MONSTER HUNTER 〜紅嵐絵巻〜   作:ASILS

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第4章
第16話 (著:獅子乃 心)


 砂漠の大都市ロックラックから何日もかけたところにある山奥にひっそりと、だが確かに人の営みは存在する。

 

 村の中央にある雑貨屋の前には朝も早いのにあれこれと忙しなく注文する人影があった。

 一人は店主のリノ・フレイトート。頑張るハンターを応援する元気な女性だ。

 そしてもう一人。野菜類がこれでもかと詰め込まれたカゴを腕から下げる少女、黄蘭雪(ファンランシェ)はユクモ村唯一の雑貨屋で買い物を済ませたところだった。

 リノと別れた彼女が足早に向かうのは宿泊区画にある自室ではなく相棒の部屋。

 

「ただいま。いつものアレ、買ってきたわよ」

 

 村全体が顔見知りだからか、無用心にも鍵の掛かっていない扉を遠慮なく開ける蘭雪。

 

「おぉ悪いな。飯の準備は出来たから冷めないうちに食おうぜ」

 

 勝手知ったる他人の家。迷わずに台所へと進むと朝食の準備を終えていた相棒こと村雨翔がそこにいた。

 

「あ、お嬢おはようございますニャ。お先に頂いてたニャ」

 

「蘭雪。このオンプウオの塩焼き美味しいから早く食べるのにゃ」

 

 オトモアイルーのヤマトとナデシコは既に自分の分に手をつけていた。

 今朝のメニューは純和風。ユクモ産の米『あかねのゆ』をふっくらと炊き上げ、主菜にオンプウオの塩焼き、副菜はドテカボチャの煮付け、汁物は棍棒ネギの味噌汁と翔は朝から腕によりをかけていた。

 

「はい、棍棒ネギを入れて……っと完成だ。さぁ飯だ飯だ」

 

 蘭雪から受け取ったカゴから棍棒ネギだけを抜き取り、さっと洗ってから細かく刻んで味噌汁に投入。アイルー達の分はネギ抜きだ。

 

「今年は結構実りがいいんだって。セバスチャンが言ってたわよ」

 

「そうか。農場任せっきりだからな……たまには差し入れでも持って行ってやるか」

 

 彼らの朝はこんな何気ない会話から始まる。

 晴れて上位ハンターの仲間入りをしたのが2週間前の事だ。

 試験とは言えども多額の報酬が入ったので久々の骨休めと称し、簡単な訓練や採取をしたり、村人のお願いを直に聞き入れたり。そんなまったりとした毎日を送っていた。

 

「ふぅ。たらふくたらふくニャ」

 

「ご馳走様でしたにゃ。翔さんは主夫としての腕前もぐんぐん上がってるのにゃ」

 

「ん? ありがとなナデシコ。やっぱり食べてくれる人がいるってのが大きいんだよな」

 

「じゃあ半分くらい私のおかげね。その調子で精進しなさい」

 

 何故か上から目線なのはいつものこと。蘭雪は骨を取ったオンプウオにパクつきながら満足そうに微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 朝食を終えた彼らだが、特に狩りの要請や村人からのお願いもない今日はゆっくりとした時間を堪能していた。

 

「う~ん……やっぱりね、氷結晶の値上がりは確実ね」

 

「夏も真っ盛りだからにゃ。ロックラックにいた頃と比べればユクモはにゃんと過ごしやすいことか」

 

 ソファに腰掛ける蘭雪の膝に座るようにして蘭雪とナデシコのコンビは新聞を眺めている。

 ユクモ村とて夏ともなればそれなりに気温を上げるが、ロックラックに比べれば大したことはない。森の木々は自然の日よけになるし、豊富な水で汗も流せれば涼むことも容易にできる。

 

「向こうは灼熱って感じだもんな」

 

「ボク達は毛皮が暑くてたまらニャいニャ」

 

 小さな机を挟んだ蘭雪の対面、翔とヤマトも同じように座りながら同調する。

 翔は甚兵衛(勿論ユクモ織り)、蘭雪は薄手のワンピースと季節に合った服装であるものの、アイルー達は自前の毛皮だ。上に着込む事は出来ても脱ぐことが出来ずこの時期はぐったりしている事が多い。主人達は苦笑いするしかなかった。

 

「あ、そうそう。リノさんが今週のは隅から隅まで読んどきなさいって。もの凄くニヤニヤしてた」

 

「なんだそりゃ」

 

 新聞を読む蘭雪に対し、翔の手元には自身が愛読書としている『週刊 狩りに生きる』が開かれていた。

 蘭雪が朝から雑貨屋に出向いていたのはこれを買う為であった。セバスチャンから野菜を受け取るついでに買ってきてくれとお使いを頼まれたのである。

 ヤマトを膝に乗せたまま注意深く記事の一つ一つを読み込んでいく。

 

「ご主人はコラムのコーニャーとか新しいモンスターの生態に書かれてるページをよく読んでるのニャ。あ、あと受付嬢のグラビ」

 

「おっとそれ以上は言わせねぇぜ!」

 

「どうせグラビアページでしょ。別に今更じゃない。そこの棚のバックナンバー見れば大体分かりますよーだ」

 

「そうだにゃ。御陰で今後のアプローチ方針についてはある程度研究出来たのにゃ」

 

 『週刊 狩りに生きる』と言えば、質の高い記事は書士隊を引退したものが書いているだとか、数少ない写真付きのページには酒場のアイドルである受付嬢や女性ハンターのグラビアページが載っている事からハンターは勿論、幅広い層に読まれている。

 彼もその内の一人ではあるが、やはり一番は著名なハンターへのインタビュー記事だ。まだ見ぬ強大な敵を長年の勘と力でねじ伏せた彼らの武勇伝が翔を狩りへと駆り立てるのだ。

 鋭い視線を貰いながらページをめくる翔の手が止まる。

 

「雌火竜撃沈、期待の新星現る」

 

「それって」

 

「ロックラックの時の奴にゃ」

 

 『週刊 狩りに生きる』の新人発掘コーナーにでかでかと載っている記事に一同は既視感のようなものを感じる。

 

「温暖期初頭、ロックラックで開かれたHR(ハンターランク)昇格試験に現れた3人の男女が最難関とされる雌火竜の捕獲に成功した。同試験において捕獲に成功した者が現れるのは5年ぶりとのこと。ギルドに詳しい情報を求めたが『守秘義務があるため詳しくは話せない』と回答。しかし取材陣は同試験を受けた参加者にインタビューすることに成功した」

 

「何だか凄い事にニャってるのニャ……」

 

「ねぇ早く続き読んでよ」

 

「わかったわかった。読むぞ。……『男が一人に女が二人だったよ。男が太刀使いで、女は双剣と弓使いだった。別に覇気っつーかオーラみたいなもの? そういうのは無かったけど連れの女が物凄いべっぴんさんで酒場で声をかけてる奴がいたんだけど、一瞬で床に伸びてたな。そしたら騒ぎが大きくなってさ、多分床に伸びてた奴らの仲間がぞろぞろ出て来たんだよ。酒場では割と有名な方でさ、いや悪い意味で。女中のお姉ちゃん達に無理やり酌とかさせる駄目な奴らでマナーの悪い客だったな。でも腕はそれなりぐらいだったからハンパな正義感とかで突っかかると怖いだろ? 多勢に無勢って奴だ。誰も口出し出来なかったんだけどさ、その女の子達が全員ボコボコにしちまったんだから驚きだよな。いや~リオレイアも参っちまうわけだよ。今頃どっかの猟団とかにスカウトされるてるかもな、と回答してくれた。狩りに関係のある情報は得られなかったが実力は本物のようだ。彼らの今後の活躍に期待したい』ってさ」

 

 酒場での騒ぎを見ていたものがコメントしたのだろう。

 狩りにまったく関係は無いが愛読している雑誌に載ることが出来た事に喜びを隠せない。

 

「いつかこれに載れるようなハンターになりたかった……。それが、こんなにも早かったなんてな……」

 

「ちょ、ちょっと泣きそうになってるんじゃないわよ。これくらいで、しかも私とアイツの事だけじゃない他に書くことなかったわけ」

 

 感慨深けに呟く翔の眼は少し潤んでいた。

 別にそんなことくらいで、とそれを見た蘭雪はあまりの事に慌てる。

 そんな時だった。村雨家の戸を叩く音と少し遅れて聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

 

「ボクが開けてくるニャ。今行くニャ~!」

 

「あの声は村長にゃ? 心配だから私も行ってくるにゃ」

 

 気を利かせたつもりか慌てて駆け出すヤマトとそれを心配したナデシコが対応に当たる。

 遅れて追いかける翔と蘭雪が玄関口まで出向くと案の定、ユクモ村の村長久御門市(くみかどいち)が優雅に佇んでいる。

 

「ホホホ、ごきげんよう。翔さん、蘭雪さん。もう朝食は取られましたか?」

 

「あ、はい。今さっきみんなで」

 

「……そうですか。残念です。」

 

 にこやかな村長は翔の返答に少しションボリと眉根を下げる。

 指を加えつつ上目遣い。こう言う時は決まって――――。

 

「あの、残り物でしたら少しありますけど食べていきますか?」

 

「ホホホ、では遠慮なく!」

 

 少し食い気味に返答する村長。毎度の事だから翔の方の驚きは少ない。

 

「(村長ってこんなキャラだった?)」

 

「(若い竜人族は見かけによらず子供っぽいところがあるって聞いたことがあるにゃ)」

 

 上機嫌の村長に催促されるようにして翔は部屋へと上げることにした。

 

 

 

 

 

「それで結局用事はなんだったんです?」

 

「ホホホ、用事がなければ来ては行けなかったかしら?」

 

「いや、別にそういうわけじゃ……」

 

「オムツだって替えてあげたことがあるのに……あの頃はあんなに可愛かったのに……よよよ……」

 

「(最終的にはこれくらい自分のペースに持っていければ勝利は見えたものにゃ)」

 

 カッと赤面する翔にニヤニヤとする一同。手がかからない子供ではあったが親の不在時に大変お世話になった方でもあるからか昔から彼女には頭が上がらない。

 

「もう、あまりからかわないでくださいよ」

 

「ホホ。腕を上げましたね。農場で採れた魚に野菜。大変美味でしたわ」

 

 にこにこ顔を崩さないままペースを保持しつつ優雅に手を合わせる村長。

 ちょっと疲れた様子ではあるがやっと本題に進めると翔は少し安堵した。

 食後のお茶をすすりながら村長はゆっくりと本題を告げる。

 

「まずは二人にと思いまして。これからの村の方針についてです」

 

 村長の懐から顔を出したのは一枚の羊皮紙だった。

 

「何コレ?」

 

「あ、これは回覧板とか村の掲示用のお知らせニャ」

 

 紙の一番下には村長が作るお知らせ用の配布物などに必ず判が押されている。

 村の人達に伝える前に自分達に伝えておくべき事とは。不可解に感じる翔は内容に目を通す。

 

「ユクモ村の拡張と秋祭りについてのお知らせ?」

 

「へぇ、そんなのあるんだ?」

 

「ええ。後程、村の皆様を全員集めてご協力を仰ごうと思っています」

 

 紙にはユクモ村の拡張工事――ユクモ村温泉街大規模拡張工事と仰々しい名前がドンと大きな文字で書かれている――と秋祭りについてのお知らせが書いてあった。

 要約すれば、村の収益アップと人口増加を図るために温泉地として有名なユクモ村をより大きく拡大しよう、というものである。

 そして、迫るユクモ村の収穫祭――通称:秋祭り――を例年よりも格段に、超大規模にする事で近隣の村々だけでなく遠方からも客を寄せよう、とのことである。

 

「いつもの思いつきにしては何だか現実味がある上に凄く楽しそうね」

 

「ホホホ。そう言っていただけると考えたこちらも嬉しい限りですわ(それに、色々と備えなくてはいけませんし……)」

 

 いつもの突拍子もないような無茶ぶり依頼に比べると現実味のある話だが、ここまで聞いても先に自分たちに知らせる意味が翔にはわからなかった。

 その表情を見た村長はにこりとまた微笑むと懐からもう一つの羊皮紙を出したのだった。

 

 

 

 

 

「……と、そんなわけですから。皆様にも協力していただけると助かるのです」

 

 集会所へ続く階段前の広場には湯治に来ていたハンターや村人、アイルーも含めた全員が集結していた。

 がやがやとする事もなく、全員が静かに村長の話に聞き入っていた。

 そこでぬっと人ごみをかき分けて出てきたのは村の中でも最年長級の位置にいる加工屋の主人。村の人々は親しみを込めて彼をおっちゃんと呼んでいる。

 

「村長や。このぷろじぇくととやらに協力するのはやぶさかじゃないんじゃが、ワシの様な老いぼれも多い上にこの人数だけで足りるのかや?」

 

 至極最もな意見だ。この村の周辺を含めてもここまで大きな大改造をするのはこの村をおこした時以来ではなないだろうか。

 近くにいた農夫のおじさんやおばちゃんが何度か頷いている。

 村長は笑みを崩さないまま確かに、と続けた。

 

「確かにこの村の皆様だけでは秋祭りに間に合わせるどころか年をまたいでしまうかもしれません。そこで頼もしい助っ人その一にムラクモ組に依頼しました。この近隣の村の大工衆の中でも最も優れた技術を持つ彼らがいれば百人力でございましょう」

 

 一通り言い切ると今度はハンターが集まっている辺りを注目すると村人達の視線も自然と集まる。

 

「そして若い子の多くないこの村にはやはりハンター様の力が不可欠です。なので――」

 

 翔の家でしたようにもう一つの羊皮紙を取り出すと横に控えていたコノハとササユが大量の羊皮紙をハンター達に配り始める。

 

「緊急依頼でございます。内容は以下の通り。有り体に言えば力仕事を行ってもらいますわ。報酬はあまり多く出せませんが、報酬とは別に新しい温泉に一番に入っていただけるように工面いたしますわ。どうかご協力の程、よろしくお願いいたします」

 

 翔たちの手元には村長から直接手渡された依頼書がある。

 コノハ達から受け取っていくハンター達もしげしげとその内容を読んでいるようだ。

 その表情を伺う村長やコノハ達は少なからず不安げである。

 村人たちは村長に支持されたとおり、男衆は資材集めの準備、女衆は男性のサポートに回る為に炊き出しの準備にかかっている。

 中々動きの無いハンター達の一団をかき分け、翔と蘭雪はあらかじめ書き終えていた依頼書を提出する。

 

「村雨、黄の両名。この緊急依頼、請負います。世話になってる村の人達への恩返しと行こうじゃないか!」

 

 気持ち大きめに、威勢良く言ってみた。上ずっていたかもしれない。

 村長が事前にこの事を二人に伝えておいたのはサクラとしての意味合いがあったからだ。

 自分より若い世代の人間が義理人情に溢れるセリフを吐けばこうしちゃいられないとばかりに他の同業者たちを煽ってくれるのではないか、という作戦である。

 翔の下手な演技がバレる前に、と蘭雪も無理やり便乗する。

 

「そ、そうね。報酬の1番風呂ってやっぱり混浴なのかしらね。ラルクお姉さまの玉のような肌をじっくり堪能できるチャンスよね」

 

 蘭雪の言葉にハンターの一団はざわめく。

 

「(おいバカ、お前は混浴じゃなくても女同士なんだから関係ないだろ)」

 

「(あ、しまった……ってバカとは何よバカとは!表でなさいよ!)」

 

「(二人とも声が大きいにゃ。それにここはもう外にゃ)」

 

 わざとらしい演技にボロが出てしまってはいるが誰ひとりとして気にはしていない。

 そして意外な人物が一番に名乗りをあげた。

 

「村長、私も参加します。……商品みたいなのはシャクですけど」

 

 紛れもない本人。ラルクスギアの参戦にざわめきは増すばかりだ。

 

「(翔くん、蘭雪くん。私も村長から言われているが他に方法はなかったの?)」

 

「(お姉さまごめんなさい。もしもの時は……)」

 

「(もしもの時は?)」

 

「(翔が身代わりになるって言ってるんで大丈夫です)」

 

「(俺にそっちの趣味はないッ!)」

 

「(そう、なら大丈夫ね)」

 

「(え、いいんですか!? こんな感じですけどいいんですか!?)」

 

 内緒話がヒートアップしている頃、鼻息の荒いハンター達がコノハ達に詰め寄っていた。

 

 

 

 

 

「それでは皆様。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 深々と頭を垂れる村長の礼を合図にハンター達も分担に分かれた。

 

 まず、非戦闘員である村人は村の中での仕事がメインになる。

 男衆はハンターの運び入れる資材の加工や地盤の整備、既存の露天風呂の改修と有り体に言えば力仕事兼雑務、といった感じだ。

 対する女衆は男衆のサポートと炊き出しがメインになる。リノを含めた若い世代の何人かが男に混ざって地盤の整備を手伝っている。そして――――。

 

「なぁ機嫌直せよ。俺たちはハンターとして雇われたんだから仕方ないだろ?」

 

「知ってる。分かってる。でもさ、おかしくない!? 私はこれでも女よ? 紛う事なき乙女なの!」

 

「(本気(マジ)で助けてくれラルク姐さん……)」

 

――――ハンター組は渓流のど真ん中にいた。

 

 彼らが村長から受領した契約書にあったとおり、資材の運び込みが彼らの仕事となる。

 そこに男や女の差は無く。蘭雪もまたその一人として鶴嘴(ピッケル)を振りかぶり思いの丈を鉱脈の亀裂に叩き込んでいる。

 

「大体おかしいのよ! 私だって女よ! お姉さまの体にホイホイ引っかかる癖に私を見るなり鼻で笑って……ムカつくッ!」

 

「ああおい! ……またかよ、あんまり予備がないんだから丁寧に扱えよ、っと。あ、マカライト」

 

 彼女の心傷は大きいようで眼は潤みながらも鼻息荒く、思い切り打ち立てた鶴嘴(ピッケル)がまたもやダメになってしまった。

 事は出発前に遡る。ハンター組の分担を始める際に村長がラルクスギアには特別に統率を頼んだのだ。女性であるから、とかそういうことではなく全体を見る能力や統率力は現段階でユクモ村にいるハンターの郡を抜いているからとの事で周りのハンター達もうんうんと頷いていた。

 

「(そこで何で蘭雪を引き合いに出しちまうかな……)」

 

 この、くそ、と乙女の口から聞くには大変よろしくない悪態を吐きながら採掘を繰り返す蘭雪を背に深く長い溜息を吐いた。

 

「まぁまぁ。翔さんもなかなか蘭雪の機微がわかってきたようだにゃ。優しい言葉をかけてあげるのもまた|相棒(パートニャー)の務め。でも、敢えて|何(にゃに)もしにゃいのもまた愛情にゃ」

 

 後ろを振り向くと大量の【棒状の骨】を抱え込んでいるナデシコがいた。

 

「こちらはどうにでもなるとして、ラルクさんにヤマトを預けてしまったけど大丈夫かにゃ?」

 

 蘭雪と付き合いの長いナデシコにしてみれば一時の癇癪であることは分かっている。寧ろ一番の気がかりはラルクスギアの使いパシリにと残してきたヤマトの方だった。

 

「あぁアイツなら大丈夫さ。ラルク姐さんも働き者のヤマトを是非って言ってたしな。……だがな、褒めると伸びるけど。調子に乗っちゃうんだよな」

 

 

 

 

 

「ニャっくしょいッ!」

 

「あぁこらヤマト君。あまり調子に乗りすぎると……」

 

 例外(・・)として村に残り、村長のサポートとハンターの総指揮を担うラルクスギアは仮設本部での処理に追われていた。

 村長やギルドマスター、コノハとササユも事務仕事に従事しているが、この大規模プロジェクトの中でてんやわんやの状態である。

 ムラクモ組や他所のギルドに出した依頼書の処理もある。これからまだまだ仕事は増えるだろう。

 ラルクスギアはその前歴からすれば、やはり適材適所であった。

 

「まぁこう言うのは得意だし。みんなの力になれるのなら願ってもないことよね」

 

「ラルク姐さん。さっきの書類を村長に届けてきたニャ。次はこの書類でいいかニャ?」

 

 一括りにした書類を運ぶ、持ってくる等のパイプ役に抜擢されていたヤマトが戻ってきたようだ。

 

「ええ、お願い。やっぱり簡単なところからコツコツ積み上げればヤマト君はもっと伸びそうね」

 

「そんなに褒めても(ニャに)も出ニャいニャッ! ボクはこれを届けて来るニャッ!」

 

 ラルクスギアの言葉にニヤニヤしながら書類を担ぐヤマト。

 やはり褒めて伸ばすのが彼には一番合っているわね、と感慨に浸るのも束の間。

 何もないところでつまづいて書類を散らかすのはもはや予定調和の域であった。

 

 

 

 

 

 ところ変わって。

 鶴嘴(ピッケル)が切れるまでふるい続けた鉱脈にそろそろ別れを告げ、一行はベースキャンプまで戻ってきている。

 

「じゃあニャン次郎、頼んだぜ」

 

「了解ニャ。旦那(だんニャ)の鉱石類諸々は確かに預かったニャ」

 

 本名不明のさすらい猫。人呼んで転しニャン次郎のタル配便。こんな謳い文句を聞くようになったのは翔がハンターを始めた頃だったか。

 彼がギルドと契約する事でこれまでにないほど採取クエストが捗るようになったとリピーターの声は大きく。彼が開業していた頃の『メラルー何かに大切な物を預けられるわけがない』と言う声を、持ち前の商売精神で塗り替える事が出来たのだと言う。

 

「いやぁ~助かるよな。ニャン次郎達がいてくれると戻るまでの時間を短縮できて」

 

 別の場所(ポイント)で採掘をしていたハンター達が戻ってきたようだ。

 彼らが背に担いでいる鉱石の類もニャン次郎達に運んでもらうべくここに立ち寄った。

 村長の言っていた助っ人達の中には彼らタル配便のアイルー達も含まれる。

 何でも、作業の効率化を図るためにニャン次郎の他にも何名か腕利きの運び(にん)を呼んでおいてもらったらしい。

 

「今度はアタシが運んでやるニャン。さっさと寄こすニャン」

 

 ナデシコ達と同じアイルー族の子が身の丈程の大樽をポンポンと叩いて急かす。

 呆気に取られていた男もいそいそと樽に鉱石を詰める。

 

「ふむ、こんなものかニャン。それじゃ“大樽のスミレ”確かに承ったニャン」

 

 どうやら彼ら一人一人に通り名めいたものがあるらしい。

 

 

 

 

 

 そして。

 夕焼けが辺りを鮮やかなオレンジ一色に染め上げ、気温も大分マシになった頃。

 ラルクスギアの連絡係として一日頑張ったヤマトが最後の仕事とばかりに吹き鳴らす連絡用の角笛を合図に一日目の仕事は終了となった。

 

「いやぁ、長かったわね。腕も足もパンパン。ねぇ翔。後でマッサージしてよ」

 

「ん? あぁ、別にいいけど……今日はしてもらいたい気分だなぁ」

 

「ボクがマッサージしてあげるニャ! ご主人秘伝のマッサージをボクなりに」

 

「ささ、まずはお風呂にゃ」

 

「ボクだけまたこんな扱い……」

 

 コキコキと首を鳴らしながら村雨家への家路につく翔達。

 一日の汗と疲れを癒すにはもってこいの露天風呂も今日からは少しお預けなので内風呂で我慢するしかない。

 

「なんか活気づいてきたな」

 

「そう?」

 

「うん。蘭雪が来る前まではなんとなくのどかで時間が止まってるみたいな緩やかな感じだった」

 

 そんなもんかしらね、と村雨家の入口から麓までを見下ろす。

 特徴的な朱い正門からすぐのところに整地された大きな土地。昼間のうちに村の男衆とハンターが何人かが地ならしをしていたのを見かけた。

 その近くの仮設配給所では女衆の手料理が振舞われ汗まみれの男たちがにこにこしながらそれを頬張っている。

 

「これからもっと賑やかになるんだろうな」

 

 翔はその光景に満足気な表情を浮かべながら自宅へと入り他の一行もそれに続く。

 

 ユクモ村を拡大するこの一大プロジェクトは始まったばかりだ。




大分日数が空いてしまいました。

こんばんは。獅子乃であります。
日数なども含めると読者さんと久々にお会いするように感じますが、前話、前々話と自分が筆を入れている部分があったのでそうでもなかったり。
獅子乃の文章はしつこいですからね。案外気づいていた方もいたりして(汗)

さてさて。内容に関しては……。
大幅な改築が予定されているみたいですね。うむ。村おこしですか。
獅子乃の担当話はあくまで冒頭ですからこれからどうなっていくのかはお楽しみです。
途中途中にオリジナルっぽい要素も増えていきますがなるべく自然になるようにメンバーで話し合いを重ねていますので苦手な方も大丈夫かな。うん。

さて、次回はザクロさんが担当ですね。
って言った時に自分の次がザクロさんだったこと無いような気がする・・・。

まぁご安心を。今回は珍しくストック出来たのでこの章に限っては週1でお送りいたします。

それでは長々と書いても仕方ないので個人的な事はまた感想欄にて。
次にお会いできるのはいつでしょうか。それでは!( ̄ー ̄)ノシ

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