「ありがとうございましたー」
ミラの罠に見事な迄に綺麗に嵌った⋯結局そのまま帰るのも虚しいし、可哀想とかいう理由で友人にコーラとツナおにぎりを奢ってもらった。コーラを飲みながら自転車に跨る俺。
(⋯暑いな)
四方八方から泣き喚くセミの声。我先にリア充になろうとミンミンシャアシャア喧しい声を張り上げている。
「ああぁぁうるせぇよ静かにしろや虫共!!」
⋯つい怒鳴りつけてしまった。セミが日本語を理解出来る筈も無く⋯いや理解出来てたとしても泣き止ませることなど不可能か。結果的に俺は周りの人間から白い目で見られてしまった。
「⋯帰るか」
⋯いつもの悪戯なら可愛いもんだからまぁ許せるが、今回のはそうもいかない。兄ちゃんが本気で怒ったらどれほど怖いのかというのを最近調子乗ってるミラに教えてやらないとな。でもあいつは大抵の事がないと謝らないしな⋯どうやってやろうか。
そんな事を考えながらゆっくり自転車を漕いでいる時だった。地面に何か金色に光り輝いている何かを見つけた。
(⋯なんだこれ?)
多分キャップのフタかなんかのゴミが日光で光ってるだけだと最初は思ったがどうもそんな気がしない。あまりにも気になったので自転車を止め、それを拾い上げてみた。傍から見たら地面に落ちてるものを自転車を止めてまでして拾う変態である。
「えっなにこれは」
拾い上げたもの、それは金属でできた星形の薄い板の様なものだ。よく見ると何か小さな字で書いてある。
「これを拾った選ばれし者よ、クロンダイク公園に来い…か」
クロンダイク公園、およそ国内にあるとは思えないような名前のその公園は今いる場所から自転車で3分19秒程漕げばたどり着ける場所だ。クロンダイクとはトランプゲームでソリティアと同じものである。ソリティアとは…説明が面倒だからググって、どうぞ。
「まあいいか、行こ」
普通の人間ならこんなの怪しすぎてまさかのこのこ行くわけないと思うが、俺は自他共に認める変人だ。星をポケットにしまい、公園に向けて漕ぎだした。
3分19秒後、クロンダイク公園へ到着する。
大仰な名前とは裏腹に滑り台と砂場のみという公園としての最低条件をぎりぎり満たせているような貧相な公園。
そのど真ん中に、とある少女が立っていた。
「むふふ、兄ちゃん待ってたよ」
「ミラ…だと…」
俺が公園に来ることが分かっていたかのように、ミラはそこにいた。
「ミラ、あのさ…俺今すげえ怒ってるんd」
「お星さまちゃんと持ってる?」
ガン無視された。
「いやそのまえにだな」
「持ってる?」
「………」
「………」
「いやそn」
「持ってる?」
…仕方がないので言われるがまま、ポケットから星を取りだした。星を確認するとミラは目を輝かせた。
…間違いない、なにか良からぬ事を企んでいる目だ。
「兄ちゃん、私ね」
こほん、ミラはわざと臭い咳払いをする。
「私…神様になっちゃったんだ」
「……あー…成程ね」
…ついに、ついに、数年前から危惧していた病気にかかってしまったか…。恐らく星を俺に拾わせるために目覚ましをいじって、公園に向かわせて、
「私は神ゆえに兄者を意のままに操れる!」
…的なことを言いたいのだろう。…残念だかそこまで進行してしまうともう…。
「誰が中二病じゃ、話は最後まで聞けグソクムシが」
―なんか口悪くなってる!俺虫使いされてる!
「中二病なんだよミラは…お前の分のアイスも買ってきてやったから溶ける前に家帰ろう」
正しくは店員の友人に奢ってもらったんだけど黙っておく。まあどちらにせよこのままではアイス達がバブルスライムと化してしまう。俺はミラの肩に手を置いた。…後で病気の治療法を調べないとな。
「おい…ミラ?」
が…ミラは突っ立ったまま微動だにしない。何とか動かそうとミラを担ごうとしたその時、そうはさせまいとミラの手が俺の腕を掴んだ。
「おいミラいい加減に…」
「ねえ兄ちゃん、私…神様になったっていったよね」
ミラは掴んだ腕を天へ向け、俺の手の中に星を握りこませた。
「私…冗談言うの苦手なんだ。だから…ね?証明してあげる」
その瞬間、星が手の中で光り始める。何事かと困惑している間にも、その光はどんどん強くなっていく。
「むふふ、兄ちゃん」
光だけでなく、周囲に世界が割れるような爆音、地面が揺れる感覚が同時に俺の身に襲い掛かり、視界が徐々に白くなっていく。
「どうなってんだこれ!?おいミラ…!!」
「…いってらっしゃい」
真っ白な視界の中で、そのこえだけはっきりと聞こえた、
その瞬間、俺の意識がブラックアウトする―。