仮面ライダーソング   作:天地優介

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今回の戦闘描写。挿入歌演出がなければ一週間早く仕上げれました(半ギレ)。
そのぶん、たぶん熱くなってると思います。
……挿入歌の歌詞、後書きに書いといた方がいいかな?


OVER THE WIND

【レコード チェンジ!】

【ファング アクト!】

 

「うおおおおおおっ!!」

 

【ファング! ライダー オメガパンチ!】

 

  ホープソングに変身する乙音の拳から、巨大な拳状のエネルギーが、仮面ライダーディスパーに変身する天城音成へ向けて放たれる。

 

『はっ! そんな攻撃で!』

 

  しかし音成はその一撃を自身の足元の地面を操作して巨大な壁を出現させ、自分はその上に乗って高く飛び上がった。

 

『はあっ!』

「くっ!」

 

【ソング アクト!】

【ソング! ライダー ストライク!】

 

  高低差を利用しての急降下キックに、乙音は必殺技のひとつを咄嗟に発動して対応する。乙音の身体が飛び上がり、空中で音成のキックと乙音のキックが激突する。

 

「ぐううううっ!」

『はああああああ……』

 

  バヂィッ!!という音と共に両者とも弾かれ、音成は天井へ、乙音は地面へと叩きつけられる。

 

  ……が、音成の方は天井の壁をゴムのように柔らかくし、激突の衝撃を和らげるとともに弾かれるように勢いづけ、地面に埋まる乙音を襲う。

 

『乙音ちゃん!』

「わかってる!」

【ツルギ! ライダー スラッシュ!】

 

  キキカイに言われるまでもなく、乙音は必殺技を用いて音成を迎撃する。無数の斬撃を音成に向けて飛ばすと、高速移動を用いて飛び上がり、新たに必殺技を発動する。

 

【ダンス アクト!】

【ダンス! ライダー ハリケーン!】

 

「はあああああああっ!!!」

『ぐっ!』

 

  巨大な竜巻を3本発生させた乙音は、先に飛ばした斬撃を竜巻の中に巻き込み、更に勢いづけて音成を襲わせる。そしてこれで終わりではない。ここで仕留めるつもりで、乙音は更に畳み掛ける。

 

【ボイス アクト!】

【ボイス! ライダー ツインシュート!】

「くらえっ!!」

『………!』

 

  乙音が手に持つ二丁の拳銃から放たれる無数の光弾が、斬撃の竜巻に呑まれる音成に向けて飛んでゆく。

 

  並みのディソナンスはおろか、7大愛クラスでも消し飛ぶであろう連撃を放ち、地面に降り立つ乙音。だが……

 

『はあっ!!』

「…………っ」

 

  音成の身体から緑色の閃光が放たれ、竜巻が吹き飛ばされる。ゆっくりと降り立ってくる音成に対し、乙音は怯む身体を動かし、拳を振るう。

 

【ファング! ライダー パンチ!】

「でやあっ!!」

『ちいっ』

 

  ツルギの高速移動と、ファングの強烈な拳撃。それを組み合わせた一撃が音成に向けて放たれるが、彼はそれを真っ向から迎撃する。拳と拳が激突し、エネルギーが火花を散らす。

 

『はあっ!!』

「ぐっ!? ううううう……」

『……ソングが、パワー負けをしている……!?』

『マジかよ……!』

『フハハ……僕はこの兵器を通して、この星そのものから力を吸い上げている! お前達ライダー如きが……敵うはずが……なぁい!』

「があっ!!??」

 

  音成の力が倍増し、ぶつかり合っていた力の均衡が崩れた。拳を弾かれた乙音は音成の拳をまともに胸に受け、その場で片膝をつく。

 

「がはっ……ぐ、うう………」

『乙音ちゃん!! くっ、やっぱり……』

『ふふふ………君に、いや君達に良いものを見せてあげよう』

 

  音成はそういうと乙音の身体を適当に放り投げ、壁に向かって手をかざす。すると鈍い音と光とともに壁が四角形にせり出し、それが巨大なスクリーンとなって、ある映像を映した。

 

「……はっ、つ、先輩!?」

『桜! 』

『刀奈! テメェ何やってんだ!』

『シキ・ブラウン……』

 

  巨大なスクリーンと化した壁に映し出されたのは、この巨大兵器内で戦うライダー達の姿だった。……だが、彼等は乙音と同じように苦戦していた。

 

「ぐっ、か、硬い……!」

『貴様如きの牙が! この私に通るものか……』

 

  真司は強化態となったガインの更なる頑強さと、強烈なパワーに苦戦し。

 

「がっ! ぐっ!? ……っ、わ、私よりも……速い!?」

『アハハハハハ!!そらそらそらそらそら!』

 

  刀奈は自分よりも速くなったエンヴィーの剣撃に対応しきれず、その身体を徐々に切り刻まれ。

 

「この! 鬱陶しい……わねっ!」

『おやおや? 何処を向いているのかな?』

「えっ……うあっ!?」

 

  桜はピューマの飛行速度を捉えきれず、四方から嬲り殺しにされ。

 

  『オラオラオラオラ!! どうしたぁ!? あぁ? 俺をぶっ飛ばした時の威勢は……よおっ!!』

「がっ……ぐ。……へっ、今から、逆転しようと、思ってたところだよ…!」

(こりゃ…まずいな)

 

  シキはゲイルの喧嘩殺法に叩きのめされていた。

 

「くっ、なんで………強化形態なら、7大愛とも互角以上に渡り合えるはず!」

『ましてや一対一……確かにそうだが、そんな事をこの僕が理解していないとでも?』

「…やはりお前か! 天城音成!」

 

  激昂して立ち上がる乙音に対し、音成はあくまで余裕さを崩さず、その指を鳴らしてスクリーンに映る映像を切り替える。

 

  そこに映し出されていたのは、ディソナンスがディソナンスを喰らい、その力を増し、姿を醜く変質させていくという凄惨な現場だった。

 

  しかも酷いのは、ディソナンスはおろか、人から見ても残酷に過ぎるその行いを、画面の中の新ディソナンスーー音成によって作られたディソナンス達は、吸収される側も、吸収している7大愛達も、皆一様に『笑顔』を浮かべているのだ。

 

『す、すべて、は……音成様の、ために……』

『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』

『これで……僕はもっと美しい身体を!』

 

 

『うっ……!』

『テメェ! 俺達を…ディソナンスをなんだと思っていやがる!』

『僕がいなければ存在しなかった哀れな命にして、都合のいい駒……といったところかな? ま、君達は僕に肉体を提供してくれたゼブラ君と違って、単なる邪魔者に過ぎないけど』

『………外道!』

 

  ディソナンスという存在を、いや、生命そのものを極限まで冒涜し、貶めるような音成の行いと、それを喜んで享受する7大愛に、キキカイ、バラク、ドキの旧ディソナンス生き残りの3体は怒る。……だが、今ここで最も怒っているのはーーー

 

「貴様ァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

  ーー乙音が、槍を構えて斬りかかる。

  我を忘れるほどに怒る乙音。咄嗟にドキがその感情を抑えようとするが、音成に対しての乙音の怒りはとどまるところを知らなかった。

 

「うわあああああああああああああっ!!!」

『はっ! 甘い甘い! ……なあ? 乙音お姉ちゃあん?』

『……乙音! あんた冷静に………』

「ここで……殺す!」

 

  ゼブラの声色すら使って挑発してくる音成に対し、乙音はキキカイの制止も聞かず、ただ槍をがむしゃらに振り回す。

  その攻撃はどれも振るだけで地面を抉り、遠くの壁をも切り裂くほどの威力を持っていたが、音成に対しそんな攻撃は通用しない。

 

『ハハッ! では君にもうひとつ、素敵なプレゼントだぁ!』

「何を…「があああああっ!!?」……っ、ボイスちゃん!?」

 

  音成に攻撃しようとした瞬間、ボイスの悲鳴を聞いた乙音は動きを止めてしまう。そして声の方向へ向いた乙音が見たものは、不定形のドロドロとした形状の化け物に捕らわれ、電撃を浴びせかけられるボイスの姿だった。

 

「ボイスちゃん!!」

『前回あまりにも役立たずだったからね………彼、フィンにはチューナーを参考に特別な処置を加えたんだ。ま、代わりに自我が完全に崩壊してしまったけどね。いいんじゃないかな?』

「……お前」

 

  もはや乙音の怒りは限界に達している。しかし、映像内で化け物に苦しめられているボイスの悲鳴か耳に届くせいで、集中できていない。

 

『グウアア……アアアアアアァァァァァァァァ!!!』

「ああっ! うあ! ああああああああああああ!!!」

『ハハッ、ボイスもあんな女らしい悲鳴を上げられたんだねえ! 天才である僕でも知らなかったよ』

「黙れぇぇぇぇ!!」

【ソング! ライダー ストライク!】

 

  ここで焦った乙音は必殺技を発動し、音成を仕留めようとする。しかし、音成はその動きを完全に予測していた。

 

『ハハハハ……甘いって言っただろう?』

【カーテンコール!!】

【オーバーライド!!!】

【ライダー エンド ソング!!!!】

 

 

  乙音の放つ必殺の蹴りに合わせ、音成も必殺技を発動。白と緑の光が衝突するが、白の光は緑の光にあっさりと押し負け、吹き飛ばされてしまう。

 

「ああっーー!!」

 

 ドゴォォッ……!!

 

  壁へと吹き飛ばされた乙音は、そのまま凄まじい勢いで衝突。変身も解除され、地面へと倒れ伏した。

 

「あっ、ぐ、うう……」

『乙音ちゃん! ……くっ、でも、今は……!』

『どうすんだよ、おい!』

『くっ…………』

 

  うめき声をあげる乙音も、動揺し焦るするキキカイ達も、その全てが眼中に無いかのように……音成は壁に映し出されたモニターから響く破壊音とライダー達の痛烈な悲鳴をバックコーラスに、まるで歌うように喋る。

 

『そもそも、君たちライダーの変身システムは僕が作ったものだ』

 

『どうしたファング! その程度かハッハア!』

「がっ…ぐ、うおおおっ!」

 

『その僕が作り上げ、強化したディソナンス達と……』

 

「意識が……血を、失い、過ぎたか……?」

『どんな気持ちだぁ〜? んん? ツルギ! 私は気持ちがいい!』

 

『この星を破壊し、宇宙へと飛び立つための巨大兵器の中で戦う』

 

『いい加減堕ちなよ!』

「誰が……あんたなんかにっ!」

 

『しかも、僕がその兵器を思いのままに動かせる状態で!』

 

「攻撃が、通用しねえ……!」

『ビートチューンバスターを撃たせるかよ!』

 

『来るしかなかったとはいえ……こんな状況で勝てると思うなんて、まさに絶望的に君達は、愚かだぁぁぁっ!!』

 

  その叫びに呼応するかのように、巨大兵器内部を緑のエネルギーが駆け巡っていく。……この星を構成する核へと到達しようとしているこの兵器は、既に惑星一つを消滅させるのに必要なほどのエネルギーを吸い取っており、今、地上では砂漠化現象の急速な促進に加え、森林の草木が異常な速度で枯れ果てるなど、多くの異常現象が発生していた。

 

  この惑星が消滅していない理由はただ一つ。ライダー達を圧倒し、絶望させるためだけに、音成が自身とディソナンスへと吸収したエネルギーを優先的に回しているに過ぎない。

 

  Dレコードライバーを身につけていないディソナンス達は、いかに7大愛の強靱な耐久力をもってしてもいつかパンクするだろうが、それならそれで構わないと音成は考えていた。

 

  彼は倒れ伏す乙音の髪を引っ掴んで無理やり顔を上げさせ、言う。

 

『木村乙音。以前君が言ったように、確かに僕は恐れていた! 仮面ライダーを、君達人類の中にある希望を!』

「ぐ………う………」

『……!!』

 

  痛みに顔を歪める乙音が、それでも自身の手首を掴み力を込めるのを見て、音成は彼女を乱雑に転がすと、見事なバックステップで離れる。

 

『おっと、危ない危ない。君達は何を起こすかわからないからね……こうして封じ込めさせてもらうよ!』

 

  音成が乙音に向け手をかざした瞬間、乙音が倒れている地面が隆起し、そこから現れた触手に乙音の身体は捕らえられる。そして、彼女の背後からせり出てきた十字架に、触手によって乙音は縛り付けられた。

 

『な! ヘンタイ……!』

『テメェ!』

『身動きがとれなきゃ、関係ない……! ハハ、ハハハハハハハハハハ!! これで僕の勝利は、揺るぎないものになる!』

 

  縛り付けられた乙音の腰、そこにあるSレコードライバーへ手を伸ばす音成。いくらライダー達の闘志が不滅のものであっても、音成の変身するディスパーに対抗できるのは、乙音が変身するホープソングを除けば、ボイスが変身するデスボイスのみだ。……Sレコードライバーを失ってしまえば、乙音達には万に1つも勝機はなくなるだろう。

 

「………っ! く!」

 

  乙音もそれはわかっていて、だから生身でも必死に体を動かし、音成の顔を蹴ってそれを防ごうとする。もちろん効果はなく、むしろ音成の優越感を高めるだけだ。

 

『フフ……ついに、ついに!』

 

  そして、ついに音成の手がSレコードライバーへとかかった時……。

 

 

「なに、やってんだよ……!」

『………あ?』

「乙音……!」

 

 

  ーー声が響いた。

  その声の持ち主は、さっきまで苦しんでいたはずの…いや、今も映像の中で理性なき獣と化したフィンに捕らえられ、苦しみ続けているボイスだった。

 

  彼女も、いや、ライダー達全員が、音成と7大愛によって互いが苦しむ様を今の乙音のように目撃させられていた。

  ……しかしその様を見てもなお、ボイスの声色からは確かな闘志が滲み出ていた。

 

「お前、ゼブラを助けたくねえのかよ……! 香織やロイド……残してきたアイツらの願いに応えたくねえのかよっ!」

「ボイス、ちゃん………」

「お前はその程度じゃねえだろ、乙音! お前は……!」

『……黙らせろ、フィン!!』

 

  何故だろうか。ボイスの言葉に言いようのない不快感と嫌悪感を感じた音成は、フィンにボイスをさらに苦しめるように指示する。その指示を受け、更に多量の電撃を流されたボイスは『ああっ、うぐっ!』という声を上げて苦しむが、すぐにまた喋り始める。

 

「お前は……! オレの………私のっ! 心も…この身体だって、救って、くれたじゃねえか!」

『フィン! ……どうしたっ!? 早く黙らせろ!』

『グウウウウウウウウ……』

「がっ! あぐっ! ぐ、うう………オレ、は………オレは、負けないっ!!」

 

  フィンの身体から湧き出る触手に首、胴体、腕、脚……身体の部位ほぼ全てを絡め取られ、さらに電撃を流し込まれるボイス。それでも彼女は止まらず、宙吊りの状態でも抵抗を続ける。

 

「だから、乙音………お前も、お前も負けるな!」

 

  ボイスはその手の中に専用の拳銃『デスブレイカー』を出現させると、触手に向かってがむしゃらに撃ち込む。そして思い切り触手を叩くとたまらずフィンは苦しみ、彼女を拘束から解放した。

 

「ボイス、ちゃん……」

『………フィィィンッ!!』

『グウルルオオオオアアアアアアアッ!!!』

「うあっ!?」

 

  音成の叫びに応えるようにフィンはその身体を徐々に人型に変化させ、その過程で生まれた腕と拳を用いてボイスを攻撃。不意をつかれた彼女は吹き飛ばされ、変身も解除されてしまう。

 

『よし……! 他の7大愛は、どうだ!?』

『ハハハ!! 音成様、ご期待には応えておりますよ! 今! 現在!』

「みんな!」

 

  ボイス以外のライダー達も、乙音達と音成のいる広い空間の壁に、それぞれ7大愛と戦う映像が映し出されている。その映像の中でライダー達は、全員が窮地を迎えていた。

 

  真司はガインの装甲を攻撃し続けていたが、拳から生えている牙が折れてしまっているのに、ガインの身体にはかすり傷程度しか攻撃を食らった跡がない。そのうえ、彼自身は強烈な拳を喰らい続けている。

 

  刀奈はもっとも酷い状態で、変身した状態だというのに、足元に血だまりができてしまっていた。今も手に持つ剣を支えに膝で立つような状態だ。

 

  桜は奮戦してはいるものの、背の炎の翼は明らかに小さくなり、三基のブレイカーもいつのまにか宙を飛ばなくなっていた。

 

  シキは装甲を着込んでいるために6人のライダーの中でもまだ動ける方だが、ゲイルが甚振っているような状態で、いつ彼の槍が心臓を貫くかもわからない。

 

「……俺だけの力では、無理か。しかし……」

 

「参ったな……奴のスピードには、対応しきれない。だが…」

 

「…一瞬のチャンスも、くれないなんてね………!けど…」

 

「チッ……一か八か、かよ。でもよ……」

 

  圧倒的な力に、なすすべもなくやられるしかないように見えるライダー達。だが……

 

 

「「「「ここで、諦めてたまるか……!」」」」

 

 

  ーー彼ら、彼女らの顔に浮かぶのはただ1つ。『絶対に諦めない』という意思のみである。

 

『……馬鹿な、どうして、諦めない?』

『そうそう。切り札の木村乙音は音成様に打ちのめされ、君達も僕らに散々にやられてるっていうのに……さあっ!』

『グウウウウウウウオオオオオオ!!』

 

  その意思に対し、困惑や嘲笑、敵意といったさまざまな反応を返す7大愛。しかし、彼らの中にその意思を理解できた者はいなかったーーーそして、それが彼らの限界なのだと叫ぶように、ボイスは再び立ち上がった。

 

「わかんねえなら、テメェらの、負けだな……!」

 

【Dレコードライバー!!】

【レディー、オゥケイ!?】

 

  変身解除の時、共に外れてしまっていたDレコードライバーを装着し直すボイス。音成の趣味によってつけられたシステム音は、以前のーーホープソングの力で助けられる前の彼女には、自らディソナンスに……忌み嫌っていたはずのバケモノになろうとする自分を、嘲笑っているかのように聞こえていた。

 

  しかし、今は違う。乙音の中にいるキキカイ達との交流もあるが、彼女はやっと認めることが出来たのだ。

 

  ボイスはライダー達の中でも、特に乙音と、ゼブラと親しかった。……というよりも、彼女達の方からボイスに積極的に構っていった、というのが正しいが。

 

  だからこそボイスはある事実から目を背け続けていた。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という簡単な事実である。

 

  カナサキによって人為的に生み出されたディソナンスであるゼブラは、普通のディソナンスと違う。そう考えていたボイスだったが、同じく人為的に生み出された新型ディソナンス、特に7大愛の残虐さと悪辣さとーー乙音を助けたキキカイ、バラク、シキの乙音や真司、桜達との、一度戦った相手との絆を見て、こう思った。

 

「ーー生命は、違うんだ」

『? 何を、言って……』

「オレ達生命はーー違うんだ。親とか、生まれた理由とか………環境とか、育った経緯とか、仲間や他の種族との交流とか…そういう、ひとつひとつは単純な組み合わせで、築いてきた歴史と、紡いできた絆で…変わるんだ。………変えられるんだっ!」

 

  そう叫ぶと、彼女はDレコードライバーを起動する。しかし、ダメージがまだ残る身体にはドライバーから流れ込む力は毒なのか、バヂバヂィッ!!という音とともに身体に電流が流れ、ボイスは苦しみ、その美しい顔を歪める。

 

「ぐっ……! ううっ! あっ!」

『そんな体で! ……Dレコードライバーを用いた変身に耐えられるわけがない! ましてや、7大愛最強となった、フィンに勝つなど! 彼はいま、オーバライド時の今の僕と同等の戦闘能力を有しているんだぞ!』

 

  音成は心の中の不安を払うように、映像越しにボイスに向かって叫ぶ。彼の言う通り今のフィンは単純なスペックもそうだが、その変異能力などもあり、オーバライド時のディスパーと等しい戦闘能力を有している。今は基地の中で、音成のみがこの基地を操れるようにしてあるため、戦えば音成が勝つだろうが、何もない平原での戦いならば、フィンの方が有利に立つだろう。

 

  そして、ボイスだけでなく、桜以外のライダー達は柱など身を隠す場所のない、ただ広いだけの部屋に転移されている。桜も空中戦を最も得意とするピューマと空中戦を強いられているため、全員が地形的に大きく不利な状態だ。

 

  そんな状況で、変身もマトモにできない状態で、勝てるわけがない。そう音成が考えてしまうのも、しょうがないかもしれない。

 

  しかし……

 

 

「ううっ、うっ………うう、おおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

  ボイスが雄叫びを上げ、その身体から赤黒いオーラが爆発的に放出される。そのオーラはボイスを狙っていたフィンを吹き飛ばし、人型を取ろうとしていたその身体を、下半身のみではあるが再び不定形の怪物へと変化させる。

 

『グウウウ……!!』

『なん、だと……!?』

 

「…………変身!!」

 

【仮面ライダーデスボイス!!】

【オーバーライド!!!】

 

  Dレコードライバーからまばゆい閃光とともに、強大なエネルギーが放たれる。その光は輪となってボイスを包み、その姿を変化させていく。

 

『……馬鹿な。以前オーバライドした時、通常のデスボイスから姿は変化しなかったはず……だというのに、なんなんだっ!? その……姿は!』

 

  ……以前、一度だけボイスがデスボイスに変化した時、そのパワーは通常時と歴然の差があったものの、装甲の形状などに変化はなかった。

  しかし、今のデスボイスは違った。ボイスの意思にDレコードライバーが応えた結果……今の彼女は、普段のデスボイスの赤黒く禍々しい姿でなく、銀と赤の入り混じった装甲に丸い複眼を仮面に備えた、ホープソングにも似たような姿となった。

 

  神秘性すら感じさせるその美しき姿は、変身前の白く長い髪を備えた少女を彷彿とさせるようなものだった。

 

【ブレイクリミットッ!!!】

 

「そんなもん、オレが知るかよ……」

 

『……僕は、そんなシステム音声を鳴らせるような構造に…こんな奇跡が起こるはずが………ないっ!』

 

「ディソナンスが生まれたのだって、奇跡みたいなモンだろ………おい! 真司、刀奈、桜、シキ!!」

 

「なん、だ……」

 

「……もういっちょ、『奇跡』ってやつをこいつらに……見せてやろうぜっ!!」

 

  ボイスのその咆哮に、真司達はフッと笑って応える。彼女から見て、そこまで言われなければ立ち上がれないように自分達は見えているのかと、そう思いーーそれが無性に、可笑しく思えたからだ。

 

「そうね……こんなヤツらに、これ以上好き勝手させる道理はない!」

『…!! いきなり、パワーが増した……』

 

「悪いが、俺は今も逆転への布石を打っていてな! ……だが、そうだな……『生き残る』という奇跡に、賭けてみるか」

『なにを言っている? ……貴様らは、なんなんだ!』

 

「…一瞬の、その閃光に賭ける!」

『スピードを上げていくぞ! これで万が一もない!』

 

「ハッ、無茶苦茶言ってくれるけどよ………美人さんの頼みを、断るわけにゃいかねーよなぁ!?」

『なにがだぁぁっ! さっさと死ねや!!』

 

  目に見えてライダー達の放出する力が、ハートウェーブが上昇していくのを見て、音成だけでなく7大愛も焦りだす。そして、その光景を見る乙音もまた、静かに奇跡を起こそうとしていた。

 

『なんだ………この事態は僕の想定と理解の範疇を超えている!』

「くっ、うう……」

(!……乙音ちゃんのハートウェーブが………ホープソングの力無しで、変異している!)

(これは、ガインの纏っていた障壁を打ち破った時と同じ……)

(…音成は気づいていないようだ。これならば!)

 

  そして、乙音のハートウェーブの高まりに合わせるように、ボイスはその鼓動を高鳴らせる。

 

 

  高鳴る鼓動は力となり、歌となり、鳴り響く歌は奇跡を起こす鍵となる!

 

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

『グウルルオオオオアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

  咆哮を上げ、拳を握り激突する両者。フィンは黒く赤く……まるで以前までのボイスのような人型の形状になっているが、その複眼は真っ黒に染まり、その姿も邪悪で歪んだ意識を表しているかのように醜いものとなってしまっている。

 

  その湧き出るパワーは強大の一言だが、ボイスは怯まない。鳴り響く歌と自身の衝動に従い、真っ向からフィンを迎え撃つ!!

 

 《地獄のような町で 荒野のような心》

 

「うおっ!! らあっ!!」

『グアアア!!!』

 

  フィンと取っ組み合って殴り続けるボイス。そして真司もまた同じく、装甲が圧縮された結果、身軽さとさらなる硬さを手に入れたガインを崩すべくその牙を突き立て続けていた。

 

 《涙ひとつ、流れて……》

 

「うおおっ!!」

『脚の牙まで使うか! どうやら、貴様の終わりは近いな!』

「………どうかな」

 

 《これじゃ君を守れないよ》

 

  反対に防戦一方なのはシキだ。これまでの戦闘で、彼が相対するゲイルを覆っていたバリアは、他ディソナンスとの融合の結果消失したことは把握できていた。しかし、ビートの武装ではビートチューンバスター以外、ゲイルに決定打を与えることはできない。

 

 《壊れかけた世界 壊れていた心》

 

『おらどうした!? そのデカい武装、使わねえのかぁ!?』

「はっ! 使わせてくれないくせによお………うおおっ!!」

『over beat shoot』

 

  ビートの左腕に装着されたディスクセッターから、ハートウェーブの光が放出される。しかし、今のゲイルにはそんな攻撃は通用しない。それでもビートチューンバスターを構え攻撃しようとするが、突っ込んできたゲイルに攻撃され、操作を中断させられてしまう。

 

 《哀しみすら枯れ果て……》

 

「…やるしかねえかっ!!」

『はっ! 何を企んでるか知らんが、終わりにしてやる!』

 

 《その時優しさに救われた》

 

  ふらふらと立ち上がり、あえてノーガードでゲイルの攻撃を待つシキ。

 

  対して、ボイスはパンチをフィンに連続で打ち込むが、フィンは徐々に怯まなくなっていく。

 

 《だけど…優しさに包まれる》

 

「こなくそぉぉっ!!」

『グウオオオオ!!!』

 

 《それだけでは、前には進めない》

 

  フィンがボイスの手首をつかみ、片手で彼女を乱暴に振り回して投げ飛ばす。それでボイスが呻くなか、真司はある一点のみを狙ってガインを攻撃し続けていた。

 

「これで、どうだあっ!?」

『そんな牙で、俺の装甲を貫けるかぁーっ!!』

 

 《この力でその意思の 代弁者になってやる》

 

  真司はガインの猛烈な勢いで放たれたパンチを避け、カウンターでその胸部に拳を叩きつける。

 

  既に牙は折れている。だが、その心はーー

 

「う……らあっ!」

 

 《そうオレの名は『ボイス』》

 

  投げ飛ばされたボイスは咄嗟にデスブレイカーを出現させ、フィンに銃弾を撃ち込む。その銃弾がヒットした瞬間と時を同じくして、真司の拳が、ガインの胸部装甲についにヒビを入れる。

 

『馬鹿なーー』

「うおおおおおおああああ!!!」

 

 《声を上げ続けていく!》

 

  真司の咆哮とともに放たれたキックがガインの身体を吹き飛ばす。そしてその時、ゲイルの繰り出す槍を弾いたシキの腹に、ゲイルの腕が抉り込まれるようにして突き立てられた。

 

 《高鳴りゆくこの鼓動込めて》

 

「ぐあっ……!」

『終わりだぁぁぁ……!』

「そいつは、どうかな……!」

 

 《一撃! 必殺! ぶっ放せ!》

 

  ゲイルの唸り声にも痛みにも怯まず、シキは突き立てられたゲイルの腕を掴むと、ビートチューンバスターのレバーを口元の装甲に引っ掛けて操作し、必殺技を発動する。

 

 《どんな敵だって 打ち砕くのさ》

 

『ボリュームアップ!』

『超音!』

「うおらあああああっ!!!」

『ぐうっ!? がああああああ!!!』

 

 《Destroy!!》

 

  ビートチューンバスターから形成されたチェーンソー状のエネルギーがゲイルの肉を抉り、その身体シキが振り抜くのに合わせ吹き飛ばし、転がす。そしてその隙を見逃さず、シキはビートチューンバスターにディスクをセットする。

 

『オーバーチューン!』

「ビート部隊、全員の思いの込もった特別製ディスクだ……!」

『ボリュームマックス!!』

 

 《そうさ相対的に絶対的な》

 

『over the song!!!』

「これで決める……!」

『rider devil fang!!!!』

 

  そして、同時に真司も吹っ飛ぶガインを追って、必殺技を発動していた。それはボイスも同じで、フィンの攻撃に対処するべく必殺技を出す。

 

 《『強さ』と『思い』で立ち向かう》

 

【カーテンコール!!】

「くらえ!!」

『がアッ!!!!』

【ライダー アカシック イレイザー!!!】

 

 《そう今仮面纏って》

 

「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」

 

  咆哮を上げ、必殺技をそれぞれ放つ3人。シキはゲイルに砲撃を撃ち込みながら突進し、真司は自分自身を巨大な牙と化して、ガインに激突。ボイスはフィンの放つエネルギー砲と必殺技が拮抗した。

 

 《希望を胸に さあ……》

 

『馬鹿な……! 馬鹿な!! こんな! 音成っ……』

『嘘だろ! クソがあああああああああああああああっ!!!』

 

  壁を突き破り、底の見えない空洞へと飛び出るシキとゲイル、真司とガイン。必殺技を喰らったゲイルとガインは、それを喰らいながら、それぞれ真司とシキの下敷となって落下していった。

 

 《OVER THE WIND!》

 

 バゴオッ!!

 

「ぐうっ!?」

『ゴアッ!!』

 

  拮抗していたエネルギーが弾け、爆発音と共に吹き飛ばされるボイスとフィン。

  爆発の衝撃に彼女達のいた場所の地面が崩落し、身動きのできない空中へと放り出される2人。それでも壁に捕まったボイスとフィンは、その壁を走り降りながら戦闘を続行する。

 

  そして、桜と刀奈の戦いもまた変化を迎えていた。

 

 《夢の中でもがく 夢のようにあがく》

 

「……スゥーー……」

『どうした? 死ぬ覚悟を決めたか!』

 

 《夢のために生きても……》

 

「……このタイミングで!」

『翼を消した? 死にたくなったのかい!』

 

 《キャンバスは真っ白なままで》

 

  刀奈は目を閉じて座り込み、桜は自ら炎の翼を消した。刀奈は広い空間の中央部での行動で、桜は位置的にピューマの下での行動だ。どちらの行動も、対峙するエンヴィーとピューマは正気のものとは思えな買った。

 

『だが、油断なく切り刻んでやろう!』

 

 《途切れない痛みと 途切れたくない熱さ》

 

『油断はしないよ! 僕の弓で一気に仕留めてやる!』

 

  これは自分を誘う罠だと結論づけた2体は、それぞれ得意の獲物を構えて得意の戦法をとる。これまでも散々2人に浴びせかけてきその戦法は、エンヴィーは単純な超スピードによる剣撃。ピューマは高所からの爆撃と、単純だが強力なものである。

 

  しかしーー

 

 《築いてきた歴史が》

 

(………まだだ。まだ、『遅い』)

(まだ、引きつけて……!)

 

 《自分の『今』を創ってる》

 

  2人の行動は、確かにピューマとエンヴィーを誘う罠だった。だが、彼等がとった行動は完全に2人の予想通り。

 

  彼女達は待っていたのだ。2体の注意が、自分だけに向く時ーーつまり、最後の一撃を決めようとする瞬間を。

 

 《君が……紡いできた絆が》

 

『グオオオオオオオッ!オオッ!!アアッ!!』

「翼……!? 改めて、厄介なのを相手にしたもんだ!」

 

 《世界の明日に、奇跡起こす鍵》

 

  フィンはボイスと共に穴を駆け下りながら、互いに互いへ銃撃を撃ち込んでいた。しかし、フィンはこの状況でボイスの優位に立つために、翼を生やし、自由な飛行手段を手にしてみせた。

 

  ボイスが追い込まれるなか、刀奈と桜は、ついに最後の一撃を受けようとしていた。

 

『ハハハハハハハハハハハハ!!!! 終わりだあ!』

(……!!)

 

 《戦うと決めた時 真実が始まる》

 

『堕ちなよぉぉぉっ!!!』

「……かかった!」

 

  ーーだが、彼女達はそのピンチをチャンスにする。

  渾身の力を込めた必殺の一撃には、必ず隙が生まれるーー彼女達はそこを突く!

 

「………ここだ!!」

「穿ちなさい! ストームブレイカー達!!」

 

 《この思いで終わらせる……》

 

『『!?』』

 

  桜が戦いの中で気づかれぬよう壁の中に埋め込み、今まで機を待っていた三基のブレイカー達が飛び出し、背後からピューマの翼と腹を貫いた。

 

『ば、馬鹿な……僕が翼を失うなんて!』

 

 そして時を同じくして、刀奈は最高速度に達したエンヴィーが避けられないタイミングで居合を放ち、手に持つ剣を、深々と相手の心臓に突き刺した。

 

『ぐふっ………な、なに………』

 

 《絶望の連鎖ここで!》

 

「「ああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

  刀奈と桜、2人の咆哮が重なり合う。刀奈は必殺技を発動しながら、剣をエンヴィーに突き刺したまま、壁へ向け猛ダッシュ。桜は背から炎の翼を再び展開し、ピューマの伸ばす手を避け、彼の上をとった。

 

 《重なりゆく鼓動赤に染めて》

 

『『over the song!!!』』

「「これで……終わりだっ!」」

 

『rider God blade!!』

 

『rider phoenix strike!!』

 

 《百発! 百中! ぶっ放す!》

 

  刀奈の必殺技は壁を打ち壊し、深淵へ続く深い穴へ、刀奈はエンヴィーと共に落ちていく。その間、彼女は光輝く剣を両手で掴み、渾身の力で押し込んでいた。

 

『馬鹿なァァァァァァァァァァァァ!!!』

「眠れ! 地の底で!」

 

 《どんな状況でだって 叶えるのさ》

 

『僕が……終わるっ!?』

「砕け散れぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 《Dream!!》

 

  桜の一撃はピューマの顔面を完全に捉え、徐々にその表面を削り取り、醜い本性を暴いていく。

 

 《絶望的なほどに希望なくらい》

 

『ぼ、僕の顔が…ウギャアァァァァァァァァ!!』

「永遠に眠りなさい! この変態!!」

 

 《強い『絆』で、立ち上がる》

 

  2人が勝負を決めたその時、ボイスは翼を用いて強襲を仕掛けてくるフィンの攻撃を間一髪でかわし、そのまま壁を蹴って跳躍。上空へと跳び上がる。

 

 《響けよ 最期の歌》

 

『ガアッ!!』

「くらえっ!!」

【ライダー アカシック イレイザー!!】

 

 《天をも砕き さあ………》

 

  咄嗟に急上昇することでボイスの狙いから逃げようとしたフィンを、白と黒の奔流が呑み込む。しかし、それに呑まれてなお、フィンはその翼を失っただけだった。

 

「なっ!?」

『オオッ!!』

 

 《OVER THE WIND!》

 

  足裏と背中から管を生やしたフィンは、そこから放出したエネルギーで急加速し、その顔を不気味かつ無機質な笑顔に変化させてボイスを殴り飛ばし、壁に高速で押し付ける。

 

「ううっ!?」

 

  消耗していたボイスは気を失い、フィンの手が彼女の身体から離されると、そのまま落ちていってしまう。

 

『……やっと終わりか! フィン、次は………』

「ボイス、ちゃん……!」

『………! ハートウェーブが増大している? この僕の目を欺けると思ったのか!』

 

  ついに乙音が拘束から抜け出そうとしているのに気づいた音成は、フィンの勝利を確信したのか、不安げに見つめていた映像から目をそらす。

  それに対し、乙音は自身が危機の中にあるのにも構わず、ボイスに語りかけていた。

 

「ボイスちゃん! ……ボイスッ! 私も、頑張るから……」

『!? ドライバーから光が…』

「ボイスも、頑張れぇぇぇぇっ!!」

 

  ……その叫びをボイスに届かせまいと、音成は自分でも無意識のうちに、こちら側からの音声を遮断した。

  だが、乙音の叫びはーー確かに届いていた。

 

「たく、よお……」

『!!!!!!』

「お前のおかげで……目が覚めたぜ!!」

 

  ボイスは目を覚ますが、飛行手段のないボイスではこの状況から脱することはできない。しかし、彼女は祈るように手を合わせると、集中する

 

  脳裏に浮かぶのは、これまでの日々。

 

 《喜びも》

「絆さえ…」

 

  3年以上にも及ぶ長い戦いの中で、乙音やゼブラ、仲間達と過ごした時。

 

 《怒りだって》

「憎しみも…」

 

  ただディソナンスを憎み、次は音成を憎み、怒りと憎しみのまま戦っていた時。

 

 《楽しさも》

「あの日々も!」

 

  すっかり多くなってしまった友人とーーゼブラ達と、女の子らしく買い物を楽しんだりした時。

 

 《哀しみも》

「喪失も!」

 

  ゼブラを失った時。

 

 《絶望も》

「絶望も!!」

 

  絶望のまま、音成の思惑通りデスボイスに変身した時。

 

 《希望さえ》

「希望さえ!!」

 

  そしてーーあの日、乙音に救われた時。

 

「《全部心から生まれた……》」

 

  その全てが……

 

「《感情の一部でしかない!》」

 

  彼女に翼を授ける!!

 

 

 

 

 

 

『……なんだ、あれは』

 

「…………綺麗」

 

『グアアアアアアア!!』

 

 

「さあ! 終わりにしようぜ!」

 

 

 

 《昂ぶりゆく鼓動希望に変え》

 

【オーバーライド!】

【ブレイクリミット!!】

 

『……グ、グオオオオオオオッ!』

 

 《百発! 百殺! ぶちかませ!》

 

  再びその背から醜い翼を生やし、美しい翼を纏うボイスへ向け、上昇していくフィン。その様は、まるで決して手にできないものへ手を伸ば者のように、哀れだった。

 

 《どんな世界でだって 振り払うのさ》

 

『……こうなればこのドライバーを! ……うわっ!?』

「ボイスちゃんが頑張ったんだ……私も、あなたには負けない!」

 

 《Disper!!》

 

  そして音成もまた乙音のSレコードライバーへ手を伸ばし、触れる直前で虹色のハートウェーブに弾き飛ばされた。崩壊していく、乙音を縛っていた触手。

 

 《オレのボイスで そう! 君のソング》

 

【ライダー ボイス フィニッシュ!!!】

「こいつでトドメだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

『アグオオオオオオ!!!』

 

 《歌う時『世界』変わるから》

 

  フィンが突き出した腕とボイスのキックがーー必殺技が衝突したその瞬間、フィンの身体は音を立てて崩壊を始める。

 

 《そう今涙拭って》

 

「ああああああああああああああああっ!!」

『グ…ググ……ボイ、ス………グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 《未来を見つめ さあ……》

 

  フィンの身体が虹色の輝きを放って崩壊していき、そしてまた、乙音を縛っていた触手も完全に崩壊。ついに彼女は拘束から解き放たれた。

 

 《OVER THE WIND》

 

『なんて、ことだ……!』

「天城、音成…!」

 

 《OVER THE SONG!!》

 

  音成は動揺し、ボイスとフィンを映す映像を消す。いつのまにか他のライダー達の様子を映した映像も消えていたが、乙音はもう揺るがなかった。

 

『……そうだ! さっきの触手で、お前のハートウェーブは吸い取った!! もう、ソングに変身できないはず!』

 

  音成は乙音を指差し、思いついたようにそう語る。確かに乙音はハートウェーブを大量に吸い取られていたが、彼女の中のディソナンス3人の協力を得れば、ホープソングへ変身は可能だった。

 

「3人とも……!」

『キキカイ、今だ!』

『ええ……この時を待っていたわ!』

 

  しかし3人は乙音の身体から粒子状の光になって飛び出し、元の、ディソナンスとしての肉体で出現する。

  そして、3人の中央に立つキキカイの腰にはーーレコードライバーが巻かれていた。

 

「……っ!? どうして………」

『ごめんね乙音ちゃん……でも、頼られて嬉しかったわ!』

『ああ。楽しい毎日だったぜ?』

『そうだ。だからこそ、我等の怒りを……奴にぶつけることができる』

 

  乙音の問いにも答えず、3人は音成に対し構える。

 

『……わからないな。なにをしようというんだい? いまさら、君達がさ………』

 

  乙音がホープソングに変身できない状況であることに安堵したのか、いくらか余裕を取り戻した声で、そう呆れたように言う音成。その音成に対し3人は何も言わない。

 

  キキカイの肩にバラクとドキが手を置き、キキカイが腰のレコードライバーに無地のディスクを挿入する。ここまでしてやっと、音成は3人がなにをしようとしているか理解したようだ。

 

『……馬鹿な! ありえない。ディソナンスが………』

 

『ひとつ良いことを教えてあげるわ、腐れ外道』

 

『この世にはね、不可能なんてないのよ』

 

『『『………変身!!』』』

 

  3人の声が重なり、キキカイの装着したレコードライバーに粒子となってその身体が吸収されていく。そして跡に残ったレコードライバーから、新たに1つの肉体が構成されていく。

 

  それはまるで、いくつもの感情を混ぜ合わせたような、歪な形をしていた。しかし、後ろでこの変身を見ていた乙音は、醜いとは思わなかった。

 

『…仮面ライダー、ディソナンス……参上』

 

  果たして、キキカイ達……いや、仮面ライダーディソナンスの狙いとは………。




次回、挿入歌2つです。もしかしたら増えるかもしれません。
このネタはずっと使いたかったんです。具体的には旧ディソナンスとの最終決戦から。

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