MONSTER HUNTER 〜紅嵐絵巻〜   作:ASILS

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第10話 (著:獅子乃 心)

 薄く硫黄の香りがする。いたる所から吹き出す湯気は、ユクモ村の名物である集会浴場の看板にも現されるとおりトレードマークである。観光や湯治に来た客の足並みを急かし、ハンター達には、再び生きてこの地を踏めたと安心感を与える。

 そんな村の雑貨屋、武器屋の間を抜け、集会浴場へと続く長い階段の前に置かれた長椅子と赤い和傘はある人の特等席である。明るい色を基調にした着物に竜人族特有の尖った耳の女性。まさしくユクモ村の村長、久御門市(くみかどいち)である。

 彼女はこの村に住む人、来客、ハンター達を移ろう季節に重ね合わせながら落葉を眺めるのが好きなのだとか。

 そして今回は目当ての人がいるので熱心に村の入口へと視線を向けていた。その最中にガーグァが引く荷車から降りる見知った顔が降りてきた。無論、翔達一行である。

 階段を上がる翔達を目ざとく見つけるとゆっくりと近づいてほんのりと笑みを浮かべながら語りかけるように一行を出迎えた。

 

「お二人共よくぞご無事で。大変でしたでしょう。さぁ、こちらへ」

 

 流れるような動きで二人を長椅子へ勧めると、そわそわとしながら近くに用意していたのであろう茶菓子を差し出してきた。こういう時は決まって狩りであったことを根掘り葉掘り聞かれる。これが村長の大好物。行商人の物流や村人の日々のできごと、近隣の村長達の苦労話のどれよりも興奮させてくれる話を心の奥底から欲している姿はご飯を前に待てをされた犬も同然である。

 翔は仕方ないな、と少しばかり困った表情で隣にいる蘭雪に視線を送るがそこには既に居ない。

 蘭雪はユクモ村特産の温泉饅頭を既に頬張りお茶を啜っているではないか。しかも包装していた包が2枚も落ちている。早く座らないとなくなるわよ、頬張りながら喋る蘭雪にすかさずナデシコがはしたにゃいからやめにゃさいと咎める。ヤマトは3つ目を頬張っている。

 逞しい奴らだな、と苦笑いを浮かべながら待ちきれない様子の村長に向き直り、さりげなく自分の分の饅頭を確保しながら語り始めた。

 

 

 

 翔達一行は渓流に張ったキャンプへ戻ると、ラルクスギアの土産とジャギィ肉の料理を飲み込むように胃に押し込むと誰となく眠りに落ちていった。

 いくらキャンプが狩場内でも特別安全地帯にあるとしても、時折ハンター達の食べ物の匂いに釣られてモンスターが出現することもある。なので食べ物の処理をしっかりと行った後、交代で睡眠をとるのがセオリーだが、今の彼らには少々酷だったのだろう。

 そんな風に思案する最年長、ラルクスギアは一人一人にキャンプ備え付けの支給品の毛布をかけると、書置きを一筆したため、日の出と共にキャンプを後にした。この分だと、日が高くなるまで目を覚ますことはないと判断したからだ。案の定彼らが目を覚ましたのは、日は高く昇り普通なら既に朝食を取って仕事に出ているような時間だった。

 

「……っく、痛ぇ。そういや狩場で泊まったんだったか」

 

 一番先に目を覚ましたのは翔だった。自炊が得意な彼は、ヤマトは勿論のこと蘭雪やナデシコの食事を3食欠かす事なく作っている。そんな理由でいつもより少し遅いながら腹の虫に起こされると身体の節々が軋むのを感じながら眠気を飛ばす。その鮮明になっていく意識の中で昨日の狩りの光景が、次々と浮かんでくるのだった。

 

「今度は、自分の手でしっかり守ってあげなさい、か」

 

 衝撃が走ったと言ってもいい。もし彼女(ラルクスギア)が駆けつけていなければ、傍らに眠る少女はただでは済まなかったはずだ。そう思うと自分の力の未熟さを様々と見せつけられているような気がしてならなかった。

 

「翔さん、あまり気に病まにゃいでください」

 

「あ、お、ナデシコか。おはよう。いや、別に気に病んでるってわけじゃ」

 

「何よ、気に病んでないの?」

 

「……今日に限って起きるの早いんだな」

 

 思考が黒くとぐろを巻き始めるところだった。後方から毛布を被った毛玉がもぞもぞしながら声を掛けてくれた御陰で我に返る。急に掛けられた声にしどろもどろになったのを、朝が弱いはずの蘭雪にも聞かれてしまった。

 

「私はいつも早起きです。朝日を浴びつつストレッチして二度寝するんです」

 

「……ムニャ、うるさいニャ。安眠妨害は重罪ニャ」

 

 意味にゃいわよ蘭雪、と額に手を当てるナデシコに幾らかの同情を禁じえない翔だった。そうこうしていると騒がしい周りに意識を無理やり覚まされたヤマトが抗議の声を上げる。朝は翔に起こされて起きるヤマトにとっては少しばかり乱暴な起こし方になったのだろうか。

 何よ私が起きてるのに寝てるって何様よ、と意味不明ないちゃもんと同時に蘭雪に振り回されるヤマトはすっかり目が覚めて主人に助けを求め、ナデシコは場を収めるために仲裁に入る。何はともあれみんな普段通りの様子でホッと安心する翔はまた遠くを見ながらポツリと呟く。

 

「もっと、強くならないとな。少なくとも親父みたいに手の届く範囲全部を守れる位に」

 

「はぁ? 何で私まで守られなきゃならないのよ。私だってもっと強くなるわよ。もっともっともっと!」

 

「姐さん、何があったのニャ?」

 

「……黙ってにゃさい。いい雰囲気にゃんだから」

 

 今の翔の紛れもない本心だった。強くなりたい、父に代わり村のみんなや仲間達を守れる位のハンターに。表面上憮然とはしているが蘭雪もまた同じ気持ちであった。今回の狩りは運が良かった。しかし次もまた同じとは限らない。また次も守ってもらうなど、彼女のプライドが許さなかった。この二人の姿を見た彼らの相棒達と言えば、片や妹達の成長を見守る姉の様な眼差しを送るナデシコ。片や状況を飲み込めないまま腹の虫が気になるヤマト。

 

「寝起きの頭じゃ難解過ぎるニャ。お腹減ったニャ」

 

「そうね、早く村に戻りましょう。温泉にも入りたいし、美味しい物も食べたいし」

 

「昨日は爆風で毛並みがススだらけににゃったから一刻も早いケアが必要にゃ」

 

 それじゃ帰るか! と翔の一声を皮切りに皆一斉に体を伸ばすと帰り支度を始めたのだった。多くは昨晩のうちに纏めてニャン次郎に届けてもらった。ギルド直属の彼ならば安心して荷物を預けられるし、帰りの荷物も少なくて済む。今頃はきっと集会所の保管所にまとめて置かれていることだろう。

 それぞれの武器と防具を纏い、キャンプの隅へと向かう。停めてあったガーグァ荷車に運転手(アイルー)が既に待機していた。

 

「村まで頼む。安全運転でな」

 

「毎度了解ニャ」

 

 ガーグァに繋がる手綱をクイッと引くとスピードを徐々に上げていく。帰る頃にはちょうどお腹が空いてる頃だろう。

 一行はユクモ村へと帰路を進めた。

 

 

 

「へぇ……それはそれは大変でしたね」

 

「ホントお姉さまが来てなかったらどうなっていたことか」

 

 一部始終を報告した。無論、彼女(ラルクスギア)が颯爽と現れピンチを救ってくれた事もだ。

 

「ああ。きっと今頃こんな風に饅頭食いながらおしゃべりなんぞ出来なかったに違いない。っておいお前さっきから食い過ぎだぞ何個目だよ!」

 

「いいじゃない女々しいわね。アンタだってさっき懐に入れてたじゃない!」

 

 やんややんやと言い合いをする二人が遂につかみ合いまで発展しそうな雰囲気を孕み始めた頃にススっとナデシコが村長の近くに近づく。

 

「で、首尾は如何に? 何か進展はありましたの?」

 

(にゃ)、今回の狩りは上々と行ったところにゃ。ハプニングの所為(おかげで)でお互いに少しずつパートナーとしての役割や重要性にゃんかを学べた良い狩りだったと思うにゃ」

 

「そう……(パートナーとしての自覚を持ったと言う事は近いうちに。ふふっ)」

 

「はいにゃ……(お転婆の蘭雪もちょっとずつ異性を意識し始めたにゃ。ふふっ)」

 

 お互いに含みのある笑みを浮かべて静かに笑う二人を見ておかしなものでも見た風に首を傾げるヤマトだけがその場に置き去りにされていた。

 話の方向がズレにズレ、本題を忘れていた事に気がついた翔が、そういえば、と含み笑いを続けている村長へと話を振る。

 

「そういえば村長。クルペッコの討伐が条件だったけど先方、確か……」

 

「ユクモ織り振興委員会だっけ? 私もこの前の依頼主(クライアント)がそこだったと思う」

 

「ああ、そうそれ。羽根が目当てだったみたいだけど、足りたなかな?」

 

 モンスターから取れる素材は一見、その大きな巨躯から得られる分豊富だと思われがちだがそれは間違いだったりする。命のやり取りをするのだ、ハンター側もいちいち攻撃する部位に気を使ってはいられないし、モンスター側も全身を使って攻撃する。故に、ハンターの武具を作る際に必要な素材や納品物として収められる素材は、戦いの中で損壊することなく綺麗に残った限られた物になる。翔が聞きたかったのは、派手にドンパチしたけど必要な分の羽根は無事残っていただろうか? という事だ。

 村長は少し驚いた様な顔をした後、にっこりしながら首を縦に降った。

 

「ええ、ええ。ご心配なく。先方は大変喜んでおりましたよ。次のシーズンの新作に間に合いそうだと言ってました。それに、翔様が先方にまで気を遣ったのですもの、その心遣いが出来るようになった事は私自身も大変嬉しい限りです。ホホホ……」

 

「ちょっと翔。アンタ何ぃ? 照れてんの? お世辞に決まってるじゃない、バカじゃないの?」

 

「ちょっ、バカ違ぇよ。ほら、やることはやったし、さっさと一風呂浴びて飯にするぞっ!」

 

 褒められて照れていたのではなかった。自分の狩りが、人の助けになったことが嬉しかったのだ。照れくさそうに頭を掻く姿が蘭雪には褒められてへらへらしているように見えた、というよりかはもっと違う気持ちが働いたのかもしれない。

 それじゃあ、と会釈程度に頭を下げて翔は自宅のある居住区に、その他の三名は疲れを癒すために集会浴場へと向かった。

 

 

 

「翔くん達は行きましたか?」

 

「ええ、ずっとあそこで見ていたのでしょう? ホホホ……」

 

 長椅子に腰掛けていた村長に声をかけたのは、翔達より先に戻っていたラルクスギア・ファリーアネオだった。

 あそこ、と指差しているのは武器屋の方向。ギクッと少しオーバーに仰け反る彼女にいつものクールなお姉様的雰囲気は見られない。

 

「結構距離があると思うのですけど……」

 

「これでも、竜人族の端くれですから。ホホホ……」

 

 竜人族、この一言で片付けてしまっていいものか。悩んでも仕方ない、と本題の口火を切る。

 

「先程伝書鳩を使って、ロックラックの観測所に報告を出してきました。後から私も直接出向きますが、何かお伝えしたい事がおありでしたらついでに報告しておきます」

 

「ええ、ありがとう。私からは特には何も……あ、一つだけ。あの()に、たまには家に帰ってきなさいって伝えてもらえる?」

 

「博士に伝言ですか? きっと今回の事を知ったら、余計に帰ってこなくなると思いますけど……」

 

 調査結果の報告に一旦ロックラックへ戻るという旨だ。今回彼女が受けていた牙竜種調査は古龍観測所からの依頼で、とある研究員からの私的なお願い、と言ってもよかった。ギルドを介していないために許可がなかなか降りず時間がかかってしまったワケだが、今回の狩りではそれが功を奏したと言っても過言ではないだろう。

 その旨を了承した上で村長は伝言を頼む。ラルクスギアのクライアント本人にだ。それを聞いたラルクスギアは少し困った顔をする。ひとまず伝言は預かったが今回の報告内容が内容だけに余計に戻ってこないのでは、と思ったのだ。

 だが村長は、ホホホと微笑を絶やさずに遠くの、その彼女(・・)を思い浮かべながら否定する。

 

「いいえ。きっと彼女は帰ってきます。幾らあの時の様な兆しがあったとはいえ母である以上は帰ってきます。あんな子煩悩な母親見たことあるかしら? 今に荷物を纏めてありったけの極秘情報を我が子に注ぐに違いありません。あの時の様に、もう大切な人を失うのは耐えられないでしょうから……」

 

「あの時……。あの嵐の災い(・・・・)。……それと牙竜種が一体どんな関係があるんですか?」

 

「兆し、彼はそう言っていましたわ。『俺はガキの頃からこの辺りを死ぬほど見てきたが、最近になってこんな新種が出てくるなんてありえねぇ。きっと何かの兆しだ』と。18年も前の事だけど今でも覚えています。その数年後にあんな事を予言していたなんて観測所も予測できていなかった。もしかすると、またこの地にその災いが近づいているのかもしれません。杞憂であって欲しいです。私にとっても。彼女にとっても」

 

 言い終わると少しの間目を伏せてラルクスギアの方へ向く。一瞬だが寂しそうな印象を受けた。

 平穏、静寂、安寧。そんな言葉が似合うこの村に危機が迫っているかもしれない、そんな報告を自分が担っていたとは露にも知らなかった彼女はずっしりと胃が重たくなった様に感じる。

 ロックラックへ向かう足まで重くなってきと思ったその時に、ぽんと村長が手を叩いた。

 

「そう言えば、先程出来上がったんですの。これ……」

 

「おお……」

 

 村長は着物の袖からあるものを取り出す。それを見たラルクスギアの顔には先程まで冷たく張り詰めていた筈の緊張した表情はなかった。

 

 

 

 蘭雪達は既にユアミ姿に着替えゆったりと体を伸ばしながら全身を癒している真っ最中だ。

 

「う~んぅ……やっぱり生き返るわね~」

 

「狩りの後の一風呂は(にゃん)と言っても格別にゃ」

 

 女二人はゆっくりとくつろぎ、縁に背中を預けるようにして筋肉を伸ばしている。

 彼女達の飛び道具は、今回の狩りでは大いに敵の気を惹き、剣士二人を攻撃に集中させた功労者だったと言える。

 そこへ、番台でドリンクを買いに行かされていたヤマトがよろよろしながらお盆を持ってきた。

 

「姐さん達、お待ちどうニャ。さっきご主人が見えたからもうすぐ来ると思うニャ」

 

「あっそ。荷物置いてくるって言ってたけど随分ちんたらしてたのね」

 

「少し時間がかかるかもって言っていたじゃにゃい。あ、来たにゃ」

 

 蘭雪達の視界には番台と少し揉めている翔の姿が映った。が、荷物から取り出した何か(・・)を見せつけると大人しくなる。一体何を見せたのやら。

 翔も蘭雪達に気がつくと少し早足になって近づいてきた。

 

「いやぁ悪い、ちょっと遅くなった。これ作っててさ」

 

「何……? このどろっとしたやつ……」

 

「ニャニャニャッ!? それはあんみつニャ! やったニャ! ご褒美ニャ!」

 

 翔の荷物はカゴで、その中から出てきたのは黒い液体がところどころに散りばめられた果物にかかっている甘味。まさしくあんみつだった。

 目にしたヤマトは急激にテンション上げて小躍りを始める。一層怪訝な眼差しを向ける蘭雪にずいっと器を寄せる翔。

 

「いいから食ってみろ、きっとほっぺた落ちるぞ。村長に習ったんだけどきっと美味いから」

 

「蘭雪、心遣いをいただくにゃ。私にもお一つ頂けるにゃ?」

 

 おう、としっかりと用意しておいたナデシコの分を渡す。待ちきれないのかヤマトはカゴに頭を突っ込んで自分で取っていった。

 

「ほら、遠慮するな。黒蜜って見たことないか? 甘い奴。液状の砂糖みたいなもんだよ」

 

「ちょ、知ってるし! これでも商人の娘なんだから。……頂きます」

 

 翔から受け取り器に刺さっているレンゲでひとすくいすると、恐る恐る口に運んだ。それを見たヤマト達も器用にレンゲを使ってあんみつを頬張る。

 

「……!? ナニコレ! 凄く美味しいじゃない!」

 

(にゃん)でしょう……深い甘さが果物の風味と重なって鼻から抜けていく絶妙な感じ。それによく冷えているからか甘さと共に体中に広がっていく感じがするにゃ」

 

「美味いニャ! 美味いニャ! ご主人のとこにこれて、本当にボクは幸せ者ニャ!」

 

 三者三様の反応。口々に賛辞の言葉が飛び交うのに満足するとようやく翔も自分の分に手をつけた。

 

 

 

「いやぁ久々に作ってみたけどなかなかだったな」

 

「もう、あんなの作れるなら毎日でもデザートに出しなさいよね。出し惜しみしたら勿体無いじゃない」

 

(にゃ)。あれは世に出しても評価をもらえるものですにゃ。翔さん、是非とも私に伝授して欲しいにゃ」

 

「最近じゃめっきり作ってくれニャくニャったからもう食べられないかと思ってたニャ」

 

 集会浴場を出た翔達は入口の前に置いてある長椅子に腰掛けながら涼んでいた。

 翔作のあんみつは大盛況で未だに興奮冷めやらぬ感じであった。湯で温まったのもある。長い階段の上から見下ろすユクモ村の風景もなかなか風情があり、風に当たりながら心まで和んで行く気がした。

 

「……今回も色々あったけど、帰って来れたな」

 

「別に死にに行ったわけじゃないでしょ」

 

「狩りは命のやり取りにゃ。死にに行った訳じゃにゃくても死とは隣り合わせにゃ」

 

「特にお前は。お前は、死なずとも大怪我したかもしれない。……その、なんともなかったか?」

 

「何よ改まって。見たでしょ、散々。別に少し腫れてるけど骨が折れたわけでもないからどうせ打ち身よ。ツバでもつけときゃ治るわよ。まぁ、気にしてくれるならまたあんみつ作ってよね」

 

 反省会、といったところか。ぐじぐじと悩むのも男らしくない、と割り切ろうとは思うが、剣士として、相棒として守れなかったことが情けなく思えて仕方なかった。当の蘭雪は少しも気にしていないようだが怖かったことだろう。この経験がお互いに大きな絆を生んだとナデシコは小さくほくそ笑む。これからの彼らはより大きな敵との衝突にも打ち勝つ手札が揃ってきたようにも思えた。

 

「……あ、あれ。あそこ村長とお姉さまじゃない?」

 

「ん……ホントだ。にしてもよく見えたな」

 

 ガンナーですから。えっへんと慎ましやかな胸を張る蘭雪が見つけたのは、先程翔達が村長と話をした階段の真下。長椅子でラルクスギアと何やら話をしているようだった。

 命の恩人とも言うべき、彼女にはみんなでお礼を言うべきだ。思い立った翔から伝播したように皆一斉に立ち上がると階段を駆け下りていく。

 中程まで行くと村長が緩やかに立ち上がり翔達に気づいていたのか後ろを振り返った。

 その時である。蘭雪の目が鋭く村長の着物の変化に気がついた。

 

「あ! その飾り紐の宝石って私が見つけてきたのと同じじゃない。あ、それにそのかんざし装飾。もしかしてクルペッコの素材……まさか今回のクライアントって」

 

「あ、あらら……バレてしまいましたか? 何を隠そう私はユクモ織り振興会の会長を務めていまして。行商の方の噂を頼りに流行りの装飾を……」

 

 気づくや否や、二段、三段飛ばしに階段を降りると村長に詰め寄る蘭雪。村長は眉をへの字に曲げながら弁明を述べるが翔が駆け着く頃にはもはや手遅れだった。

 

「もう、こっちは死ぬ思いで依頼をこなしたってのに村長の私欲の為に行ってきたっての!?」

 

「落ち着け蘭雪。こっちも貰うものは貰ったし、生きて帰れたんだよかったじゃないか」

 

「うっさい! 怖い思いまでして……本当は怖かったんだから! 助けてって思ったら翔がお姉さまにって違う違うッ! 何言わせんのよバカ!」

 

 モンスターの怒り状態ばりにまくし立てる蘭雪の口から思わぬ本心が漏れ出したのは言うまでもなく。早口で聞き取れなかった翔は居合わせただけで理不尽に怒鳴られる。こんな状況でさえのほほんとしていられる村長も凄いと言わざるを得ない。

 

「綺麗な装飾品だとは思ったけど、まさか翔くん達の依頼の素材だったなんて……。なんてしょうもない」

 

 ラルクスギアはやれやれといった感じで傍観している。少し後ろめたい気持ちになったのは内緒だ。

 

「まぁまぁ。蘭雪ちゃんの分もありますのよ。はい」

 

 着物の袖から出てきたのはクルペッコの羽根に細かく散りばめられた宝石の欠片が装飾されている髪留めだ。

 あ、う、とどもりながら結局貰ってしまうとペースは既に村長の物。騒ぎを聞きつけた村人達が何だ何だと遠巻きにこちらを見ている。

 やれやれといった顔をして互いに笑う翔とラルクスギア。珍しく束ねられた彼女の髪にも蘭雪同じ装飾が輝いていいたのにはナデシコ以外誰も気づかなかった。




「ニャニャッ!? 浴場内に飲食物は持ち込み禁止ニャ!」
「硬い事言うなよ。ほら、あんみつ一個やるからさ」
「ダメニャダメニャ! 歴史を重んじるこの浴場の8代目番台ロゥル様が許さんニャ!」
「……この姿絵、ナデシコにバラしてもいいのか?」
「ぐぅ……。オイラは何も見なかったニャ。さっさとあんみつ寄こすニャ!」



どうもこんばんは。獅子乃心であります。
約1ヶ月ぶりの更新になりまして、お待たせしました。

さて。このお話で第2章も御終いになります。
いやいや、発足からここまでに年単位でかかってるとか笑っちゃいますね(苦笑)
複数の人間が関わる分時間がかかるのかな?なんて思って頂ければ幸いです(オイ

本文について。は、割愛。
あんまりベラベラ喋るとネタバレしちゃいそうなので。
わからないところとかありましたらメッセージでもいいですし、感想を頂けたら嬉しいです。

それでは次回、担当はキノン君。乞うご期待!

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