「⋯⋯⋯んっ」
後方から聞こえる波の音で、俺は目を覚ました。
「どこだ⋯ここ」
どうやら俺は砂浜でうつ伏せで倒れていたらしい。顔や服にべったり付いた砂を払い、座ったまま辺りを見渡した。
(⋯俺なんでこんなとこにいるんだっけ?)
後ろにはどこまでも続く広大な海、目の前には森?と、木製の家、というか小屋が見える。
(うーん⋯⋯⋯んん⋯?)
心地良い潮風に吹かれながら、寝起きの意識で何故ここにいるのかを考えてみる。
(確か⋯最後に覚えてるのが公園で⋯そこで妹と会ったんだっけ、それからどうしたっけな⋯)
妹が厨二病になったことははっきり覚えているが、その後何があったか上手く思い出せない。
「あれ⋯」
ふと足元を見る。そこには砂に半分埋もれた何かがあるのに気づいた。掘り起こしてみるとそれはガムテープで封をされたamezanのダンボールだった。
「⋯⋯⋯開けてみるか」
綺麗な白い砂浜に似つかわしくない薄汚れたダンボール、そこに貼り付けられたくたびれたガムテープをビリビリと剥がす。
⋯そこにあったのは俺のスマホと、封筒、それとナイフ?みたいなものが入っていた。
(色々入ってんな⋯ていうかこれ俺のスマホだよな!?)
他の物には目もくれずにスマホだけを取り出す俺。とにかくスマホさえ無事ならば通話なりなんなりでとにもかくにもここから脱出できる。
「あれ⋯おかしいな、反応しない」
いくら電源ボタンを長押ししてもまるで反応してくれない。壊れているか、もしくはバッテリーが切れているか⋯どちらにせよスマホは使えない。
「嘘だろ⋯スマホねぇと生きていけないんですが⋯」
ネット依存の俺にこの事実は痛い。痛いが⋯取り敢えずスマホをポケットに入れる。なんか服装がここに来る前より変わってる気がするが気のせいだろう。ダンボールの中に残された封筒をちらと見た。こちらもダンボールと同じく薄汚れている。封筒を開けると中から白い手紙が出てきた。それには丸文字で文が書かれている。
これを読んでいるあなたへ
おはようございます!突然のお手軽失礼します。
私、女神のヴァルニルジュと言います!女神やってます!本当ですそういう系とかではなく!
さて、今回は突然こんな世界にお呼びしてすいません。でもこうしないとこの世界ヴァルニーは滅んでしまいまうんです、どうかお許しを⋯。
お願いします、この島を支配する邪悪なドラゴンを率いる魔王を退治して下さい⋯!そしたらあなたも元に戻れますから!
あ、そうだ、もしかして私とお話したいですか?したいですよね!ここに電話番号書いておきます、スマホの方封筒と一緒に入れておいたんで良かったらお電話よろしくお願いします♪スマホは目の前に見える始まりの小屋にて起動出来るようになりますので是非入って下さい♪⋯あ、彼女欲しいとかそんなつもりで書いたんじゃないですよ!?⋯では、頑張ってください♡
大いなる女神ヴァルニルジュより
「⋯⋯ええ」
⋯ちょっとどこから突っ込むべきか悩むな。⋯まず彼女?俺は男だ。女神だとかドラゴンだとかアメーバだとか色々書いてあるがまずこの時点で確実に俺宛の手紙ではないだろ。⋯にも関わらず一緒に入ってるスマホ。これはどう見ても確実に俺のものだ。どういうことだ⋯?
「よく分からんが⋯とにかくあの小屋に行くか⋯⋯?」
スマホを弄れない以上小屋に行くしか今の俺にアテは無い。ダンボールに入っている最後の物である折りたたみナイフをポケットにしまい、小屋へ移動した。
移動した、と言っても俺のスポーン地点から小屋までの距離は目と鼻の先だったので1分程で辿り着いた。
⋯遠目から見るとそうでもなかったがかなり古い小屋だ。海風にさらされてところどころ傷んでいる部分がある。⋯人が住んでいそうな気配は全くもってない。
「お、おじゃましまーす⋯」
キィ⋯扉が軋む音を立てる。
小屋の中にはやはり誰もいない。⋯この辺りには人がいないのだろうか?不安になりながら部屋の中に入り、ザッと部屋を見渡してみた。
⋯家の中は古めかしい外見と打って変わって生活感に溢れている。新品のクローゼットとベッドが部屋の奥にあり、真ん中のテーブルにはお菓子が食い散らかしてあっる。間違いなく人が現在進行形で住んでいる。恐らく今は留守にしてるだけなんだろう。人がいる形跡がある、というだけで俺の孤独感から来る不安が一気に開放された。
「⋯なんだろあれ」
部屋を物色⋯探索中、妙な物を見つけた。前述した通りお菓子が置いてあるテーブル。そのテーブルの上に文字の書かれた紙が置いてある。
「ここにすわって下さい」
紙にはそう書かれていた。特に気にせずに指示通りに椅子へ腰掛けてみる。
(⋯何も起こらないな)
腰掛けたところで特に変化は無い。ここで一旦休めって事だろうか?そうだとしたらこれh
「冒険者さんこんにちはぁぁぁぁっ!!!」
「うわぁあぁぁぁ!?」
突然⋯ボフッという音と主に俺の座っているテーブルの向こう側のイスに女の子が大音量で現れたー!
ガタンッ!
「う⋯いって⋯⋯」
「へ?あっすいません冒険者さん、驚かせました?」
突然の爆音に驚いて見事にイスから墜落してしまった俺。それにしても不意打ちすぎだ、未だに心臓がどくどくしてる⋯。