その代わり次回は今日明日には出します! たぶん! 大学で死ぬほど忙しいけどっ!!
「……次はどこだ!」
「ここからそう遠くない位置だ! 私が行こう!」
デューマンの宣戦布告から2週間が経過した現在、ライダー達は水際でディソナンスの侵攻を食い止めることができていた。
あれから特務対策局とアメリカ政府はライダー達に関連した情報の一切を秘匿した。それは民衆の暴徒化を防ぐためだ。
現在でも
もし、今の状況でライダー達の居場所が知られれば、一部の民衆だけでなく、各国の政府機関が何か手を打ってくる可能性もある。そうなると、もはやライダー達は人々を守ることだけに専念するわけにはいかなくなる。
それをわかっているのだろう。ライダー達を嘲笑うかのようにディソナンスは次々と戦力を投入してきた。
本来、戦力の逐次投入は悪手である。だがこの状況、無限とも思えるレベルのディソナンスを用意できるデューマンにとっては、逐次投入によってライダー達の精神と肉体を擦り減らしていくのが、もっとも望む展開だった。
ライダー達はいつディソナンスが襲来してきてもいいように、今は基本的にアメリカ、ワシントンにある研究所ーーアメリカ奪還の際に真司やシキがビート部隊と共に拠点としていた研究所に常駐していた。いま彼女達がやっていることといえば、今後のディソナンス対策についてや、自分達のコンディションチェック。とりとめもない話に花を咲かせることだった。
「デューマン………ホント、陰湿な奴ね………でも、悔しいけど私達じゃアイツには勝てない」
「…そういえば、ボイスはどうした?」
「キキカイや香織さんたちに呼ばれて検査中だ。……最近は苦しそうな様子が続いていたからな、俺たちが踏ん張らなければ」
「正直、今の状況じゃボイスさんが必要不可欠だしな……休めるときに休んでもらいたいぜ」
現在、ボイスは他のライダー達と比較しても驚くべき速度でディソナンスを駆逐していた。
しかし、Dレコードライバーを使い続ければ、いずれは今のデューマンのようなディソナンスの肉体へと徐々に変貌する。肉体が全く別のものに置き換わる苦しみは、想像を絶するものがあるだろう。
しかし、いまボイスがディソナンスの迎撃から外れれば、必ず犠牲者が出る。そうでなくとも、街や都市を破壊されるのは確実だ。
「……そういえば、新型レコードライバーはどうなんだ?」
「新型?」
「レコードライバーだと?」
暗い空気を塗り替えるために、真司が話題を逸らす。話題に出したのは、勝とキキカイ、そして香織をはじめ特務対策局の研究班とショット博士やロイドが協力して制作しているという新型レコードライバーのことだった。
「ショット博士とロイドは最近までビート関係で忙しかったらしいが、もう次の研究を進めてんのか?」
「ディスクセッターが安定して量産可能になったらしい。キキカイの協力のおかげだ」
ショット博士とロイドはごく最近までディスクセッターの量産体制を整えることに注力していた。ビート部隊は7大愛でないディソナンスに対してならば十二分に戦力となるからだ。その量産体制もキキカイの協力によって驚くべきスピードで整ったため、2人は新型レコードライバーの開発に協力していた。
「相変わらず、機械方面に関しちゃ敵わないわね……それで、新型ってどんなのなのよ?」
「それは……………わからない」
「わからない?」
「ああ。局長から聞いた限りでは、対ディスパー用に製作しているらしいが……」
ビーッ! ビーッ!ビーッ!
『ディソナンスが発生しました。ライダー達は速やかに現場に……』
「……行くか」
「ああ。新型の開発まで頑張ろうぜ」
「そうだな……希望を賭けてみるか」
「よし! ………やってやろうじゃない」
警報の音に背を押され、再びディソナンスの殲滅に向かう4人。
その警報音を聞きながら、ボイスは研究所の一室でベッドに横たわっていた。
「警報……? ディソナンスか! オレも………ぐっ!」
「あ、こらダメじゃない。安静にしておかないと……」
ほかの4人はボイスが一切そんな素振りを見せないこともあり、そう重大には考えていなかったが、検査の結果、ボイスは既に次にレコードライバーを使えば人間に戻るとことはできないというレベルまでディソナンス化が進行していた。
そのうえ、現在はディソナンス化による肉体組織の変容がボイスの身体を襲っており、立っているのもやっとな状態である。
いまは香織がボイスの側についているが、誰かいなければ勝手に出撃しようとするのは、ボイスの状態を知る者からすれば驚くべきことだった。
「大丈夫よ。今度も7大愛は観測されてない。……何を狙ってるのかしらね」
「それよりも………ぐっ、新型は、どうなってんだよ?」
「大丈夫よ。あなたの協力でDレコードライバーのデータは集まったし、完成には向かってるわ」
ボイスが検査を受けていたのはディソナンス化の進行具合を確かめるためでもあるが、それに加えて新型レコードライバーの開発にそのデータを使うためでもあった。
Dレコードライバーで変身したライダーはディスパーもデスボイスも、どちらも非常に強力なライダーである。
ディスパーはマトモな交戦データがデスボイスとの戦闘時と空中要塞での戦闘時以外にないが、そのどちらでも数値の上では信じられないほど高い値を示していた。
デスボイスも、複製とはいえ7大愛の一体であるピューレを蹴散らすほどのパワーを持っている。
さらにボイスのDレコードライバーを解析した結果、変身後の戦闘能力を飛躍的に高める『オーバーライド機能』が搭載されていることも判明した。おそらくディスパーのものには、より強力なこれが搭載されているだろうと香織達は考えていた。
しかし、香織にはある疑念があった。
「ボイスちゃん、その……身体がディソナンス化し始めたというか、身体の調子がおかしくなりはじめたのはいつ?」
「へ? あー……確か、ディスパーと戦闘した時……だったか?」
「ちょっと待ってて……………やっぱりそうか」
「? どうしたんだ?」
「オーバーライド機能…ディスパーとの初戦の時、使ってたみたいね」
「へ? そうなのか?」
ボイスは無自覚だったが、ディスパーと初めて戦った時、彼女はオーバーライド機能を使用していた。
「多分、オーバーライド機能はディソナンス化しなければ使えないでしょうね……だからこそ、天城音成も自身の全てをデューマンに移したんだわ」
「ディソナンス化すれば、か………」
「……変な気は起こさないでよ? 確定してるわけでもないんだし……」
ボイスのつぶやきに、思わずそう返す香織。それに対し、ボイスは少しバツが悪そうな顔を見せる。
「わかってるよ、心配すんな」
「そう? なら……「香織ー!」……どうしたの、キキカイ!」
ーーと、場の空気を引き裂くように部屋のドアを勢いよく開けてキキカイが乱入してくる。キキカイの今の姿はディソナンス時のものではなく人間態だが、深いクマやボサボサになった髪に、ボイスはぎょっとする。
「な、なにがあった?」
「あらボイス。あなたにも礼を言うわ………完成したのよ、レコードライバー! 新型が!」
「ホント!?」
「ええ! ボイスのレコードライバーをベースに、ソングのレコードライバーのデータをもとに製作したレコードライバー……名付けてSレコードライバーが!」
この報せに、ボイスと香織は喜びの色をあらわにする。キキカイがここまで自身たっぷりに完成を告げるのだ。ならばディスパーにも対抗できるに違いない、と。
「ただ……ひとつ、問題があってね」
「問題? なんだ、そりゃ」
「……このレコードライバーで変身可能なのは…………仮面ライダーソングこと木村乙音。彼女だけなのよ」
「……なんですって?」
このキキカイの言葉に、香織は眉をひそめる。乙音はあの戦いから未だに目を覚まさないままだ。肉体的には問題ないのに、原因は一切不明のまま眠っている。
その彼女しか扱えないのならーーそれは、未完成と同じことだ。
だが、そんなものの完成をこうと自身満々でキキカイが告げてくるだろうか? そう思った香織は、ある考えに辿り着く。
「……まさか、わかったの!?」
「ええ。ソング……あの眠り姫を目覚めさせる方法が、ね」
「それはホントか!? ……って」
「ああもう、あんたは眠っときなさい」
思わず飛び起きたボイスを抑えつつ、キキカイは話を続ける。
「ともかく、その方法は病院で話すわ。さっそく行きましょう」
「わかったわ。車を回しておくから、少し待って………それにしても、早かったわね?」
「ま、こいつらの協力のおかげよ」
「こいつら?」
「ふふ……入って来なさい!」
キキカイが手を叩き、外で待機していた者達に対し入室を促す。入ってきたのは、病院で乙音についていた美希と、ドキ、そしてバラクだった。
「美希ちゃん!?」
「四六時中ソングに張り付いてたでしょ? 彼女。あれは彼女のデータを取ってもらってたの。バラクとドキにはちょっと証言をもらったわ。ま、治療の時にも活躍してもらう予定なんだけど」
「乙音ちゃんを助けるためと聞いて、少し慣れない機器とかもあったんですけど、頑張りました!」
「……まあ、俺もあいつには思うところがないわけでもねえからな。協力するぜ、治療に」
「……私がいまこうしているのは、彼女のおかげでもある」
「あなたたち……!」
感極まって少し涙を流す香織。しかし彼女はすぐにその涙を拭うと、携帯を確認して、車の用意ができたことを確認する。
「車の用意はできたわ。行きましょう」
「待て、オレも……」
「だめだよ、ボイスちゃん。……香織さん達は行ってください。ボイスちゃんの様子は、私が見ておきますから」
「頼んだわよ!」
「吉報を待って帰ってくるわ〜!」
慌ただしく部屋を出ていくキキカイ達の背中を見送りながら、ボイスはひっそりとその拳を握りしめていた……。
ーー乙音の入院する病院、病室。
キキカイ達が扉を開けたそこはそれなりに広い個室で、窓際に設置されたベッドの上で、乙音は眠っていた。
知らない人が見れば、まるで死んでいるのではないかと思えるほどに、静かだった。
「それじゃあ、始めるわよ」
「わかった」
「了解した」
「……それで、どうやって乙音ちゃんを治すの?」
乙音に被されていた布団を剥いで準備を進めるキキカイ達に対し、香織もキキカイの指示に従って機器を設置しながら、どうやるのか、と質問する。
「んー……彼女のデータを見る限り、昏睡状態に陥ったのはある事が原因よ。そして、あなた達もこの子がこうなった時があったことは知ってるはずよ。データで見たし」
「こうなったことが? …………まさか、カナサキの時の!」
そう、乙音はかつてこの時と同じような昏睡状態に陥ったことがある。バラクやドキ、キキカイと同じく旧ディソナンス達のまとめ役であり、今は音成に吸収されていなくなってしまったディソナンスであるカナサキ。彼の力によってハートウェーブが枯渇してしまった時にも、乙音はしばらく目を覚まさなかった。
「あの時は、兄さんの作った装置でゼブラちゃんが………まさか!」
「そう。私達3人が、ゼブラの代わりになるわ」
「でも、そんなことをしたら……!」
「大丈夫よ。ゼブラだってそうだったでしょう? ………私達を、信じなさい」
「……!」
キキカイの言葉に合わせ、ゆっくりと頷くドキと、サムズアップするバラク。3人の顔には笑みが浮かび、不安など一欠片もない。
「……わかったわ。準備はいいわね?」
「いつでも?」
「まあすぐだ。ここで待ってな」
「……任せろ」
「それじゃあ、いくわよ……!」
香織が装置のスイッチを入れると同時、キキカイ達3人は手を重ね合わさる。緑の光が彼女達を包んでいき、その光が乙音の体に移ると同時に、キキカイ達の瞼が落ちる。いま、彼女達は乙音の心の中に入ったのだ。
「頼んだわよ、3人とも……!」
一方、その頃ーー太平洋海底。ディソナンス達の基地。
そこでは多数のディソナンスが生産されており、その様子を7大愛の一体、ガインが眺めていた。
『よう、ガイン』
『……ゲイルか、何用だ』
その巨軀に背後から声をかけたのは、同じく7大愛であるゲイルだ。空中要塞攻略時の決戦でシキの変身したビートコンダクター・フルアーマーカスタムに吹き飛ばされ、空中要塞の崩落に巻き込まれた彼だったが、その後デューマンに拾われ、強化改造を施されてここにいる。
彼の目的は1つ。自身をコケにしたビートとソングを辱めた上で殺害することである。そして、創造主である音成から授かった肉体を傷つけられたガインも、仮面ライダーソングである乙音に対して静かに激怒していた。
『貴様と俺の利害は一致している………貴様のようなバカと足並みを合わせるのは癪だが、俺に手を貸せ』
『いいのかあ? 音成……いや、デューマンサマの許可を得なくても』
『………………』
ゲイルのわざとらしい言葉にもガインは応えない。それにつまらなそうにため息を吐くゲイルだったが、ガインはそれにも、ただこう答えるだけだった。
『全てはデューマン様の御心のままに………今の我等の創造主は、あのお方だ』
『まったく……お前も難儀な性格してるねえ』
『黙れ。…………出撃の準備をしろ、目標は……』
『木村乙音の眠る病院………だな』
「……大丈夫なのかしら………」
キキカイ達による乙音の『治療』が始まってから既に1時間近く経っていたが、一向に乙音は目を覚まさず、キキカイ達にも新たな動きはなかった。機器からの情報にも変化は認められず、香織は彼女達のそばでずっと回復の時を待っていた。
その彼女の携帯からアラーム音が鳴る。設定された音は、緊急時のもの。普段は絶対にかからない。それこそライダー達の命が危機に晒されている時でもなければーー
「……どうしたの!?」
慌てて通話に応える香織。相手はいま研究所に居る美希だ。
『香織さん! 良かった…まだ無事だったんですね!』
「まだ? どういう………」
『いまそちらにディソナンスの大群が向かってます! 私もさっきトイレから出た時に聞いたばかりで、今はボイスちゃんのところに向かって……』
「ディソナンスが!?」
『はい、だから早く乙音を連れて逃げてください!』
「乙音ちゃんを……」
香織が伺うのは、乙音とキキカイ達の様子。しかし依然先ほどと変わりはない。
一瞬、香織の心に迷いが生まれる。しかし、彼女はそれを振り払って美希に応える。
「……いえ。ここで待機するわ。もう真司君達はこっちに向かってるんでしょう?」
『でも………!』
「乙音ちゃんを治せるかどうか……いまこの時を失えば、もうわからないわ。それに、正直私じゃ彼女達を安全に連れ出すのは無理よ」
『………香織さん』
「それより………ボイスはどうしたの?」
『ボイスなら部屋の中に………いない!? まさか!』
「……あの子。………無事で、帰ってきて…………」
『ここか………』
『ふん………ちっぽけな所だな…………』
「でぃ、ディソナンスだー!! 逃げろー!」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
『周囲が五月蝿いな……』
『ま、目的はあの建物だ。さっさと中の奴らごとソングをぶっ殺そうぜ』
ガインとゲイルは既に大量のディソナンスを引き連れ、乙音の眠る病院前まで来ていた。
大量のディソナンス達はライダーが来た時の足止め用として用意しておいたものだったが、今ここに真司達はいない。乙音が眠り続けていることまでは彼らは知らないが、デューマンによる強化改造を受けた際、乙音のハートウェーブを探知する機能を2人は搭載されていた。
今までは乙音の居場所が把握できなかったが、急に乙音のハートウェーブが活発化し感知できたため、厄介なことになる前に叩き潰そうとしたわけである。
『さて、それじゃあ………』
『………待て。何者かが近づいてくる』
『あん?』
ガインに言われ、ゲイルはエンジンの駆動音が聞こえていることに気づく。その音は徐々に大きくなり、二体のディソナンスに向かっていた。
『ちっ、ライダーか……どいつだ。ビートか? アイツにも借りがあるんでな……』
『いや、あれは………』
バイクに跨りやって来たのは、ボイスだった。服装は適当に着たのかジーンズに白のシャツと黒いコートと普段の彼女は着ないような服装でラフな格好だが、その肌には冷汗が浮いている。体調の不良を押してまで来たせいだろう。
「テメェら……乙音の、眠ってる病院を、どうするつもりだっ!」
『ソングが眠ってる? こりゃ都合が良い。遠慮なくあの建物ごとぶっ殺せるってもんだ』
「……っ、テメェ!!」
【Dレコードライバー!!】
ボイスはDレコードライバーを掲げ、腰に装着。ライダーズディスクをドライバーにセットして変身しようとするが、ドライバーのスイッチを押そうとした指が、止まる。
『どうした? 変身しないのか?』
『やはりな………破壊された同族達から得たデータで、貴様のディソナンス化が進行しているのはわかっている』
「…………!!」
『そう驚いた顔をするな。それぐらい、デューマン様ならば仕掛けて当然………私達がここにいるのは、この戦力で貴様等を倒せると理解しているからだ』
「……どの口で言いやがる!」
『ならば、お前自身が確かめてみるがいい』
「………………」
ボイスは再び変身しようとするがーーやはり、ドライバーの変身スイッチを押そうとした直前で、その指が止まる。彼女の指は小刻みに震え、彼女の恐れをあらわにしていた。
7大愛はただでさえ強力だ。ゲイルは乙音に撃退され、シキに吹き飛ばされたものの、その水を操る能力と純粋な闘争心からくる戦闘力は脅威だ。
そしてガインはそもそも、刀奈や桜の強化形態、オーバーライド形態でも歯が立たないほどの防御能力を持っていた相手だ。
この難敵に加え、大量のディソナンス。たとえ真司達が間に合っていたとしても、蹂躙されて終わってしまう可能性を、ボイスは脳裏から捨てきれなかった。
「………っ!」
【レディー、オゥケイ!?】
『お?』
『む……』
「…………変身っ!!』
【仮面ライダーァ……デス! ボォォォイスッ!!】
デスボイスへと変身し、銃口をディソナンス達に向けて構えるボイス。しかしその時、彼女の身体に電流が流れたかのような感覚とともに、強烈な痛みが走る。
『がっ……あっ……!』
『おいおい、無理はしないほうがいいんじゃあないか?』
『黙、れぇ……!』
ボイスはその痛みを意地で堪えながら立ち上がる。彼女の周囲には誰もいない。自分で立ち上がるしかない。
だが、彼女は1人ではない。多くの人が彼女の背の背後にいるから、彼女は立ち上がる。
『オレが………お前達の心、壊してやるっ! うおおおおああああっ!!』
『いけ、あいつを仕留めろ』
『しっかりやれよ!』
銃撃を放ちながら、突撃するボイス。ゲイルとガインは後方のディソナンス達にボイスの迎撃を命じるが、ボイスはそれをものともせず、力を振るって蹴散らしていく。
『らあっ! くそっ、数ばかり用意してきやがって!』
『やはりあの程度では話にならんか』
『んじゃ、コイツを出すか………ほれ、行ってこい』
『なにをごちゃごちゃと…ぐあっ!?』
無数のディソナンスを蹴散らしながら走るボイスだったが、突如として高速で飛来してきた何かに攻撃され、地面に倒れる。
その隙を狙って群がってきたディソナンスを回転蹴りで立ち上がりながら吹き飛ばしつつ、周囲を見回して自分に攻撃してきた相手をボイスは探す。
『……そこか!』
『ガァッ!!』
ボイスは神経を張り詰めて周囲を警戒し、自身の死角、後方頭上からの奇襲を察知して振り向き、弾丸を放つ。
放たれた弾丸は見事に奇襲を仕掛けてきたディソナンスに命中し、そのディソナンスはそのまま地面に墜落した。しかし、ほかのディソナンスと異なりボイスの弾丸を受けても爆発しない。
『……テメェは………チューナーか』
『グ……ガギィ………ガッ、グウウウアアアッ!!』
『…桜の戦闘データで見た以上のバケモンだな、こりゃ!』
地面に落ちたチューナーが呻き声を上げて無茶苦茶に伸ばしてきた棘のような触手を迎撃しながら、ほかのディソナンスが乙音の眠る病院に近づかないように気を張って射撃を続けるボイス。
しかし、彼女が強力な力を持っていても、その体力と精神には限界がある。
『はぁ……はぁっ……』
『どうした? 息が切れてんぜ?』
『……っ。はっ、さっさと倒れてほしくて、錯覚でも起こしたかよ!』
(……このままじゃ、ヤベェ………早く、来てくれ………)
ディソナンスへと肉体が変異する苦痛と無意識の恐怖により、ボイスの肉体と集中力は限界が近くなっていた。その証拠に、ジリジリとディソナンス達に病院へと近づかれてしまっている。
その焦りが、ボイスに無茶な行動を起こさせる。埒が明かないと直感した彼女は、必殺技で一気に敵を蹴散らそうと考えた。
『この野郎………! 一気に……っ!』
『ガァッ!!』
『!? ………がっ、あ………』
しかし、必殺技を使うにはドライバーを操作する隙がある。それをチューナーは見逃さず、理性もないというのに、的確にボイスの身体に触手を突き刺した。
それだけならば今のボイスの肉体なら耐え切れたが、そこから何かが吸い取られるような感覚とともにボイスは意識が遠くなり、そのまま変身も解除されて倒れてしまう。
『がぅ……あっ、はっ………なに、が……』
『チューナーは自己進化するディソナンスだ。こいつは前の敗戦から学んだようでな、ハートウェーブを吸い取る能力を手に入れたんだよ。……ディソナンスになりかけてる。いや、なった身体には効くだろ? なにせ、ディソナンスってのはハートウェーブの塊だ! それを吸い取られるってのは、人間に例えれば生命力を吸い取られるのと同じことだからなあ!』
『くそ、が………』
ボイスの意識は朦朧とし、それでも彼女は地面に落ちるDレコードライバーへと手を伸ばそうとする。しかし、ハートウェーブを吸い取られた影響で、彼女の身体は動きが鈍い。手を伸ばす前に、ゲイルが彼女の腕を踏みつけて抑える。
『がっ……あぐぅ………っ!』
『さて……どうするガイン? ソングの見せしめに、殺すか?』
『いや……そいつにはフィンが恨みを持っていたはずだ。連れ帰って実験台にするのもいいだろう。それに……』
「なにこの大量のディソナンス……! 病院は………っ、ボイスちゃん!?」
「ボイス………! 全員、行くぞ!」
「ああ……!」
「無茶しやがって……っ!」
「「「「変身っ!!」」」」
『……見せしめにするなら、
『成る程、そりゃそうだ』
駆けつけた真司達が、ボイスを助け、乙音を守ろうとゲイルとガインに向かい走る。
その姿を靄がかかった視界でとらえたボイスは、意識を失った……。