アラサーポケ廃のめざせポケモンマスター   作:ジョナン

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プロローグ

俺、向田智(むこうださとし)29歳。職業:ポケモントレーナーは今人生最大のターニングポイントに直面している。いや、こんなものを、こんな状況を人はターニングポイントなどとは呼ばない。この状況を誰が受け入れることができるだろうか、こんな地獄のような状況を誰が…

 

今俺の前にどんな光景が広がっているのかと共に俺の半生を振り返るとしよう。

 

今年30歳を迎える俺の人生には常にあるゲームが側にあった。「ポケットモンスター」だ。アラサーニートの人生は語るようなものではないが、ポケットモンスター無くして俺の人生は語れない。

親から智という名前を授けられた辺りを見るとやはりポケモンをやる為生まれたとしか思えないし、実際ポケモンのプレイ時間はリアル人生のプレイ時間を遥かに凌駕していることだろう。

そんな生粋のポケモン廃人の俺は今朝、母親と姉に10年以上行けと言われ続けていたハローワークとやらに行くことを決意した。何故10年以上も行くことを拒んできたハローワークとやらに今朝になって行こうと思ったのか、理由は簡単だ。行かないとポケモンのデータを消す。などというサカキ様もビックリな傍若無人なことを二人が遂に言い出したのだ。

 

まあ、結果はもちろんお察しの通りだ。

仕事が見つからなかったばかりか「お前のようなアラサーニートに仕事なんてねぇ」と言わんばかりの口ぶりで、明らかに年下の女スタッフに軽く説教を受けた。

「そこをなんとか見つけてくれるのがテメーらの仕事じゃないのか?」と思いつつ、もう数年のニート生活を覚悟して愛しのポケモン達が待つ家に帰って来た俺に待っていたのは恐ろしい光景だった。

 

無かったのだ。

 

棚いっぱいに飾ってあったぬいぐるみ達も、ケースに丁寧に飾しまってあった指人形達も。ついでに壁にかけていたポケモンカレンダーまでもが無くなっていた。

 

「どういうことだ…」

 

嫌な予感がした。俺は恐る恐る今までプレイしてきた全てのソフトと3台持ちの3dsがしまってある引き出しを開いた。

 

空っぽだった。

 

状況を把握するまで少し時間がかかったが、理解すると俺は膝から崩れ落ちた。今まで育ててきたポケモン達との思い出。レート2000常連の誇り。カンストしたプレイ時間。すべてが無くなっていた。

 

コンコン

俺が絶望の果てで号泣していると姉が入ってきた。

「あんた、仕事みつかたの?」

「俺のポケモンをどこやった!?!?」

俺が泣きっ面で聞くと

「売ったわよ」

悪びれた様子もなく言いやがる。

「あんたこれからは仕事するんでしょ?じゃあこんなものはいらないじゃないの。」

何を訳のわからないことを言ってるんだ?こいつは

「ゲーム売られたくらいで何泣いてんの?バカじゃないの?あんたもうオッサンなんだからね?どうせ仕事も見つからなかったんでしょ?」

 

「ああ…」

その通りだ。

 

「明日もハロワ行くのよ。私も母さんももうあんたを養う金は一切出さないっていう結論に陥ったから。月末までにはバイト見つけて出て行って。」

 

そう言い残すと姉は扉をバーンと閉めてでていった。

完全に見捨てられた。ソフトやDSたちを売った金はもともと親の金を食いつぶして買ったものだという理由で俺の取り分は一切なかった。ハロワに行かないとデータ消すって言ったから行ったのに。騙された。だが、もはや怒る気力すら出なかった。残っていたのは絶望だけ。

 

その後も何度かハローワークにもいった。なんとか1日のバイトにありつくこともできた。そのお金でポケモンを買ったがやはりダメだった。今まで費やしてきた時間と愛は帰ってこない。ストーリーもクリアせずに日々が過ぎた。

 

ある時、なんとなく引き出しを開けてみると小さなヒトカゲの指人形が出てきた。ヒトカゲ。20年前、初めてプレイしたポケモン赤で最初に選んだポケモン。思えばこいつとの出会いがポケモン廃人ライフのはじまりだった。ふと楽しく無邪気にポケモンしていた日々を思い出す。

タケシを倒すためにマンキーを捕まえたこと、カスミのスターミーが全然倒せなかったこと。そんな風に純粋にポケモンを楽しんでいた日々。

ヒトカゲの笑顔がまぶしく見えた。

「ポケモンの世界に生まれていたらなぁ。」

ポケモンと一緒に旅ができたら、ポケモンと一緒にバトルできたら、ポケモンマスターになれたら。そんなくだらないことを大真面目に考えてしまっていた。

 

 

数週間後。俺は死んだ。

 

自殺だった。

 

遺書にはこう書かれていた。

『ポケモンマスターになりたい。』

全米が嘲笑した。家族すら嘲笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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