん燃やすにゃよ~」

 

 蘭雪の指示に従い、ナデシコは両腕に抱えた薪を焚き火の中へと放り込む。新たな燃料を与えられた焚き火は勢いを増し、煙を天へと昇らせていく。焚き火の周りには木の枝に刺された魚が置いてあり、美味しそうな匂いを立ち上らせていた。そして焚き火の上には、

 

「ごめんにゃさい悪気は無かったんだにゃだから許して欲しいにゃああああ!!!!」

 

 雁字搦めに縛り上げられたヤマトが吊るし上げられていた。必死に身を捩じらせて縄から逃れようとしているが、縛りはどんどん酷くなっていくだけだった。しかも、焚き火から放たれる熱気と煙がもろに直撃しており、涙と鼻水が滝のように流れ出している。その名状し難い光景を翔とラルクスギアは少し離れた所で見ていた。

 

「びょひゅびん、びゃびゅべへ(訳、ご主人、助けて)!!!!」

 

「って言ってますけど」

 

 ヤマトの救助を求める声にラルクスギアは隣の翔を見る。対して、翔は困ったように頭を掻いた。

 

「助けた方がいいとは思うんだけど……正直、あんなどす黒い何かを放ってる蘭雪とナデシコを止められるとは思えないんですよね」

 

 それもそうね、と翔の言葉に頷きながらラルクスギアは焚き火にせっせと薪をくべる二人を見る。

 

「うふふふふ……」

 

「にゃふふふ……」

 

「触らぬ神に祟りなし、ね」

 

 二人は揃ってヤマトに向けて合掌。

 

「びにゃああああああああああ………」

 

 ヤマトの叫び声がユクモ村周辺に響いていった……。




ども、こんばんわ、サザンクロスでっす。モンハン4が発売されて結構経ちましたが、皆様どうでしょうか? 自分はHRが75まで上がりました。ちなみに使ってる武器は操虫棍です。

さて、こうやって無事に投稿できましたが……短いな、俺の話……獅子乃さんたちは一万文字とか書いてるのに。あ、手を抜いた訳ではないのであしからず。

次は……キノンさんだ。うん、間違い無い筈。今回は息抜き会でしたが、次回はどうなるのか、お楽しみに。では。

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