2号ライダーはどれだけいじめ抜いても良い。1号も同様だ。
『……くそ』
アメリカーーどこかの街。
そこでボイスは、足止めを食らっていた。
きっかけは、街の者の懇願だった。
「ディソナンスを倒した……あんた仮面ライダーか!?」
『……だといったら?』
「頼む! 俺達を助けてくれないか!」
初めは見捨てるつもりだった……といえば嘘になる。
結局のところボイスは甘く、たとえ請われてなくとも何かしらの手助けはしただろう。
決定的となったのは、街を襲ったディソナンスの横暴を目にした時だった。
彼女ーーボイスの目の前で、誰かの命を奪おうとする行為は、それこそ自殺行為と呼べる。
街を襲ったディソナンス達を皆殺しにしたボイスは、そのまま立ち去ろうとした。しかし、そこに先程の提案が持ち込まれたのだ。
曰く、この街の近くにはディソナンスの基地の一つがあって、そこで大量のディソナンスが生み出されているらしい。ボイスには、その基地を潰してほしいとの事だった。
「頼む。報酬なら幾らでも用意する、だからーー!」
その言葉を聞いた時点で、ボイスは変身を解除した。何日間も憎悪の炎に焼かれて彷徨いながらも、Dレコードライバーの力によるものなのか、その白い髪も、その肢体も美しさを失ってはいなかった。
「お、女の……人……?」
「基地の場所を教えろ……叩き潰してくる」
最終的に一悶着はあったが、街の人間はボイスの足手まといになるので……もとい、街の防衛のために待機してもらい、ボイスが単身で敵基地に乗り込む事になった。
敵基地まではやや距離がある。街の中にあった車かバイクを街人は用意しようとしたが、ボイスはそれを拒否した。今のボイスならば、変身して走った方が早い。
【Dレコードライバー!!】
【レディーオゥケイ!?】
「……変身」
【仮面ライダー……デス!ボォォイス!!】
夜陰に紛れ、月明かりから逃れるように、地を蹴り、大地を疾駆する。
その速度は、もはやメロディライダーすらも超えて、600キロを超えようとしていた。
ーーだが、たとえいかなる速度でも、ディソナンスの防衛網を掻い潜るのは不可能である。
『ライダーが来たか……罠を起動しろ!』
走るボイスの眼中に、地面から飛び出してきた銃座が入る。一発一発が戦車の装甲を撃ち抜くほどの弾が、ボイスの肢体に襲いかかる。
だが、ボイスとてこの程度でやられはしない。空中へと飛び上がると、手に持つ銃で銃座を全て撃ち抜く。
しかし、ボイスの身体を衝撃が襲う。上から降ってきたのは、自身の重量を操作する能力を持ったディソナンスであった。
ディソナンスの能力は多岐にわたり、幹部級でなくとも使い方次第ではライダーすら追い詰める力を持った者もいる。
空中で超重量を背負った事により、凄まじい速度でボイスは地面に叩きつけられる。
『これで終わりか……』
確かに、量産型のビート程度ならば、この一撃で変身者ごと、変身システムすら砕け散っていただろう。
だが、ボイスの能力はディソナンス達の想定を上回っていた。
『う、うおおおおおお!? なぜこの重量の俺を……』
『能力……無効……』
のしかかるディソナンスを投げ飛ばしたボイスから出た黒い波動が、ディソナンス達の持つ特殊能力を無効化し、彼等を無力にさせていく。ーー特殊能力のないディソナンスなど、ボイスにとっては塵芥に過ぎない。
『…これで終わりか』
結局、ものの1分ほどで全滅した大量のディソナンスの残骸を踏み越えて、ボイスは敵基地へと向かった。
『ここか………』
敵基地内へと踏み込んだボイスだったが、どうにも様子がおかしいことに気づく。侵入者、それも仮面ライダーが来たというのに、誰も現れないどころか、何らかの気配すらないからだ。
『……‥?』
不審に思いつつも、基地内部へと踏み込むボイス。そこから広い基地のあちこちを歩いても、目にするのはーー倒れ伏した、ディソナンスの群れだけだった。無論、ボイスがやったのではない。
『……いったい何が』
ディソナンス達の死体の山を踏み込え、ボイスは基地の中庭と思わしき場所に出た。その中庭の中央にはうず高き山のようなものがありーー
『!?』
ーーいや、それは山などではない。
空に浮かぶ満月の光がその山の正体を、ボイスの眼前に明確に映しだす。
……その山の正体こそが、本当に山のように積まれたディソナンス達の死体であった。いや、正確に言うと死体ではない。ディソナンスはその残骸は残るものの、本体は死ねば消滅する。しかしその山を構成するディソナンスは何れもが苦悶の表情を浮かべており、それは逆説的に彼等が死ねてないことの証明にもなる。
『どういうことだ……』
そう呟いて一歩を踏み込んだ瞬間、ボイスの足元に銃弾が発射される。その銃弾は山の頂上から発射されたもので、ボイスは咄嗟に上を向く。
『来たか……』
そこに居たのはーー
『仮面、ライダー……?』
ーー謎の仮面ライダーだった。
『ぐあっ!』
『その程度か……』
謎の仮面ライダーとボイスの邂逅か6分後ーーボイスは襲いかかってきた謎のライダーを迎撃していた。
迎撃といっても、いきなり襲いかかってきたライダーに対してボイスは困惑するしかない。なぜ仮面ライダーが? まさか自分を追って? そう考えた瞬間、ボイスは相手がつけているベルトの正体に気づく。
『Dレコードライバー……俺と同じ!』
そう、謎のライダーが装着しているのは、ボイスが装着しているのと同じDレコードライバーだった。
『テメェ……天城の部下か!?』
『部下? 違うな………』
『俺は悪魔……絶望をもたらす仮面ライダー、ディスパーだ』
『ディスパー!? ぐあっ!』
謎のライダー……ディスパーは名乗りをあげるとボイスを殴り飛ばし、必殺技を容赦なく地面を転がるボイスに向けて発動する。
【カーテンコール……】
『死ね』
【ライダー エンド ブレイク!!】
無慈悲な黒いオーラに包まれ、ディスパーがボイスに迫る。ボイスはゆっくりと立ち上がるが、その攻撃を避ける手段はない。
ーーだが、避けられないなら受け止めればいいだけの話だ。
バヂイイイイイイ!!!
凄まじい音が響くと同時、ディスパーが吹き飛ばされる。理解不能とでも言いたげな視線の先には、赤黒いオーラをその身に纏い、パンチを繰り出した体勢の仮面ライダーデスボイスの姿があった。
『馬鹿な……必殺技を、ただのパンチで!』
『死ね……だと……?』
ボイスがその拳を握り、祈るように掲げると、赤黒いオーラはどんどんと増幅していく。
『この数日でそんな言葉は聞き慣れちまったな……だけど、もういい』
『馬鹿な……Dレコードライバーを制御したというのか!? それには制御装置を仕込んでいないというのに!』
『テメェが乙音達の関係者じゃねえんなら……思い切りぶちのめしていいってことだよなあ!?』
ボイスの耳に届くのは、怨念の声。消えることない悲鳴がその耳には響き、この世界の死をその目は見つめ、その指はただ銃口を引くためだけにある。
だが、ボイスはその思考の上を行く。天よりも上に、もっと上のステージへと、その両足で踏み出す。
その背に翼が無くともーーボイスは飛べるのだ!
『俺の死力を……つき尽くす!!』
【仮面ライダーデスボイス!!!!】
【オォォォォバァァァァァラァイドォォォォォォォォッ!!!!】
絶望と相対するのはどちらなのかーーー歌が流れる戦場で、それが証明される時が来た!
《なぜこの目は付いてる?》
『おおおおおおおおお!!』
《なぜこの耳は付いてる?》
『なんだこの力は! ぐあっ!』
《誰かの死とーー悲鳴を、受け止めるだけのためなのか》
ボイスの拳がディスパーにガードの上から突き刺さる。ボイスが纏う赤黒いオーラは物理的な熱量を持ってディスパーを襲い、その装甲の表面を溶かす。
《なぜこの指は付いてる?》
『ディソナンスども! 襲え!』
《なぜこの背には翼がない?》
『ディソナンスの死体……いや正確には死体じゃねえな。身体を操るか!』
《トリガーをーー引くだけ、これじゃどこへも行けない》
ディスパーの声に反応さて、山高く積まれたディソナンス達が呻き声すら上げず飛び出し、ボイスに襲いかかってくる。その数は500、いや千はあろうか。現在真司達が解放したワシントンを襲っていたディソナンスですらその数は200に届かない。ヘタすれば、ここにいるディソナンスは空中要塞のあるニューヨークよりも多いかもしれなかった。
《孤独…それにただ包まれる》
『これだけの数ならば、能力の無効化もできないだろう……!』
ディソナンス達が一斉に能力を発動し、ボイスに襲いかかる。デスボイスは相手の能力を無効化するという能力を持ち、これは絶対的な強制権を持つが、ボイスの精神力次第で効果は変わる。ディスパーは既存のデータから、今のボイスではこの数は無効化できないと判断したのだ。
だが、ボイスが赤黒いオーラを放出すると、全てのディソナンスの能力が発動しなくなる。
《叫び続けて動くしかないのなら》
『データを超えている……!?』
《全力で生き抜いたら》
『当たり前だろうが!』
《そこに死が待ってるぜ》
ディソナンス達が能力による拘束を諦め、それぞれが殴りかかってくる。四方からの攻撃、乙音達ですら、仲間と共でも捌けはしないだろう。
だが、当たらない。いや、正確に言えば当たっても効かないのに当たらないのである。ボイスはまるで違う時間の流れにでも乗っているかのようなスピードで、動き続ける。
《その叫び消える前に》
『めんどくせぇ…… 一気に決めるか』
《……欲望のまま動き出してる》
ボイスの姿がブレたかと思うと、その瞬間、彼女が数十人、いや数百人にまで増えて、大量のディソナンス達を取り囲むように銃を構える。
《絶対的な欲望の中煌く鼓動が》
『これは……』
《力に変わっていく最強になれ》
『うおおおおおおおっ!』
《ボイス!!》
ボイスの持つ銃から放たれたエネルギーがディソナンス達を消滅させていく。残ったのは内側にいた数体のディソナンス達のだが、銃を放ち終わったボイスの放つ拳に、一撃で消滅させられていく。
《この世界のレコードにも刻まれてない強さを》
『……決める』
《激しく見せてやる》
【カーテンコール!!】
【オーバーライド!!!】
《心から叫べ今》
『このプレッシャー……!』
『はあああああああああっ! でやあああああっ!!』
《デス・ボォォォイス!!!》
【ライダー アカシック イレイザー!!!】
並みの強さならばこの宇宙から存在ごとかき消えてしまうだろう一撃が、ディスパーを吹き飛ばす。
流石にダメージが大きすぎるのか、その変身は解除され、ディスパーの変身者は片膝をつく。しかしその正体は、ボイスにとって予想外にすぎるものだった。
『お前は……!』
「これは予想外だ……でも僕の演技も、なかなかだったかな?」
その変身者とは、Dレコードライバーの開発者である天城音成その人であった。
このことにボイスは驚くが、丁度いい、ここで捕まえてやろうと思う。しかし、そのボイスの思考は音成には予想済みだった。
『……ここで捕まえて、乙音達の前に引きずり出してやる。そうすりゃ全部……』
「終わらないさ。最強のディソナンス……デューマンがいる限りね」
『なに…………?』
「ま、僕から教えられるのは次が最後だ………」
「そのドライバー……使い続けると、君が憎むディソナンスとおんなじ身体になっちゃうよ?」
『なっ…………』
その音成の言葉に気を取られたボイスの視界は次の瞬間、爆炎に包まれた。7大愛の一人、ピューマによる爆撃での目くらましだ。
『音成様! ディスパーもまだ完成してないというのに……』
「ははっ! それじゃあねボイスくん。君も気をつけた方が良い」
そう言って悠々と去っていく音成を撃ち抜こうとするボイスだったが、足元がふらついたかと思うと、次の瞬間には地面に倒れていた。どうやら、力を使い果たしてしまったらしい。変身も解除されてしまっている。
「く、そ……」
「うあ………」
「起きましたか!?」
「ここは……」
「街ですよ。……まさか本当に一人でどうにかしてくれるとは思ってませんでした」
ボイスが次に目を覚ましたのは、あの基地に突撃する前に依頼を受けた街でだった。どうやらディソナンス達がいなくなったのを確認した街の者が基地内に踏み込み、そこでボイスを発見したらしい。
「そうか……」
「あ、ダメですよ! 倒れてたんだから寝てないと……」
「大丈夫だよ、もう…………感謝するよ」
結局、制止の声も聞かずに街を出て行ってしまったボイス。しかしその顔には、この街に来る前までにはなかった笑みがあった。
「ありがとう、か…………」
「ああいっちゃった……まだお礼も全然出来てないのに」
「でも……なんであの人の手、あんなに冷たかったんだろう?」
Q.デスボイスってどれくらい強いの?
A.今はまだ常時発動はできないけど、オーバライド状態ならムテキとバイオライダーとビリオンとハイパーカブトとアルティメットを一度に相手しても能力の関係上勝機があるとかいうクソ仕様です。まず素のスペックが低いと……
次話から話を一気に動かしたいですね。