第11話 (著:五之瀬キノン)
砂を舞い上げる乾いた風が時折視界を塞ぐ。目を腕で庇いつつ、人の往来を縫って抜け流されぬように進んだ。
ギラギラと照りつける陽射しは頭上に張られた布で遮られているものの、人の密度で熱気は異様に高かった。
この街の名をロックラック。周りを砂漠に囲まれた、言ってしまえば超大規模オアシスに近いと認識出来る街である。
居住区や商業区、闘技場やハンターズギルド管轄区など街中には様々な施設が揃っており、ここにいれば街を出ずとも暮らしてゆけるのだ。
ロックラックと言えば二つの顔がある。ハンター達の集う街と、交易の街だ。
砂漠地帯のど真ん中に位置するロックラックは砂上船と呼ばれる風を推進力にして砂の上を進む船が一日何十隻と行き交う言わば交易都市。忙しい時はハンター達より商人達の数が多い時すらある。流石は交易都市と言ったところか。どんな日だろうと商人達の仕事は減らないし止まらない。
無論、ハンターの街としても負けていない。
闘技場管理は勿論、下位ハンターから上位ハンター、様々なレベルのハンターが集まるだけあってクエストは度々更新される。
中でも数年に一度、ロックラック伝統の一際大きな“祭り”がある。
『豊穣と災厄の神』――古龍ジエン・モーランとの大決戦だ。
二つ名が示す通り、ロックラックの人々はジエン・モーランを神として信仰しており、砂嵐のある日には街が総力をあげてジエン・モーラン討伐へと赴く。
古龍――――その生態系のほぼ全てが不明とされ、人間に対する危険性は天災レベルに匹敵する龍だ。
中でもジエン・モーランはギルド観測史上最大級の古龍であり、全長は一○○メートルを優に超える。特徴的なのは背中に様々な純鉱石を乗せていること。そして、全長の三分の一を占める立派な二本の牙である。
ロックラックの中心には天高くそびえる牙が一つ。かつてロックラックを襲ったジエン・モーランから勝ち取ったものであり、この街の
今日も見上げれば太陽を貫かんと天へ突き刺さる牙は健在である。物珍しく牙を眺めている者達を見掛けたらそれは旅の者か、新たにやってきたハンターかもしれない。案内してあげるのが良いのでないだろうか。
ハンターとして彼らが必ず訪れる場所。鍛冶屋や闘技場などもあるが、それは別として。彼らが立ち寄るのは酒場だ。
ロックラックギルドの直下で管理されるクエストボードと簡単な食事を取れる大衆食堂。ハンターズギルド経営の雑貨屋もある。
日々パーティを組んだハンター達が集まり、クエスト出発前の会議を開いたり、成功をおさめて帰ってきた者達が祝勝会を開いていたりと様々だ。
そんな酒場もここしばらくはおごそかな雰囲気で張り詰めた空気が漂っていた。
いつもはわいのわいのと騒がしい酒場だが、席に腰を落ち着けるハンター達は皆、緊張した面持ちでいた。
ここ二週間弱。ロックラックではHR昇格試験が行われていた。
HRとは“ハンターランク”の略。すなわちハンター個人の実力をランク付けしたものである。HR1~9にそれぞれ三つずつ。下位、上位、G級とランクが分かれており、各部明確なルールが制定されている。
大型モンスターの討伐・捕獲・狩猟に関してはHR4への昇格試験から受注が可能で、上位ハンターへの登竜門と言う訳だ。
そして、このHR昇格試験には他のクエストとは違う明確な規定がある。
それは、HR昇格試験の合格・不合格はモンスターの捕獲の成否によって決まる事だ。
HR昇格試験はあらかじめハンターズギルドの保護区域にて行われ、ギルドが管理するモンスターを捕獲することによって合格となる。これは保護区と言うこともあり、無闇にモンスターの数を減らさないようにする為のものだったりするのだ。
酒場に集まるハンター達全員が必ずしも試験を受ける訳ではないのだが、感化されてか受付嬢達もいつもより真剣味が増しているように見えた。
机に集まり作戦会議を開く者。試験に失敗し肩を落とす者。少し息が詰まるようなそこに、一組のパーティを組んだ男女が意気消沈して暗い顔をしていた。
ユクモ装備に身を固めた少年とブナハ装備の少女だ。少年は笠を太刀の柄にぶらさげて立て掛けており、少女は開いた椅子に畳まれた弓を置いていた。少年の名を村雨 翔、少女を黄 蘭雪と言う。
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
両者はだんまりとして動かず、頑なに喋ろうとはしなかった。(正確には喋れなかった。)
「「……………………はぁ……、」」
更に両者は同時に重く溜息を吐く。
「…………落ちたな……」
「…………落ちたわね……」
二人の影はやけに暗く、いつもよりかかなり痩せこけて見えた。
彼らの会話はHR昇格試験についてのこと。そして“落ちた”と言う言葉通り、二人は昇格試験に落ちていた。
現在二人のHRは3。
HR試験の内容は毎度クジで決まるのが当たり前。と言うのも、仮に上位モンスターを狩ることになったとしてもギルドは多くの頭数を確保していないのだ。つまり、モンスター、特に大型は数に限りがあるが故に同ランク試験は様々な内容に分かれるということになる。
例えば、ラングロトラ二頭の捕獲、ウルクススとドスバギィの捕獲、などなどだ。
ちなみに、この二人が当たった試験内容とは……。
* * * * *
約一週間前。
酒場には多くのハンター達が立ったり座ったり。兎角、大きな喧騒に包まれていた。
本日は二回目の試験抽選会の日。このクジで、試験内容は大きく変わるのだ。
エントリーを行ったハンター達が今か今かと開始時間を待つ。その中に、翔と蘭雪、ヤマトやナデシコの姿もあった。
「さて、これが吉と出るか凶と出るか……」
「どんなのが来てもこのヤマトにかかれば楽勝ニャッ」
席に座り膝上のヤマトを撫でて平静を装う翔だったが、内心かなりドキドキしていた。やはり、試験内容はなるべく楽な方が(楽も何も本当は無いのだが)合格確率も上がるというもの。期待してしまうのは仕方ないし、最悪の場合を想定するのは正直したくなかった。
「相変わらず、大盛況ね。この時期も」
「まぁ“祭り”に比べれば劣るにゃ。それでも久々の活気で懐かしいにゃ」
同じ席の隣。蘭雪とナデシコは辺りを見回し幾らか前のロックラックをを懐かしんでいた。
「一同、静粛にッ!!」
ピタリとその一言でざわめきが止む。
酒場の上に設けられた檀上には箱を抱えた受付嬢数人と教官が一人。
ようやく、試験内容確定クジが始まる。
「これより、試験内容の確定を抽選で決定するッ。各自パーティは班番号をよく確認しておけッ、内容は一回しか口にはせんぞッ!!」
ゴクリ、と一同が唾を呑む音が聞こえた。その例に二人も漏れず、固唾を呑んで檀上を見上げた。
教官が受付嬢の持つ箱に手を入れて中から試験内容の書かれた紙を取り出す。
「一班、ウルクスス二頭の捕獲ッ!! 次、二班ッ――――――――」
翔と蘭雪達の二人と二匹のパーティナンバーはNo.21。
次々と結果が読み上げられ自分の番が近づくにつれて緊張感が増してゆく。
翔達の受けるHR昇格試験は上位ハンターへの入口であるHR4の試験。有名なのは、その試験の中でも最難関と言われる『雌火竜リオレイアの捕獲』である。
上位ハンターの登竜門と言われる昇格試験の中でもリオレイアは別格だ。大型モンスターの中でも典型的な姿をした飛竜であり“陸の女王”の名を冠する雌火竜として世間一般に知れ渡っている。地を駆け回る圧倒的脚力。的確に相手の虚を突く三連続ブレス。岩を粉砕するようなサマーソルト。大型モンスターの中でも凶暴だ。
「二○班、アオアシラ二頭の捕獲と鳥竜のタマゴ納品!! ニ一班――――――、」
(リオレイアくんなリオレイアくんなリオレイアくんなリオレイアくんなリオレイアくんなリオレイアくんなリオレイアくんな)
(出来れば早くクリアできるヤツお願い……ッ!!)
「……うむ。第二一班ッ、リオレイアの捕獲だッ。くれぐれも怪我や事故には気を付けろよ!!」
「「「「……………………………………………………」」」」
* * * * *
「「…………死ぬかと思った……」」
取り敢えず気持ちを入れ替えて意気揚々と翔達が保護区へと向かったのが六日前。一日かけて保護区に入り、結果、三日間粘ったは良いものの手も足も出ずリオレイアに散々な程プライドをへし折られて現地で一日ばかり(動けなくなって)休んで先程帰ってきたばかりである。最早トラウマの領域とも言えるくらいに。
翔はリオレイアの足下で足踏みに引っ掛かり転んでサマーソルトの洗礼を受け。蘭雪はまんまと三連続ブレスの餌食になった。誰が何と言おうと大敗である。因みにオトモ達は薙ぎ払いに巻き込まれて瀕死寸前だった。
くよくよして立ち止まっている場合じゃない、と帰って早速反省会を行おうとするも予想以上のショックが積み重なり、クエスト中のトラウマを思い出しては身震いして、結果、会議は停滞。互いにツッコミを入れる気にもなれず、黙りこくっては頭を抱えての繰り返しであった。
負のオーラを撒き散らすテーブルではあったが、幸いか否か、周りにもいくつか似たような卓があり大して浮くような心配がなかったのが良かったか。悪目立ちしてはいないのが不幸中の幸いである。
「……武具の問題に戦闘スキル、戦力不足、か……」
「山積みね……武具なら何とかなりそうだけど……」
「そういや鍛冶屋に頼んでたよなぁ。すぐに仕上がるっつってたっけ……、一旦荷物置いてから確認しに行くか」
よっこいせ、と年寄りのように重い腰をあげる。帰りの船で休みもとったというのに相も変わらず気怠かった。
酒場を出てすぐの通りには地方各地から集まった品が売買される大市場がある、。時間に関係なく賑わうここは今日も今日とて行き交う人の流れが濁流のようにうねっていた。
品に目を向けて見ると角竜レバーやら氷結晶に冷やされたフルベビアイスなどなど、この地方ではお目にかかれない異国品も多く出回っているようである。
二人は市場を抜けて右へ。少し路地に入ればたくさんの家屋が所狭しと並ぶ居住区となる。
ここではロックラックで暮らす人は勿論のこと、出稼ぎや旅でやってきたハンター達の為に用意された宿泊施設も多く点在している。
ランク付けがされている訳ではないが、やはり階級の低いハンター達が泊まる宿は決して快適とは言えない。宿代が低い分とは言うものの、藁を敷き詰めただけのベッドはどうなんだろうと思うところだ。
無論、腕の立つハンターは懐に入る金もケタが違うので高級スイートルーム(一人部屋)を拠点とする者もいるらしい。
――――しかし、翔や蘭雪のような下位ハンターがそこまで莫大な金額を所持しているはずがないので。
「……サイアクよ」
「誰だってそう思うよ、絶対……」
結論。二人の現在の寝床は藁ベッドであった。非防音の薄い木の壁。すきま風あり。埃っぽく、地面には藁が散らばる。ベッドには藁がこれでもかと詰め込まれ、シーツとして一枚の布が申し訳程度にかけられとおり、枕は布を何枚も重ねて纏めた物。とてもじゃないが人が泊まるような所とはお世辞にも言えなかった。果たして屋根があるだけマシなんだろうか。
「……………よし、さっさと荷物置いて出よう。外の方が空気が良いし」
現実から逃げるように早口な翔に同調して蘭雪はコクコクと首を縦に振り頷く。一刻も早くこの精神状態から脱するにはまず今いる空間から出る必要があるのだ。それに、新しい武具が手に入れば気分も前向きになるもの。
全部屋に完備されているボックスへ荷物をつめこみ、早々に部屋を飛び出す。蒸し暑い空気から一転、乾いた空気が心地よかった。
これなら無理してでももう少し良いグレードの部屋を選べば良かったと内心毒づくことしか出来ない翔であった。
居住区を出て再び市場近くにまで引き返して来た二人。物珍しい品に目移りしつつ、村へのお土産はどうしようかと首を捻り議論する。
が、
「……無事帰れればの話よね」
「ですよねー……」
やはり、どうも気分はナイーブで消極的になってしまっていた。
市場を抜けて少し、人通りが僅かに薄くなった通りを歩く。
この通りの突き当たりにはロックラック一番の大闘技場がある。
水中闘技場も設置してあるここロックラックでは水中での戦闘訓練や闘技大会も開催され腕試しにと挑戦するハンターや見物客は後が絶えることがないらしい。
しかし、翔達二人が行く先はその手前。ロックラック地下に広がるハンターご用達の施設、鍛冶屋である。
「武具できてると良いなぁ。噂じゃ注文してから完成までが早過ぎるって聞くけど」
「これまた信憑性の無い話ね」
取り留めない会話をしつつ――しかし、僅かな高陽感に小さく胸を踊らせながら歩く二人。鍛冶屋まで後少し、真っ直ぐ進んでしばらくし脇道に差し掛かる。
直後、路地から急に人影が飛び出して来た。
「うわッ!?」
「ちょッ……」
「むがッ……!?」
いくらハンターと言えども街中で急に襲われて対応出来る筈もなく、突っ込んで来た影は翔と蘭雪を巻き込んで倒れた。
「いたた……ちょっと、気をつけなさ、い……よ……、」
蘭雪は見た。否、見てしまった。
突如飛び出して来た影が女性であり――――、転んだその人の下敷きとなり豊満な胸へと顔を埋める翔を。
「……むぐ?(なんだろう、この幸せな窒息感……?)」
「いてて……。あぁ、少年。大丈夫か?」
下敷きの翔を抱き起こしながら立ち上がる女性。結果としてそのまま翔は胸に顔を押し付ける羽目となる。
「………………………………………………………………」
「……………………ッ!? ちょっ、あッ、大丈夫っすからね!?」
刹那にバッと飛び退く翔。何故か背後から凄まじい殺気を乗せた視線を感じた。
「おぉ、そうか。無事ならなによりだ。じゃ、アタシは用があるから失礼するよッ」
女性は手を上げるとくるりと反転。翔達が来た方向へと走って行った。
気付けば彼女の腰から下には防具があり、上半身はインナーだけと何とも微妙な格好だがハンターというのがわかる。上がインナーだけなのは暑いからだろうかと彼女の背中を見送りながら翔は思考し、
「……かぁーけぇーるぅー……?」
悪魔の如く形相で睨んで来る蘭雪から冷や汗タラタラで視線を全力で逸らす。
「……ランシェサン、あ……あ……」
「あ?」
「……アレハジコダトボクハオモウノデス」
「…………………………」
「…………………………」
「…………問答無用」
* * * * *
「……………………にゃ……、」
「? 姐さん、どうかしましたかニャ?」
「ふむ、にゃんだか美味しい話が向こうで展開しているようにゃ気がしただけにゃ」
「…………?」
「気にする必要はにゃいですよ、ヤマト」
「わ、わかったニャ」
一方その頃。
翔と蘭雪のオトモアイルーであるヤマトとナデシコは二匹でロックラックの街を散策していた。
初めて大きな街に来たヤマトはあちらこちらと視線を動かして物珍しい物品を眺め、ナデシコが各々の物についてわかる範囲で説明をしていた。
ロックラックの街に帰って来てから暫く暇をしてこいと告げられた二匹達。砂上船に長く揺られていたのだが大きな疲れは無く、寧ろ新天地に来たと言う期待感が狩りの疲れを吹き飛ばし(主にヤマトを)突き動かしているのである。
生憎、翔のお財布事情の為にお小遣いを持っていないヤマトは品々を名残惜しそうに見やり次へ次へと行く。
その最中、ヤマトは目ざとく露店と露店の間から顔を覗かせる“それ”を見付けた。
ふらふらと無意識に追い掛けて隙間と隙間を抜ける。ナデシコもヤマトの謎の行動について行ってはいるものの、彼女自身にはヤマトが何故今まで露店に興味を示していたのにいきなり別の物を追い掛けるようになったのか気になっていた。
市場の通りを一本路地に曲がる。“それ”はピョコピョコと曲がり角で揺れ、ヤマトを誘惑する。
「ほ、本能には逆らえにゃいニャ!!」
そして、我慢の限界だったヤマトは獲物を狙う捕食者の如く飛び出した。その先には“それ”――――猫じゃらしが揺れており、
「よっしゃあッ、釣れたッ!!」
「ニャ、ニャニャニャーッ!?」
刹那、猫じゃらしが引っ込んだかと思うと人間の両手がぬっと伸びてきてヤマトをガッチリと捕まえてしまった。
「ニャ、
「おっ、オトモアイルーかー。しかも和風とは。こりゃ良いや」
「……ヤマト、一体
チラッと足元に放置された猫じゃらしを見やってから捕まって抱き抱えられたヤマトを流し目で見る。
ヤマトを捕まえたのは女性――それもハンターだ。上半身は暑いのかインナー一枚だか、下半身にはきちんと防具をつけていた。確か、迅竜ナルガクルガの素材を使った装備だった筈。
「にゃあ、失礼ですが、どちら様ですかにゃ?」
「ん? おおっ、こっちにも可愛いのがいるじゃんか」
「……全く話を聞かにゃい人にゃ……、」
ヤマトを片手にナデシコまで捕まえて上機嫌な彼女。小脇に抱えられてわかったが蘭雪より相当大きい。何がとは言わないが。
(これは嫉妬の的にゃ……)
「? どうかしたか?」
「いえ、にゃんでもありませんにゃ」
どうやら無自覚らしい。インナー一枚でこの体型とは、男が黙っちゃいないんじゃないだろうか。
しかし、抱えられてわかることはそれだけではない。彼女は自身を相当鍛えている。腕から伝わってくる力強さは並の男性では足元にも及ばないのがわかる。
「なぁなぁアイルー達、アタシんちでお茶でもどうだい?」
新手のナンパか。
思わずこぼれた大きな溜息にナデシコは疲れを感じざるを得ないのであった。
* * * * *
地下鍛冶屋へとやってきた翔と蘭雪。翔がいつも以上にやつれているのは気のせいか否か。
地下を掘りぬいて造られた大きな空間はまるで低温のサウナのように暑い。いるだけで額には汗が浮かんでくる程だ。
奥からは熱した鉄をハンマーで打つ音が絶え間なく響き、男達が汗水垂らしてせっせと働く。よくこんな暑い空間で働けるものだと二人は嘆息した。
「すいませーん」
「はいよォ!!」
受付で声をかけると一人の男性がのっしのっしと奥から現れた。筋骨隆々の大男だ。
「えーっと、この前作製頼んだ村雨 翔とファン ランシェです」
「おうッ、了解した!! 完成したのはこっちあるからついてきなッ」
手招きをし、受付から外れて脇の通路を通される。奥には男女に別れた更衣室がそれぞれあり、頻繁にハンター達が出入りを繰り返していた。
「少年ッ。オメェのがコイツ、バギィ装備一式。で、嬢ちゃんのがフロギィ装備一式だ」
男は一抱えもある箱を二つ、何て事も無いように軽々と運んで来て二人に渡した。中にはそれぞれの装備が一式あった。
「キツかったり大きかったりしたらその辺の奴捕まえて言ってくれや。調整にゃ金取らねぇからな。武器の方は暫くかかっから、今度また来てくれ」
じゃあな、とそれだけ言って男は持ち場に戻る。
取り敢えず各自装備を持って更衣室へ。
碧を基調とした防具であるバギィ装備を着込む。重い物かと思ったが予想以上に軽かった。モンスター素材は案外軽いと言うことである。
「翔ー、まだ終わんないのー?」
外から蘭雪の声がかかる。案外早いものだ。
流石に待たせる訳にもいかないので、ちゃっちゃと防具をはめて外に出る。
外には腰に手を当て待ちくたびれたと表情に出して軽く睨んでくる蘭雪がいた。
濃いオレンジ色をベースに作られており、中でも特徴的なのは変わった形のハットにゴーグルだ。ガンナー装備用ということで左肩と腕にガードが。反対の腕は動きやすいように殆ど防具が無かった。
「お、中々に良い装備だな。似合ってんじゃん」
「ッ……、ひ、人より遅く出てきてお世辞とかバカじゃないのッ!? それに、じろじろ見んなこのエロ魔!! 変態!!」
ガツンとまた脛を蹴られた。防具越しでも痛かった。
威嚇する蘭雪に翔が頬を引きつらせていると、先程の男がまたやってきた。
「おうおう、二人して良い格好じゃあねぇかッ。似合ってるぞ!! うしっ、ついでに会計も済ましちまうぞ」
なけなしの金である。
翔の財布が軽くなった。物理的にも、精神的にも。
「そう言やぁ二人して防具新調するってこたぁ、HR昇格試験か?」
「まぁそんなとこっす。リオレイア捕獲とかちょっと骨折りますけどね……」
「リオレイア捕獲か……。その落ち込みようじゃあ一回落ちたってとこか」
「よ、よくわかりましたね……」
翔と蘭雪が目を丸くすると男は得意顔になり、
「ガハハッ、そりゃあ伊達にロックラックでハンターの顔見ちゃいねぇさ。そういう湿気たツラ下げてくる奴ぁ大抵そうなんだよ。元気出せ、坊主!! こんなトコでくたばっちゃあ
「いでェっ!?」
バンッ、と防具越しに背中を叩かれたと言うのに思い切り咳き込む。流石は鍛冶屋の男か。丸太のように太い腕の力強さが違う。
「あぁ、そうだ。お二人さんよ、まだパーティーメンバーに空きがあるんなら一人混ぜてやってくれねぇか?」
「え? 知り合いの方、ですか?」
未だに咳き込んで復帰しない翔に変わって蘭雪が首を傾げる。
「いや何、娘がオメェ達と同じ試験受けるんだがな。丁度メンバー捜してたとこだ。生憎知り合いが皆出払っててなァ。足手まといにゃならねぇさ、この俺が保証するッ」
ドンと胸を張る男を見て顔を見合わせる二人。
彼が見込む人物だ。娘とは言えどやはり推すだけの人物なのだろう。
「親父ー、良さそうな人居なかったー」
話の途中、入口から人の声がかかった。反応したのは目の前の男で、これまた大声をあげた。
「
「おッ、ホントかッ!!」
声の主はすぐに現れた。階段を軽やかなステップで駆け降りる。
「ありゃ、さっきの少年達じゃんか」
「あ、アンタ……ッ」
その人は先程、街角で軽いトラブルのあった女性だった――――小脇にヤマトとナデシコを抱えた。
「あ、ご主人」
「蘭雪かにゃ」
「いや、二匹揃って何やってんのさ……」
「かくかくしかじかニャ」
「まるまるうまうま、って伝わる訳ねーだろ」
取り敢えず何故捕まってこうなったのかまでの経緯を話すヤマト。その内容にハンター二人は溜息せざるを得なかった。
「……えーっと、それで……」
「ああ、そっか。自己紹介がまだだったな。ムラサメとファン!!」
んんっ、とわざとらしく咳払いを一つ。頭の後ろで束ねたポニーテールが揺れた。
「アタシが
翔や蘭雪と同じ東方独特の肌色。黒髪を地面スレスレまで伸ばし、キリッとした紅い瞳からは力強さがひしひしと感じられた。
「ヨロシクな、二人共!!」
あまりに急な展開についていけない二人はポカンと口を開けて唖然とするのであった。
ここまで読んでいただいた方、誠にありがとうございます。
第11話担当、五之瀬キノンです。
まずは、投稿が遅くなってしまった事、お詫び申し上げます。
諸事情で自分が中々書けなかったり、執筆速度が遅かったり修正に手間取ってしまったりとメンバーや皆様に多々ご迷惑をおかけしました。ここで謝罪させていただきます。
……だって中間考査があr(ry
さて。この話はすっぱりやめまして。
ようやく紅嵐絵巻も第3章に突入となりました。スタートは第1章と同じく自分ですが(´・∀・`)
今回翔や蘭雪達のHR昇格試験ということで皆はロックラックに出向いています。
案外、街の情景を知ってる人ってあんまいないんじゃないかなぁ……。MH3Gでロックラック出るんですかね?←
因みに今回の描写はMH3tri~のオンラインにて散々お世話になったロックラックを参考にしてます。いやはや、金がすごい勢いで飛んで行ったのを思い出します(笑)
そしてそして、今回初参戦キャラの東雲雲雀さん。(漢字並べると雲雲になる……語呂はいいんだけどねぇ)
はたしてどんな持ち味を出してくれるのか? 今からwktkしております。
次回は第12話です。ご期待ください。
ではまたいつか、お会いしましょう。