ある日のゼウス・ファミリアの一室、その内部はカオスな状態に陥ってしまっている。
「この鍋には甘さが足りんゾォ!砂糖を一袋追加してやるゼェ!」
「コレじゃあ甘過ぎだろぉが!人類が辿り着いた境地、《甘過ぎたんなら塩を入れればいいじゃない》をはつどぅぅおおおう!」
『ううぇぇええええい、流石はクティノス副団長だぁぁぁああ!』
「ふぉっふぉっふぉ、皆楽しそうでなによりじゃのう。ほれ、ルークたんもアレに混ざってくると良い。」
「⋯絶対に嫌ですよ、あんなアホみたいに騒ぐのなんて。」
本日はゼウス・ファミリアの男子メンバーによる《男子会》なるモノを行なっております。《鍋》という素晴らしい料理にドキドキ感を
因みにイアロス団長は妻のレイスさんとデートに行っているのでこの場には居ない。⋯あー、居て欲しかったわー。
「リヴェルークぅぅううう!なぁに死んだ魚みてぇな目ぇしてんだ、もっとテンション上げていこーぜぇ!」
「⋯いや無理だし。しかも、テンションって言葉の使い方も全然違うし。」
「────え、マジで?⋯まぁいいじゃねぇか、大切なのはハートだぜ!」
⋯うん。やっぱり我らが副団長たるクティノスは脳筋であり単純でありアホである。
☆
⋯あれから一時間が経過した。俺の眼前には、地面に垂直になる様に背筋を伸ばして
「全く、バカみたいな叫び声が聞こえるから何かと思えば。幼子であるリヴェルーク君の前であんな奇行に走るなんて!」
『面目次第もございません。いやほんと、マジすんませんした。』
「⋯まぁ、最近は色々と大変そうでしたからね。今回はこれくらいで許して差し上げます。」
『ありがとうございます、ありがとうございます!』
おおう、全員の動きが完璧にシンクロしている美しい土下座だ!これを見て怒っていた
「──で、なんでアルトリアさんがこの場に居るんですか。しかも誰もツッコマないし。」
「そんなの『リヴェルーク君ある所に私あり!』が周知の事実だからでしょう。」
「そんな恥ずべき事実などありませんがっ⁉︎」
「⋯成る程、これぞまさに『羞恥の事実』というやつだな。」
「団長!貴方までソッチサイドに行かれては困るんですけど、主に俺が!」
どちらかと言えば、そういったシャレを言うのは駄神たるゼウス様の役割である。堅物な団長までそういったキャラに成られると、ターゲットになりやすい俺が疲れ死ぬ。
「とにかく、今日はもうお開きにしなさい。明日からも仕事があるんですから、各自部屋に戻ってしっかり睡眠をとる事ね!」
「⋯いや、だから。何でヘラ・ファミリア副団長のアルトリアさんが仕切ってんのさ。」
この人、自由過ぎるでしょ。マジでヘラ・ゼウスファミリアの面々の前では猫を被る事を一切しないから、世間の認識との差に驚くわ。
☆
現在俺は自分の部屋に戻って来てベッドに寝転がっている、のだが──。
「なぁ、リヴェルークよぉ。お前って冒険者になってから出来たトラウマとかってあるか?」
「どうしたんですか、いきなり。あるかないかと聞かれれば、そりゃあありましたけど大抵は克服しましたよ?」
「いやぁ、さっきのあの女の怒声を聞くと、昔あった出来事を思い出してなぁ。ある種のトラウマになっちまってよ。」
──俺の部屋に侵入したクティノスの愚痴を聞かさ⋯聞いている。それより、この脳筋にトラウマを刻むなんて流石はアルトリアさんだ。これぞ略して《さすアル》だね。
「で、お前には何かトラウマ経験がねぇのかなと気になったってわけだ。どんなトラウマがあったのか聞いてもいいか?」
⋯うーん、どの話がいいかね。なるべくつまらない話はしたくないからな。──あ、それならコレはどうだろうか。
「では、未だに俺が克服出来ていないトラウマというか、恐怖体験を語りましょう。」
──アレは、俺が冒険者になって一ヶ月半が経過した頃の話だ⋯。
「え、待った待った。リヴェルークよぉ、お前もしかしてそんな語り口調でずっといくつもりしてんのかぁ?」
「いえ、流石に恥ずかしいので最初だけですよ。」
☆
「⋯では。リヴェルークのLv.2へのランクアップの
『かんぱーい!リヴェルーク、
「⋯ありがとうございます。」
ランクアップによるズレをいち早く修正するために朝起きてダンジョンに突撃しようとしていた俺に、団長直々の命令──今日は早めに帰って来い──が告げられた。
正直に言うとそんなものよりダンジョンに潜っている方が良かったのだが、俺が主役のパーティを俺が欠席すると駄神が泣きながら絡んでくるのでちゃんと行く事にしている。
「にしてもまさか、ランクアップまでの所要期間が一ヶ月半とは恐れ入ったぜぇ!」
「本当だニャ〜。ミャーやクティノスでさえ一年と少しはかかったニャ。」
「⋯ただランクアップが早いだけで、騒ぐ事ではないです。」
──そう。ただランクアップまでの期間が早いだけで、俺が飛び抜けて強くなれたわけではないのだから。
「これほどの偉業を成し遂げても相変わらずの無表情なんて、流石はリヴェルーク様です!」
「⋯それはどうも。団長、疲れてしまったので部屋に戻ってもいいですか?」
「⋯ああ。お前はこれからが成長期だからな、早く寝るといい。」
マジで
現在の時刻は午後九時。正直なところ全く眠くない。他の団員達はまだバカ騒ぎしているみたいで、時折楽しそうな喧騒が聞こえてくる。⋯これはアレだな、《お祝い》の席であるのを良い事に自分がはっちゃける親戚のおじさんみたいなヤツだ。
「まぁいいや、そんな事は。それよりもダンジョンに突撃しようかな。」
──なんて気軽な感じでホームを飛び出した十数分前の自分をブン殴ってやりたい。何故なら──。
「そうか、お前が世界最速でLv.2にランクアップしたリヴェルーク・リヨス・アールヴか。⋯成る程、素質を秘めているのは確かな様だ。」
「⋯そう言う貴方は何処の誰ですかね。いきなり俺の前に立ち塞がるなんて、危ないじゃないですか。」
敢えて知らないフリをするが、俺はこの巨身の獣人を知っている。俺よりも早くから
ゼウス・ヘラファミリアのせいで二番手に甘んじてはいるものの、このオラリオでの規模や影響力はかなり大きなフレイヤ・ファミリアの一員にして都市最高であるLv.6に名を連ねる冒険者の一人。Lv.7への昇格もあと一、二年あれば済むだろうとも噂されている人物の名は──。
「俺の名はオッタルだ、覚えておくといい。」
「──ハッ、数分後には忘れていそうな名前ですね。」
「彼我の実力差を悟りつつも強気の姿勢。そこには好感を持てるが⋯。」
──まだまだ未熟過ぎるな──
その呟きが耳に入った時には、俺の眼前に
☆
「うわぁ、そんな災難な事があの日にあったのかよ。なんつーか⋯マジで大変だったなぁ。」
「本当に焦りましたよ。しかも、気が付いたら自分の部屋のベッドに居ましたからね。もう、何が何だかって感じです。」
「そりゃあ、ハンパねぇ不思議体験だな。」
「ええ。お陰で俺はあの猪野郎が今でも苦手なんですよね。」
誰だって、出会い頭に殺されかけたところで記憶が途切れれば苦手になるだろう。まぁさっき述べた通り、トラウマというより恐怖体験だよね〜。
──と。遠い目をしているリヴェルークを横目に見ながら、クティノスが思い出すのはかつての記憶。
──籠の中で大切に育てるだけが優しさではない──
そんな言葉を俺に対し述べたのは、服が所々ほつれている気絶したリヴェルークを肩に担いだオッタルの野郎だった。きっと、あの日にリヴェルークは恐怖体験をしたのだろう。
それよりも、あの猪野郎の言いたかった事が今では良く分かる。籠に閉じ込めておけば確かに安全ではあるかもしれないが、今の
先達として、家族として、幼子であるリヴェルークの事は大切に思う。しかし大切だからこそ、いざという時のために心を鬼にして様々な知識や技術を植え付ける。
「ったく、冒険者っつーのはつくづく矛盾を孕んだ職業だな。」
「──ん?何がですか?」
「なんでもねぇって!お前は前だけ見て突っ走れ!」
「うわっ⁉︎ちょ、頭を撫でるな!しかも撫で方が雑過ぎて滅茶苦茶痛いんですけど⁉︎」
そう抗議してくるリヴェルークの声を受け流し、俺は何度もこいつの頭を撫でる。──お前はただ前を見て我が道を突き進めばいい。道の後ろからお前を引きずり込もうとするヤツは俺が⋯いや俺達が叩き潰す。だから願わくば──
「──で。ちょーっと話し変わるんだけどよぉ、最近のお前の女性関係を教えてくれや。」
「話が変わり過ぎでしょ!教えるわけないじゃないですか!」
──確かにこいつは自慢だが、それと
オッタルの話し方がイマイチ分からん( ´Д`)y━・~~変な部分があればご指摘お願い致します。
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