第3章は短めでいきたい。
「それで、空中要塞への突入手段は考えついたのか?」
アメリカ、ワシントンの研究所。そこでは、ニューヨークへの道を確保した真司とシキ、そしてバラクたちビートライダーズによるミーティングが行われていた。
その内容は、空中要塞への突入をどうするかというもの。ただ単純にニューヨークに侵攻したのでは、空中要塞の兵器とそこから出てくるディソナンスに圧殺されるだけだろう。
ならば、どうすべきか。ここに来て、真司達には妙案というものが足りなかった。
だが、考えるのは真司達の仕事ではない。ロイドをはじめとした研究員達は、既に空中要塞突入のための構想を練っていた。
「ブースター機能?」
「ああ、ビートライダーを改造して、空を一度だけ飛べるようにする。……正直、危険にすぎる賭けだけど、こうでもしなきゃ奴らの予想は超えられない」
「問題は誰が行くか……か」
「……ビートライダーの数はどれほど揃えられる?」
真司の質問に、ロイドは少し困ったような表情で答える。
「……二台だ」
二台、これは空中要塞に突入するには、想像以上に少ない戦力と言わざるを得ない。しかし、現在のアメリカの状況で、単独で空中要塞のある高度まで飛べるガジェットを作り出すのには、人手も資材も、なにもかも足りない。その中で、ビート・コンダクターの新装備を作りつつ、二台も用意できる開発班はよくやっている。
「……突入班は、俺とバラクだ。シキは地上で敵の相手をしてくれ」
「……そりゃまたどうして」
「空中要塞の破壊がひとまずの勝利条件だ。ならば、俺とバラクが最もその勝利条件を満たしやすい組み合わせといえる」
真司とシキが睨み合う。沈黙が数分ほど続くが、先に折れたのは、シキの方だった。
「……わーったよ。こっちは任せろ。なに、雑魚ディソナンスどもをせいぜい引きつけてやるさ」
「……すまん」
「謝んな」
敵の本拠地に突入せず、地上での敵の相手と聞けば聞こえはいいが、その実、シキを含めたビートライダーズ達は、出来るだけ7大愛をはじめとしたディソナンス達を引きつける囮役なのだ。その生存確率は、ある意味真司達よりも低くなるだろう。
だが、この場にいる者の中に、自身の役割に疑問を唱えようとするものはいなかった。
「よし……全員、作戦決行日まで、自分の役割を忘れるなよ!」
「「「応!!」」」
日本、特務対策局ーー
「んで、実際どーやってアメリカ行くかって話よ。絶対迎撃あるでしょ?」
「そこが問題だな……やはり、ディソナンスの戦略に対して、対応が難しいのがネックだ」
「それに、キキカイさんの話だと、空中要塞もあるらしいですし……」
こちらでもアメリカと同じく、空中要塞突入の算段をつけようと、ライダー達が頭を悩ませていた。とはいっても、考えるのは彼女達でなくキキカイや特務対策局の者の役割であるので、彼女達が立てているのは単純に『自分たちは何をするのか』という予想に過ぎないのだが。
「まあ、会議の結果を待つしか……って言ってたら、来ましたね」
「ふ、ふはは……遂に、遂に承認が取れたわ……喜びなさい、あんた達」
ーーと、話していると、キキカイが会議室の扉を開き、ずかずかと乙音達の方に歩いてきた。その足取りは重いのに軽いといえばいいのか、徹夜明けのテンションでハイになっているかのようだった。実際徹夜である。
「それで、いったい私達はなにすりゃあいいのよ」
「度肝を抜いてあげるわ……そうっ! あなた達が乗り込むのはっ!」
キキカイがその手に持っていた設計図をばさりと広げる。そこに書かれているのは、一見して『船』とわかるデザインのものだった。だが、なにやら平面的というか、空でも飛びそうというか……
「ーー空中戦艦! こいつを作るわよ!」
「……あんたなに言ってんの?」
「ついに……壊れたか」
「大丈夫ですか?」
「げ、元気出してください」
「私は本気よ! 私の能力使えば作れるっての!」
ふと、桜は東京タワーでの決戦の時を思い出す。あの時は確か、キキカイが東京タワーを巨大な化け物と化していたはずだ。機械を操る能力が、キキカイの能力なのだ。
さて、機械を操れるというキキカイの能力だが、あの決戦の時のように、なんらかのアイテムのブーストがあれば、機械そのものを『組み替える』ことも可能なのだ。
「……というわけで、あんた達! そう、あんた達の力を借りるわよ!」
「……マジで?」
「マジ」
ーー二日後
『アハハハハハハハハハハハハハ! いいわよぉ! もっとハートウェーブを〜!! あんた達の歌声を私に聞かせてえ!』
「う、うぷ……桜、代わって……」
「刀奈! あーもう! こんなんで本当に空中戦艦!? 作れんの!」
『……やべっ、ちょっと小さく……あ、なんでもないわよ? うん』
「あと一日で仕上げるって話でしょーが! さっさと仕事進めるわよおおおお!」
ーー結局、ライダー達は三日間の徹夜を敢行する羽目になった。
なお、乙音とゼブラは『なんか歌声が気に入らない』とのキキカイの要望で、作業中はサポートに回る事になった。
ーー三日後
「変身」
【仮面ライダーデスボォォォイス!!】
アメリカ、ニューヨーク。この、今はディソナンスの巣窟と化した大都市の入り口に、ボイスはいた。
(そのドライバー……使い続けると、君が憎むディソナンスとおんなじ身体になっちゃうよ?)
『知るかよ……』
頭の中に言葉と共によぎる恐れを振り払うように、ボイスはその歩みを進める。
その周囲を取り囲むのは無数のディソナンス。あの時ディスパーに変身してもボイスに勝てなかったために警戒したのか、音成はニューヨークのそこら中にディソナンス達を配置していた。
『邪魔だ…!』
だが、ボイスの目的地は元よりただ1つ。天に浮かぶ空中要塞。ただそれだけである。
だが、ボイスに飛行手段はない。ならば、どうやってあそこまでいくかが問題だったが……
『あのビル……ちょうどいい高さだな』
ボイスが目をつけたのは、実に500メートル以上の高さを誇る高層ビル、ワールドトレードセンター。そこまでいけば、後は気合で空中要塞まで跳べるだろうというのがボイスの考えだった。妙に甘さを捨てきれていない。
『なら、こいつらを片付けてからいくか』
【カーテンコール!】
【ライダー インフィニティー シュート!!】
ディソナンスの攻撃をさばき、飛び上がって必殺技を発動。空中で薙ぎ払うように一回転し、周囲のディソナンスを纏めて消し去ったボイスは、そのま駆け出す。
ボイスに遅れること2時間後、次に現れたのは真司達ビートライダーズである。
「この破壊後……誰が?」
『まさかドキの野郎か? あいつ、最近姿見ねえしなぁ……』
「とにかくコンダクター用の新装備も出来たんだ。お前らは俺たちの後ろにいてくれ」
ボイスによる大破壊の後を踏み越えるように、真司達は空中要塞の真下へと向かう。飛行型のディソナンスをはじめとした敵の迎撃を想定して、最短距離で突入するしかないという判断だった。
「ここが正念場だ!」
「ああ、負けるんじゃねえぞ!」
「俺達が絶対に守ってやる!」
流石にボイスが通ったルートから外れ始めると、ディソナンス達の姿が続々と出現してくるようになる。
鈍足のディソナンスなどは適当に攻撃すればビートライダーの速さに追いつけず取り残されていくのだが、ディソナンスの中には高速機動を得意とするものもある。
「ぐあっ!」
「俺に構わず先に行けぇぇぇぇ!!」
『……わかった!』
ディソナンスの攻撃に、続々とビートライダーズがバイクから叩き落とされ、その場に残されてゆく。だが彼らにもライダーとしての意地がある。矜持がある。たとえその先に悲劇しか待っていなくとも、彼らが今できるのは戦うことだけなのだ。
「頼みましたよ! みんなの事!」
「おいバラク! 負けたら承知しねえからな!」
「シキ! また酒でも飲もうや!」
「真司さん! みんなあなたに託しましたよ!」
空中要塞の真下へと到着した頃には、既にビートライダーズの数は真司、シキ、バラクの他には数名ほどとなっていた。
「手筈通りいけ、ここは俺達で援護する」
「……頼んだぞ」
真司とバラクの乗るビートライダーが飛行モードへと変形し、徐々に宙に浮いていく。その様子を確認して頷くシキ達の眼前に、ディソナンス達が現れる。
「…お前らあっ! ここが正念場! やってやるぞぉぉぉっ!!」
「「「応!!」」」
ディソナンスの群れの中に飛び込むシキ達。その乱戦の最中、ビートの1人をあっさりと切り裂くディソナンスが一体。
『さて、久々に大暴れできるんだ……楽しませてくれるんだよなぁ!?』
「7大愛!? 乙音さんの報告にもあったゲイルって野郎か!」
現れたのは7大愛のひとり。かつて乙音と交戦したゲイルだ。
あれから傷を癒すために戦いの場には出れていなかったゲイルだったが、今回のニューヨーク決戦において、遂にその姿を現した。
『おらおらおらっ!』
「ぐっ! がっ……」
『はっ! そのデカイ武器、使いこなせてねえなあ!?』
「くっ……うがあっ!?」
「シキ!? うおっ!」
「コンダクターが……!」
ゲイルの言う通り、今のシキとビートではビートチューンバスターという強力な手札を扱いきれてはいない。そのため、ゲイルにとってはシキなど取るに足らない相手。薙ぎ払うように変身解除させ、そのまま真司達を追おうとする。
だが、シキは諦めてはいない。周囲をディソナンスに囲まれながらも立ち上がる。それを興味なさげに見るゲイルだったが、真司は逆転の切り札を残していた。
「へっ、ロイドにまた借りができちまったか……」
『あん? なんだそりゃあ』
「…お前達をぶっ飛ばすための力だ」
手に持つのは、鍵のような形状のアイテム。それをコンダクトドライバーの横にある、機能拡張用の穴に差し込む。
『コンダクター・コンタクト!!』
「フルチューントリガー…試させてもらうぜ」
鍵のようなアイテム……フルチューントリガーのボタンを押し、ディスクセッターの引き金を引く。
「変身!」
『フルチューンビート! コンダクターフルアーマー!!』
ビート・コンダクターの素体に、次々と重装甲が装着されていく。
まるで騎士の鎧を着込んだかのような外見に、ビートチューンバスターを構える。その姿には安定感があり、これまでのように武器に振り回されることはないだろうという安心感がある。
「いくぞ!」
『ボリュームアップ!』
『なに!?』
『消音』
ビートチューンバスターのレバーを一度引くと、貫通力の高い弾丸が発射される。それをゲイルに向けて放ち、複数のディソナンスを撃滅するとともに、彼にダメージを与える。
『ボリュームアップ!!』
『超音!』
接近してきたディソナンス達に対しては、レバーを二度引いてビートチューンバスターの刀身にチェーンソー状のエネルギーを纏わせて切り裂く。
『くそっ! 調子に乗るなよ!』
『ボリュームアップ!!!』
「ビートに乗らせてもらうさ!」
『爆音!!』
レバーを三度引くと、ビートチューンバスターがエネルギーのチャージを開始する。そのエネルギーを上空に向かって放つシキを、ゲイルは見当違いの方向に撃ったと嘲笑うが、拡散されたエネルギー弾が雨のように降り注ぎ、ディソナンス達を一掃。ゲイルにも大ダメージを与える。
『ぐあっ!』
『ボリュームアップ!!!!』
『激音!!!』
「こいつで決める……!」
レバーを四度引くと、ビートチューンバスターにとてつもない量のエネルギーが溜まってゆく。究極の一撃、今のビートチューンバスター単体での最高火力を叩き込む。
「おおらぁぁぁぁぁっ!」
『がっ! うおおおおおっ!?』
ゲイルがエネルギー砲の直撃を受け、空中要塞まで吹き飛んだいく。その様を見届けたシキは真司達の援護に回ろうとするが、その時、頭上で爆発音が響く。
「な、なんだぁ?」
シキが空を見上げると、そこにあったのはーー
「ふ、船が……要塞に突き刺さってやがる」
空中要塞に突入した、空中戦艦の姿だった。
「乙音達か、あれは!」
『へっ! こりゃ勝機! 一気にいくぜ!』
空中戦艦の突入によって動揺するディソナンス達の間をすり抜け、真司とバラクは破壊のエネルギーをもって空中要塞下部に大穴を開け、そこから内部に突入する。その際ビートライダーは壊れてしまったが、当初の想定通りなので問題ない。
「まずはこの要塞を叩き落として機能を停止させる。中枢を目指すぞ!」
『ワラワラと……雑魚共! 邪魔するなあっ!!』
『……相変わらず無茶をする奴らだ』
ボイスはワールドトレードセンターの壁を駆け上がると、そこから跳躍。7大愛の一体であるピューマの量産型を蹴散らしながら、ライダーキックで要塞内部に突入する。真司達よりは離れているが、乙音達には近い。
『‥音成を探すか』
『その前に……デューマン……最強のディソナンス………気になるな』
「もっと良い方法はなかったのか!?」
『ないに決まってんでしょ! ともかくこれは頑丈でまだ動く! 脱出時には戻ってきなさいよ!』
空中戦艦では、現在空中要塞から湧き出てくるディソナンスの相手をしつつ、内部への突入タイミングを刀奈と桜が計っていた。
乙音とゼブラは突入前に戦艦上部でディソナンス達の相手をしていたが、突入時の衝撃で投げ飛ばされたらしく、レーダーの反応からして空中要塞内部にはいるらしいが、行方がわからなくなっていた。
「天城音成と空中要塞、どちらも仕留める!」
「キキカイ! あんたはここで留守番してて! 誰も入れるんじゃないわよ!」
『わかってるわよ!』
『う、うーんここは……』
『乙音お姉ちゃん、大丈夫!?』
『……誰だ…………』
『へうわっ!? ……って、ドキ、なんでここに!?』
『……木村、乙音か』
『いったい、ここでは何が………』
テレビだとだいたい35話とかそんなところかな?