前置きが長すぎですね。
「…さて、なんとか名前も決まったことですし、2つ目の条件ですわ」
ソニアはほっと安堵しながら俺の頭に手を置いて優しく動かした。
「わっ…なんでいきなり撫でるんですか…」
「え、可愛いから⋯もしかして照れた?」
「照れませんよ、驚いただけです。それより2つ目の条件を言ってください」
「ああ、そうだったね、持ってくるから待ってて」
ソニアはそう言って席を立ちクローゼットを開けた。
(服…かな?)
「よいしょっと…」
ソニアはクローゼットの中から何やら大きな箱を引っ張り出してきた。ドンッという、服にしてはやけに重い音を出してテーブルの上に置かれた。
「ソニア…これは…?」
テーブルのほぼ全てを占領するサイズの箱に少し戸惑う。
「ふふ、いいからまずは開けてみるのですわ」
言われた通り箱を開ける。重さ的に大量の服が入っているのか。と思ったが違った。
箱の中には武器が入っていた。
「うわっ…凄」
武器は剣、弓、杖の3つ。普段はゲームの中の世界のものである武器が目の前にあり、テンションが上がる。
「2つ目の条件ってのは簡単なことだよ、この中からどれか1つもっていってほしい。この世界…武装が無いと危険だから、それに…」
ソニアは赤渕の眼鏡を人刺し指で上げ、微笑んだ。
「リリィみたいな可愛いロリに死なれるのは悲しいから」
「え、あ、ありがとう…?」
可愛いと言われて複雑な気持ちになる⋯。これでも精神は男だから嬉しいとは思わないが⋯。
(まぁいいか、取り敢えず⋯)
箱の底にある3つの武器を見下ろす。
(⋯剣かな)
箱の一番左にある剣に手を伸ばす。柄の部分を握り箱の外へ⋯。
「わっ、重⋯」
なんとか持てたが⋯剣がかなり重い。今の細い腕では支えられず持っているだけで足がふらついてしまう。
「リリィ、大丈夫⋯?」
「うっ⋯ちょっとこれ無理かも⋯うわっ」
10秒も持たずに剣を落としてしまった。刃が下向きにまっすぐ落ちていき、メイド服のスカート部分を通過して俺の右足の太ももを掠めて床に勢いよく突き刺さった。
「ひぁっ!?」
「リリィ!大丈夫!?」
「⋯っ!痛い⋯」
太ももに痛みが走り俺は床に膝をついた。掠めた場所がどくどくと脈打ち、それに合わせるように暖かい血が流れ出す。
「⋯そこまで酷くないね⋯ヒール!」
ソニアは人差し指を患部に向けて詠唱を始めた。暫くして人差し指の先から黄緑色の風のようなものが出て、俺の太ももを覆う。
「後はこれで⋯」
ソニアはすかさず包帯で患部を巻き始める。慣れた様子で手当を行う。
「よし、取り敢えずこれで大丈夫」
「⋯ありがとう」
さっき切ったばかりにも関わらず、この応急処置で立ち上がって歩ける程には痛みが無くなっていた。包帯を巻く前に唱えたあの魔法の力だろうか。
「いやいや、これぐらい当然だよ」
ソニアは俺に優しく微笑んだ。姉が妹を宥める時のような優しい笑い。
「うーん、まだ小さいリリィに刃物は危ない、か⋯じゃあこれしかないか」
ソニアは箱から杖を持って来て俺に渡した。
「杖?」
渡されたのは木の杖。ゲームの初期装備のような見た目の特に変わったところの無い杖だ。
⋯本当は剣が良かったがさっきの出来事で刃物が怖くなってしまった気がする。まぁどちらにしろ重くて今の俺には扱えないか。
「じゃあ⋯杖を選ぶか…」
俺は右手に木の杖を装備した。握った瞬間、杖の先がほのかに赤く光った。
「これが魔法少女リリィの誕生の瞬間である」
「その言い方やめぃ⋯ってあれ」
ふと気づいた。確かさっきの事故で貫通してしまった筈。にも関わらずメイド服は傷一つ付いていない。
「あー、あの剣装備貫通型といってね、相手の防具を無視して肉体を直接斬れる優れものなの⋯ですわ」
「へぇ⋯怖い武器だな⋯ってか口調どうした」
「飽きた。転生者が来る度にお嬢様的な口調で話すけど毎回途中で飽きちゃって⋯」
ソニアはそう言いながら床に刺さった剣を引っこ抜いて箱の中に入れると、再びクローゼットの中に仕舞う。そして、前髪をくるくると弄りながら椅子へ座り直した。
「さて、お待ちかね。元の世界に帰れる方法について話すわ」
「あ、うんっ」
その言葉に俺の注意が包帯からソニアへと移った。
「元の世界に戻るにはこの島ミローバの一番高い山にいる神…を自称してる子を倒せばいいわ」
「…それだけ?」
ソニアは首を横に振った。
「その子を倒せば次の島へ入れる鍵をくれるわ、そこのどこかにいる神を自称する女の子を倒せば次の鍵が…そんな感じで8つの島を救えば元に戻れるわ」
「…8つも?」
途方も無い話だ。しかし俺に拒否する権利は実質無かった。
「分かった…さっさと終わらせてくるよ」
俺は取り敢えず家から出ようとする。
「あ、待って、ほいっと」
「うわ、ちょ…ととと」
ソニアはなんの躊躇いもなく俺に向かって何かを投げつけた。
落としそうになりつつも咄嗟にキャッチに成功する。
「これは…俺のスマホ…!」
すっかり存在を忘れていた。電源ボタンを長押しすると…良かった、反応した。
「さて、いってらっしゃい」
ソニアは優しく微笑みかけた。
「おう、行ってくるよ」
スマホをポケットにしまい、俺は小屋を出た。
これから長い旅が始まる…。
リリィ「何でこんなに更新遅れたんですか?」
作者「すいません、レポートがやばくて…」
リリィ「今日朝から遊びに行ってたよね?」
作者「……」