正義の味方候補の魔術使い   作:ラグーン

22 / 30



今更ですがあけましておめでとうございますっ!今年も作者ことラグーンをよろしくお願いいたします!


二度あることは三度ある!さぁ、今回で三度目の彼と彼女の対峙です。一度目は引き分け、二度目は敗北、ならばその三度目の結末は?(なお内容は全く進まない模様)
ふふ、ようやくリーゼ編に終わりの希望が見えてきましたっ!断言します!あと2話で終わることを!……多分!

さて、こんな前書きはさておき大変お待たせしてしましたっ!それでは本文へとどうぞっ!


第22話 三度目の対峙

「……きたか」

 

レヴィと別れて数十分後に異質な魔力を感じる。もはやこの魔力を感じるのは三度目となり誰と言わずも正体がわかっているため気を引き締める。それに俺の視界にいる無数の魔物の群れが現れたということはこれで終わらせるということか。保健室の方が気になりはするが数が多いだけであり個はそう強くはないため対処可能だろう。幻想種クラスでも出現しないかぎりは問題ない。

 

「この数を見る限り相手も決着をつけるつもりか。それは俺としても好都合、時間がかかればかかるほどセリナの容態は悪化していくだけだからな」

 

リーゼロッテ本人はとりあえず保健室から遠い位置にいるようで一安心だ。いきなり保健室に現れてでもしたらこちらが早々と全滅していたところだ。それこそアラタの修行の意味がなくなるほどに。半分以上のトリニティセブンの魔力を奪ったリーゼロッテ相手に俺も善戦できることすら危うくなる。リーゼロッテの魔力を辿りながら彼女が今現在何処にいるかを探したいのは山々ではあるがーーーまずはこの目の前にいる魔物の対処をせねばなるまい。

 

「……呑気に索敵をしてくれることすら許してくれないとは。魔力を餌にしている君らからすれば無防備に立っていた俺は恰好の餌であろうよ。だが、それで保健室にいる彼女達の負担が減ると思えばやすいものだ。それに他の生徒を狙わないようになるのも俺としても好都合だ」

 

前方には無数の魔物。後方にもかなりの数の魔物がいることが気配でわかる。けれど生憎だが魔物に時間をかけるほど手加減をしてやるつもりはない。本当は一分一秒すら惜しいというのに。魔術回路は既にオンにしているため愛剣である夫婦剣を投影する。

 

「なに、君たちの相手はもちろん引き受けるさ。その姿に変わり果てた君たちを救う方法はこれしかないからな。けれど今回は生憎とも手加減してやれるような事態ではないのでね。……早々と終わらせてもらうぞ」

 

宣戦布告と受け取ったようで無数の魔物が一斉に押し寄せてくる。前方にいる数は20弱、後方には10弱で合計で約30匹の魔物が襲ってくる。これほどの数を相手にするのは彼女(レヴィ)と初めて会ったあの場所以来か?いや、あの時は軽く50など超えていた。廊下で戦うから多く感じたのであって外であるならばそれほど多く感じないだろう。この程度の数なら干将莫耶だけでも切り抜けること自体は可能だがーーー手加減などしている暇はない。

 

「ーーー工程完了(ロールアウト)全投影、待機(バレットクリア)

 

前方の数を把握したときに既に同等の数の無名の剣を選別は終わっていた。剣を投影するだけならば20の数など造作もない。空中に固定した約20の剣をそのまま射出する。

 

「ーーー停止解除、全投影連続層写(フリーズアウト ソードバレルフルオープン)

 

投影した剣は前方にいる魔物という的を射抜く。1匹足りとも逃さず容赦なく仕留めていく。俺はその光景を最後まで見届けることはなくそのまま後方の魔物を干将莫耶で捌く。視界に入る魔物をただ冷酷に切り捨てろ。それが彼らの唯一の救いだと思い後方にもいた魔物を全て処理をする。振り返りその場に残っていた数十の剣と干将莫耶を消滅させる。何本か床に刺さることになったが修理に関しては……まぁ、全て学園長に丸投げしよう。

 

「……よもやあの男に罪悪感を感じる日がくるとはな」

 

こんな日が来るとは思わなかった故に曖昧な表情になってしまう。あの男ならば満面な笑みで短刀でも匕首でも投擲する回数が徐々に増えるだろうっと予測していたが……まさかその逆とはな。今回のこの件は学園長にもしも遭遇した場合はそれとなく謝罪を言おう。……こちらに非があるとわかってはいるがあの男に頭を下げるのは釈然とせんな。これ以上考えるのは止めようっと考えることを放棄して魔力感知を再開する。

 

「……場所的には3階か。2階で待ち伏せをするか?3階に直接乗り込むのも一つの手だがリーゼロッテが何かを仕掛けているかもしれないし……やはり2階で誘い出すのが無難か」

 

三階に現れた以上はもしかしたらリーゼロッテが何かしら罠を仕込んでいる可能性がある。その可能性を考えたら3階に乗り込むより2階に誘い込んだ方がこちらが有利になる。前回は彼女の土俵に連れ込まれたが次は俺の土俵に付き合ってもらう。土俵に付き合ってもらうっといっても2階に別に罠なんて仕込んでいるわけでもないが。誘い込む手順は決まっている。あとは相手がそれに乗ってくれるかどうかだが……リーゼロッテなら確実にくる。

 

「……ならば2階に行くとするか。それに珍しく学園長の魔力も感知したからな」

 

先ほどからリーゼロッテとは別の魔力を感知していた。魔王因子を取り込み、セリナとアラタの魔力を奪っているリーゼロッテの魔力を優に超える存在など今はあの男しかあるまい。なんの気まぐれで動いたのかはわからないが時間稼ぎに付き合ってくれるなら好都合だ。学園長がリーゼロッテを倒すという考えは除外する。あの男の性格だと面白みがないを理由にして絶対にやらないだろう。むしろレクチャーの一つや二つぐらいしてるんじゃないか?

 

「それはそれで俺にしては不都合だな。……奴がそれを当たり前にしている姿が想像できるからタチが悪い。生徒思いであるのはわかるんだが……」

 

あの学園長のことだ。リーゼロッテがビブリア学園の生徒であり続けているのなら悪の魔道士だとしても自身の生徒の一人だと当たり前のように受け入れるだろう。見た目や言動、そして変態のせいで勘違いされやすいが生徒思いであるのは変わりない。だがあの男から何かを見習えと言われても俺ならば拒否をしよう。なんとも言えない敗北感に襲われることは待ったなしなのだから。そんなことを考えていると目的地である2階に辿り着く。

 

「ここであとは誘い出せばすむか。あとは誘い出したあとだがーーーーは?」

 

2階に辿り着いて誘い出した後を考えていると窓の外に見慣れたものが落下していくのを視界に入った。余りにも唐突すぎ暫し呆然としてしまう。まさかっと思うが実際に目の当たりにしてしまった以上は諦めろしかないか。頭を抱えてため息を吐いた俺は悪くないだろう。あの光景を浅見先生とミラが目撃した場合は賛同してくれるに違いない。もはや諦めているが念のために奴の魔力を探るが感知することはなく感知できたのはリーゼロッテの魔力だけだった。

 

「……あの馬鹿(学園長)については無視を決め込もう。もはや3階から突き落とされた理由を知りたいとも思わん」

 

リーゼロッテよりも学園長を先にどうにかした方がいいんじゃないか?そんな考えがよぎってしまうが今回はそれを適当に何処かへ捨ててしまおう。奴が敗北したということはリーゼロッテが探し始めるのはトリニティセブンだ。それをそのまま放置するわけにはいかない。気を取り直すため俺は魔術を使用する。使用した魔術は解析の魔術、居場所を知らせるためにも自身の体に異常がないかと最後に調べる。肉体は健康体そのもので異常などなに一つもない。解析の魔術を使ったのは餌を巻くためそれ以上のこともなければそれ以下のこともない。

 

(……餌を巻いた。あとは彼女がそれを喰らい付くかどうか。いや、喰らい付くかどうかを考えるのは愚問か。あの狩人がこれを逃すことはあるまい)

 

徐々に近づいてくる強大な魔力の前に俺はほくそ笑む。彼女は自身が誘われていると理解していながらそれに乗っかってくれた。それとも学園長との戦闘の口直しか。理由はどうにしろ俺を標的にしたことに感謝しかない。この誘いに乗ってくれなければ俺が彼女を追わなければならなくなっていたのだから。誰もいない廊下を俺はただ見つめ続ける。何分間もただジッと先を見ていれば前方には待ち望んでいた彼女の姿が。彼女は瞬間移動することもなく歩いて近づいてくる。

 

「さっきぶりかしら。どう?元気にしてた正義の味方候補クン?」

 

「おかげさまでな。君こそどうかね?どうやら先ほどまで学園長と対峙していたようだが」

 

肩を竦めながら学園長と対峙したことを聞けば意外にもリーゼロッテは苦い表情を浮かべる。そして苦笑いを浮かべながら敵対しているのを忘れているかのように昔からの知り合いのように話す。

 

「私ってそれなりに強くなってたつもりなんだけど……流石大魔公(パラディン)ね。手も足も出ずに負けちゃったのよ。これでも結構な努力して、そして魔王候補クンやセリナの魔力を奪ったけど全然とどかなかった。あんな風に飄々としていながら学園長センセって隙がないのよねー」

 

「……そう言いながら君は俺の目の前にいるが?」

 

「察しのいい貴方ならどうやって切り抜けたかわかるでしょ?あの人基本スケベだから」

 

やはりっと言うべきかあの馬鹿(学園長)は単純な方法で敗れたようだ。そうじゃなければ3階から突き落とされはされないだろうよ。思春期はとうの昔に過ぎてるだろうに……流石アラタと即席で息ぴったりのコンビを成せると褒めるべきか。考えるのが馬鹿馬鹿しい……。

 

「……その様子だと誘い込まれてると知っていながら俺の元に来たのは口直しということか。そうでもなければヘッポコ魔道士のもとまで来るはずがないからな」

 

「そんなことはないわよ?口直しなのは否定しないけど、私個人として正義の味方候補クンにとっても興味があるもの。ある意味では魔王候補クンよりもね」

 

「ほぅ?意外だな。君の中で俺の評価は既に最低値どころか眼中もない存在だと思っていたがね。三流魔道士でありあんな失態を見せ続けていたというのにアラタよりも興味があると」

 

「もしかして自分自身には結構厳しくいくタイプ?見た目的にも割としっかりくるけど自分に厳しすぎると疲れるわよ?貴方自身がどう思ってるかはわからないけど、私の中では割と貴方は興味がそそられる存在よ?なによりあの忍者のお墨付き、気にするなと言われた方が無理じゃない」

 

舌舐めずりをしながら俺を舐めるように見る。特に害はないが流石にそんな風に見られるのは好ましくはない。アラタならば寧ろ喜びながら体を見せるかもしらんが生憎にて俺はそういったことをするつもりはない。俺の表情が顰めているのに気づいた彼女はなにか納得したように真剣な表情で話す。

 

「……もしかして正義の味方候補クンって同性愛なの?」

 

「いや、ちょっとまってくれ。いったいあんなに人のことを見ておいてどういった理由でその結論へと至ったんだ。つい最近、学園長にも同じようなことを言われたが断じて違うぞっ!」

 

俺は同性愛という疑惑に全力で否定をしたがリーゼロッテの疑惑の視線は更に強まるだけだった。これは少々理不尽ではないか?心で密かに悲しむ俺は悪くはないはずだ。

 

「ふーん、必死に否定しているのが更に怪しいけど正義の味方候補クンの性癖を暴くのはまた今度にさせてもらうわ。それはそうとして正義の味方候補クンも転校生なんでしょう?私がいた半年前には貴方みたいな人はいなかったし」

 

「……アラタと同じ日に入学してきた転校生だ」

 

「へー、つまり魔王候補クンとは同期になるわけ。それだけで忍者のお墨付きをもらえるとは到底思えないけど……魔王候補クン同様になにか貴方にもあるんでしょ?」

 

「まさか、こんな三流魔道士がなにか特別なものを持っていると思うかね?」

 

「「崩壊現象のさいに現れた黒い太陽を破壊とはいかず原型を変える」、「トリニティセブンの1人である不動アキオを足止めに成功する」、「幻想種の頂点、Dの幻魔(コードD)の足止めを成功」。さて、これはいったい誰が行ったんでしょうね?魔王候補クンの功績と比べると確かに大したことのないように思えるけど……これもこれでだいぶ大層な功績よ?他の魔道士がどう思うかはわからないけど」

 

彼女は誰が行ったと言いながら先ほど上げた功績は俺が行ったことだと知っている。そのことを知っている人物の研究結果を盗んでいるから俺が行ったことを知ったのだろう。……アラタではなくセリナで間違いない。崩壊現象についてはアラタはあの場におらずセリナがいたのだから。他の後者二つはあの場にいた誰かに聞き知ったのだろう。沈黙を肯定と受け取ったリーゼロッテはそのまま話を続けていく。

 

「こんな功績を残している相手に興味を持たないのが無理な話、生半可な魔道士があんな功績を残せるわけなんてないじゃない。仮にそうなら崩壊現象に巻き込まれてる時点で消滅するだけ。そして最後にはあのバトルマニアであるアキオの足止めに成功して、それだけじゃ終わらずDの幻魔(コードD)の足止めにも成功する。この2つ、特にアキオの足止めなんて同じトリニティセブンでもないと到底不可能な話なのよ?それ以外のビブリア学園の生徒には絶対に不可能、アキオの目の前に立つことすら無理なんじゃない?」

 

「それは確かに俺がやってきたことだがやり方次第では足止めぐらいは誰だって可能だ。別に足止めするのなら真正面から挑む必要はない。その環境にあるもの全てを利用していれば足止めなど誰にもできる」

 

「一度やりあったならわかるでしょ?簡単な罠なんてアキオにぶつけても無駄だって。全ての罠を破壊して姿を現わせるの簡単に想像できるもの。仮に綿密な罠を仕掛けてもセンパイがフォローするに決まってるじゃない。貴方が足止めするときにはセンパイが近くにいたはず、そのセンパイを動かせない方法が簡単なものが1つだけある。それは卑劣な手を使わずアキオと一対一で真正面から戦うこと。違うかしら?」

 

「ミラを魔術、または道具を使って束縛する手段がまだあるが?」

 

「それは無理ね。魔術で束縛しようとしてもセンパイが反射して逆に自身を束縛することになって突破されるのがオチ。道具を使ってはもしかしたらチャンスはあるかもしれないけどアキオを突破することを前提に考えていることじゃない。そんな手間がかかるぐらいならアキオの攻撃をいかにどうやって避けるか考えた方が得策よ。それに束縛に失敗したときには一対一というアドバンテージを自分から失くすようなこと。私だったらそんなリスクが高い行動はしないわ」

 

悪に堕ちても流石トリニティセブンだっと感心してしまう。アキオとミラの得意分野を見事的確に把握している。アキオには即席で作った罠など通用しないのは壁を簡単に破壊する姿を見て実感している。そしてその相棒であるミラは魔術についての隙はないっといっても間違いない。アラタの強制魔術解除すらも反射してしまうのがなによりの証拠だ。言い訳は通用しないと両手を挙げ素直に降参する。

 

「……流石は残りのトリニティセブンメンバー全員を相手にしようとしている君だ。生半可な言い訳など通用しないとならば素直に降参しよう」

 

「正解した賞品として貴方の魔力を奪わせてくれると助かるんだけどね。けど、どうしても疑問が残るのよ。それはどうやってアキオを真正面から足止めできたか。体は見るからに鍛えているから納得はできるけど魔術についてよ。セリナの研究結果にて『衛宮恭介の魔術は錬金術』って記載されてはいる。……アキオの足止めに成功している時点で手っ取り早く言うなら貴方の錬金術はセンセと同等、つまりトリニティセブンに達していることになるの」

 

彼女の推理に俺はマズイっと焦りを感じる。今まではレヴィのフォローもあってなんとか俺の魔術は''錬金術''だと周りに認識させることが出来ていた。ミラに魔術を解析された時は理由は不明ではあるが解析不可と断定されて首の皮が一皮繋がった。アキオには直感的に何処か違うと思われているが決定的な証拠はないため未だに誤魔化しは出来ている。2人には疑問は持たれてはいるが深くは追求してこなかった。けれどリーゼロッテは違う。生まれた疑問を推理して回答を一つ一つ丁寧に解いている。己が感じた疑問を好奇心で解答を求める姿はまさに魔道士か。

 

「けれど貴方はトリニティセブンには達していない。それは永劫図書館のみんなの雰囲気で察することが出来たわ。なによりそこまで達しているのなら私について説明ぐらいされるだろうしね。禁忌を犯してるならセンパイが見逃してるはずない。まず貴方の性格から考えるに禁忌を犯してまでトリニティセブンに到達することなんてしなさそうだもの」

 

禁忌を犯したと嘘をつくことも無理そうだ。身体を鍛えるとしてもこれ以上の強大な魔術を覚えるつもりはない。投影魔術で足りているということもあるが別段に俺は魔力量が特別高いわけではないからな。剣以外を投影し続ければ簡単に魔力は枯渇する。それに他人の魔力を奪いとってまで強くなりたいと願ってなどなく、むしろ此方から断り目の前で行われるなら全力で止めさせてもらう。

 

「これ以上のことは情報が少なすぎるから推理できそうにないわ」

 

「……俺への質問は一通り終わったようだな。俺からも一つ聞きたいことがある」

 

「別にいいわよ。私の推理に付き合ってくれたから答えられる範囲なら答えてあげる」

 

「それは助かる。単純ではあるが俺としては重要でな。俺が聞きたいことは一つだけーーー君はセリナを妹として好きか?」

 

「さっきまでの会話に脈略もないし本当に単純な質問ね。警戒していた私が馬鹿みたいじゃない。そうね、質問にはこう答えるわ。……妹が嫌いな姉なんているわけないでしょう?」

 

さも当然のようにリーゼロッテは答えた。微笑しているその姿は妹であるセリナを家族と愛していると口にはしてないがそう言っているようだ。

 

「これ以上の話はお互い必要ないわね。私としては貴方と話しているのは楽しかったけどこれ以上は時間を割るわけにはいかないの」

 

リーゼロッテが指を鳴らせば先ほどのように無数とはいわないが数匹ほどの魔物が現れる。流石に少なすぎないか?と疑問が生まれたが彼女がついさっきまで戦闘していた人物を思い出し納得する。

 

「……せめて彼女の使役する魔物を全滅して退場してくれ」

 

この場にいないあの男の不始末をするような気分になり頭を抱えてしまう。あのまま地面にめり込んでくれないだろうか?真剣にそう思っていたら数匹の中の一匹が大きく口を開けて捕食しようと襲いかかってくる。形態的には獣で狼の類か?噛まれたらひとたまりもないだろうと他人事のように感じながら莫耶だけを投影して真っ二つに叩き斬る。それが合図に他の魔物が一斉に襲いかかってくるがそれも全て莫耶だけで捌き斬り捨てる。それはたった数分で終わりそれを眺めていたリーゼロッテは満足そうに笑う。

 

「てっきりセリナに書いてあって研究通りに弓を使って終わらせると思ってたけど主力は剣だったというわけねー。アキオとどうやってやり合ったんだと疑問だったけどこれなら納得できるわ」

 

「君の言葉と魔物数が釣り合わないことに疑問が生まれたが……やはり戦力の分析か。その抜け目のなさと警戒の高さは恐れ入る」

 

「あはっ♪褒めてくれて嬉しいわ。正義の味方候補クンに魔物で攻め勝つのは無理だってわかってるもの。だったら使い捨てにして相手がどんな手段でどんな方法で攻撃してくるかを少しでも得た方がいいでしょ?」

 

「ふっ、あの程度で知れたと高を括っているのなら痛い目をみるぞ?」

 

「ーーーそれじゃ試してみる?」

 

彼女は不敵な笑みを浮かべた瞬間姿が消えた。姿が消えた理由なんて瞬間移動を使用したからに過ぎない。確かに瞬間移動は厄介だが別に反応出来ないわけではない。僅かに感じる空間のブレを感知して素早く後退する。ーーーやはり突如と目の前に現れて驚かすつもりだったのか少し驚いているリーゼロッテの姿があった。

 

「もしかして正義の味方候補クンって瞬間移動を完全に見切ってる……?」

 

「瞬間移動は確かに厄介ではあるが見切れないわけではない。君が現れるさいに僅かに空間にブレが生じるためそれを感知して回避すればいい」

 

「あちゃー……忍者のお墨付きは伊達じゃないってことね。瞬間移動を完全に見切ってるのはちょっと予想外かな……」

 

見切ってはいてもその後の回避はこの身体能力がないと無理だったがな。見えているわけではなくあくまでも気配と感知だ。一瞬でも遅れれば触れられ魔力を奪われるという結末になりかねない。もとよりそれぐらい気づかないなら日頃の鍛錬であの超一流達の鋭く研ぎ澄まされた一撃など止めることすらできん。

 

「トリニティセブンである君が瞬間移動だけで終わるわけあるまい。君の手札全てを引きずり出すまでは魔力を奪われるつもりはないぞ」

 

「確かに驚きはしたけどさっきのは挨拶程度、急かす男の子は嫌われるわよ。だから、そのままそこに止まっててくれないかしら」

 

俺の身体を束縛するように数式が突如と現れる。これはセリナから奪った束縛の術式、これの厄介さはレヴィとの戦闘を見ていたからわかる。だがこの束縛はあくまでも魔術であって物理的にじゃない。ならばそれをどうにかする宝具を投影すればいいだけだ。彼女の次の行動に移るより早く投影して上空に固定、そのまま数式だけを狙い定め真紅の槍で貫く。数式に欠落が出たためか束縛はスルリと解け消えて無くなった。身体が自由になったため床に刺さっている槍も消滅させる。

 

「……束縛の方も対策はバッチリというわけね。さっきの槍って見るからに魔力消去(アンチマジック)じゃない。そんなの作り出せるって本当に何者なのよ」

 

「俺が何者かと言われてもそれに答えることができる充分な答えは持ち合わせてはいない。生憎と俺自身がその答えを探している最中でな。まぁ、答えるとすれば先ほどから申している通り三流魔道士としかな」

 

「ふーん、本当に貴方って不思議ね。初めて会った時からそうだけど自分のことを三流魔道士って言ってるけど本来ならその逆を言うもんじゃない?」

 

「ないな。まず俺が一流魔道士と名乗るのは本当に魔導を極めている人に対する冒涜だ。初めから真理に辿り着く気の無い男が一流を名乗っているのはトリニティセブンである君としても気分はいいものではないだろう?」

 

俺が言ったことを想像でもしたのかリーゼロッテの表情は少し曇る。まず俺の投影したもの全ては贋作だからなっと内心で自嘲する。それも含めて一流と名乗れる面などこの身は持ち合わせてなどいない。記憶を失う前については目を瞑ってもらえると助かる。そればかりは確かめる手段はないのだから。

 

「……リーゼロッテこのまま降参をしてくれないか?このまま戦闘を続ける理由はお互いにないはずだ」

 

「貴方がそうでも私はそうでもないわよ。貴方の魔術が欲しいから戦う。これもきちんとした戦う理由になるはずよね?貴方にも戦う理由はあるはずでしょ?私をこのまま忍者たちの元に向かわせないとか。ーーーーセリナを助けることとか」

 

「そうだな。そのことについては否定はしない」

 

「じゃあ、どういうつもり?私を倒さないとあの子はあの状態から回復しないことはわかってるでしょ。なのに私と戦うつもりがないなんてどういうわけ?」

 

怪訝な表情を浮かべ俺を睨むように見てくる。リーゼロッテが言っていることを理解できないほど馬鹿じゃない。確かにセリナの容態を回復させないといけないのが最優先なのは俺とて理解している。セリナを見捨てたと思われてもいい考えなしの行動をしているのは十二分に理解している。

 

「ああ、時間が過ぎていけばセリナの容態が悪化していくのはわかっている。リーゼロッテ、君を倒せばセリナの容態が回復するだろうというのも初めから気づいてはいた。悪の魔道士として君を殺せばこの騒動も全て解決するだろうよ」

 

「それなのにそのつもりが一切ない。こうやって目の前に対峙してるのに睨んでくる気配すらないもの。やっぱり魔道士らしく非道に徹してあの子を見捨てるのかしら?」

 

……セリナを見捨てるか。ああ、確かに全ての視点からから見ても俺はセリナ=シャルロックを救えないと判断して見捨てることを選択した薄情な奴だろう。それを否定できないのが俺がリーゼロッテに指摘されたように敵意も殺意も向けてはいないこと。悪の魔道士である彼女を倒すのはきっと正しくそれは切嗣の目指した正義の味方なのかもしれない。だけどーーーー

 

「ああ、そう思われたっても構わない。助ける手段を思考することを放棄しセリナを見捨てた薄情な男と罵られても構わない甘んじて全て受け入れよう。こんな状況下の中で魔道士として、いやそれを除いても失格だと思われてもおかしくない」

 

「そんな汚名をつけられることを覚悟で動く理由なんてあるの?引き起こした私が言うのもおかしな話だけど私を倒すこと以外はないと思うわよ」

 

「それ以外にあるとも。俺がここにいる理由はリーゼロッテを倒すためじゃない」

 

「……は?私を倒すためじゃない?」

 

「ーーーー姉であるリーゼロッテ=シャルロックをその妹であるセリナ=シャルロックの元へ連れ帰ること。これが俺が君と対峙する理由だ」

 

この事を聞いたリーゼロッテは大きく目を見開く。だが次にリーゼロッテは隠す事なく心底おかしそうに大笑いする。

 

「アハハハハ!こ、こんな状況で私たち姉妹のことについてだなんて。私を倒すんじゃなくて連れ帰る?意外に冗談が得意じゃない」

 

「冗談?まさか、俺は本気だ。こんな状況下の中で冗談を言えるほど腑抜けているつもりはない」

 

ジッと彼女を見つめて真剣な表情で俺は言う。それで嘘でもなく冗談でもないとわかったのか彼女も先ほどまで大笑いしていたのが嘘のように沈黙する。

 

「……貴方正気?まさか私と戦う理由がないのがセリナの姉だからじゃないでしょうね?そんなわけーーー「そうだ」ーーーッ!?」

 

彼女はあり得ないという表情を浮かべて口を開く。次第に困惑な表情へと変わっていき俺を睨みつけるように見てくる。睨んでくるがその瞳には様々な感情が入り混じっているようにみえた。

 

「私があの子の姉だから戦わない……?貴方は正義の味方を目指していて私は悪の魔道士よ?だ、だったら私をどうするべきかわかってるでしょ」

 

「それがなんだ。悪の魔道士だからこの場で君を殺して事態を収拾しろと?」

 

「正義の味方を目指すならそれが正しいってわかってるんでしょ……!私を倒せば少しはそれに近づくことができるのよ!?」

 

正義の味方を目指すなら倒してみせろと苛立ちを隠すことなく言ってくる彼女に俺はそれを鼻で笑い飛ばす。それが癪に触ったようで睨まれるがその程度は可愛ものである。むしろ浅見先生のお説教が何倍も怖いと胸を張って答えよう。

 

「正義の味方を目指すなら君を殺せだと?はっ、ならばお断りだ。名声や評価など別に入らなければ気にもならん。君を倒すことが正しいだろうが今の俺はその逆で間違いで構わない。今もなお孤独を感じ続けているセリナの気持ちを無視することなんて俺にはできん」

 

「ーーーッ!」

 

「それに俺も姉妹が永遠に別れる結末なんて御免だ。そんなことさせないーーいや、させるものか。そんな結末絶対にさせてたまるか……!」

 

最後は叫ぶように声を荒げる。これは半分は自分自身に向けて言っているものだった。いまだに俺には心の何処かで冷めた感情がありリーゼロッテを殺そうと動くかもしれない。けど姉妹が永遠に別れる結末なんて絶対に阻止してみせる。それがたとえ自分自身だろうが。

 

「……ええ、気が変わったわ。何処かでやっぱり正義の味方候補クンのこと見逃してあげようと思ってたみたい。セリナが気に入っていたみたいだからね。でも、もうその心の贅肉は捨てさせてもらうわ」

 

「……ウォーミングアップは終了というわけか」

 

「そういうこと♡トリニティセブン全員の魔力を奪ってもう一度学園長と対峙するときにとっておきたかったけど出し惜しみはなし。……来なさい」

 

魔物を呼び出すと同様に指を鳴らすと一体の出現する。だが俺はその姿を見て大きく目を見開く。魔物と同じように知性は感じず全身が黒いはずなのに背筋が凍り冷や汗が止まらない。姿は完全な人の姿でリーゼロッテの身長を超える長身な身長で目元はバイザーで隠していた。……まだなんの行動もしておらずただ立って存在しているだけで空気を軋ませるような威圧感を出す。

 

「……馬鹿な。彼女は確かに真っ当ではないにしろその存在はーーー」

 

俺は咄嗟に言葉を遮るように口元を手で押さえる。ーーーまて。俺はどうしてあの存在を知っているんだ……?自身が口走った言葉に違和感と疑問しか生まれない。アレはあの異質な魔物を見たのは今回が初めてなのになんだこの既視感は……?困惑していると何か勘違いしたのかリーゼロッテは感心して声を漏らした。

 

「これが魔物と比べ物にならない存在だって一発で見抜くなんて……まぁ、私もこれが魔物となんて比較するのは違いすぎるとしか理解できてないから余り他人のこと言えないんだけど。解析をしてもいいけど……今の私だとやらない方がいいって本能的に理解してるのよねぇ」

 

「……だろうな」

 

アレを解析でもしてみろ。高確率で死ぬことが待ったなしでよくて精神崩壊だぞ。神々の時代の神秘に触れるということは生半可でやってはならない。もはやその領域に辿り着けないのが今は普通なのだから。

 

「さてっとこれで貴方の考えは変わるでしょ?こんないかにもヤバイ存在を出されたからには私を倒すしか道はないわよ?」

 

挑発じみたその言葉に俺は不敵な笑みを浮かべてしまう。確かにあの魔物は脅威だ。それこそ下手したら俺は死ぬかもしれないほどの。だが同時にその程度で屈するものかと対抗心を燃やす。

 

「ふっ、その程度で変わるものか。再度俺は言おうーーー俺は君を絶対に連れ帰る。そのためならこの右腕、いやこの身などくれてやる」

 

「いつまでその見栄を張れるかしらね。ーーー貴方の本性をこの場で引きずり出してあげるっ!!」

 

これはもはや戦闘でもなんでもない。ただお互いの意地のぶつかり合いで我慢比べといってもおかしくない。2対1という圧倒的な不利な状況で意地のぶつかり合いという第2ラウンドが幕を上げたーーー





前書きで言ったでしょう?本編そんな進んでないと!(白目)
けれどリーゼ編の終わりが近いのは本当ですよ。長くてもあと3話で終わることを約束します!……だからリーゼの若干のキャラ崩壊は今まで会ったことのないタイプと出くわしたが理由で許してください(吐血)
そしてこのリーゼ編終盤で静かに歯車はゆっくりと軋み始めたりもします。

ーーー彼が再度過ちを犯しても全てを忘却しても雪の少女はただ彼を愛し味方であり続ける。彼が■■の■だとしても彼はその少女にとって等しく大切な■なのだから(唐突なシリアス予告)

(けして今日HFを見た影響だなんて口が裂けても言えない!……えっ、感想?戦闘シーンがとてもしゅごかったでしゅ!赤い弓兵さんが唐突にイリヤと呼んだ時は涙腺がヤバかったです……あと、うん。桜さんがね!?色々とね!(意味深な発言))

あっ、そういえばプリヤのイベント復刻来ますね!ヒャッホイ!!クロエがようやく獲得出来ます!そして美遊実装と聞いて白目を向いた私は悪くないですね?……石60でいけるか?(無課金の宿命)
あっ、タマモキャットと清姫を攻撃モーション変更記念にスキルマしました!キャットの癒しが更に加速して可愛い……きよひーはうん、もえてるね!(意味深な発言)

……紅閻魔?(漢字うろ覚え)あんなバブみが凄い子は初めからいなかったでち。大砲持ったフランスの人しか自分は知らないでチ!(尚英雄の証くらうため吐血問題な模様)

さて、次回の更新は未定!気長に待ってくれてると嬉しいです!誤字&脱字の報告お待ちしております!(皆様にも美遊が引けますように密かにお祈りしますb)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。