正義の味方候補の魔術使い   作:ラグーン

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ーーー先月投下出来ずに申し訳ありませんでした(震え声

言い訳は色々ありモチベがごっそり削られて番外編を書いていた挙句、謝って削除するというコンボが続き投下が遅くなった次第でございます……勿論fgoの復刻コラボのCCCを周回していたこともありますがっ!えっと、バレンタイン……?パライソちゃんが可愛かったですけどなにかっ(吐血

fgoのコラボ感想などはいつも通りゆるーく後書きで再度漏らしますのでそれでは本文にどうぞっ!


第23話 その居場所は此処に

 

 

(……いったいこの魔物をどうやって手に入れたというべきか。どうにしろ……真っ当な方法ではないはずだ)

 

いま目の前で力任せに鎖付き短剣を振るう人型の魔物の入手経路について気にするが情報が少なすぎる。とりあえず真っ当な方法ではなく禁忌を犯して彼女という存在を魔物というカテゴリーに無理矢理当てはめているのか?魔物は魔道士の魔力が暴走して成り果てた存在、仮にいかなる優秀であった魔道士が魔物へと成り果てても魔物として現れることなんて本来ありえない。その本来あり得ないこと出来て見せるのが禁忌というものなのかもしれん。……流石にこれ以上は鬱陶しいため隙を見つけて蹴りを叩き込み後方へと吹き飛ばす。

 

(無理矢理魔物として当てはめているのが原因かどうかはわからんが弱体化しているな。知性は微塵も感じないし攻撃パターンが単調すぎる。防御をとる程度はあるらしいが対話は不可、その代わりに馬鹿力は健在といったところか。……どうにしろこの魔物は人の手には余る存在、こればかりは幾らトリニティセブンでも勝てる確率は低いぞ)

 

遠距離でも十二分に発揮する浅見先生ならば勝機はあるだろうがそのほかのメンバーは厳しすぎる。アリンのルーン魔術のサポート込みのアキオでようやくといったところ。別にトリニティセブン達の実力を疑っているわけではないが……この魔物だけは俺が絶対に相手をせねばならん。目的はリーゼロッテの足止めだったが、この魔物だけは通すわけにはいかん。リーゼロッテをトリニティセブンの元へと向かうことを許してしまってもこの魔物だけはここで確実に仕留める。

 

「■■■ーーーーッ!!」

 

殺気を撒き散らしながら無鉄砲に魔物は再度突っ込んでくる。先ほどからずっと向けられてくる殺気はミラが睨む視線など可愛く思えるほど。……しかし、その殺気に当てられ続けられて平然としている自身に不自然に疑問は抱くことなく寧ろその逆だった。自然と口角は上がり弾丸など優に超える速度で突っ込んできた魔物へと莫耶を投擲する。投擲した莫耶も弾丸の如く速いが、その速度を超えている魔物は鎖付き短剣で莫耶を弾き、速度を緩める気配もなく近づいてくる。丸腰になった俺は即座に干将を投影し、そのまま魔物を真正面から受け止める。

 

「ぬぐぅ……!!」

 

予想以上の勢いが身体を襲い声を漏らす。数歩後退させられはしたが無事に受け止めることが出来た。真正面から受け止めるにはそれ相応のリスクがあるっと他人事のように分析を終えギチギチと金属の擦れ合う音を干将と短剣が鳴らしていた。止められることに驚いた様子は魔物からは特になくむしろ好機と見て俺の体制を崩そうと更に力を込めてくる。此方としてもこのままが好ましい、そうでなければ態々受け止めるなど無理をした意味がない。

 

「……引き合え莫耶」

 

静かに呟けば先ほど魔物へと投擲し短剣で弾かれた莫耶は俺の元へと孤を描きながら戻ってくる。干将・莫耶は宝具ランクを考えれば確かに低いが注目すべき点はその性質だ。夫婦剣の名に恥じないお互いに引き合う性質によりこのように背後からの奇襲も可能、そのため先ほど敢えて莫耶を投擲した。流石の魔物も背後から接近する気配を感じとったようだが……もう遅い、廊下という狭い場所でなければ回避することは簡単であっただろうに。莫耶を叩き落とすためか魔物は強引に鍔迫り合いを切り上げ無防備な背中を俺にへと見せる。

 

(これで終わりーーーーチッ!!)

 

魔物の無防備な背中に向けて致命傷を与えようとした瞬間に背後の空間が僅かにブレる気配を感じた。内心で舌打ちをして咄嗟に身体を左にへと晒す。すると本来ならあり得ない場所から手だけが出現するところが視界に入るが完全に挟まれる前にその場から急いで離れる。

 

「瞬間移動できた私の背後に逃げるなんて……本当に逃げ足が速いんだから」

 

「……瞬間移動が通じないとわかってるなら大人しくしてくれると助かるんだがな」

 

「大人しくしてたら魔物を切り捨てるじゃない。切り札であるこの魔物を簡単に見捨てるわけにはいかないもの」

 

主人であるリーゼロッテが傍にいるからか先ほどまでの溢れていた殺気が嘘のように拡散した。躾をしたのかそれとも首輪でもつけているのか……どちらにしろ殺気を向けられるのは精神的に疲れるため助かる。あとはあの執着心もいまこの場で躾してほしいものだ。

 

「確かに切り札に相応しい存在だよ。知性は見るからに微塵も感じないが一応それを補えるほどの攻撃力と俊敏性がある。並大抵の魔道士では太刀打ちなどできないだろう」

 

「そんな相手の攻撃を余裕そうに何度も捌いて真正面から受け止めてるのは何処の誰よ。流石に貴方がここまで出来るなんて完全に想定外……」

 

リーゼロッテの複雑な表情を見るからに善戦はしても俺が敗北するという結末を予想していたのだろう。だが実際はその逆で未だに余力を残している俺の姿にうんざりしているようだ。

 

「確かにその魔物は強いが……それだけだ。知性があればもう少し状況は変わっていたかもしれないが馬鹿の一つ覚えに突っ込んでくるだけならどうとでも出来る。まだ図体で勝る幻想種が厄介というものだ」

 

こうは言ったがあの魔物が脅威であるのは変わりない。俺が懸念しているのは奥の手であるアレを持ち合わせているかどうか。早々と仕留めたい理由もその1つで使ってきた暁にはこの三階は無残な姿に変わり果てる。その時は俺も全力を持ってどうにかするが……ただではすまないのは確かだ。

 

「あはっ、そんなこと言う正義の味方候補クンにますますお姉さん興味が湧いちゃうわ。今すぐにでも食べちゃいたいぐらいに」

 

「魔物と大差変わりないな。魔物の場合は襲ってくるだけだが、襲ってきた挙句魔力を奪い去っていく君の方が余計にタチが悪い」

 

「ちょっとそれは流石に私も傷つくわー。確かに魔力は奪ってはいるけど無差別に襲ってるわけではないのよ?確かに初めは貴方を狙ったのはちょっとしたオヤツ程度だったけど……今はメインディッシュの1人よ。貴方の魔力は特別にタップリと搾り取ってあげるから」

 

最後の会話だけ聞かれればいかがわしいことをすると勘違いされそうだが俺としては嫌な汗が止まらない。魔力がいかほど奪うつもりか知らんが下手したら身体が串刺しになるため洒落にならん。先にリーゼロッテの動きを封じたいのが山々だが魔力を封じない限り瞬間移動を使われて脱出されてしまう。メイガスモードを強制解除出来るかどうかいま試すべきか……?それが可能なら捕縛するのも可能になる。だが出来なかった場合は……魔力を奪われる覚悟をしないといけないな。

 

(はぁ……このままでは状況は変わらん。いまはなんとか流れは俺の方に向いているが……いつ流れが変わってもおかしくない。どうする?魔物を一撃で葬るにはやはり宝具を使うか?)

 

宝具の真名解放をそろそろ視野に入れるべきなのかもしれない。1つの標的を執着に狙える矢はあるがあれはチャージが必要でそれは決定的な隙になる。そんな隙を見せては魔力を奪われるのがオチだ。詰め寄られる距離でなければ一方的な狙撃で既に終わらせていたというのに。一応は狙撃を主体であるのをたまに自分でも忘れかけている。使う機会が圧倒的に少ないのが原因だろうが。

 

「ねぇ、1つだけ聞きたいことがあるけどいいかしら?」

 

「別に構わないが……」

 

俺に聞きたいことだと……?唐突なことに眉を僅かに動かし警戒するがありがとうっと静かに微笑みながらゆっくりとリーゼロッテは近づいてくる。彼女が何かを企んでいるのは間違いない。そうでなければ急に無防備に俺にへと近づいてくる理由がわからない。困惑していたらどうやらお互いに手を伸ばせば触れることが出来る距離に近づいていた。

 

「正義の味方候補クンは私を連れ帰ると言ってるけど……それは本当に?」

 

「ああ、初めからそのつもりだ。それよりなんの狙いがある?君がいまさら降伏などするようなタマではないはずだ」

 

「あはっ、もちろん。あんなに激しくて逞しいところを見ちゃったんだから見逃すわけないじゃない。けど私の時は初めてだから優しくしてくれると嬉しいわ♡」

 

「……はぁ、もはや突っ込む気力すら湧かん。それで?いったい聞きたいこととはなんだ?」

 

「最後にダメもとで誘ったけど本当に喰いつかないのね……少し女性としてのプライドが傷ついたけど。それよりもう一度聞くけど私を連れ帰るのが貴方の目的なのよね?」

 

「何度聞いてもその質問への解答を変えるつもりはない」

 

「そう。ーーーー連れ帰ろうとしている私が世界と妹を捨てたと言ったとしても?」

 

「…………なに?」

 

リーゼロッテが言った言葉を一瞬理解できなかった。セリナと世界を捨てただと……?それはいったいどういう意味だと目の前に寂しげに笑っている彼女に聞こうとした時に彼女の後ろから高速で近づいてくる影が視界に入る。まさかっと思いリーゼロッテに再度視線を向ければ不敵な笑みを浮かべていた。俺を束縛する気配もなく瞬間移動をする気配もない。

 

(……やってくれるっ!)

 

彼女が何故唐突にあんなことを聞いてきたかようやく理解した。あれは質問でもなくただ確認してきただけなのだ。魔物に''自分ごと巻き込んで攻撃しろ''と命令しても自分のことを俺が守ってくれると。今に思えば観察することに徹していた時点でこの手を使ってくることを考慮するべきだった。リーゼロッテを押しのけ、手元にある干将で再度魔物とぶつかり合う。

 

「ーーーー本当に貴方がお人好しで助かったわ。そうじゃないとこんなリスクが高い方法なんてとれないんだもの」

 

甘く魅力されるような声が耳元で囁くがそれが俺の敗北だとすぐに理解した。ならばと最後の抵抗に魔物に干将を強引に突き刺そうとするがその手が全く動かないことに気づく。

 

(束縛の魔術か……俺が次にとるだろう行動を予測されていたか)

 

見事だなっと内心で感服するとその決定的な隙を見せた俺に今までのお返しと魔物は重い横蹴りを叩き込んできた。余りの衝撃に息を吐き引き寄せられるように壁にへと叩きつかれる。想像していたより衝撃は襲ってはこなかったが痛みが酷いことには変わりない。軽く骨折は覚悟していたが……加減するように命令でもしていたのかその心配はなさそうだ。

 

「……くっくっ、散々心の贅肉だは捨てておけと言っていた俺がこの有様か。我ながら滑稽なものだな」

 

自分が今どのような状況か理解して自嘲気味に笑いが漏れる。既に俺の身体には魔術で束縛されており指一本も動かせない状態へとなっていた。下手に動かそうとすればこの身に牙を剥くだろう。魔術による束縛を解除しようにも馬乗りしてきたリーゼロッテがいることでそれが出来ないでいた。投影するにしても下手に射出すれば彼女を傷つける可能性がある以上は下手に出せない。

 

「こちらが立て直す前に魔術を使い束縛して自由を奪い、挙げ句の果てに床に倒させて馬乗りしてくるとは。いやはやそういったプレイがお好みだったとはな」

 

「こんなスタイルが良くて美人な女の子に馬乗りされるなんて光栄じゃない。まぁ、正義の味方候補クンの場合は口だけでも動けば魔術を使えるタイプだろうし、こうやって体温を感じる距離にいないとすぐに束縛を解除されちゃうからだけど」

 

「たかが束縛を解除されないためにこんな行動に出るとはな……」

 

「その束縛でもしないと捉えられる自信がないもの。化け物と例えてもおかしくない魔物と小細工もなしに、平然と打ち合える相手に策略もなしに挑むような無謀はしないわ。…………いま気づいたけど貴方って童顔だったね」

 

「……君にだけはバレたくなかった」

 

俺が苦い顔を浮かべればリーゼロッテはクスリと笑いながら俺の頰に手を添えてくる。髪をかきあげている時は俺が童顔だと気づくことは少ないが下げたときはそうでもなかったりする。実際に俺が童顔だと気付いているのはごく僅かだろうな。自分からそのことを言ったわけではないし学園内では基本的には髪をかきあげているし。俺が童顔だと知ってるのが誰かは言うだけ無駄であろう。

 

「さっきから酷い言われようだけど……まぁ、いいわ。その分をきちんと貰うつもりだから」

 

「別に魔力を奪うことについては構わんが一つだけ約束してほしいことがある」

 

「約束ねぇ?……いいわ、一定の範囲だったら考えてあげる」

 

「ああ、考えてくれるだけでもいいんだ。少しでもいいからセリナと話してほしい。悪の魔道士ではなくセリナの姉であるリーゼロッテ=シャルロッテとして」

 

「てっきり命乞いか何かだと思ってたけどこの状況の中でまだそんなことを言うなんて、本当に筋金入りのお節介と言えばいいのかしら」

 

どうにしろこの状況を覆すことは出来ない。それに命乞いするぐらいなら最後に少しぐらい姉妹として話すように頼み込む方が有意義だ。まず命乞いをすることで変わるものか、獲物を狩るのが捕食者なのだから命乞いなどやるだけ無駄だ。

 

「これ以上はなにか言いたいことはあるかしら?伝えたいことがあれば一応伝えておいて上げなくないけど」

 

「特にはないな。……ああ、ならばそのサービス精神に甘んじて一つ問おう。世界と妹を捨てたというのはどういうことだ?」

 

「はぁ、確実に一瞬でも判断を鈍らせる必要があったとしてもそのことを言ったのは失敗したわね。…………その言葉通りの意味よ、私は世界と妹を捨てた、これ以上は教える気はないわ。貴方は私を連れ帰ると言ってるけど2つを捨てた私に帰る場所なんてないわよ」

 

寂しそうに笑うリーゼロッテに俺はただ黙って見ていることしかできなかった。俺は自身が空っぽであるのは自覚している。だが、だからこそ余計に思ってしまうのだ……本当に彼女の帰る場所はないのかと。

 

「それじゃあ……いただきます」

 

「……ぐおっ………」

 

マーキングでもするかのように俺の首筋へと噛み付く。いやらしい音を出しながら彼女が魔力吸い取る反面、俺は身体から脱力感を感じていた。苦しくではなくどちらかといえば快楽へと落とすような感覚に思わず声を漏らしてしまう。それが原因か彼女はヒートアップして先ほどより強く首筋を吸う。

 

(………ああ、俺では、やはり……''姉妹''を、救えない、んだな……)

 

 

魔力を奪われる中で意識は着実に薄れていく。意識が薄れていく中で静かにそれでもはっきりと何処か聞きなれた声が聞こえると俺の意識は途絶えたーーーーー

 

◇◇◇

 

 

「ぷはっ……ご馳走さまって、聞こえているわけないか」

 

流石の彼も魔力を奪われて意識を保っていることは出来なかったようで意識を失っていた。魔王候補クンが起きていられるのは伝説の魔道書のおかげであろうし、その加護がない正義の味方候補クンでは耐え切れるはずがない。仮に意識があったとしてもあの魔物と繰り広げていた激戦はできないはず。……忍者のお墨付きだからその点は信用できないけど。

 

「……私も焼きが回ったなぁ。初めから動きを封じる方法があったのにそれを使わないなんて」

 

正義の味方候補クンの動きを止める方法はあった。けれどその方法を取らなかったのは彼らしく言えば心の贅肉というやつかしら?昨晩で気づいてはいるが彼は''衛宮君''と呼ばれると蛇に睨まれた蛙のように膠着する。そこを攻めれば簡単に終わると知っていたけど……彼の表情が問題なのだ。本人は自覚しているかはわからないがその時は色々な感情が入り混じり複雑な表情を浮かべる。それは見ているこっちが痛々しく良心が酷く痛むのだ。本当は昨晩に魔力を奪うつもりだったけどそんな表情を見てしまいつい見逃してしまったということ。永劫図書館の時は冷徹に徹して行ったけど……忍者が私を倒す気はないにしろそれなりに怒ってたから流石に焦ったわ……。

 

「まぁ、個人的にもじっくりと話してみたかったのもあるけど」

 

白状すれば今回、彼と真正面から対面した理由はじっくりと2人きりで話をしたかったが理由だったりする。妹であるセリナが懐き忍者が気に入った理由を知りたくなった。昨晩、永劫図書館、そして今回の3度目の対面で2人が懐きお墨付きの理由はわかった。

 

「悪の魔道士に堕ちた私と戦わない理由がセリナの姉だからで挙げ句の果て連れて帰るなんて言うんだもの。お節介にもほどがあるわ……」

 

呆れてしまうような理由なのに真正面からそう言われて何処か嬉しかった私がいた。きっと彼のそういった性格にセリナは懐いたのだろう。忍者もその点は似たような理由であろう。魔道士でありながら魔道士らしからぬ性格に興味を抱いたところかしら?……そして彼の実力についてであるが特にもはや言う必要はない。魔力はともかく実力に関しては学園長のように底が知れないタイプだ。アキオと真正面からやりあえるだろう化け物と比較できる魔物と涼しい顔で対峙し、苦戦するどころかその逆で押していたのだ。そりゃ、あの忍者が太鼓判を押すわけよ……少なくとも私では真正面から勝つのは無理ね。瞬間移動を完璧に見極められているし。搦め手もあの様子だと通じなさそうだし……それにまだ手札を隠してそうだもの。

 

「束縛はこの様子だと解除しても良さそうね。魔力はギリギリまで残してあげたからここで放置しても大丈夫でしょ」

 

眼を覚ます気配がないため束縛を解除する。魔力量に関してはギリギリまで残してはいるため魔物へ成り果てることはないはずだ。魔物で思い出したが先ほどから人型の魔物はまた静かになっている。彼の時は抑え込む方がむしろ大変なほど殺気立っていたのに。学園長の時はうんともすんとも反応しなかったのに……この魔物も謎が多いが戦力になるため捨てるわけにはいかないか。……聞こえはしてないもの最後ぐらいは本音を言おうかしら。

 

「私を連れ帰ると言ってくれてありがとう。理由がなんであれ帰る場所がない私にとってはその言葉は嬉しいかったわ……」

 

意識を失っている彼の頰を無意識に撫でてしまう。けれど私はもう引き返すことなんて出来ないのだ。……でも、もし半年前に目の前の彼か魔王候補クンが居てくれたら私は悪の魔道士に変わることもなかったかもしれない。

 

(ifの話なんて考えるなんて無駄。……さてっと試しに彼の魔術を使用しようかしら)

 

解析が終わるまでに思った以上に時間がかかってしまった。多分錬金術が初めてだからなのが原因だろう。そういえば未だに彼に馬乗りしている状態だけど……まぁ、もう少し許してちょうだい。かなり、いえだいぶ鍛えているようだからもう少し逞しい彼の身体を堪能したいし♡……そろそろ彼の魔力が消えたのは他のメンバーはもう気づいているだろう。唯一無傷だった彼がダウンしたことで多少は士気が下がったはず。ここから更に相手の士気を下げるためにこの場で敢えて彼の魔術使用させてもらう。ぶっつけ本番では危ないことは学んだしね。

 

(……そういえば彼の詠唱(スペル)ってなんだったかしら?確かセリナの研究に書いてあったわよね。一応錬金術は初めてだから詠唱(スペル)を唱えた方が安定するだろうし)

 

確かと思いセリナの研究を駄目もとで見直すとそこにはかれの詠唱(スペル)が記されていた。本来なら書かなくてもいいことであるのにマメに書いていた愛おしい妹に感謝しつつ深く深呼吸をする。えっと、トレースオン?……んー、ちょっと意味がわからないわね。使用してみればきっとわかるでしょう。少し緊張しながら私は記されていた言葉を口にした瞬間異変が起こった。

 

「……っっ!!んぐっ……!なに、これ……あぐっ……!」

 

記されていたと通りに言葉にすれば突然と胸の辺りに激しい痛みが走る。あまりの痛みに声を押し殺すことを我慢できず、やがて今の姿勢を維持することすらも苦痛になり彼に覆い被さるように倒れる。冷静に今の状況を分析することすら許さないように痛みは増していき私は悶え苦しむ。痛みに耐えるように彼のロングコートを無意識のうちに力強く握っていることにすら気づいていなかった。

 

(内側から、なにか書き換え、られてる……だ、め、この、魔術は、ダメ……んっっ!)

 

本能でこれ以上は危険だと理解しても止めることが出来ない。もはや意識を失った方が楽だというのに謎の痛みが私を逃すまいと痛みは更に増していき頭と心が何かに塗り潰されていくのを感じる。着実に自分が自分で無くなるのを感じていくーーーリーゼロッテ=シャルロッテという心が薄くなっていく。

 

ーーーー I am the bone of my sword. (ーーーー体は剣で出来ている)

 

(どこからか、聞こえて、くるこれは、なんなの……?)

 

あまりの痛みに幻聴が聞こえ始めたらしい。そんなことに笑う力は湧かずむしろ抗うことを止めていいのかもしれない。私には帰る居場所はないのだ……それだったらリーゼロッテ=シャルロッテではなく別の誰かへと変わるのも悪くないかも……。

 

(……セリナのことは心残りだけどあの子ならきっと大丈夫ね。……だって、私の自慢の妹だもの……)

 

あの子ならきっとこれからも大丈夫だろう。本当なら一緒に''此方側''に連れて行きたかったけど……あの子は耐えきれないもんね。何処からかギチギチと鉄が擦れ合う音が聞こえるが不愉快ではなくむしろ心地がいい。子守唄のように感じて瞼を閉じれば1つの光景が浮かんでくる。

 

(……殺風景な、荒野ね。まるで墓標なように無限に剣がある……あれ……?誰かいる……)

 

墓標のように突き刺さる無限に等しい剣の先にたった1人で佇む男の姿があった。男が誰かはわからないが見ただけでもその背中は剣のように強くとても頼もしいそうな反面、いまにも錆れ壊れようとしていた。

 

(……でも、何処か見覚えがある、ような……たしか、あの姿はーーーー)

 

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

 

私の意識を無理矢理覚醒させるかのように騒々しい獣の雄叫びのようなものが聞こえてくる。いったいなにが起きたかと思ったが回らない頭でなんとか理解できた。あの魔物は私の魔力で首輪を付けていた。今の私は魔力が不安定な状態であの魔物は私が魔力が万全の状態で制御できる存在……これは流石にマズイかも。

 

(これは、マズイかも……!万全の状態ですら怪しいのに、この状況で標的にされたらどうすることできない……)

 

魔物は魔力を持っている者を襲うため自然的に私を狙ってくる。いますぐこの場から離れないといけないのはわかっているのに身体が言うことを聞かない。それに意識がない彼も自然的に巻き込まれてしまうことになる。瞬間移動も束縛も出来るほど魔力は安定していない。

 

「……覚悟はしてたけどここで死んじゃうのかぁ。悪の魔道士としての、結末としては最高かしらね……正義の味方候補クンだけでも、逃してあげたいけど無理そう……」

 

巻き込んでごめんねっと言葉にするが彼から言葉が返ってくることはない。せめて瞬間移動が使えたら逃げれただろうけど……あの人型の魔物の執着心は正義の味方候補クンとの戦闘で把握している。ゆっくりと足音が近づいてくる音が聞こえる。やがて足音は止まり威圧感が私を襲う。次にくるだろう一撃から逃げることはできないでもせめての逃避で目を閉じる。

 

(ごめんねセリナ。最後に話したかったなぁ……)

 

最後に話したかったと後悔しながら最愛の妹であるセリナの姿を思い出す。ジャラリと鎖の音が聞こえたため魔物が短剣を振り上げたのだろう。次にくるだろう一撃の恐怖を誤魔化すように彼の黒のロングコートを強く握り歯をくいしばる。魔物が短剣を振り下ろし風を切る音が聞こえるがーーーー想像していた一撃が私を襲うどこか甲高い音が響く。

 

「ーーーまだ、諦めるのは早すぎるぞリーゼロッテ」

 

「ーーーーえっ?」

 

すぐそばで声が聞こえて目を開けようとすると次に耳に聞こえたのは爆発音、そして身を引き寄せられて有無も言わさず離脱するように移動させられる。恐る恐る目を開ければ先ほどまで意識を失っていた彼ーーー衛宮恭介の姿だった。

 

◇◇◇◇

 

「さっきまで、気を失ってたわよね……?」

 

抱えている状態であるがリーゼロッテが呆然としながら聞いてくる。そこまで呆けるか?と思うが先ほどまで完全に気を失っていた男が急に目を覚ましたんだ。呆けるのも無理もないかと思い初めから気を失っていた振りをしていたと誤解される前に答えるか。

 

「おかげさまでな。しかし、気を失っている暇がないと誰かに叩き起こされ、目を覚ませばあんな状況だったというわけだ。あとはなにが起きたか説明は必要あるまい」

 

魔物と一定の距離を置き辛そうにしているリーゼロッテを壁に寄りかかるように座らせる。……ふぅ、それにしてもどうするか?お互いに満身創痍ときて魔物はそれほど消耗しているとは思えない。苦しそうにしているリーゼロッテに僅かに視線を向け様子を見る限りこれ以上の長期戦は彼女にとっては危険だ。方法はともかく彼女から一刻も早く俺の魔力を回収しなければならない、原因がわかっているのならばそれを取り除くしかない。

 

「これを着ていれば多少は楽になるはずだ。……気休め程度にしかならないだろうがないよりかはマシだろう」

 

「え、ええ……ありがとう……」

 

俺は自身の黒の外套をリーゼロッテに羽織らせる。お互いに満身創痍とはいえ理由は違うし状態を見るにリーゼロッテの方が辛いはずだ。彼女の気まぐれかどうかは知らないがごく僅かの範囲で魔力は残っている。魔力を減らさなければ無駄に暴走は起きないはずだ。どうやら黒い外套のおかげで多少は楽になったのか、リーゼロッテは先ほどより呼吸は落ち着いてきた。しかし気休め程度のため今でも苦しいのは変わりないはずだ。その原因が俺のせいなため表情を歪めてしまうがすぐに戻し話を進めるとしよう。

 

「いますぐリーゼロッテには離脱しろと言いたいがそうもいかなくてな。君が俺の魔力を奪った以上は魔物に襲われるだろう。あの魔物はどうも俺、そして俺の魔力に異様な執着心を持っているようでな、下手に何処かに逃げられるより目に届く範囲で居てくれる方が君を守りやすい」

 

「んくっ……わかったわ。私もちょっとどころか、かなり余裕がないもの……」

 

リーゼロッテは弱々しくであるが頷く。下手に遠くに離れられるよりこうやって近くにいてくれた方が対処しやすいのは本当だ。しかし、現状が現状なためリーゼロッテは不安そうに口を開く。

 

「……そうは言っても、正義の味方候補クンだって結構ギリギリでしょ?奪った私が言うのもなんだけど、ね」

 

「……おかげさまでな。だが、魔力が残り僅かではあれど残りゼロではない。まだ魔力があるというのなら勝機はある」

 

……こう大口を叩いたのはいいがリーゼロッテの言う通り割とギリギリだ。干渉・莫耶とて後1回、2回の投影が出来るかどうか。それ以上の宝具の投影は望みが薄い。身体能力を生かして正面から打ち合うか?だが、それだと長期戦へと発展しかねない。下手に追い込みあの魔物の引き出しを引いてしまったらその時は対処は不可能だ。

 

(……一撃であの魔物を仕留めるしかないか。それしか勝機はない)

 

それがいまの俺に出来るのか?あの魔物、過去の存在であるアレを一撃で葬ることが。出来なければ死、それは俺だけではなくリーゼロッテも命を落とすことにもなる。俺だけならばともかく彼女まで巻き込むわけにはいかない。だが、今の俺に一撃で葬るほどの宝具を投影できるか?

 

「……本当にお節介なのね、貴方は。普通なら、私を見捨ててでも、ここから逃げるのが普通よ?」

 

「悪いが俺はその普通とは言い難いからな。それにセリナと約束してな、悪の魔道士に堕ちた姉を連れ戻すと」

 

「まだ、そんなことを言ってるの……?私には、帰る居場所なんてないわよ……」

 

「何度も帰る場所がないと言ってるが君の目は節穴かね?あれほど発揮していた推理力と観察眼が嘘のようだ」

 

呆れるようにため息を吐けば背後から鋭く睨まれる。そのような睨まれても言葉は訂正しないぞ。俺からすれば、いや誰から見てもその目は節穴だと指摘するだろう。怪しむ要素しかないこんな俺を受け入れる連中だからな。……まぁ、そうでなくてもリーゼロッテを絶対に受け入れるだろう1人の少女がいる。

 

「君には帰る居場所があるだろう。ここ王立ビブリア学園という場所が、セリナ=シャルロッテという1人の妹の隣が。そんな資格がないと嘆くなら無理矢理にでも背中を押してやる、帰る資格がないと言う輩がいるのなら俺が殴り飛ばしてやるさ」

 

「……それでも居場所がないって言ったら?」

 

「そうだな……その時は君が笑える居場所を作ってやるさ。双子の姉妹が楽しく笑う居場所ぐらいは作ったとしてもバチはあたらんだろ」

 

「クスッ……本当にお人好し、ね。だったら、その時は貴方に作って、もらおうかしら」

 

何処か嬉しそうにリーゼロッテをは笑う。きっとセリナと楽しく過ごしている姿でも想像したのだろう。その光景が現実にするためにも目の前にいる敵を排除せねばならん。

 

 

ーーーああ、そうだ。俺では''姉妹''を救うことが決してできないとしても、それでも''姉妹''を守ることぐらいは出来るはずだ。

 

静かに瞼を閉じると一つの光景が薄っすらと浮かんでくる。黒髪のツインテールの少女が紫髪の長髪の少女とお互いに楽しそうに笑い合う''幻想''の光景が。俺が見ることができなかった幸せの結末が。するとそれを壊すかのように魔物の魔力は増加していく。獣のように吠えるその声は哀しみと俺にへと向けられる憎悪が入り混じっているようだった。

 

「……投影、開始(トレース・オン)

 

もはや猶予もないと理解し魔術回路を動かすが全身に激痛が走る。そしてそれがトリガーのようにギチギチと耳障りな音が身体から聞こえ始めた。魔力がないという満身創痍の中でいまある魔力では到底投影不可といえる代物を投影しようとしているのだ。激痛に襲われるのも暴走の予兆が現れるのもわかっていたが確実に一撃で葬ることが出来る宝具でこれ以上の最適なものはなかった。

 

「ちょ、ちょっと魔力を、使ってるのはわかるけど本当に大丈夫なのっ!?いま無理に魔力を、使ったらただじゃすまなくなるわよっ!?」

 

らしくもなく必死なリーゼロッテに俺は掠れた声でくつくつと笑いを漏らす。自分が無理な投影をしているのは自覚があるし理解もしている。だが、それでも俺はやらなければならない。

 

I am the bone of my sword. (ーーーー体は剣で出来ている)

 

ーーーーそうだ、この身は剣。剣であるが故にあらゆることがあろうが決して折れるわけにはいかない。余分なことなど考えるないま目の前に存在する敵を排除することだけを考えろ。

 

ーーー足りないものがあるのなら他で補え、魔力が足りないというのならばこの身を削り再現しろ。身体は軋み、肌が焼きれるような痛み、血が沸騰でもしたかのように身体は熱い。代償を払った原因か口から血を吐き出すが、右手には投影した一本の真紅の槍が存在していた。

 

「うそっ、錬金術なんかじゃ、到底出来る範囲じゃない。神話武装を一から複製するなんて……」

 

呆然とした様子でリーゼロッテがなにかを言っているが残念ながらそれに応えるような余裕がない。一本の槍を投影するだけでこれほど身体がボロボロになるのは正直予想外だ。だが、まだ投げる分の余力はある。

 

「■■■ーーーっ!?」

 

魔物は本能的にこの槍がいったいなんなのか理解したのだろう。自身の末路を感じ取ったのか悲鳴のような声を出し急いで魔力を増長させる。しかし、俺はそれをぼんやりと待つつもりはない。貴様の宝具を発動させないためにこの槍を投影したんだからな。助走をつけるほど身体は動かさないが右手に渾身の力を込めることぐらい可能だ。軋む身体に鞭を打ち全てを終わらせる一撃を放つ。

 

「ーーーー突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

魔槍ゲイ・ボルクはあらゆる障害を破壊するかのように閃光のごとく紅き一撃を解き放つ。音速にはとどいてはいないがその衝撃は計り知れなく窓ガラスは割れ壁や床までも粉砕する。逃げれるすべなどなく呆然と立っていた魔物は呆気なく呪い朱槍に突かれ塵のように消滅していった。

 

「……終わった、か……」

 

役目を終えた槍は俺の手元へと戻ってきたためそのまま消滅させる。魔力がない状況で魔力の消費量が多い槍など投影できたなと他人事のように感じながら立っているのすら困難になり力なく倒れる。激痛が全身に走るが、残念ながらこれだけでは終わらない。魔力の底が尽きた、ならば次にこの身を襲ってくるものなど答えるのも馬鹿馬鹿しい。我慢の限界と言わんばかりに先ほどから内側からなにかを突き破ろうとする感覚がするのだ。

 

(……いや、まだくたばるわけにはいかん。せめてリーゼロッテの状態を回復させなければ……)

 

次に俺がやらなければならないことをわかっているが身体が全くもって動かない。これは無理矢理投影した代償とでもいうのか?まったく笑えん冗談だ。せめてやるべきことを全て終わらせてからにしてくれ。

 

「えっと、大丈夫?まだ生きてるわよね、正義の味方候補クン?」

 

「……ああ。まだ、辛うじてな。身体が動く気配がない点を除けば……まぁ、正常だろう」

 

心配そうに覗き込んでくるリーゼロッテに力なく笑いながら俺は答える。辛うじてというのは強ち間違いではないため後は時間の問題だろう。最後ぐらいは見栄を張るのは許してほしいものだ。さて、時間がないため本題にさっさっと入ろう。先ほどから鉄の擦れ合う音が鳴り響いて止まらないからな。

 

「さて、この体勢で真面目な話をすることになるが許してくれ。俺も残り時間がないため単刀直入に言うが今すぐ俺の魔力を捨てるかどうかしてほしい。君も奪って理解しただろうが、俺の魔力は他の魔道士とは違いかなり異質な存在だということが」

 

「……そりゃ、ね。貴方の魔力を取り込んで初めはまったく理解できなかったけど、さっきの戦闘を見てそして今の貴方の状態を解析してやっと理解できた……なにが''錬金術''よ。似てはいるけどその本質はまったくもって違うものじゃない。魔王候補と呼ばれてもおかしくない代物よ?」

 

「なに、魔術を使い投影するだけなら錬金術とさして変わらん」

 

「……つまり今まで正義の味方候補クンが投影してたのは全てが神話武装じゃなくても一級品のものってこと。しかもそれが全て贋作だなんて……それで?忍者は貴方の本当の''奥の手''については知ってるの?」

 

「俺が異端の魔術を使えることは教えたが''奥の手''については教えていない。レヴィのことは信頼しているが口を滑らせる可能性がないわけではないからな」

 

「そっか、なら私がその秘密を知った初めてなんだ……」

 

どうしてか嬉しそうにニヤニヤとするリーゼロッテ。急にどうしたんだ?と本気で心配してしまうが俺の魔術が異端だと理解してくれるのは助かる。さっきの戦闘と俺の状態を解析しただけで気づかれたのは複雑だがこの際は目を瞑る。

 

「つまり、正義の味方候補クンは私に貴方の魔力を今すぐにでもどうにかして捨てろっていうわけね?」

 

「ああ、理解が早くて助かる。君とてセリナと再会する際に心が塗り潰され、まったくの別人に近い状態で再会するのは嫌だろ?それが嫌なら今すぐその魔力を捨て去ってくれ。取り込むことができるのなら捨てることだった可能だろう?」

 

「まぁ、一応ね。確認するけど貴方の魔力を捨てることに関しては私がどうしようがいいというわけね?」

 

「無論だ。まぁ、どうにしろ出来ないのがいまの俺なんだがな」

 

無様に倒れている自身を自嘲していると心底悪戯めいた笑みをリーゼロッテは浮かべている。こういった表情を浮かばせているということは経験則から言うなら碌なことでない方法を実行に移す時だ。おい、その舌舐めずりはいったいなんだっ!?

 

「流石にその引きつった表情はないんじゃない?いくら私だって傷つくわよぉ?」

 

「口ではそう言ってるが満面な笑みであるのはどう意味だっ!?ええい、碌なことを考えてないのはわかったぞっ!」

 

「さてっと、それじゃあ頂きます♡」

 

リーゼロッテは強引に蓋をするように唇を重ねてくる。リーゼロッテの突然の行動になにをっと驚くのもつかの間で少しづつであるが魔力が回復していくのを感じる。この時点でなにが目的なのかは理解はできたのだが……意識の方は残念ながら嫌というほどリーゼロッテにへと向かってしまう。本人も意図して自身を意識させるためか舌を絡ませてくる。

 

「ぷはっ……ご馳走さま。どう?少しは回復してきたんじゃない?」

 

「……魔力供給をするだけなら別に舌を入れる必要はないだろう」

 

「正義の味方候補クンだって、ただの魔力供給じゃ味気ないでしょ。なんなら、このまま魔力供給じゃなくて卑猥なキスをしてあげましょうか?」

 

「はっ、こっちから願い下げだ。また魔力を奪われないかと気を抜くことなんてできやしないしな」

 

俺の魔力を返してもらった以上はそうする理由などない。それにまず色仕掛けなどせめてあと数年経ってからやるんだな。そう言った意味を含めて鼻で笑うが別に悪くはなかろう。

 

「それで?身体の異常はまだ残っているのか?」

 

「もう大丈夫よ。貴方から奪った魔力は全部返却したから、時期に身体も動くようになるはずよ」

 

「そうか、ならば問題ない。……聞くだけ無駄であると思うが君はどうする?俺はもうリーゼロッテを止められる力は持っていない。君が何処へ行こうとその背中を眺めることしかできないしな」

 

「もちろんこれからみんなの所に行くに決まってるじゃない。メインディシュをそのまま放置しておくのは柄じゃないもの」

 

「……はぁ、ならば俺からもう特に言うつもりはない。敗者らしくこの場で横たわっておく。動くようになったら一仕事せねばならんしな」

 

「あー、結構校舎を破壊したもんねぇ。センセにバレたら多分大変なことになると思うわよ?」

 

「違いない。浅見先生からのお説教などこちらから御免だ」

 

リーゼロッテも浅見先生からお説教でも受けたことがあるのか苦笑いを浮かべる。リーゼロッテが浅見先生と会うことになってもこのことは黙ってほしいがそうもいかないだろう。流石に学園長には校舎の一部を破壊したと報告さねばな、修復した後になるとは思うが。

 

「それじゃあ、そろそろ行くわね。有意義な時間ありがとね正義の味方候補クン」

 

「はっ、有意義ではなく無意義な間違いではないのか?」

 

最後の抵抗に皮肉げに返すが負け犬の遠吠えだなっと自分自身が内心で苦笑してしまう。彼女もそう思っているのか涼しい顔で受け流している。そういえばと思い出したかのように再度リーゼロッテは振り向き黒の外套を返しにくる。

 

「これを返すの忘れてたわ」

 

「……まぁ、俺もこれのことを忘れていたからな。最近はどうもど忘れすることが多いな……」

 

「まだ貴方二十歳もいってないのにそれ大丈夫なの?」

 

記憶に関することだとどうしても言い返せなくなる。なんたって既に記憶喪失だからなぁと軽く現実逃避をしてしまうが悪くはないはずだ。やはり誰かのうっかりでも感染してしまったか?早急にどうにかせねばな。そんなくだらない事を考えていると顔色を伺うようにリーゼロッテは聞いてくる。

 

「ねぇ、最後に確認だけど居場所を作ってくれる話は本当なの?」

 

「ここに帰る場所がなかったらだがな。それがどうかしたか?」

 

「ちょっと確認したかっただけよ。……うん、それじゃあ少し行ってくるわね。また後でね恭介君」

 

最後に穏やかに微笑みながらリーゼロッテの姿は消える。瞬間移動して階を移動したのだろうと冷静に分析をする。最後に穏やかに微笑んだ理由はわからんがそう悪い結果にはならないだろう。

 

「……さてっと、どうやって秘密裏に修復するか真面目に考えるとしよう」

 

こんな馬鹿げたことに頭を回すのかと誰かから呆れられるが許してほしいものだ。よほど誰かさんのうっかりでやらかすよりマシだろう?少し動くようになってきた身体に鞭を打ち、自身で壊したところを修復に取り掛かることにしよう。





今回の件はかなり頭を悩ませましたが、リーゼが彼の魔力を奪った際に使えるようになるのは''奥の手''である彼方の方にさせてもらいました。……後で独自設定をタグに追加しておきます(白目
さらっと今回で宝具開発しましたがスペック自体は大幅にダウンしています。宝具性能に関しては次回に書かせてもらいます。次回がリーゼ編の最後ですので!

いやー、それにしてもイベントが連続でくるのは辛いです(血反吐
時間が足りないのが正直な感想ですがCCCコラボ素晴らしかったです。メルトリリスが尊い……そして我がカルデアに来てくれてありがとうっ!我がカルデアの赤い弓兵さんの胃痛が更に増しそうですが、シトナイが来るまでは耐えてほしいものです(愉悦

実はバレンタインコラボに感化されて番外編を書いていましたが削除したのが口惜しい……うっかりが発動したのが恨めしいですが怒涛のネタバレを思い出すと複雑な心境になります……(白目

今回の後書きは短いですがこの辺で!本編が過去最高の長さなのでそれで許してくださいっ!誤字&脱字報告をお待ちしております!次回の更新は未定ですが気長に待ってくださると嬉しいです!

(ふっふっ……QPが足りなくて育成ができないや……(メルトリリスを見つつ

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