でも申し訳ないことに今回は総集編というか、まとめ回です。話は次回から動き出します。
そして次回は……エグゼイド終了直後、8月あたりから温めてた歌とネタ大放出でございます。
絶望の底に在るもの
大きすぎる力には、大きすぎる代償が伴うーーそれは、誰が言った言葉だったか。
彼女達が得た力は、世界の命運を左右するほどに大きなものだった。
仮面ライダーとしての力……使命………だが、彼女達は実質的な敗北を喫した。
その敗北の代償はーー彼女達にとって、あまりにも辛いものだった。
「………はあ」
ペシャン、とドアが閉められる。医務室のドアの音だ。
ここは、特務対策局に協力する病院のひとつ。病室から出てきたのは、あの戦いから一ヶ月たち、傷が治りかけているボイスだった。
自身の身体がどんどん人ではない、ナニカに変化しているのを感じとりながらも、ボイスにとってそれは些細なことだった。
「ボイス」
「……ファング。いや、真司か。なんだよ?」
「後輩は……まだ、目を覚まさないか」
「……ああ。今は刀奈と美希が様子を見てる」
あの戦いの後、すぐに乙音は病院に運び込まれ、そこで治療を受けた。
荒廃したアメリカにおいて、首都ワシントンでまだその機能を保っていた病院であり、ビート部隊や真司もアメリカ奪還作戦を進行していた時は非常に世話になったところだ。
そこで1日かけて治療を受けた乙音は、現在眠っている。……一ヶ月以上経った現在でも。
あの戦いからずっと、乙音は意識不明のままだ。身体は元に戻っているし、ボイスのほうが重傷だったぐらいなのだがーー
「……やはり、ゼブラか」
「…だろうな。ゼブラはあいつの半身だった……それが死んじまったんだ。無理もねえさ」
アメリカ、ニューヨーク……その空中に浮かんでいたディソナンスの巨大要塞。それを攻略し、天城音成を倒すという作戦において、乙音達はゼブラというかけがえのない仲間を失った。
ディソナンスであるドキ、キキカイ、バラクと同じように乙音からある意味人工的に生み出されたディソナンスといえるゼブラだが、それ故にゼブラは乙音のまさに半身。身を分けた存在であった。
ゼブラが死亡したそのショックは、乙音の精神にも肉体にも大きな傷跡を残した。
「……くそ、天城…いや、デューマンも何処にいるかわかんねえ」
「ああ……気は抜けないな」
あの戦いでディソナンスーーいや、天城の空中要塞を落としたライダー達だったが、その跡には天城が自身の思考や知能をコピーした存在であるディソナンス、デューマンの死体も、デューマンが変身に使用していたDレコードライバーも見つからなかった。
崩落によって、あるいはゼブラの道連れによって消滅したーーそう政府の者や、特務対策局の香織や猛などの人員は思っている。
だが、実際にデューマンと相対したライダー達…特にボイスには、デューマンが生きているという確信があった。
「ゼブラは犬死に……だったのかな………」
「……ボイス、次そんなことを言ってみろ。俺が後輩に代わって、お前を殴る」
「……悪かったよ」
彼女達がここまで意気消沈しているのには理由があった。
1つは乙音が目覚めないこと。
1つはデューマンが生存しているだろうこと。
そして最後の1つは7大愛の撃破も確認できていないことだった。
7大愛は、音成が生み出した新ディソナンスの中でも特に強大な7体を指す。
旧ディソナンスの一体であるカナサキが生み出したディソナンス、ノイズの改造体であり、桜が撃破した『
空中要塞内で真司、刀奈、バラクの3人に一蹴されてから姿の見えない『
ボイスが初めてDレコードライバーを用いて倒した相手である『
日本でソングに撃退されてから姿を見せない『|堅守の四《ガーディアンフォース』ガイン。
ニューヨークの決戦において、フルチューンカスタムへと更なる変身を見せた仮面ライダービート、シキ・ブラウンに倒された『
量産型は数多く倒されているが、それを統制しているはずの本体は未だ姿を見せない『
そして『
全7体のうち2体が倒されてはいるが、残りの5体はいずれも一筋縄ではいかない相手である。
現在はライダー側も旧ディソナンスの三体であるバラク、キキカイ、ドキの協力を受けているが、この5体と他のディソナンスに一斉にかかってこられれば、ジリ貧となってしまう。それだけの物量差をライダー達は思い知っていた。
それに………
「正直……ディスパーに勝てるか?」
「……全員で、かつ誰かの犠牲を前提にしたうえで有利なフィールドで戦えば、いけるだろうな。だが……」
「無理、だよな……」
「………ああ」
仮面ライダーディスパーに変身したデューマンの戦力は圧倒的だった。デスボイスですら敵わず、他ライダー達は一蹴され、バラク達も太刀打ちできない。
正直なところ、ライダー達だってこのままデューマンが死に、残りの7大愛も要塞陥落時に巻き添えとなっていると信じたかった。しかし、彼女等の経験則こそが、ライダー達から希望を奪っていた。
「……ま、いま考えても仕方ねえや。………乙音の様子でも見に行くか」
「そうだな……「2人とも! 早く病室に来てくれ!」……どうした!?」
2人が暗い雰囲気になる前に話を切り上げようとしたその時、刀奈が病室から駆けてくる。もしや乙音の身になにかあったのかと焦る2人だったが、そうではないようだ。
「いいから早く来てくれ。大変な事になるぞ……!」
「なんだと………?」
「いったいなにがあったってんだ……」
すぐ近くの乙音の病室の中へと駆け込む3人。そこではベッドに変わらず横たわる乙音と、その側に立ってテレビを凝視する美希の姿があった。
「おい、なにがあった!?」
「て、テレビを見てください……!」
「テレビ……?」
真司とボイスがテレビを覗き込むと、そこには信じがたいものが映っていた。
「なっ……ゼブラ!?」
「ゼブラが、どうしてテレビに……!?」
そう、テレビに映っていたのはゼブラだった。黒かった髪は白黒が入り混じるようになっていたが、確かにゼブラの肉体が画面には映っていた。
しかし、2人は即座に違和感に気づく。画面に映っているゼブラは笑みを浮かべているがーーこんなに邪悪な笑みを浮かべることは、絶対になかった。
「……まさか、こいつは!」
ボイスと真司が同時にある答えに行き着いた瞬間、画面の中のゼブラ………いや、デューマンも語りだす。
『お早う諸君。私の名はデューマン。デューマン・ゼブラ………先日仮面ライダーによって落とされた空中要塞の主人だった者だ』
「……やはり、生きていたか…」
「だが……くっ、ゼブラの肉体を乗っ取るとは!」
『今日このような放送をするのはほかでも無い、宣戦布告だ。私は私の計画を台無しにしてくれライダー達……ひいてはこの肉体の元となったディソナンス、ゼブラを生み出した者である木村乙音に対して、正直に言おう。殺意を抱いている』
「………!」
「乙音を狙ってるの……?」
『……三ヶ月だ。三ヶ月間だけ時間をやろう。その間私は侵攻しないことを約束しよう。だが………その三ヶ月の間に、この放送を聞く全世界の君達には、仮面ライダーソングである木村乙音をはじめとした仮面ライダー達。彼等を私に差し出すかどうかを決めてもらう』
「なっ………!?」
『安心したまえ。仮面ライダーを差し出せば私も、私の作ったディソナンスも君達には手を出さないようにしてあげよう………もっとも、私はこれから自身の傷を癒やすことに専念する。だからこの三ヶ月の間は、ディソナンス達の動きを抑えられないかもしれない』
デューマンの言葉に合わせて、その背後の暗闇から7大愛が現れる。その中には倒したはずのフィンやチューナーもいた。
「復活している!? まさか………」
「元は天城音成によって作られた存在。そのクローンであるデューマンに作れないはずもないか……!」
『再三言うが、期限は三ヶ月。その間の平和を楽しみたまえ。…………もっとも、本当に平和と呼べる時は、君達が早く決断しなければ来ないかもしれないな』
その言葉を最後にして、画面は暗転し、ニュース番組へと切り替わる。画面の中ではキャスターが困惑し、スタッフと思わしき人物が駆け回っている。
「……真司さん、刀奈さん、ボイス……私は…」
「わかっている。………特務対策局の皆も、アメリカで共に戦った君達も、私たちは信頼している」
「だが、問題は…」
「……この放送を聞いた奴らが、オレたちを狙ってくるかもしれない、ってことだな……」
デューマンの策略はライダー達とその関係者に衝撃をもたらした。7大愛が万全の状態で揃っていることもそうだが、画面の中のデューマンはどう見てもピンピンしており、傷の療養など必要ないように見えた。
つまりは、単に遊びなのだ。人間の醜さを見せつけ、自身を追い詰めたライダー達を絶望させようということだった。
「陰湿な手を使って……!」
病院ということもあって表には出さないが、静かに怒るライダー達。美希も不安そうに眉をひそめるなか、彼女のポケットから電話の音が鳴る。
「すみません、少し電話に出てきます」
「ああ……」
美希は病室から出て、廊下で通話に応じる。電話をかけてきたのは仮面ライダービートの変身者であるシキ・ブラウンだ。乙音に近づこうとしたシキが本命を落とすならまずは周りからと美希と電話番号を交換したのだ。美希自身シキは割と優良物件だと思っているので、浮ついた話のない乙音には丁度いいのではと考えている。
「はい、美希です。シキさんですか?」
「繋がったか……さっきの放送は見たか?」
「はい、見ましたけど……」
「そうか、なら話は早い………そっちに真司達もいるんだろ? 今から言う場所に寄越してくれ」
「え? どうして………まさか」
「ああ………やつら、さっそく来やがった」
「……どうだった?」
「乙音さんはまだ目覚める様子は無し。放送は見てた。真司達の到着はあと最低30分はかかる……とさ」
「……キキカイ達はどこいったのかしら」
「ディソナンスどもは研究所でなんかやってるみたいだな。バラクとキキカイも協力してるんだとさ。……こっちには間に合わないだろうな」
現在、シキと桜はアメリカ西海岸へと来ていた。ここに来ていた理由はアメリカに残るディソナンスの掃討のためだが、先の放送の後、軍のレーダーがディソナンスの飛来を感知したため、彼女達はビート部隊と共に街に残り、迎え撃つ体勢を整えていた。
街の住人の避難を完了させたタイミングで、空の向こうに影が見え始める。ディソナンスの大群の影だ。
「……まるでこの世の終わりね」
「まだ速えだろ、そう言うのは」
2人はそれぞれの変身アイテムを構える。2人の後方にいるビート部隊もディスクセッターを装着する。
「……いくわよ」
「ああ」
『コンダクター・コンタクト!』
「「変身!!」」
『フルチューンビート! コンダクターフルアーマー!』
2人に装甲と仮面が装着されていき、仮面ライダーダンスと仮面ライダービートがアメリカの大地に立つ。背後にはビート部隊と守るべき人々。襲来するのはディソナンスの群。
「……全員、生還するぞ!」
「ビートは私とシキの援護! 無理はしないこと!」
「「「了解!!」」」
桜は炎の翼を放出し、シキはブースターの出力を全開にして宙へと飛び、空中より迫るディソナンスに突っ込んでいく。ビート部隊は海中から上陸してくるディソナンスの相手だ。
「うおおおおおお!!」
「いっけえええ!」
ビートはビートチューンバスターから拡散エネルギー弾を放ってディソナンス達を海中のものごと倒していき、桜は2基のファイヤーストームブレイカーを巧みに操り、炎の翼で敵を焼きながら飛行する。
「真司達の到着まで持ちこたえるぞ!」
「流石に、数が多いわね……! でも、これぐらいの修羅場は抜けてきてんのよ!」
『オーバーチューン! ボリュームマックス!』
『Over the song!!!』
『rider over typhoon!!!』
「「はあああああああああっ!!」」
2人の必殺の一撃が炸裂し、ディソナンス達を蹴散らしていく。
この戦闘は、結局真司達3人が駆けつけるころにはほとんどのディソナンスが殲滅されていた。
しかし戦いの場となった街は荒れ、再びの襲撃の可能性もあり、そこに住んでいた人々は他への移動を余儀なくされる。
キキカイの能力もあって復興が急ピッチで進んでいたところにこれである。人々は既に限界に近づいていた……。
一方そのころ……放送を見る暇もなく、キキカイと特務対策局からアメリカの研究所へと出向してきた勝や香織はバラクやドキをこき使いながら、何日も研究室に引きこもっていた。
彼女達が生み出そうとしているもの、それはーー最後の希望。
「キキカイ! このデータはここだな!」
「そう! それでも〜っと素晴らしくなるわっ!」
「ようやく完成が見えてきた……私達の希望………ボイスちゃんのレコードライバーを素体にした、新たなレコードライバー………」
「Sレコードライバー……待っていて、乙音ちゃん!」
パンドラの匣は既に開かれた……絶望は解き放たれ、世界は未曾有の危機に晒されている。
だが、その絶望の底にあるものはーー
仮面ライダーソング 第4部
希望を胸に
開幕ーー!
次回予告はもうなしで。完結までは極力前書きも省いていきたいです。
今後ソングは週一更新を目指しますが、代わりにオメガとGOEは更新がだいぶ遅くなります。特にGOEはソング完結まで更新ありません。
ですが、ソングも今回入れてあと6〜7回で終わる予定です。
えーと今回で1回、次回アレで2回、次は侵攻3回、次は防衛4回、次は3人5回、次は白黒6回、最後に決着と後日談で7回か。
……うん! いけるいける! 多分! あ、あと大学でいま忙しいから、週一更新も少し遅れるかもしれません! 事前に予防線!
それでは、ソングを再びお楽しみに!